『生徒指導メールマガジン』 第6号

(平成17年3月25日)
文部科学省初等中等教育局児童生徒課

目次

  1. 特別広報:
    • 「通貨偽造や偽造通貨の行使の防止」について(警察庁、財務省及び日本銀行):
    • 「情報セキュリティ対策ビデオ:『サイバー犯罪事件簿:姿なき侵入者』の紹介」について(警察庁):
  2. 巻頭言:「生徒指導の『哲学』を求めて」(新山課長補佐)
  3. 鹿児島県教育委員会:「不登校児童生徒への対応の取組について」
  4. 施策紹介:
    • 「就学援助について」
    • 「情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討会について」
    • 「児童虐待防止について」
  5. 主要行事の予定又は連絡事項等
  6. 施策に関する各地域からの提言又はQ&A

1 特別広報

(1)「通貨偽造及び偽造通貨の行使の防止」について(警察庁、財務省及び日本銀行):

  昨今、少年による通貨偽造や偽造通貨の行使事件が多く発生しています。通貨に関する犯罪は重罪であり、かつ社会的な影響も大きいことから、少年の規範意識の向上を図り、もって非行防止に資する観点から警察庁・財務省・日本銀行では連名による通貨偽造及び偽造通貨行使等に関する啓発ポスターを作成しております。同ポスターのデータについては、財務省のホームページ(※ 財務省ウェブサイトへリンク)(※ 別ウィンドウで開きます。)上に掲載されておりますので、各教育委員会又は学校におかれては、積極的に広報頂きたく存じます。

(2)「情報セキュリティ対策ビデオ:『サイバー犯罪事件簿:姿なき侵入者』の紹介」について(警察庁):

  警察庁においては、標記ビデオをはじめサイバー犯罪の防止のための各種啓発用ビデオを作製しております。標記のビデオについては、本年4月1日より、警察庁サイバー対策ホームページ上(※ 警察庁サイバー対策)(※ 別ウィンドウで開きます。)でもご覧頂けるようになっております。
  各教育委員会又は学校におかれては、標記ビデオを、例えば、非行防止教室等において、積極的にご活用の上、サイバー犯罪の防止に努めて頂きたく存じます。

2 巻頭言:「生徒指導の『哲学』を求めて」(新山課長補佐)

  生徒指導の理念は何か、生徒指導はいかに進めるべきか。ーこの大きな課題に、頭を悩ます場面が多くなっています。といいますのも、現在中教審では、義務教育特別部会において、義務教育の在り方について専門的な審議を進めている一方、教育課程分科会に常設されている教育課程部会において、教育課程の重要事項を審議しているところです。特に、昨年7月から、教育課程部会に、新たに「豊かな心をはぐくむ教育の在り方に関する専門部会」が設置されており、道徳教育や特別活動を中心とした豊かな心をはぐくむ教育の在り方が熱心に審議されています。
  そのため、こうした動きの中で、教育課程を担当する部署から、指導要領にすべてを書き込むことには限界があり、指導要領は万能でない、この際、生徒指導の哲学とか理念とかまとめることはできないのかとの意見がよく出てくるようになってきました。確かに、道徳教育一つとってみても、意図的・計画的に行われる教育活動から、日々の生徒指導をすべて包含する理念はまとめにくいと思いますし、理念自体を指導要領に書き込むのも、違和感があると思います。
  今回は、この大きな課題について、これまでの生徒指導の定義を振り返りながら、少しでも、てがかりになるものがないか、探ってみたいと思います。
  生徒指導の中心目標が、いわゆる問題行動や非行の防止や立ち直り、矯正を目的だとするのは、あまりにも消極的であると、多くの関係者は、認識しています。とは言え、日々、学校で起こる事件や、児童生徒の問題行動の対応に追われている現実は、学校、教育委員会の関係者にとって相当大きいことも事実です。私たち生徒指導室においても、日々の事件の対応に追われ、その都度施策の見直しが必要となるシステムが繰り返されていることに対し、頭ではこれではいけないと思いつつも、いわば一種の無力感のような感情があるように感じています。
  生徒指導の定義に、文部省(当時)が出した「生徒指導の手引」(改訂版)があります。ここでは、生徒指導の意義について、すべての生徒のそれぞれの人格のより良き発達を目指すとともに、学校生活が生徒の一人一人にとって、また集団にとっても、有意義にかつ興味深く充実したものになるようにすることを目指すとしております。また生徒指導はすべての生徒を対象としており、統合的な活動であるとしています。この考えは、現行の指導要領にも生かされており、中学校学習指導要領の解説によれば、この考えの方のもと、生徒指導の基盤として、生徒理解の深化と、教師と生徒との信頼関係の構築の大切さを挙げています。
  また、千葉大学名誉教授の坂本昇一先生の講義録によりますと、生徒指導は、機能(はたらき)としてとらえることが大切であるとされており、機能の内容として、自己存在感の付与、自己決定の場の設定、共感的関係の確立を挙げていられます。さらに、生徒指導が対象とするのは問題行動だけでなく、すべての教育内容・領域であり、生徒指導のねらいは、自己指導能力の育成にあると指摘されています。
  もう一つ、私の手元に「少年警察の哲学」という資料があります。これは少年非行対策に対する警察の姿勢について言及したものですが、これによれば、少年警察とは、少年の孤独を親身に思い、心の底から少年に反省を求めて立ち直りを図り、そのために情熱を注ぐという姿勢と述べられております。蛇足になりますが、この資料には、併せて、ある大学教授が言った「学生は未来からの留学生」との言葉を紹介しつつ、子どもたちが未来で人のために活躍することを願うとの記述も見られるところです。
  こういた考え方を俯瞰し、あえて生徒指導の理念を考えるならば、生徒指導とは、学校における人間教育の実践であると考えることはできないでしょうか。人間が人間らしくあるための実践、その中には、人間としての素養を身につける、人間関係を確立する、社会の一員としての自覚を促すなどが含まれてくるでしょう。そうすれば、個と私の問題や、自由と規律との調和、またエゴイズムの超克といったことも、自ずと解決の糸口が見えてくるのではないでしょうか。また、自ら考え、判断し、責任持って行動することなくして、相互理解も、時代の変化の適応もありません。国際社会に生きる子どもたちは、協調の時代を生き抜く必要があり、そのためにも主体性の時代、人間教育の時代を築く必要があると考えます。こうした意味では、生徒指導を学習指導と並ぶものとしてとらえるのではなく、むしろその底辺に流れる理念として構築してもいいかも知れません。
  児童生徒一人一人に対し、人間教育の実践が日々の生徒指導として機能するとき、学校全体は大きく変わっていくでしょう。そして、それを、地域と一体となって進めるとき、地域社会も大きく変わっていくと思います。
  テレビ等で一流の方々へのインタビューを聞いていますと、なぜ今の道に入ろうとしたのかとの問いかけに対し、学校の先生にほめられたからという答えが結構多いことに驚きます。それほど学校の先生の心からの励ましは、影響力があるのかと改めて感じます。
  学校でも、地域でも、大切な子どもたち一人一人に、励ましの声を届けていくとき、社会全体も大きく変わっていく、そう確信したいと思います。

3 鹿児島県教育委員会:「不登校児童生徒への対応の取組について」

(1)不登校児童生徒の現状

  平成15年度の公立小・中学校における不登校児童生徒数は,小学校は299人で前年度より9人(2.9%)減少しており,中学校は1,316人で前年度より95人(6.7%)減少している。小・中学校の合計は1,615人で,前年度と比較して104人(6.1%)と4年ぶりに減少に転じたが,不登校の長期化や中学校1年生での急増など,依然として憂慮すべき状況にあり,本県の生徒指導上の大きな課題である。

(単位:人)
  平成11年 平成12年 平成13年 平成14年 平成15年
小学校 299 288 277 308 299
中学校 1,190 1,276 1,371 1,411 1,316
1,489 1,564 1,648 1,719 1,615

(2)鹿児島県の不登校に関する県独自の主な取組

  不登校や問題行動等の未然防止を図るために,授業や学級経営等に活用できる学校カウンセリングに関する理論や技法等を習得させる「心いきいき学校カウンセリングセミナー」(県総合教育センター)を開催し,教員の資質向上に努めている。また,不登校児童生徒支援員派遣「メイクふれんず」事業を実施するとともに,平成15年10月9日付けで「不登校に関する校内支援体制の確立について(通知)」を発出し,不登校や不登校傾向にある児童生徒一人一人に対するきめ細やかな支援を行う校内体制の確立を目指している。

1.不登校児童生徒支援員派遣「メイクふれんず」事業

  本事業は,大学生や大学院生を週1~2回,1回4時間程度,適応指導教室等に支援員として派遣し,通室している児童生徒とふれあう活動を通して,児童生徒の自立への支援を行い,学校生活への適応を促すことをねらいとしている。平成16年度は,県内5つの大学の学生等56人を13カ所(適応指導教室及び県総合教育センター)に派遣した。主な経費としては,支援員の旅費に2,957千円,保険料30千円,その他研修会等費用を含め総額3,017千円を充てている。
  活動内容としては,1.日常活動の補助(一緒にゲームやスポーツなどを楽しむなど,話し相手や遊び相手としての日常活動及び教科学習の支援を行う。),2.体験活動の補助(適応指導教室等から野外等の施設に出かけて行う登山やキャンプ,自然体験学習などの体験活動に参加し,補助活動を行い社会性等の養成の支援を行う。)などを行っている。
  県教育委員会としては,毎月,当該市町村教育委員会から実施報告書を提出させ,教育委員会や支援員への指導・助言等を行っている。また,年2回,支援員に対し研修会を実施するなど支援員の資質向上も図っている。なお,今年度は,2月末現在で147人が通室し,51%に当たる75人が学校へ復帰した。

2.校内支援体制の確立

  上記のとおり,校内支援体制の確立に関する実施要項を作成し,通知したが,以下のア~ウの内容を柱としながら,下記の「不登校・不登校傾向児童生徒への個別支援計画の作成例(表1)や「不登校に関する校内支援体制の確立に向けた取組」(表2)を活用し,「情報連携」から具体的な「行動連携」への一層の促進を図ることとした。

  • ア 不登校に関する全体的な取組の推進
      不登校は「心の問題」としてのみならず,将来の自立に向けた「進路の問題」でもあることを踏まえ,不登校に関する取組は,学校全体として対応しなければならない重要な課題であるとの認識に立ち,校長の強いリーダーシップの下,全教職員が一致協力して取り組む体制づくりに努めること。
  • イ コーディネーター的な役割を果たす不登校対応担当者の明確化
      不登校児童生徒に対する校内支援体制を確立するために,不登校について中心となるコーディネーター的な役割を果たす教員(単に学級担任にこだわらず,当該児童生徒と信頼関係ができている教員,あるいは今後,信頼関係が築けると思われる教員など)を明確に位置付ける。
  • ウ 不登校に関する委員会等の機能化
    • (ア)不登校及びその傾向にある児童生徒一人一人についての情報を共有し,指導方針を明確にして,全教職員の共通理解の下,学校としての取組を推進するために,不登校に関する委員会等を十分機能させる。
    • (イ)中心的に指導・援助に当たる教員の明確化と校内支援チームの編成
    • (ウ)個別の支援計画や支援記録簿の作成
    • (エ)保護者及び関係機関等との連携

表1 「不登校・不登校傾向児童生徒への個別支援計画の作成例」

学校名(○○市立 ○○小・中学校)

学年・組 ○年○組 児童生徒 ○○ ○○ 性別 男・女
支援担当者名,支援チーム員氏名 各担当者の役割,支援担当者と支援チーム員との連携
支援担当者 ○ ○ ○ ○
(副担任・部活動顧問など)
家庭訪問を定期的に行うなど,学習支援を通して本人との信頼関係を深め,心の安定を図る。
支援チーム員 ○ ○ ○ ○
(学級担任)
家庭訪問を担当者任せにせず,連携しながら行うことにより,特に保護者の不安の解消に努める。
○ ○ ○ ○
(スクールカウンセラー)
本人及び保護者への相談を定期的に行う。
○ ○ ○ ○
(学年主任)
支援担当者と支援チーム員の対応の把握に努め, 校内の対策委員会や関係機関との連絡・調整に当たる。
【児童生徒の状況】
○年の○学期から登校を渋るようになり,○学期はほとんど登校しなくなった。○学期は,担任が家庭訪問しても会おうとせず,昼夜が逆転した生活が続いていた。
現在は,徐々に生活のリズムを取り戻し,学習の遅れを心配し,勉強をしなければならないという気持ちになっている。
【保護者の考え】
学校から進路に関する情報を積極的に提供してもらいたいと考えている。また,本人の状態を見ながら,適応指導教室に通室させたいという希望を持っている。
【目標(指導の方針)】※目指す目標を短期,中・長期に分けて記述する。
  1. 支援担当者及び担任と信頼関係を深め,自宅で一緒に学習することができるようにする。(短期)
  2. 相談室等(学校)や適応指導教室への通級を経て,学校に通うことができるようにする。(長期)
【担当者を中心とした具体的な支援計画】
  • 本人が学習の遅れを気にしていることから,本人への負担に配慮しつつ,家庭での学習支援を通して信頼関係を深めるようにする。
  • 1週間に1回程度,校内支援チーム員が集まり,相互の指導・援助の状況を報告し合い,今後の取組について検討する。
【関係機関との連携】
  1. 適応指導教室指導員に対して,本人の状況や校内支援チームの指導・援助の進め方について説明し,助言してもらう。
  2. 本人や保護者が承諾すれば,適応指導教室指導員にも一緒に家庭訪問してもらうことを依頼する。

表2 「不登校に関する校内支援体制の確立に向けた取組」<一部抜粋>

取組の工夫

  不登校児童生徒数が多いなどの理由により,実施要項に基づいた取組が困難な場合は,学校の実情に応じて,下記のような取組例も参考にして,校内における支援体制の確立に向けた取組を工夫する必要がある。(ただし,個別支援計画は当該児童生徒 一人一人について作成するものとする。)

  (1)不登校の態様(心因性,情緒混乱,無気力,遊び・非行など)や状態(初期の段階,深刻な状態,再登校の兆し,引きこもりがちなど)等により,不登校児童生徒をグループに分け,それぞれのグループに対して校内支援チームを編成し,指導・援助を行う。

  (例)
図1

  (2)すべての不登校児童生徒に対して,計画的・継続的に指導・援助を行うことを前提としつつ,特に重点的に指導・援助する必要のある児童生徒に対する校内支援チームを編成して指導・援助を行う。

  (例)
図2

  以上の通知を受け,市町村教育委員会教育長及び各教育事務所(局)長は,管下・管内の各学校に対して,個別支援計画を定期的に提出させ,不登校問題への取組を具体的に把握することになる。また,その記録に関する情報の管理には十分配慮しながら,各担当者が共有することにより,適時,適切な指導・助言に努めるとともに,事例研究会等も開催して教員の指導力の向上に努めている。なお,県教育委員会としては,各教育事務所(局)からの報告を基に,指導主事を市町村教育委員会や学校へ派遣し,効果的な取組や校内研修の在り方等について,指導・助言を行っている。
  不登校児童生徒への支援は,一人一人の状況や背景を複数の目で把握し,より適切な見立てを行い,それぞれのニーズに応じたチームとしての対応が重要である。特に,今後は,LD,ADHD,高機能自閉症などの軽度発達障害やネグレクトなどの児童虐待といった医療面や福祉面の視点も求められる。
  今後は,スクールカウンセラー配置事業や子どもと親の相談員配置事業など国の施策も含め,実施している様々な施策や事業を関連付けながら,学校・家庭・地域・関係機関等とのネットワークを生かした不登校の未然防止に努めるとともに,不登校児童生徒一人一人に応じたきめ細やかな支援体制づくりに取り組んでいきたいと考える。

4 施策紹介:

就学援助について

  「経済的理由によって、就学困難と認められる学齢児童生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない」と学校教育法に規定されており、就学援助の実施義務は市町村に課されております。このため、経済的理由により小中学校(中等教育学校の前期課程を含む。)への就学が困難な学齢児童生徒の保護者に対して学用品を給与するなど就学援助を行う市町村に対して、国は、義務教育の円滑な実施を図る観点から「就学困難な児童及び生徒に係る就学奨励についての国の援助に関する法律」等に基づき、これに要する経費について予算の範囲内で補助を行ってきました。
  この補助金については、三位一体の改革により、平成17年度以降、準要保護者に対する就学援助については、その認定が従来より市町村教育委員会の判断で行われており、今後は、地域の実情を踏まえた取組みに委ねることが適切であると考え、国庫補助を廃止し、税源移譲することとしております。なお、要保護者に対する就学援助については、引き続き国庫補助を行うこととしております。
  各市町村におかれては、この趣旨を踏まえ、義務教育の円滑な実施を図る観点から、今後とも準要保護者に対する就学援助について地域の裁量を活かしながら適切に実施していただきたいと思いますので、よろしくお願いします。

「情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討会」について

  (1)平成15年度においては、文部科学省の調査において暴力行為やいじめの件数が増加したほか、長崎県長崎市の幼児殺害事件や沖縄県北谷町での中学生殺害事件などの児童生徒による重大事件が発生した。また、平成16年6月には佐世保市での小6児童の同級生殺害事件が発生するなど、児童生徒による重大事件や問題行動等は、昨今の教育上の喫緊の課題となっている。
  このような背景等については、家庭の問題、社会の問題又は学校の問題等様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられる。また、その他に、子ども達に、基本的な生活習慣など規範意識を十分に身に付けていないこと、社会性が十分育まれていないこと、他者への思いやりや連帯感が希薄化していること等も考えられる。
  このような状況に対しては、これまでも、家庭、学校、地域社会及び関係機関等が、子ども達に対して、様々な人々との交流や社会に関わる体験又は授業の実施等を通じて、規範意識や倫理観、社会性、他者を思いやる心等を身に付けさせるための取組を充実が図られてきているが、そもそも「子どもの情動や心の発達がどのように行われるものなのか」について、脳科学等の研究成果を踏まえ、科学的に解明する事も、同時に必要であると考える。

  (2)子どもの情動や心の発達等に関しては、これまでも数々の研究成果が残されているところであるが、その一方で、1.子どもを専門に研究する人材が不足し、その人材育成のための体制も不十分であること、2.既存の研究成果が必ずしも学際的な連携の下に共有されてはいないこと、3.各学問分野の研究成果を蓄積するような機関が少ないこと、4.健常の学齢児童生徒のサンプル数が少なく尺度となるデータの蓄積が進んでいないこと、5.研究成果が必ずしも教育活動等に実用化されるまでに至ってないことなど、様々な課題が山積している状態にある。
  その反面、近年、医学的知見の蓄積するとともに、CTスキャンやMRI等の医療技術の進歩によって人の脳機能が外科手術を要せずとも解明できるようになったことなどから、このような子どもの情動や心の発達等について、医学的・科学的な視点から、その原因や背景等を探れる可能性が高まってきている状態にある。

  (3)以上のような状況を踏まえ、文部科学省では、昨年12月に有馬朗人元文相(現科学技術振興財団理事長)を座長として「情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討会」を設置し、子どもの情動や心の発達等をテーマとして、自然科学的な視点のみならず、社会科学的な視点も含めて、学際的に、様々な学問分野の研究者から既存の研究の進捗状況等を報告して頂き、昨今、どの学問分野で、どのような研究が存在し、どこまでその研究が進んでいるのか明らかにしていくこととしている。
  そしてその過程で、1.各学問分野間の連携の在り方や、2.教員、臨床心理士又は精神科医等子どもの心の育成に関わる必要な人材の育成の在り方、さらには、3.子ども達の情動等に関して、今後さらに充実させていく必要がある研究課題などを明らかにしていきたいと考えている。

  (4)今回の会議においては、以上のような趣旨から、教育学、社会学、心理学、精神医学、脳科学、小児医学及び栄養学の各学問分野で活躍している研究者達からなる委員で構成し、月1回ペースにて研究成果の発表や討議等を通じ、本年の夏頃までにその提言を得る予定にしている。

  (5)文部科学省においては、本会議での討議の成果を活かして、1.子どもの情動や心の発達等の背景や原因を探るための研究の振興方策を検討するとともに、2.その研究成果を教育現場等に活用していく方策や3.必要な人材育成のための方策についても併せて検討し、所要の環境整備に努めてまいりたいと考えている。
  なお、本検討会の詳細情報については、近々、文部科学省のホームページ上の「生徒指導等について」に掲載する予定なので、そちらを参照頂きたい。

児童虐待防止について

(1)学校の児童虐待の現状

  (「児童虐待に関する学校の対応についての調査研究」:平成14年~平成15年度文部科学省科学研究費補助金・山梨大学人間科学部玉井邦夫助教授他。):

  1. 学校現場では、すでに教員の5人に一人は、虐待事例に対応した経験があり、教育現場での虐待防止対応は、特殊な課題ではなくなっている。
  2. 教育行政の虐待防止対応としては、児童虐待防止法の施行以降、法の趣旨に対する周知活動という形で実施されてきた。その成果は、都道府県や政令指定都市では98%、市町村では75%が、学校等への周知を行っており、その結果、約9割近くの教員が児童虐待の早期発見義務や通告義務があることを承知している。
  3. しかし、学校が、児童虐待を発見しても関係機関への通告せず、可能な限り自力で対処しようとする傾向があることが示された。これには「学校が、伝統的に教育的指導の観点から限界まで自力対応の路を探らなければならないとする責任の大きさによるところが大きい」など、「学校ならでは」の背景があり、一概に責められるべきではない。むしろ、これは、誰かの責任というより、虐待対応の社会全体のシステムが未成熟であることに原因があると考えられる。学校は、地域において一定の年齢の子どもに対して投網的に対応できる唯一のシステムであり、「学校」というシステムが持っている特性を活かせるような対応システムが構築されるべきである。
  4. 一方、ア:教師向け指導資料・啓発資料の作成状況を見れば、都道府県等での作成は進むものの、市町村の作成は進んでないこと、イ:同啓発資料を「読んでいない」又は「存在を知らない」教師が約5割もいること、ウ:教員研修は、都道府県で約4割、市町村で約1割が実施されているに過ぎないこと、エ:被虐待児童生徒の在籍校に対する特別な人的措置を行っている市町村は4%に過ぎないことなど、児童虐待防止に向けた行政の取組みは、「周知徹底」の段階ではかなり進む反面、「具体的な学校現場への支援」の段階ではまだまだ取組みが緒についたばかりの状態にある。今後は、このような行政の取組みの「深化」が必要であることが示されている。
  5. また、学校等への児童虐待防止法の趣旨等の周知徹底はかなり進んでいるが、肝心の家庭(保護者)に対する広報は十分であるとはいえない状況にあり、この部分についての行政の充実が必要となっている。

(2)学校の児童虐待対応に関する留意点

  1. 学校は、担任、学年主任、養護教諭又は生徒指導主事等それぞれ立場に応じて複眼的な視点から子ども達を見ることができる組織であり、この利点を有効に活用すべきである。また、それぞれ虐待を疑う情報源も異なるため、虐待防止対応にあたっては、校内の連携が極めて重要である。
  2. 学校の教職員は、職務上、児童虐待を発見しやすい立場にあることから、児童虐待防止法においても、児童虐待の早期発見の努力義務が課されており、学校生活のみならず、幼児児童生徒の日常生活面について十分な観察、注意を払いながら教育活動をする中で、児童虐待の早期発見・通告等の対応に努めることが必要である。
  3. 教育行政においては、虐待防止関連の研修を実施する際に、職制に応じた内容を検討することが重要である。また、虐待の発見については学校種別による差も認められ、子どもの年齢に即した研修内容や、幼小中高間の情報交換や引き継ぎを想定した研修などが必要となっている。
  4. 教員は、日頃から児童生徒を見ているため、その言動の変化等を通じて虐待の発見に至る感度が高く、児童相談所等関係機関に通告するが、これら児童相談所等の現状として、人材の不足等があり、軽度の虐待事例に対しては反応が鈍くなる状況がある。
      その結果、学校にしてみれば「児童相談所等はなかなか対応してくれない」と感じ、児童福祉関係機関にしてみれば「学校は通告してその後のケアをしてくれない」と感じるような、相互の実情に関する認識の齟齬が生じる事となってしまう。実際、連携をした場合のデメリットを聞いた場合、「価値観の相違により合意形成されにくい」等との回答があり、連携を経験した教員ほど連携のデメリットを感じている。このことから、学校と児童相談所等関係機関とは、日頃から相互に連携をとり、お互いに顔を合わせ、顔見知りになり、相互の実情について承知していることが必要である。
      このような学校と関係機関との連携に関しては、約9割の教師がその結果について肯定的であったが、連携のほとんどは協議レベルであり、チーム形成にまで至っているのは1割程度に過ぎない。今後は、児童虐待の疑いがあるが、確証がない場合であっても、早期発見の観点から、学校だけで対応しようとはせずに、児童相談所等の関係機関へ連絡、相談をするなど、日頃からの連携を十分に行うことが必要である。

(3)文部科学省における対応

  昨今、深刻な虐待事件が続発しており、児童虐待防止に向けた対応については、文部科学省においても、緊急かつ徹底して取り組むべき課題である。このため、これまでも、都道府県教育委員会等への通知の発出や各種会議、研修等を通じて、児童虐待防止法の周知徹底及び児童虐待の早期発見・対応、被害を受けた児童の適切な保護など、学校において児童虐待の問題に対して適切な対応がなされるようお願いしてきた。また、学校に対するだけでなく、あわせて家庭における教育の充実も実施しており、「教育の力」によって児童虐待を根を断つよう、家庭教育の充実・強化に努めている。

1.家庭・地域社会における取組:
  • ア:家庭教育支援総合推進事業
      行政と子育て支援団体等が連携し、子育てサポーターの資質向上を図るリーダーの養成や、親が参加する多様な機会を活用した学習機会の提供等を行うとともに、新たに、児童虐待などの家庭教育上の今日的課題に関するビデオ資料等を作成・配布する。
  • イ:新家庭教育手帳の作成・配布
      一人一人の親が家庭を見つめ直し、自信をもって子育てに取り組んでいく契機となるよう、新家庭教育手帳を作成し、乳幼児や小学生等を持つ全国の親に配布する。
  • ウ:ITを活用した次世代型家庭教育支援手法開発事業(平成17年度新規)
      子育てについて学ぶ余裕がない親や、子育てに不安や悩みを持ちながら孤立しがちな親等が、いつでも、どこでも、気軽に学習をしたり、相談をしたり、身近な子育て情報を入手することができるよう、携帯電話による子育て相談や情報提供など、ITを活用した先進的な家庭教育支援の取組を試行し、より効果的な支援手法を開発・普及することにより、一人でも多くの親に対するきめ細やかな家庭教育支援の推進を図る。
  • エ:全国家庭教育フォーラムの開催
    直接子育てに関わっていない大人等も含めて、国民一人一人が家庭教育支援の重要性について認識するなど、改めて、家庭教育への支援について、全国的に考え、行動する気運を高めるため、全国2地域で家庭教育に関するフォーラムを実施する。
2.学校等における取組:
  • ア:豊かな体験活動推進事業
      子どもたちの社会性や豊かな人間性を育むため、幼児とふれあう体験活動を含め、他校のモデルとなる多様な体験活動の展開を図る。また、命の大切さを学ばせるのに有効な体験活動について調査研究を実施する。
  • イ:学校等における児童虐待防止に向けた取組に関する調査研究(平成17年度新規)
      児童虐待防止法の改正や児童虐待の深刻な状況を踏まえ、国において国内・海外の先進的取組等を収集・分析することなどにより、各学校・教育委員会における児童虐待防止に向けた取組の充実を図る。
  • ウ:「児童虐待に関する学校の対応についての調査研究」(研究代表者:玉井邦夫・山梨大学助教授:平成14~15年度文部科学省科学研究費補助金)
      児童虐待に関する学校の対応や教委いく委員会等の取り組みの状況などに関する実態調査を実施し、学校や被虐待児童生徒又は家族等に対する支援策の在り方に関する研究を実施。
  • エ:教育相談体制の充実(スクールカウンセラー及び子どもと親の相談員の配置)
      児童虐待等により、内面にストレスや不満、悩みを抱える児童生徒の心の相談にあたることが大切であり、「心の専門家」であるスクールカウンセラーや子どもと親の相談員の配置を行う。
  • オ:関係機関との連携
      児童虐待防止法の一部改正においても、国及び地方公共団体の責務として児童虐待の予防から早期発見、虐待を受けた児童の保護及び自立の支援に至るまでの切れ目のない支援のため、関係行政機関や民間団体の間の連携の強化などの児童虐待の防止等のために必要な体制の整備に努めることとされている。
      なお、「児童虐待防止市町村ネットワーク」については、全国3,200市町村の約4割弱(38.8%)の1,245か所(うち計画中が278か所)が設置。そのうち9割近く(847か所(87.6%))に教育委員会が参加し、小学校の約8割(751か所(77.7%))、中学校の約7割(689か所(71.3%))が参加している。
      昨年の臨時国会で成立した児童福祉法の一部改正においても「要保護児童対策地域協議会」の設置についての規定が整備された。このようなネットワークの活用等を含めて、学校と関係機関等をより一層推進していくことが重要である。
      なお、各都道府県における児童虐待防止に向けた取組については、生徒指導等の施策の推進(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/04121502/048.htm)(※ 現在はページがありません。)をご覧頂きたい。

5.主要行事の予定又は連絡事項等

  (全てを記載しているわけではありませんので、必ず正式文書で確認をお願いします。)

  • 生徒指導メール・マガジン第7号 4月28日(木曜日)

6 施策に関する各地域からの提言又はQ&A

  今回は特になし。

本件連絡先

  • 文部科学省初等中等教育局児童生徒課 生徒指導企画係
  • メール・マガジン問い合わせ先 <jidou@mext.go.jp
  • 電話:03‐5253‐4111(内線3055)、FAX:03‐6734‐3735
  • ※ 生徒指導及び進路指導上の優れた実践事例を公募したいと思います。全国的に紹介したい事例がある場合には、ご執筆の上、送信いただきたいと思います(その際、執筆者が都道府県・指定都市教育委員会でなくても、学校又は市町村教育委員会の執筆でも可です)。内容を見て、「各地域又は学校の優れた取組みの紹介」の項で紹介していきたいと思います。
  • ※ 教育課題についての質問や提言、他の都道府県教育委員会へ伝えたいニュースや連絡事項などありましたら、上記アドレスまで返信メールの送信をお願いします。なお、恐縮ですが、質問に関しては、全体に周知する事が必要なものについて、本メール・マガジンで回答していきます。
  • ※ メール・マガジンは、文書による通知・連絡とは異なり、あくまでも文部科学省からの情報提供を目的としています。通知・連絡については、従来通りの方法にて行いますのでご留意願います。

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初等中等教育局児童生徒課

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