第1章 2.アンケートから読み取れる教科書の改善・充実に関する方向性

 ここでは、2007年2月に実施した、現職教員及び保護者へのアンケート結果に基づいて、教科書の改善・充実の方向を検討する。なお、アンケート項目及び回答結果一覧については「8.算数資料編(アンケート結果)」を参照。

1.現職教員へのアンケート結果から

 現職教員に対しては、Q1~Q24からなるアンケート項目による調査を行った。ここでは、それらのうちのいくつかの問いに対する回答を、以下の5観点から分析する。初めの2観点は算数指導に対する教員の現状に関するもの、残る3観点は教科書の改善に直接関係するものである。

  • (1)算数指導に対する教員の好感度
  • (2)算数指導の重点
  • (3)算数教科書の使われ方とプリント、副教材の使用
  • (4)教科書記述の視覚的な効果
  • (5)算数教科書の工夫や配慮の程度

(1)算数指導に対する教員の好感度

 アンケート項目Q6、Q7とその回答の結果は、図表1-2の通りである。

図表1-2 算数の指導に対する好感度

アンケート項目 肯定的 どちらともいえない 否定的
Q6.算数指導は好きか 94.3 4.2 1.1
Q7.算数は指導しやすい教科か 83.8 11.9 3.1

(N(注1)イコール452、数値はパーセント)

 例えば「Q6.算数の指導が好きか」どうかについては、「好き」、「まあ好き」とした回答の合計を「肯定的」としてまとめ、「あまり好きではない」、「好きではない」とした回答の合計を「否定的」としてまとめている。
 この結果から、ほとんどの教員が、算数指導は好きであり指導しやすいと考えていることになる。

  • (注1)Nは回答数。以下同様。

(2)算数指導の重点

 アンケート項目Q8とそれに対する回答の結果は、図表1-3の通りである。

図表1-3 算数の指導で重要なこと

Q8.算数の指導で、最も重要と考えている項目は何か
「基礎・基本の定着」 72.0
「多様な考えを大事にする学習」 17.5
「個に応じた指導」 8.8
「より発展的な学習」 0.2
「その他」 0.2

(Nイコール452、数値はパーセント)

 この結果から、およそ3/4の教員(72.0パーセント)が、算数指導では「基礎・基本の定着」が最も重要と考えていることがわかる。ここで問題になるのは、何を「基礎・基本」と考えているかという点である。「数学的な考え方に関しても基礎・基本がある」というとらえ方の重要性はよく指摘されるが、そこまで考えた「基礎・基本の定着」なのかどうか、今回の調査からはその詳細はわからない。また、「より発展的な学習」を挙げた回答は、0.2パーセントと極めて僅かである。
 なお、0.2パーセントあった「その他の回答」の中には、「問題解決の過程を味あわせ思考の仕方を身に付けさせること」「数学の不思議さ、芸術的美しさ、面白さをみせること」等が挙げられている。

(3)算数教科書の使われ方とプリント、副教材の使用

 アンケート項目Q9とそれに対する回答の結果は、図表1-4の通りである。

図表1-4 算数の授業でのプリントの使用方法

Q9.日頃の授業で、算数の教科書をどのように使っているか
「常に教科書を中心に授業を進める」 39.4
「単元によってはプリントを組み合わせている」 45.6
「常に教科書とプリントを組み合わせている」 12.2
「その他」 2.4

(Nイコール452、数値はパーセント)

 日頃の授業でおよそ4割の教員が「教科書中心の授業」を行っている。これらの教員にとっては、教科書の記述や展開が実践を大きく左右することになる。教材としての教科書の重みを感じる。
 また、何らかの形でプリントを使う教員は57.8パーセントである。ここで問題になるのは、プリントの中身である。意図した授業の流れに沿ったプリントを用意しそれに書き込ませていくことによって授業を進めていくためのものなのか、あるいは導入や利用での児童の活動を促すための場面設定のものなのか、あるいはまた単なる練習問題を列挙したものなのか、等々、一口にプリントといっても様々な内容や使い方が考えられる。今回の調査からはその詳細はわからないが、Q9-1の自由記述には、「プリントを組み合わせて授業を進める」理由として、「練習量を増やしたいため」、「基礎・基本の定着のため」、「習熟度別に指導しやすいため」等が挙げられている。いずれにせよ、授業において算数教科書がよく使われていることがわかる。
 ここで、Q8とQ9に対する回答の関連を調べると、図表1-5のようになる。

図表1-5 算数の授業でのプリントの使用方法と算数指導で重要なこと

Q8.算数指導で重要 基礎基本の定着 多様な考えを 個に応じた指導 より発展的な指導 その他 無回答
Q9.算数教科書の使い方 常に教科書中心 30.3 5.3 2.7 0.2   0.9 39.4
単元によってはプリントも 32.3 8.0 5.0     0.2 45.6
常に教科書とプリントを 8.4 2.9 0.9       12.2
その他 0.4 1.3 0.2   0.2 0.2 2.4
無回答 0.4           0.4
71.8 17.5 8.8 0.2 0.2 1.3 100.0

(Nイコール452,数値はパーセント)

 教科書中心であろうとプリント併用であろうと、算数指導では「基礎・基本の定着」が最も重要と考えられていることになる。
 次に、教科書を補うものとして、副教材や補助教材について見てみる。
 「Q15.算数の教科書に準拠した副教材や補助教材を使用しているか」に対して、79.7パーセントの教員が使用していると回答している。そう回答した理由としては、「教科書の練習問題の分量が少ないから」が80.6パーセント(全体の64.2パーセント)、「教科書の練習問題が多様性に欠けるから」が7.2パーセント(全体の5.7パーセント)という結果であった(Q15-1による)。
 また、その他の回答が10.0パーセント(全体の8.0パーセント)あったが、それらは、「基礎・基本を定着させるため」、「繰り返し練習がしやすいから」という理由に大別された。
 以上、Q9及びQ15の結果からすると、教科書に加えてプリントや副教材、補助教材が使われる理由として、練習問題の量を増やすためと、児童や問題の多様性に対応するための2点を挙げることができる。
 ここで、Q9とQ15に対する回答の関連を調べると、図表1-6を得る。

図表1-6 算数の授業でのプリントの使用方法と副教材や補助教材の使用

Q15.副教材や補助教材の使用 使用している 使用していない 無回答
Q9.算数教科書の使い方 常に教科書中心 30.3 8.0 1.1 39.4
単元によってはプリントも 37.4 8.0 0.2 45.6
常に教科書とプリントを 10.4 1.8 12.2
その他 1.1 1.3 2.4
無回答 0.4 0.4
79.7 19.1 1.3 100.0

(Nイコール452、数値はパーセント)

 副教材や補助教材も使わず、教科書中心の指導を行っているのは、教員全体の8.0パーセントである。また、教科書中心の指導を行い、副教材や補助教材を使用しているのは、教員全体の30.3パーセントである。

(4)教科書記述の視覚的な効果

 アンケート項目Q12、Q13、Q14とそれに対する回答の結果は、図表1-7の通りである。

図表1-7 教科書記述の視覚的効果

アンケート項目 肯定的 肯定的たすどちらでもない 否定的
Q12.イラスト・写真等は本文と適切に関連付けられているか 93.4 97.4 2.2
Q13.イラスト・写真等の分量は適切か 76.0 20.1(多い)
3.5(少ない)
Q14.色分け・強調・吹き出し(ヒント)は効果的か 88.7 94.0 5.1

(Nイコール452、数値はパーセント)

 イラスト・写真等については、93.4パーセントの教員が「本文と適切に関連付けられている」と回答しているものの、その分量については否定的な回答が23.6パーセントあり、今回のアンケートの中ではその多さが目に付く結果になっている。その内訳は、「多い」が3.1パーセント、「やや多い」が17.0パーセントであり、その多さに対する指摘が目立ったということができる。
 また、「色分け・強調・吹き出し(ヒント)」についても、否定的な回答が5.1パーセントある。そう回答した理由については、「不必要なものが多い」が44.7パーセント(全体の2.3パーセント)、「必要な箇所に色分け・強調がされていない」が34.0パーセント(全体の1.7パーセント)という結果であった(Q14-1による)。
 ここで、Q13とQ14に対する回答の関連を調べると、図表1-8を得る。

図表1-8 色分けの効果とイラスト等の分量との関係

Q13.イラスト・写真等の分量 少ない 適量 多い 無回答
Q14.色分け・強調・吹き出し(ヒント)の効果 肯定的 2.4 70.4 15.7 0.2 88.7
どちらともいえない 0.4 2.7 2.2 5.3
否定的 0.7 2.2 2.2 5.1
無回答 0.7 0.2 0.9
3.5 76.0 20.1 0.4 100.0

(Nイコール452、数値はパーセント)

 70.4パーセントの教員が、「色分け・強調・吹き出し(ヒント)の効果」に肯定的であり「イラスト・写真等の分量」も適量としている。逆に、「色分け・強調・吹き出し(ヒント)の効果」に否定的であり「イラスト・写真等の分量」も不適切(少ない、あるいは、多い)としている教員は2.9パーセントである。
 総体的にはよい評価を得ていると考えるが、「色分け・強調・吹き出し(ヒント)の効果」に肯定的でありながら「イラスト・写真等の分量」は多いとしている者が全体の15.7パーセントにものぼっている。
 教科書の紙面作りの上で、イラスト・写真等の分量については一考を要するであろう。

(5)算数教科書の工夫や配慮の程度

 Q11は15の設問項目(1)~(15)について、算数教科書がどの程度工夫や配慮をしているかを聞いている。15の設問項目は図形問題に関する(1)~(5)、それらと同一の問いかけで文章問題に関する(6)~(10)、計算問題に関する(11)~(15)からなっている。ここでは、図形問題に関する(1)~(5)の回答の結果を図表1-9に示す。文章問題、計算問題についても、ほぼ同様の結果であった。

図表1-9 算数教科書の工夫や配慮の程度-図形問題-

アンケート項目 肯定的 どちらともいえない 否定的 無回答
Q11.(1)説明や記述のわかりやすさ 75.9 18.8 5.3 0.9
Q11.(2)場面・題材の設定の適切さ 69.9 21.0 8.1 0.9
Q11.(3)児童のつまずきやすい箇所に丁寧な説明 42.7 38.1 18.4 0.9
Q11.(4)児童の理解度に応じた指導が行えること 31.2 43.4 24.6 0.9
Q11.(5)単元の内容が定着したかの指導 44.6 37.8 16.4 1.1

(Nイコール452、数値はパーセント)

 図表1-9では、(1)~(5)のそれぞれについて、「十分工夫されている」「やや工夫されている」とした回答の合計を「肯定的」としてまとめ、「やや工夫がたりない」、「工夫がたりない」とした回答の合計を「否定的」としてまとめて示してある。
 「(1)説明や記述のわかりやすさ」、「(2)場面・題材の設定の適切さ」については肯定的な回答が70パーセント前後であり、よい評価を得ていると考えることができる。
 また、「(3)児童のつまずきやすい箇所に丁寧な説明」、「(5)単元の内容が定着したかの指導」については肯定的な回答が40数パーセント前後である。「どちらともいえない」とした回答がともに40パーセント弱あるものの、否定的な回答も20パーセント弱ある。(3)では「つまずきやすい箇所」、「丁寧な説明」を、(5)では「単元の内容」、「定着」をどのようにとらえたかによって、回答の結果が左右されるだけに、個々の内容に応じた分析をする必要がある。
 「(4)児童の理解度に応じた指導が行えること」については肯定的な回答が31.2パーセントであって、5つの項目の中では最も低い結果になっている。「どちらともいえない」とした回答が43.4パーセントあるものの、否定的な回答が24.6パーセントある。回答者が、例えば図形概念の形成に関する理解度の差などを想定して回答したのか、昨今の習熟度別の指導への対応を想定しての回答なのかは今回の調査からは判断できないものの、算数教科書の個に応じた指導への対応に関しては厳しい評価になった。

 またQ18では、算数教科書が、以下のアンケート項目(1)~(4)についてどの程度工夫されているかを聞いている。その回答の結果は、図表1-10の通りである。

図表1-10 算数教科書の工夫の程度

アンケート項目 肯定的 どちらともいえない 否定的 無回答
Q18.(1)「式や計算」の意味が理解できるようにすること 72.6 20.4 6.4 0.7
Q18.(2)日常事象の考察に算数の力が生かされる工夫 56.2 31.2 11.9 0.7
Q18.(3)問題の解決の過程を重視する指導の工夫 52.9 34.7 11.0 1.3
Q18.(4)単元の特性に応じた工夫 33.0 48.7 16.6 1.8

(Nイコール452、数値はパーセント)

 図表1-10では、(1)~(4)のそれぞれについて、「十分工夫されている」「やや工夫されている」とした回答の合計を「肯定的」としてまとめ、「やや工夫がたりない」「工夫がたりない」とした回答の合計を「否定的」としてまとめて示してある。
 「(1)「式や計算」の意味が理解できるようにすること」については、回答のおよそ3/4が肯定的である。また、「(2)日常事象の考察に算数の力が生かされる工夫」、「(3)問題の解決の過程を重視する指導の工夫」については肯定的な回答が半数強あり、まずまずの評価を得ていると考えることができる。
 これに対して、「(4)単元の特性に応じた工夫」については、肯定的な回答が1/3であり、4つの項目の中では最も低い結果になっている。否定的な回答は16.6パーセントある。前述で検討したQ11の「(4)児童の理解度に応じた指導が行えること」に対する厳しい評価とも合わせて考えると、児童の理解度や単元の特性に応じるなど、より個々の児童や内容に応じた教科書が望まれているということができる。

2.保護者へのアンケート結果から

 保護者に対しては、Q1~Q6からなるアンケート項目による調査を行った。ここでは、それらのうちのいくつかの問いに対する回答について分析する。

(1)算数教科書に対する満足度

 Q4では保護者の算数教科書に対する満足度を聞いている。その結果を、教員への同様の問い(対教員アンケートのQ21)に対する結果も一緒に示すと、図表1-11を得る。

図表1-11 算数教科書に対する満足度

アンケート項目 回答者・問番号 肯定的 どちらともいえない 否定的 無回答
算数教科書にどの程度満足しているか 対保護者用のQ4 56.0 20.6 22.3 1.3
対教員用のQ21 65.2 17.5 16.2 1.1

(Nイコール175[保護者]、452[教員]、数値はパーセント)

 図表1-11では、「満足している」「まあ満足している」とした回答の合計を「肯定的」としてまとめ、「やや不満である」「不満である」とした回答の合計を「否定的」としてまとめて示してある。
 保護者の肯定的な回答は56.0パーセントであり、教員の回答の結果よりおよそ10ポイント低くなっている。「算数教科書にどの程度満足していますか」という漠とした問いかけだけに、何のことを意識して回答した結果であるかは判断できないものの、Q4に続くQ5における自由記述の中から不満にあたる記述を見ると、「イラストが幼く6年生の教科書とは思えない」、「イラストや吹き出しが多くかえって見づらい」、「定着させるための問題の量が少ない」等が挙げられている。

(2)算数教科書の適切さの程度

 Q3では、算数教科書が、以下のアンケート項目(1)~(6)についてどの程度適しているかを聞いている。その回答の結果は、図表1-12の通りである。

図表1-12 算数教科書の適切さの程度

アンケート項目 肯定的 普通 否定的 その他
Q3.(1)児童の興味・関心を引く学習内容 72.5 20.0 5.2 2.3
Q3.(2)理解しやすい説明や記述への配慮 65.7 20.0 12.6 1.7
Q3.(3)教材・単元等、教科書の分量 37.7 32.6 24.0 5.7
Q3.(4)イラストや写真、吹き出しの配慮 69.7 17.1 10.3 2.8
Q3.(5)練習問題等の量 34.8 25.1 37.1 2.9
Q3.(6)自宅での自習 24.0 33.1 36.6 6.2

(Nイコール175、数値はパーセント)

 図表1-12では、(1)~(6)のそれぞれについて、「適している」、「まあ適している」とした回答の合計を「肯定的」としてまとめ、「あまり適していない」、「適していない」とした回答の合計を「否定的」としてまとめて示してある。「その他」は、「わからない」とした回答と「無答」の合計である。
 この結果から、以下のことが指摘できる。

  • ア)「(1)児童の興味・関心を引く学習内容」、「(2)理解しやすい説明や記述への配慮」、「(4)イラストや写真、吹き出しの配慮」については、回答のおよそ2/3が肯定的であり、否定的な回答はおよそ10パーセントであって、よい評価を得ていると考えることができる。
  • イ)「(3)教材・単元等、教科書の分量」、「(5)練習問題等の量」については、肯定的回答、否定的回答それぞれがおよそ1/3あって、量的な面での評価は分かれている。
  • ウ)「(6)自宅での自習」については、肯定的な回答はおよそ1/4にとどまり、回答の1/3が否定的である。「適していない」とするものが回答の1/3あったのであるが、教科書は教員と児童がともに存在する授業において使われるのが通常の使われ方であって、自宅での自習書として作られているのではないことに留意して、この回答結果を解釈する必要がある。

 以上見てきたように、教科書に望まれていることは多岐にわたっている。
 それらに的確に応じるためには、教科書は授業でどのように使われているのかをより適切に把握し、教科書に対する多くの要望の内の何を主要な役割と位置付けるのかの共通理解を図り、それに基づいて教科書を編集することが重要であろう。そのためには、学習の内容やその過程、児童の理解の様相を一層踏まえた授業を支えるような編集方針の策定や紙面構成が欠かせない。
 特に授業を通して児童の豊かな学習を保障する上でも、教科書に対する教員や保護者の期待は大きい。

(國宗 進)

-- 登録:平成21年以前 --