盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて(通知) (別添1)

(別添1)
医政発第1020008号
平成16年10月20日


文部科学省初等中等教育局長 殿

厚生労働省医政局長

 

盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて


 「在宅及び養護学校における日常的な医療の医学的・法律学的整理に関する研究(平成16年度厚生労働科学研究費補助事業)」(座長:樋口範雄東京大学教授、主任研究者:島崎謙治社会保障・人口問題研究所副所長)は、貴省が平成10年度から平成14年度まで実施した「特殊教育における福祉・医療等との連携に関する実践研究」及び平成15年度から実施している「養護学校における医療的ケアに関するモデル事業」(以下「モデル事業等」という。)の成果を踏まえ、医師又は看護職員の資格を有しない教員が、看護師との連携・協力の下に盲学校・聾学校及び養護学校(以下「盲・聾・養護学校」という。)における医療のニーズの高い幼児児童生徒(以下「児童生徒等」という。)に対するたんの吸引、経管栄養及び導尿(以下「たんの吸引等」という。)を行うことについて医学的・法律学的な観点から検討を行い、このほど別添のとおり報告書をとりまとめた。
 報告書では、盲・聾・養護学校へ看護師が常駐し、教員等関係者の協力が図られたモデル事業等において、医療安全面・教育面の成果や保護者の心理的・物理的負担の軽減効果が観察されたこと、必要な医行為のすべてを担当できるだけの看護師の配置を短期間に行うことには困難が予想されることから、看護師を中心としながら教員が看護師と連携・協力して実施するモデル事業等の方式を盲・聾・養護学校全体に許容することは、看護師の適正な配置など医療安全の確保が確実になるような一定の要件の下では、やむを得ないものと整理されている。
 上記報告書を受け、当職としても、下記の条件が満たされていれば、医師又は看護職員の資格を有しない教員によるたんの吸引等を盲・聾・養護学校全体に許容することはやむを得ないと考えるので、適切な医学管理の下に盲・聾・養護学校においてたんの吸引等が行われるようご配慮をお願いしたい。
 なお、上記報告書では、貴省及び当省が密接に連携し、盲・聾・養護学校における看護師の適正配置など体制整備の状況を継続的に点検し、それらの水準の維持・向上のための方策を探るべきとも言及されているところであり、今後とも貴職のご協力をお願いしたい。


医師又は看護職員の資格を有しない教員によるたんの吸引等の実施を許容するための条件

1  たんの吸引、経管栄養及び導尿の標準的手順と、教員が行うことが許容される行為の標準的な範囲

 たんの吸引、経管栄養及び導尿について、文部科学省のモデル事業等における実績と現在の医学的知見を踏まえると、看護師1)が当該盲・聾・養護学校に配置されていることを前提に、所要の研修を受けた教員が行うことが許容される行為の標準的な範囲は、それぞれ以下の通りである。しかし、いずれの行為にあっても、その処置を行うことが適切かどうかを医療関係者が判断し、なおかつ、具体的手順については最新の医学的知見と、当該児童生徒等の個別的状況を踏まえた医療関係者の指導・指示に従うことが必要であり、緊急時を除いては、教員が行う行為の範囲は医師の指示の範囲を超えてはならない。

1 たんの吸引

(1)標準的な手順
   ・深く入りすぎないようにあらかじめチューブを挿入する長さを決めておく。
   ・適切な吸引圧で、吸引チューブを不潔にしないように、吸引する。
   ・咽頭にある痰を取り除くには、鼻腔から吸引チューブを挿入して吸引した方が痰を取り除きやすい場合もある。
   ・その場合、鼻腔粘膜などを刺激して出血しないようにチューブを入れる方向等に注意しながら挿入する。

(2)教員が行うことが許容される標準的な範囲と看護師の役割
   ・ 咽頭より手前の範囲で吸引チューブを口から入れて、口腔の中まで上がってきた痰や、たまっている唾液を吸引することについては、研修を受けた教員が手順を守って行えば危険性は低く、教員が行っても差し支えないものと考えられる。
   ・鼻からの吸引には、鼻腔粘膜やアデノイドを刺激しての出血が、まれではあるが生じうる。また、鼻や口からの、咽頭の奥までの吸引を行えば、敏感なケースでは嘔吐・咳込み等の危険性もある。したがって、鼻からの吸引や、口から咽頭の奥までの吸引は、「一般論として安全である」とは言い難い。しかし、鼻からの吸引は、児童生徒等の態様に応じ、吸引チューブを入れる方向を適切にする、左右どちらかのチューブが入りやすい鼻からチューブを入れる、吸引チューブを入れる長さをその児童生徒等についての規定の長さにしておく、などの手順を守ることにより、個別的には安全に実施可能である場合が多い。以上の点を勘案すると、教員は、咽頭の手前までの吸引を行うに留めることが適当であり、咽頭より奥の気道のたんの吸引は、看護師が担当することが適当である。

2 経管栄養(胃ろう・腸ろうを含む)

(1)標準的な手順
   ・鼻からの経管栄養の場合には、既に留置されている栄養チューブが胃に挿入されているか注射器で空気を入れ、胃に空気が入る音を確認する。
   ・胃ろう・腸ろうによる経管栄養の場合には、び爛や肉芽など胃ろう・腸ろうの状態に問題がないことの確認を行う。
   ・胃・腸の内容物をチューブから注射器でひいて、性状と量を確認、胃や腸の状態を確認し、注入内容と量を予定通りとするかどうかを判断する。
   ・あらかじめ決められた注入速度を設定する。
   ・楽な体位を保持できるように姿勢の介助や見守りを行う。
   ・注入終了後、微温湯を注入し、チューブ内の栄養を流し込む。

(2)教員が行うことが許容される標準的な範囲と看護師の役割
   ・ 鼻からの経管栄養の場合、栄養チューブが正確に胃の中に挿入されていることの確認は、判断を誤れば重大な事故につながる危険性があり、看護師が行うことが適当である。
   ・胃ろう・腸ろうによる経管栄養は、鼻からの経管栄養に比べて相対的に安全性が高いと考えられるが、胃ろう・腸ろうの状態に問題のないことの確認は看護師が行うことが必要である。
   ・ 経管栄養開始時における胃腸の調子の確認は、看護師が行うことが望ましいが、開始後の対応は多くの場合は教員によっても可能であり、看護師の指示の下で教員が行うことは許容されるものと考えられる。

3 導尿

(1)標準的な手順
   ・全手順を通じ、身体の露出を最小限とし、プライバシーの保護に努める。
   ・尿道口を消毒薬で清拭消毒する。
   ・カテーテルが不潔にならないように、尿道口にカテーテルを挿入する。
   ・カテーテルの挿入を行うため、そのカテーテルや尿器、姿勢の保持等の補助を行う。
   ・下腹部を圧迫し、尿の排出を促す。
   ・尿の流出が無くなってから、カテーテルを抜く。

(2)教員が行うことが許容される標準的な範囲と看護師の役割
    ・尿道口の清拭消毒やカテーテルの挿入を本人が自ら行うことができない場合には、看護師が行う。
    ・本人又は看護師がカテーテルの挿入を行う場合には、尿器や姿勢の保持等の補助を行うことには危険性はなく、教員が行っても差し支えないものと考えられる。

2 非医療関係者の教員が医行為を実施する上で必要であると考えられる条件

1  保護者及び主治医の同意
   ・保護者が、当該児童生徒等に対するたんの吸引等の実施について学校に依頼し、学校の組織的対応を理解の上、教員が当該行為を行うことについて書面により同意していること
   ・主治医が、学校の組織的対応を理解の上、教員が当該行為を行うことについて書面により同意していること

2 医療関係者による的確な医学管理
   ・主治医から看護師に対し、書面による必要な指示があること
   ・看護師の具体的指示の下、看護師と教員が連携・協働して実施を進めること
   ・児童生徒等が学校にいる間は看護師が学校に常駐すること
   ・保護者・主治医2)・看護師及び教員の参加の下、医学的管理が必要な児童生徒ごとに、個別具体的な計画が整備されていること

3 医行為の水準の確保
  ・看護師及び実施に当たる教員が必要な知識・技術に関する研修を受けていること
  ・特定の児童生徒等の特定の医行為についての研修を受け、主治医2)が承認した特定の教員が実施担当者となり、個別具体的に承認された範囲で行うこと
  ・当該児童生徒等に関する個々の医行為について、保護者、主治医2)、看護師及び教員の参加の下、技術の手順書が整備されていること

4 学校における体制整備
  ・ 学校長が最終的な責任を持って安全の確保のための体制の整備を行うため、学校長の統括の下で、関係者からなる校内委員会が設置されていること
  ・看護師が適正に配置され、児童生徒等に対する個別の医療環境に関与するだけでなく、上記校内委員会への参加など学校内の体制整備に看護師が関与することが確保されていること
  ・実施に当たっては、非医療関係者である教員がたんの吸引等を行うことにかんがみ、学校長は教員の希望等を踏まえるなど十分な理解を得るようにすること
  ・児童生徒等の健康状態について、保護者、主治医2)、学校医、養護教諭、看護師、教員等が情報交換を行い連携を図れる体制の整備がなされていること。同時にそれぞれの責任分担が明確化されていること
  ・盲・聾・養護学校において行われる医行為に関し、一般的な技術の手順書が整備され、適宜更新されていること
  ・指示書や指導助言の記録、実施の記録が作成され、適切に管理・保管されていること
  ・ヒヤリハット事例の蓄積・分析など、医師・看護師の参加の下で、定期的な実施体制の評価、検証を行うこと
  ・緊急時の対応の手順があらかじめ定められ、その訓練が定期的になされていること
  ・校内感染の予防等、安全・衛生面の管理に十分留意すること

5 地域における体制整備
  ・ 医療機関、保健所、消防署等地域の関係機関との日頃からの連絡支援体制が整備されていること
  ・都道府県教育委員会等において、総括的検討・管理が行われる体制の整備が継続的になされていること

1)盲・聾・養護学校における業務にかんがみ、重度障害児の看護に経験を有する看護師が配置されていることが望ましい(重度障害児の看護に十分な知識・経験のある保健師、助産師及び准看護師を含む。)。
2)学校が依頼し、主治医の了承の下に指導を行う「指導医」がいる場合は「指導医」も含む。