4.教育課程の実施と学習評価

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(1) 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善

① 個別最適な学び・協働的な学びと授業改善

 学習指導要領においては、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善について以下のとおり示しています。 [脚注1]

 第1(款)の3の(1)から(3)までに示すこと[脚注2]が偏りなく実現されるよう、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら、児童(生徒)の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うこと。

 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善については、平成28年答申で以下の3つの視点に立った授業改善を行うことが示されています。[脚注3]教科等の特質を踏まえ、具体的な学習内容や児童生徒の状況等に応じて、これらの視点の具体的な内容を手掛かりに、質の高い学びを実現し、学習内容を深く理解し、資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるようにすることが求められています。

  • 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。
  • 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。
  • 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。

 個別最適な学びを充実していく上では、基礎的・基本的な知識・技能の習得が重要であることは言うまでもありませんが、思考力、判断力、表現力等や学びに向かう力等こそ、家庭の経済事情など、子供を取り巻く環境を背景とした差が生まれやすい能力であるとの指摘もあることに留意が必要です。主体的・対話的で深い学びを実現し、学びの動機付けや幅広い資質・能力の育成に向けた効果的な取組を展開していくことによって、学校教育が個々の家庭の経済事情等に左右されることなく、子供たちに必要な力を育んでいくことが求められます。[脚注4]例えば、児童生徒の学習意欲を向上する観点からは、教科等を学ぶ本質的な意義や一人一人の学習状況を児童生徒に伝えること等が重要となります。

 その際、ICTの活用により、学習履歴(スタディ・ログ)や生徒指導上のデータ、健康診断情報等を蓄積・分析・利活用することが重要です。このことは教師の負担を軽減することにもつながります。また、児童生徒がICTを日常的に活用することにより、自ら見通しを立てたり、学習の状況を把握し、新たな学習方法を見いだしたり、自ら学び直しや発展的な学習を行いやすくなったりする等の効果が生まれることが期待されます。 [脚注5]

 「個別最適な学び」を行うに当たり使用が見込まれるICTを利用した教材として、学習者用デジタル教科書、学習動画、ドリル教材、電子書籍、STEAM教育向けのコンテンツ等があり、更に様々な紙の教材も組み合わせて指導することが考えられます。また、多様な教材を活用した学びに対応できる教師の指導力の育成も必要です。

 「協働的な学び」においては、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善につなげ、児童生徒一人一人のよい点や可能性を生かすことで、異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出していくようにすることが大切です。例えば一斉授業においても、集団の中での個人に着目した指導や、児童生徒同士の学び合い、多様な他者とともに問題の発見や解決に挑む授業展開などの視点から授業改善を図っていくことが期待されます。また、学習内容の理解を定着する観点からは、単に問題演習を行うだけではなく、内容を他者に説明するなどの児童生徒同士の学び合いにより、児童生徒が自らの理解を確認し定着を図ることが、説明する児童生徒及びそれを聞く児童生徒の双方にとって有効であると考えられます。個々の児童生徒の特性等も踏まえた上で、「協働的な学び」が充実するようきめ細かな工夫を行うことが重要です。[脚注6]

 「協働的な学び」の効果を高めるためには、学級経営を充実し、児童生徒が違いを認めて協力し合える学級づくりを進めることが必要です。例えば、学級活動(ホームルーム活動)で行われる合意形成の活動は、他の教科等での学習の質の向上にも有効であることを念頭に学級経営を充実することなどが考えられます。

 また、「協働的な学び」は、同一学年・学級の児童生徒同士の学び合いだけでなく、異学年間の学びや他の学校の児童生徒との学び合い、地域の方々や多様な専門家との協働なども含むものです。知・徳・体を一体で育む日本の学校教育のよさを生かし、学校行事や児童会(生徒会)活動等を含め学校における様々な活動の中で異学年間の交流の機会を充実することで、児童生徒が自らのこれまでの成長を振り返り、将来への展望を培うとともに、自己肯定感を育むなどの取組も大切です。

脚注

  • [1]小学校学習指導要領(平成29年告示)第1章第3の1(1),中学校学習指導要領(平成29年告示)第1章第3の1(1),高等学校学習指導要領(平成29年告示)第1章第3款1(1)
  • [2]知識及び技能の習得、思考力、判断力、表現力等の育成、学びに向かう力、人間性等の涵養
  • [3]平成28年答申p.49
  • [4]平成28年答申p.58
  • [5]教育課程部会における審議のまとめp.4
  • [6]教育課程部会における審議のまとめp.5