現行の国語教科書においては漢字の書き取りや文法あるいは読解力など授業で付いた力を試すための問題、反復による習得のための教材部分が少ない。基礎・基本的な知識・技能の習得・理解を図る上で反復学習や繰り返し学習といったことによる読み・書き能力の育成は重要と考える。そのため教科書においてこうした反復、繰り返しといったことを行うトレーニング的な要素を拡充していくべきである。
漢字に関するところには、復習したり拡充したりする練習問題がある。が、教材の主体をなす読むことについては、その教材文を学習していく問題があるだけで、その観点からの学習成果を確かめ、他の文章を読む際に活用できるように、練習する問題がない。課題だけはあるが、実際に練習してみる文章(練習用教材文)が、まったくない。
ある一つの学習事項を習得させるには、さまざまな過程があるが、少なくとも基本としては、
の3段階を設けるのが、一般的である。算数が典型的にそうなっている。学習活動がもっとも論理的に構成されているといえよう。算数のようにいかないとしても、練習なしに、一度の学習だけで定着するものであろうか。読書百遍を基本とする読みの学習においても、観点の定着・応用をはかるには、他の文章による練習がなくては、学習者自身、読む力がついたことを自覚することができない。
多くの本を読むことで、ある程度の、漠然とした観点を習得していくが、それらを自覚しない場合は、ストーリー読みになりがちで、文章表現がもつ魅力には気づかぬままに終わりやすい。漠然とした印象に終わり、確実な根拠をもたない読みのままですごすことが、実に、多い。読みの学習で学んだ観点が、読書活動に生かされていない実態を認めざるをえない。このため、読書感想文で悩む児童のなんと多いことか。いわゆる読解と読書との共通点と相違点をふまえた、両者の共同的な活動の指導が少ない。
これらの問題点として、何を、どう読めばいいのか、その観点がはっきりしない指導をあげることができよう。当面の教材文の内容把握に精力をつくすが、その把握の観点を整理し一般化して示すことが少ない。これでは、学習した作品は読めても、他の作品では保障のかぎりではない。
教科書では、単元「全体」のねらい・課題は、明示されているが、それだけでは、教材の「部分(構成要素)」を読む観点まではとどかない。
短い文章で、練習問題を掲げることで、部分部分のもつ特性に――指導者はむろん、学習者自身――気づき、読みの具体的な観点を学ぶことができる。教材細部を生かすためにも、練習問題の提示は、学習の効果を向上させることにつながる。
読解の練習と、読書活動での練習とは、相違点をもちつつ共同させていかなくてはならない。そのためにも、それぞれの練習問題を用意することで、具体的な連携学習が可能となろう。
ことばの力は、繰り返し学習することで身に付くものである。基礎的基本的な知識や技能の習得を図る上で、教科書においてもトレーニング的要素を拡充していくことが必要である。
現在、学校では、教科書だけでなく市販漢字ドリル・国語ドリル等を使用したり、教師が作成した練習問題を印刷して与えたりして基礎・基本的な知識技能の定着を図ろうとしている。
練習的な要素をドリルのように盛り込むことは難しいが、児童が自分で学習できるような手引きを作成することは可能である。そのような点も含め、現行の教科書に次のような工夫を盛り込んでいくことを提案する。また、「言語に関する知識・理解・技能」に偏ることなく、話し合いの進め方や司会の役割など、他教科等の言語活動でも繰り返し学習することで身に付くことばの力についてもふれておきたい。
(中西 一弘、渡辺 文子)
-- 登録:平成21年以前 --