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社会の変化と図書館の現状

1  社会の変化と図書館の現状

 
(1) 社会の変化
 
(1-1) 最近の社会の変化
 
 現在の社会では,様々な制度の変化が激しく,技術の革新も急速であるため,常に新しい知識が生まれている。このため,社会人の持つ知識が急速に古くなり,必要な知識の範囲が広がるため,絶えず情報収集と学習が必要になっている。
 財政難,少子高齢化,国際化,地方分権など,社会と個人は様々な解決すべき課題に直面しており,課題解決のために知識と情報を必要としている。地方公共団体には地域の状況に応じた政策立案,民間では経済活動の活性化が求められている。
 今後の社会では自己判断・自己責任の傾向が強まると考えられる。適切な判断を行うには,判断の参考になる情報の収集が必要である。
 大都市圏以外の地域では,大学や研究機関等の機関,研究者や学識経験者等の人的資源,書店やマスコミ等の情報資源などの知的資源が乏しく,情報の格差があり,個人が自己判断する際の情報収集活動や,地方分権下での地域の発展に支障をきたしている。
 地方公共団体については,地方分権の推進に伴い,市町村合併,三位一体の改革(地方交付税の改革,国庫補助金・負担金の見直し,国から地方への税源移譲)が進められている。国などの関与の減少や自主財源の確立などにより,独自の政策立案・遂行能力が求められるが,現実には,長期化する財政難により,従来の施策が廃止・縮小されることも多い。
 現在のような財政的に厳しい時期には,地方公共団体には新しい施設の建設は困難であるから,既存の施設を今まで以上に活用した事業を展開して,住民の満足を得るべきである。
 放送大学,大学の通信教育学部,遠隔教育による大学院教育など,高等教育を学校から離れた場所で受ける人々が増加している。

(1-2) 「知的立国」の考え方
 
 最近,「知の地域づくり」「知的立国」という考え方が主張されている。これは,日本には資源が少ないため,(1)社会は日本の資源である人材を育て,人材の一人一人が才能を伸ばす,(2)科学技術,文化芸術などが大事にされ,それを担う人材が尊敬される,(3)才能を伸ばした人々が地域社会や地域の人々に貢献し,国を引っ張る,このような「知」を大切にし,「知」にもとづいた地域づくりや国づくりをめざそうという考え方である。これは,現在の日本の社会状況や国際的な立場から見て,非常に重要な考え方ではないかと思われる。このような観点から,子どもの生きる力を養う教育が重視され,合わせて,知の源泉である読書を支える重要な知的インフラ(社会基盤)として,図書館が重視されている。

(1-3) インターネットの普及と情報の入手
 
 インターネットの普及によって,インターネットで公開される情報が増加している。インターネット利用環境やインターネット上の情報源の探索方法の知識の有無によって,情報の入手の範囲や探索の効率が大きく異なってきている。
 インターネットで公開される情報が増えているが,インターネット利用環境を持たない人も少なくなく,必要なウェブサイト注釈1を探し出せない人も多い。インターネット利用環境を持たない人のために,公共機関がインターネット利用環境を提供することが必要である。また,多様化し増大する情報環境に対応して,自主的に情報を探索・活用するための情報リテラシー注釈2教育を行うことが必要である。
 インターネットで多くの情報が公開されているが,法令・行政施策や団体に関する情報以外では,本や雑誌記事の内容はほとんど公開されておらず,知識や情報の伝達における本や雑誌記事の役割は低下していない。

注釈1  ウェブサイト:複数のウェブページが企業,組織,個人など,より大きな単位でまとめられているもの。
注釈2  情報リテラシー:さまざまな種類の情報源の中から必要な情報にアクセスし,アクセスした情報を正しく評価し,活用する能力。

(1-4) 子どもの健全な発達と学習
 
 子どもや青少年の心の環境は望ましい状態にあるとは言えない。子どもや青少年が豊かな心を持ち,精神が健全に発達するように,幼児期からの読書習慣の育成と読書環境の整備が求められている。
 乳幼児の言語は,耳で言葉を聞き,言葉を使うことを通じて発達する。正しく美しい日本語による絵本の読み聞かせを行い,言葉のやりとりをすることは,乳幼児が多くの語彙や豊かな言語感覚を身につけることにつながる。
 子どもの精神的発達には様々な感情を味わうことが必要である。様々な物語を聞いたり読んだりすることによって,幅広い仮想体験ができる。登場人物への感情移入は他者理解につながり,不安,恐怖,怒りなどの感情を安全に味わうことができる。
 読書は,子どもたちの想像力や心の豊かさを育むとともに,論理的思考力を発達させる面で大きな役割を果たす。
 児童生徒の学力の基礎は読み書き能力である。ある研究では,読み書き能力を育成する最も効果的な方法はできるだけ楽しく読書することとされている。
  OECD(経済協力開発機構)による2003年の国際的な学習到達度調査の結果では,日本の子どもの読解力は前回よりも低下して,OECDの平均レベルになっている。前回の2000年の調査では「趣味で読書することはない」と答えた子どもの比率は53パーセントで,参加国中で最も高い。

(1-5) 著作権
 
 国民の知的活動を盛んにするためには,著作権者の権利を尊重しつつ,著作物の円滑な流通と利用が促進されるよう配慮する必要がある。

(2) 地域社会・地方公共団体と図書館
 
 住民や自治体職員には,図書館は「本を借りるところ」,図書館職員は「本の貸出手続きをする人」,図書館では「本は自分で探すもの」と考えている人が少なくなく,それ以外のサービスはあまり知られていない。そのため,住民,利用者,自治体職員からレファレンスサービス注釈3などの専門的サービスを求める要求が出されることが少ない。
 自治体職員には,図書館の蔵書を,小説や実用書が中心で専門書は少ないと考える人もあり,図書館の持つ力や効用はあまり理解されていない。
 図書館は,地方公共団体の行政に役立つサービスを行うことによって,地方公共団体の行政戦略の中に位置づけを得ることができる。
 図書館が地域の役に立つには,レファレンスサービスなどの専門的なサービスが必要であるが,専門的なサービスを行うには,自治体関係者の図書館に対する古いイメージを打破する必要がある。
 図書館の社会的意義,社会への貢献について自治体関係者に広く理解を得ることが重要であるが,関係者の努力が不充分だったのではないか。
 図書館サービスの内容は,まだ住民や自治体職員・地方議員に理解されていないため,積極的かつ具体的な広報が必要である。
 図書館に関するPRを有効に行うには,住民や自治体職員が図書館に対してどのようなイメージを持っているのかを調査する必要がある。

注釈3  レファレンスサービス:何らかの情報あるいは資料を求めている図書館利用者に対して,図書館職員が求められている情報あるいは資料を提供ないし提示することによって援助すること及びそれにかかわる業務。

(3) 図書館の現状
 
 平成16年4月1日現在で,地方公共団体の図書館設置率は,都道府県は100パーセント,市区は98パーセント(未設置市は14),町村は42パーセントである。町村立図書館の設置率は,約10年前の平成6年4月1日現在では30パーセントで,10年間に10パーセント増加している。平成6年4月~16年4月の10年間に618館,1年平均62館の図書館が新設されている。最近数年は新設図書館数が増加しており,不況と財政困難のなかでも図書館は増加している。他方,市区町村立図書館の資料費決算額と専任の司書・司書補の人数は,平成7年度は,2,266館で330億円,6,584人,平成14年度は2,736館で326億円,6,039人であり,館数が増加しているにもかかわらず,資料費も司書・司書補の人数も減少している。また,平成15年4月1日現在で,約4分の1の図書館には司書が一人もいない。また,施設は,500平方メートル未満が28.6パーセント,1,000平方メートル未満が53.6パーセントである。
 図書館は,都市部に偏在しているが,人口当たりでは,大都市の方が館数は少ない。各図書館の資料費も近年減少が続き,大多数の図書館では平均額を大きく下回っている。
 司書の採用が減少し,図書館職員に占める司書の比率が低下している。
 レファレンスサービス用の独立カウンターがある図書館とレファレンスサービスのための窓口がある図書館を合わせて,約4分の1にとどまる。
 インターネットによる所蔵資料の検索,予約サービスを始めた図書館では,資料の取り置き,利用者への連絡,資料の搬送等の作業量と経費が増加している。
 予算や職員の削減により,図書館は体力を失いつつあり,新たなニーズへの対応が困難となってきている。

(4) これまでの図書館の評価
 
 1960年代後半に始まった貸出中心の図書館サービスは,図書館施設の数と規模,資料の蓄積と職員の増加,図書館利用の飛躍的増大をもたらしたが,調査研究の援助,レファレンスサービス,時事情報の提供,専門的資料の提供,有職者へのサービス等は十分でなく,その充実は今後の課題となっている。特にレファレンスサービスは,計画段階では必ず取り上げられるにもかかわらず,実際には不十分であることが多い。
 調査研究への援助,レファレンスサービス,時事情報の提供が不十分だったのであれば,図書館法の趣旨が十分実現されてきたとはいえない。
 行政部局に対するサービスを行っている図書館では,司書による資料収集とレファレンスサービスが,情報の案内人やカウンセラーの役割を果たしており,情報の地図を示すことによって問題解決を促進していると高く評価されている。
 現在,調査研究・課題解決支援のためのサービスが求められているが,1960年代後半以降蓄積・拡大してきた施設,資料,職員などの資源を基盤とすることによって,これらのサービスの提供が可能になっている。
 文化施設に関して近年文化芸術振興基本法が制定されたことと比べて,図書館には昔から図書館法があり恵まれている。これまで図書館の目的や役割を実現するためにどのような努力が行われてきたのかを考える必要がある。


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-- 登録:平成21年以前 --