3.教育課程の編成

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(2) STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進

 AIやIoTなどの急速な技術の進展により社会が激しく変化し、多様な課題が生じている今日においては、これまでの文系・理系といった枠にとらわれず、各教科等の学びを基盤としつつ、様々な情報を活用しながらそれを統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結びつけていく資質・能力の育成が求められます。

 教育再生実行会議第11次提言において「各教科での学習を実社会での問題発見・解決にいかしていくための教科横断的な教育」とされたSTEAM教育については、STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)に加え、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲(Liberal Arts)[脚注1]でAを定義し、推進することが重要です。 [脚注2]

 STEAM教育は、「社会に開かれた教育課程」の理念の下、産業界等と連携し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていく高度な内容となるものであることから、高等学校における教科等横断的な学習の中で重点的に取り組むべきものですが、その土台として、幼児期からのものづくり体験や科学的な体験の充実、小学校、中学校での各教科等や総合的な学習の時間における教科等横断的な学習や探究的な学習、プログラミング教育などの充実に努めることも重要です。さらに、小学校、中学校においても、児童生徒の学習の状況によっては、例えば総合的な学習の時間における児童生徒の課題解決の姿をイメージしながら、教科等横断的な学習の中でSTEAM教育に取り組むことも考えられます。その際、発達の段階に応じて、児童生徒の興味・関心等を生かし、教師が一人一人に応じた学習活動を課すことで、児童生徒自身が主体的に学習テーマや探究方法等を設定することが重要です。

 高等学校においては、学習指導要領に新たに位置付けられた「総合的な探究の時間」や「理数探究」が、

  • 実生活、実社会における複雑な文脈の中に存在する事象などを対象として教科等横断的な課題を設定する点
  • 課題の解決に際して、各教科等で学んだことを統合的に働かせながら、探究のプロセスを展開する点

などSTEAM教育がねらいとするところと多くの共通点があり、各高等学校において、これらの科目等を中心としてSTEAM教育に取り組むことが期待されます。また、必履修科目として地理歴史科・公民科や数学科、理科、情報科の基礎的な内容等を幅広く位置付けた学習指導要領の下、教科等横断的な視点で教育課程を編成し、その実施状況を評価して改善を図るとともに、教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制の確保を進め、地域や高等教育機関、行政機関、民間企業等と連携・協働しつつ、各高等学校において生徒や地域の実態にあった探究学習を充実することが重要です。その際には、これまでのスーパーサイエンスハイスクール(SSH)などでの教育実践の成果を生かしていくことが考えられます。SSHは、生徒が主体的に取り組む課題研究等の先進的な理数系教育を通じて、将来のイノベーション創出を担う創造性豊かな科学技術人材の育成に取り組むものですが、高等学校等における探究的な学びの実践に当たり、幅広く参考になるものです。

 特に、実社会での問題発見・解決に生かしていく視点から生徒が自らテーマを設定し、学習を進めるためには、生徒が地域や産業界、大学などと多様な接点を持ち、社会的な課題や現在行われている取組などについて学ぶことが重要です。生徒が多様な機会を得ることができるよう、社会全体で取組を進めることが求められます。

 STEAM教育の推進に当たっては、探究のプロセスを重視し、その過程で生じた疑問や思考の過程などを生徒に記録させ、自己の成長の過程を認識できるようにするとともに、社会に開かれた教育課程の観点から、STEAM教育に関わる学校内外の関係者による多様な視点を生かし、生徒の良い点や進歩の状況などを積極的に評価し、学習したことの意義や価値を実感できるよう努めることが重要です。

 また、STEAM教育の特性を生かし、実社会につながる課題の解決等を通じた問題発見・解決能力の育成や、レポートや論文、プレゼンテーション等の形式で課題を分析し、論理立てて主張をまとめること等を通じた言語能力の育成、情報手段の基本的な操作の習得、プログラミング的思考、情報モラル等に関する資質・能力等も含む情報活用能力の育成等の学習の基盤となる資質・能力の育成、芸術的な感性も生かし心豊かな生活や社会的な価値を創り出す創造性などの現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成について、文理の枠を超えて教科等横断的な視点に立って進めることが重要であり、その実現のためにはカリキュラム・マネジメントを充実することが必要です。

 STEAM教育等の教科等横断的な学習の前提として、小学校、中学校、高等学校などの各教科等の学習が重要であることは言うまでもありません。各学校において、習得・活用・探究という学びの過程を重視しながら、各教科等において育成を目指す資質・能力を確実に育むとともに、それを横断する学びとしてのSTEAM教育を行い、更にその成果を各教科に還元するという往還が重要です。

脚注

  • [1]STEAMのAを広い範囲で定義するに当たり、そのAの意味するものについては、“Liberal Arts”のほか“Arts”や“Art”という用語を使用する見解がある。
  • [2]令和3年答申p.56,教育課程部会における審議のまとめp.13

関係資料等