当専門家会議の議論の中で文章を書く上で、または他教科の授業を進めていく上でも必要な語彙が不足しているとの指摘が出ている。またこうしたなかで学校によっては習得すべき語彙を一覧表にして指導しているとの声もある。国語教科書において基礎となる語彙、他教科で必要とする語彙などを体系的に習得させるための教材、学習活動が必要である。
語彙とは、一つの言語の、あるいはその中の特定の範囲についての、単語の総体(広辞苑)である。そのうち語彙には使用頻度が高く、日常生活に必要不可欠で、歴史を通じて変化しにくい語、例えば「手・足・目・寝る・良い・悪い・・」と、だれもが必ずしも日常的に使う語ではないが、対象となる文章・談話を理解するのに不可欠な語の集まりがある。
一般的に見聞きして意味が分かる語彙の方が、自分が使うことができる語彙より範囲が広い。「読めるけど書けない」といった漢字や、暗唱はできても意味がわからない古典の文等がそれにあたるだろう。
国語の指導においても同様で、児童が話したり書いたりする等表現するときに使用する語彙と、話を聞いたり本を読んだ等理解するときに必要となる語彙と異なるとらえ方をする必要がある。
これまで、語彙の指導においては、読解指導により疑問をもったり、確かめられたりした語彙(語句)を取り上げ、辞書を利用して調べる活動から、その語句を自分の表現に生かすことまでは数多く実践されてきた。こうした丁寧な指導過程により、間違いなく児童の語彙量が増え定着していくという成果が見られることは、教師の誰もが経験的に分かっている。しかし、こうした指導は多くの時間を必要とするために、自宅学習や作業的な学習によることが多くなる。また、意味の分からない言葉や読めない漢字を確認したり調べたりする作業的な学習では、真の語彙・語句の理解とはいえず、児童の興味関心を低下させてしまう現状が確かにあった。
岩手県立総合教育センターにおける研究では、語彙指導の具体的なねらいを明確にしている。
図表1-10 岩手県立総合教育センターにおける研究(抜粋)
こうしたねらいを実現するために、「言葉と出合う」、「語句を理解する段階」、「その妥当性を検討する段階」と指導過程を分け、指導方法の工夫をしている。
こうした語彙指導の具体的な段階を、学年の実態に応じて学習の手引きを提示することが必要であることを提言したい。特に、一つの語の広がりを学習し、生活に生きて働く言葉として一人一人に定着させるためには、「書く」ことを取り入れた学習活動を取り入れたい。また、児童一人一人が課題を達成できたかを評価するために、自己評価とともに相互評価を取り入れた学習活動を提示したい。
児童が自分の思いや願いを認識し、実現していくためには、自分が得た情報や技能を、自分の考えとして感想や評価を明確に述べることが必要である。さいたま市立O小学校では、この力を「感想力」としている。感想語彙を増やすために、下記の内容を体系的に位置付け、取組を行っている。
図表1-11 感想語彙を増やすための取り組み
感想語彙を増やす力(言葉カードの活用) | |
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低学年 | 「言葉カード」の中から、自分の気持ちに合うものを選んで書く |
中学年 | 「言葉カード」の「使えるようにしたい言葉・分かるようにしたい言葉」の組み合わせを考える |
高学年 | 「言葉カード」を活用し、簡単な形容詞を使わずに自分の言葉で表現する。 |
さいたま市立O小学校では、『井上一郎「読解力」をのばす読書活動』(明治図書、2005年10月)にある低学年、中学年、高学年それぞれの「使えるようにしたい言葉」、「分かるようにしたい言葉」を「言葉カード」として、児童に一人ひとりに配付し、国語の授業はもちろん、教育活動全体で活用している。
図表1-12 言葉カード
スピーチ原稿など、様々な文章を書くときはもちろん、毎日の日記の中で「言葉カード」の言葉を意識して使う児童が増えた。
同校の児童の国語力の実態を把握するために、語彙数の調査を実施し、結果を考慮し、日々の研究を進めている。
図表1-13 現6年生の5年生と6年生の比較
思考そのものを支える語彙力を身に付けるために、言葉カード等を作成し、学習のあらゆる場面で、活用してきたことが成果として除々に表れている。
語彙が増えることで、授業中の話し合いに主体的に参加するようになったり、感想文や報告文、意見文など、書くことにおいても多様な資料を活用し、意欲的に取り組んだりするようになった。「言葉カード」の活用の方法については、まだまだ研究が必要だが、語彙指導を行っていくことは、学習活動を充実させる1つの手立てになると考える。
図表1-14 さいたま市立O小学校2年生授業例
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図表1-15 さいたま市立Y小学校2年生授業例
(佐藤 大介、鈴木 美香子、針谷 玲子)
-- 登録:平成21年以前 --