第1章 4.2.(5)漢字表記、提示の仕方を改善・充実させる

 現職教員や保護者のアンケートの自由意見において言語事項については漢字の配当単元の偏りなどによる児童・生徒の学習負担などの指摘があった。また後年度配当される漢字をルビ付きで示すことや学年配当されていない常用漢字についても教科書に使っていくべきとの意見も専門家会議では出てきている。児童・生徒が一般社会で必要とする力を育成するため、また必要語彙の習得という点からも漢字表記については一層の改善・充実が必要である。

1 漢字表記の改善・充実について(その1)

 現行の教科書における漢字の取り上げ方について、改善すべき点として、

  • 漢字の配当単元の偏り
  • 配当学年と日常生活で使用する言葉のずれ

があげられる。
 特に2点目に関して現行の教科書を見ると、配当学年にない漢字でも、上学年の漢字をつかいルビ付き表記をしている例は多い。今後も、配当漢字にないが、学習や日常生活で必要な言葉は児童の負担にならない程度に漢字を使用するべきと考える(例えば、「疑問」の「疑」は6年生、「問」は3年生の配当であるが、3年生で語彙として初出のときは「ぎもん」と平仮名表記、上学年になるとルビ付きで示されている。)。日常生活で使うことを考え、ルビを付け漢字表記をすることが言葉の獲得につながると考えるため、できる限り上学年の漢字をルビ付きで使用するよう柔軟に取り上げるべきである。

2 漢字表記の改善・充実について(その2)

 漢字の指導は語彙指導の一環として行われることが望ましい。語彙指導の一環として漢字の指導を行うとは、語彙を指導するときにその漢字表記もあわせて指導すべきであるという意味である(国立国語研究所 日本漢字能力検定協会助成研究 2003年2月)。
 漢字は覚えるまでに苦労があるが、覚えてしまえば生涯を通じての効用が極めて大きい。漢字の習得度と学習能率とは相関関係があり、漢字の早期教育は児童の負担になるよりも、その後の教育の成果につながっていくことはこれまでどの教師も実感しているところである。

 漢字指導の目的は習得量を増やすと共に、漢字に対する感覚を養い、文字やことばへの広い視野や感性を育てていくことにつながると考える。漢字の習得量が増えるということはことばへの感覚の働きが豊かになり、語彙が広がるということでもある。

 漢字の学習過程は「読める」から「書ける」、そして「使える」という段階をたどる。漢字を学習する能力とは、新しく出会った漢字を自らの力で読み書きできる能力(活用する力)を身に付けることである。すでに学んだ漢字の知識を使い、漢字の構成要素を認識し、法則性を見付け応用して新しい漢字を自分の力で読み書きできる力を育成することが重要であり、そのためには、漢字を体系化し系統的に指導する必要があるといえる。

 これまで教育の現場においては大雑把にいえば二つの漢字指導の傾向がある。一つは教科書に準じて学習の単元の中で指導する立場であり、他方は漢字を単元とは別に取り立てて系統的に指導しようとする立場である。教科書では、漢字は文章を構成するためのことばとして役目を負わせているために、新出漢字として提示される。したがって取り上げる教材文のなかに新出漢字として出現することはほぼ偶発的であるといえる。また文章中で取り上げることのできない漢字については、「言葉の窓」のような形でまとめて提示せざるを得ない状況があり、教師が指導するときには、語句の読み方や意味、筆順を教え、機械的なドリルによる反復練習によって覚え込ませていく方法となり、これは従来の国語の漢字指導のうえでの教師をもっとも悩ませる課題の一つであるといえる。

 漢字を一字一字の形を教え、使用された語句の読み方や意味、筆順を教え、ドリルによる反復練習によって覚えていく指導はこれまでも行われてきた。覚えこみ、詰め込みを主要な目標とする指導は、文字に対する認識を欠き、覚えたものしか使えず、新しい文字に出会ったときに自らの力で解決し処理しようとする意欲を欠いてしまうことが多かったのでないか。

 今後、小学校の低・中学年の国語科において、音読や漢字の読み書き、暗唱などによる基本的な国語の力の定着を図るために、これまで以上に、生活で使われる漢字や人名、地名など使用頻度の多い漢字は配当学年にこだわらずルビをふるなどして積極的に使っていくことを提言する。さらに、漢字の習得過程は、「読める」から「書ける」、「使える」という段階をたどるので、低学年の児童には特に、「読める字は何とか書きたい」という欲求をもたせ、その欲求を漢字への意識、意欲につなげていくような教材文の開発を合わせて提言する。
 一方、配当漢字の体系化やそれに基づく系統指導は、ことばの集まりや広がり方を問題としていることである。つまり、基本文字をもとにした分類、へんやつくりなどを中心とした整理、対話や同義語・熟語の使い方の指導等、どれも集まり方や広がり方の問題である。したがって、学習の一つとして系統指導が出来る学習活動を例示し、この観点にそって漢字の形や音、意味を理解させることのできるような、子供に意欲的に取り組ませるための方策を「コラム」などの形で提示する。

a.例1

◆漢字の練習をしよう
都内の公立学校での実践例から

  • 国語の時間に

    先生の説明を聞きながら、漢字の学習をする(この内容は配当学年により工夫する。)

    • 練習する字をよく見て、だいたいの形をつかむ。
    • 順を見て、指で書いてみる。
    • よみかたを知る。(送り仮名の付け方にも注意)
    • 成り立ちとその字の意味を知る。
    • その字を用いた言葉(熟語)や文の中での使い方を知る。
    • その他、仲間の漢字などについて知る。
  • 家に帰ってから(家庭学習の指示)
    • その日にならった文字を漢字ノートに練習する。(筆順と読み方の確認、書き取りの練習)
    • 熟語の意味や使い方がよく分からないときや、時間にゆとりがあるときは出来るだけ辞典を引いてもっと詳しく調べてみる。

b.例2

◆さてどんな漢字になるかな
平成8年3月豊中市教育研究所研究紀要から
 漢字をいくつかの部分に分け、この区分だけで読んだり、どこかを移動させたり取り去ると別の漢字になる。また漢字を類推させながら漢字の構成に気付かせ、点画に注意して書かせるようにする。

<例>

  • 分解して読んでいく問題
    • 金と同じなのに、金ではありません。さてその漢字は?(銅)
    • 女の子が並んでいます。さてその漢字は?(好)
  • カタカナをまじえて読んでいく問題
    • 田舎に帰りました。さてその漢字は?(仲)
    • 舟に「ハロー」と呼びかけました。その漢字は?(船)

c.その他

 形声文字にあたる漢字は掲出される学年の最初にルビをふるなどして提示する。つまり共通の基本文字をもつ漢字ならば漢字のもつ表意性において関連付けても学ばせることが可能であるので、一緒に学習することで漢字のもつ意味もより理解でき、漢字を発展的にとらえることができる。(藤堂明保監修 漢字成り立ち辞典 「家族文字や仲間の漢字」)

 例 村(1年生での配当) 守(3年) 寸
 住 往 配当順とは異なっても系統的に学ぶことができるのならば早めに掲出する。

(針谷 玲子、渡辺 文子)

-- 登録:平成21年以前 --