「読解力」及び「知識を活用する力」の育成を目指して-学力観の転換と授業改善の促進-

横浜市検証改善委員会

はじめに

 全国学力・学習状況調査実施のねらいの一つは、施策に生かすことである。本市は、横浜教育改革会議の答申及び横浜教育ビジョンを受けて、横浜版学習指導要領の策定に取り組んでいるところである。策定にあたっては、本市独自の学習状況調査やPISA調査等の結果から明らかになった「読解力」や「知識を活用する力」等の課題の解決に向けた内容も盛り込んでいる。
 今回実施された全国学力・学習状況調査の結果から明らかになった課題は、これまで本市が課題として捉えた事柄を裏付ける結果となった。
 また、「主として活用に関する問題」であるB問題は、これからの授業の在り方を示す文部科学省からのメッセージであると受け止めた。
 そこで、「読解力」や「知識を活用する力」の育成をテーマに本事業を展開することとした。

1 検証改善委員会の体制について

 横浜市検証改善委員会は、横浜国立大学教育人間科学部教授であるたか木展郎を委員長、筑波大学人間総合科学科准教授の清水静海を副委員長として、横浜市教育委員会指導主事を中心とした行政関係者10名、市立小学校長1名、市立中学校長1名、市PTA協議会代表1名の計15名の検証改善委員から構成される委員会である。
 7月に最初の検証改善委員会会合を行い、11月まで3回の委員会を開催して分析を行った後、2月まで6回の委員会を開催して学校改善支援プラン等をまとめた。

2 学校改善支援プランの概要

 検証改善委員会では、本市の全国学力・学習状況調査の結果について分析・検証した結果から、小学校国語では、「主として知識に関する問題」については今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられるが、「主として活用に関する問題」については、知識・技能を活用する力をさらに身に付けさせる必要があることが分かった。
 小学校算数では、「主として知識に関する問題」については今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられるが、「主として活用に関する問題」については、知識・技能を活用する力に課題がある。
 中学校国語では、「主として知識に関する問題」については今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられるが、「主として活用に関する問題」については、知識・技能を活用する力をさらに身に付けさせる必要があることが分かった。中学校数学では、「主として知識に関する問題」について、基礎的・基本的な知識・技能を更に身に付けさせる必要がある。また、「主として活用に関する問題」については、知識・技能を活用する力に課題があるという結果が見られた。
 質問紙調査の結果からは、子どもの生活習慣や環境と学習状況は、相関関係があるという結果が明らかになった。
 これらを受けて、横浜市検証改善委員会としては、以下の4点を主な視点として学校改善支援プランをまとめた。

  • 1教師の学力観の転換を図る
  • 2「読解力」の育成に向け、全教科等を通した言語活動の充実を図る
  • 3教師が自分の授業について振り返るようにし、授業改善の促進を図る
  • 4PDCAサイクルの確立を図る

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 前項の概要でも言及したが、本市の全国学力・学習状況調査の結果について、検証改善委員会で分析を行ったところ、教科に関しては、全体として「主として知識に関する問題」については、今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられるが、「主として活用に関する問題」については、知識・技能を活用する力に課題があることが分かった。
 教科別にみると、次のような特徴と課題が見られた。

(小学校・国語A)

 「話すこと・聞くこと」については、話し方に関する知識(聞き手の反応を確かめながら話すこと)や聞き方に関する知識(要点をメモに取りながら聞くこと)の理解に課題がある。
 「読むこと」については、説明文を読んで段落の内容を読み取ることは相当数の児童ができているが、物語文を読んで登場人物の関係をおさえて心情を把握することに課題がある。
 「言語事項」については、文の構成を理解して一文を二文に書き換えることに課題が見られた。

(小学校・国語B)

 「話すこと・聞くこと」については、おおむね身に付いている。
 「書くこと」については、情報から必要な事柄を取り出し、条件に即して書き換えることに課題がある。
 「読むこと」については、文章の内容と資料の情報とを関連付けて正しく読み取ることや二つの文章の共通点を評価し、自分の考えをまとめることに課題がある。

(中学校・国語A)

 「話すこと・聞くこと」については、伝える必要のある内容を簡潔なメモにまとめることは相当数の生徒ができている。
 「書くこと」については、手紙の主文の書き出しや後付けについての理解など、知識が実生活に結び付いていないことに課題がある。
 「読むこと」については、語句の意味に注意して内容を読み取ることは相当数の生徒ができているが、知識を実際の文脈で活用することや古典文学に親しむ態度に課題がある。
 「言語事項」については、語句の意味を理解し、文脈の中で適切に使うことは相当数の生徒ができているが、日常生活であまり使わない漢字の読みに課題がある。

(中学校・国語B)

 「書くこと」については、資料に表れている内容をとらえ、伝えたい事柄や考えを明確にして書くことに課題がある。
 「読むこと」については、情報を比較し、共通した内容の情報を読み取ることに課題がある。
 「言語事項」については、作品の展開や心情の変化を考え、工夫して朗読することに課題が見られた。

(小学校・算数A)

 「数と計算」については、分数を用いて等分してできる部分の大きさを表すことは相当数の児童が理解できている。一方、小数や分数の意味と大きさの理解や小数の乗法の意味について理解し、問題の場面から演算決定することに課題がある。
 「量と測定」については、基本的な平面図形の面積の求め方は、相当数の児童が理解できている。
 「図形」については、三角形の内角の和や平行四辺形の定義や性質について、相当数の児童が理解できている。
 「数量関係」については、伴って変わる二つの数量について、関係を表にまとめたり変化の規則性を読み取ったりすることは、相当数の児童ができているが、計算の順序や決まりを理解して計算することに課題がある。

(小学校・算数B)

 「数と計算」については、計算の工夫を理解し、その計算方法を説明することに課題がある。
 「量と測定」については、L字型の図形の面積の求め方を表す式を読み取ることは、相当数の児童ができているが、地図から複数の図形を見いだし、必要な情報を取り出して面積を比較し、説明することに課題がある。
 「数量関係」については、百分率を用いて問題を解決することや式の形に着目して計算結果の大小を判断し、根拠を明確にして説明することに課題がある。

(中学校・数学A)

 「数と式」については、正負の数の大小関係、指数を含む計算、式の値を求めることは相当数の生徒ができている。また、かっこを含む一元一次方程式を解くことも、相当数の生徒ができている。
 「図形」については、等脚台形の対称軸を見つけること、角の二等分線の作図の手順、回転体の意味や円錐の見取図を展開図に置き換えることについては、相当数の生徒ができているが、底面が合同で高さが等しい円柱と円錐の体積の関係の理解に課題がある。
 「数量関係」については、比例や平均の意味についての理解は、相当数の生徒ができているが、反比例の特徴をとらえ特定値を求めることに課題がある。

(中学校・数学B)

 「数と式」では、連続する自然数の和について、結論が成り立つことを説明するために必要な条件を示すことに課題がある。また、新たな条件が与えられたときに、思考錯誤をしながら、順位の決め方を考えて文字を用いた式で表し、その式でよい理由を数学的な表現を用いて説明することに課題がある。
 「図形」については、証明を振り返り、証明の不十分さに気付き、書き直すことに課題がある。
 「数量関係」については、水温をグラフから読むことやグラフの特徴を事象に即して解釈することも、相当数の生徒ができているが、グラフ上の点の並び方を理想化したり、実験から得られたデータを単純化したりして一次関数とみなしてグラフの特徴を説明することや問題解決の方法を数学的に説明することに課題がある。

4 学校改善支援プランについて

 3で述べた分析結果を受けて、学校改善支援プランとしてまとめ、横浜市教育委員会に対して次のような提言を行った。

  • 1「読解力」や「知識を活用する力」の育成を図るためには、先ず教師の学力観の転換が求められる。これまでも、教育課程運営改善協議会や研修会等で発信はしてきているが、十分浸透していない可能性がある。そこで、教師一人ひとりの理解が深められるように、直接発信を図る必要があること。
  • 2「読解力」の育成に向け、全教科等で言語活動を充実させていくために、教育委員会として、学校を支援するために指導資料を作成し、配付すること。
  • 3教師が自己の授業を振り返り、自ら授業改善を図ろうとする意欲を喚起するための手だてを図ること。
  • 4PDCAサイクルを確立していくために、これから求められる学力に関する理解と授業の見直しの必要性、平成19年度全国学力・学習状況調査から明らかになった課題と改善の方向性を示し、各学校の指導計画の見直しと授業改善を促進すること。

横浜市検証改善委員会
学校改善支援プラン

5 学校改善支援プランを受けた取組について

(1)横浜市結果及び活用、報告・研修会の開催(横浜市検証改善委員会と横浜市教育委員会との共催)

 この報告・研修会では、全国学力・学習状況調査の結果を分析し、各教科の学習状況と指導改善のポイント及び指導改善の具体例を示した。また、無解答率にもふれ、指導改善のポイントと具体例を示した。それは、無解答率が、学習意欲や考える力の育成などについて課題を示している場合があり、無解答率の高い問題について学習集団・個々の児童・生徒授業内容などの観点から分析し改善に結び付ける必要があると考えたからである。
 また、講演会は、『今日、求められる「学力」』を演題にし、学力観の転換の必要性、「習得→活用→探究」という能力育成のプロセスが取り入れられる経緯、PISA型「読解力」による指導の改善等を柱として講演を行った。(参加対象:管理職及び担当教諭参加人数:約1,000名)

(2)教師向けリーフレットの作成及び配付

 調査結果の分析から明らかになった課題の解決に向けての取組の方向性について、市立学校全教職員に直接はたらきかけるために「めざせ子どもの未来を創る授業!」(平成19年度全国学力・学習状況調査の結果をもとにして)をタイトルにした職員向け学力向上啓発リーフレットを作成・配付した。
 本リーフレットは、検証改善サイクル確立の必要性とその手だてを経験の浅い教諭にも分かるように、できる限り簡単かつビジュアルに示した。また、授業振り返りシートを載せ、各教諭が授業改善の視点で自己評価できるようにした。
教師向けリーフレット
教師向けリーフレット
教師向けリーフレット

(3)横浜版学習指導要領への反映

 現在、本市は、国の学習指導要領改訂の動きを見据えながら、横浜版学習指導要領を作成している。全国学力・学習状況調査の結果を、横浜版学習指導要領(教科等編)作成の貴重な資料の一つとして活用する。

(4)「読解力向上指導資料作成」(横浜市教育委員会の事業として作成)

 本資料を全校に配付し、全国学力・学習状況調査で明らかになった「読解力」の育成を全教科等を通して図ることとした。
読解力向上指導資料

(5)「読み・書き・算推進教材」作成(横浜市教育委員会の事業として作成)

 本教材は、横浜版学習指導要領の理念を実現するための教材である。調査結果では、主として知識に関する問題について大きな課題は見られなかったが、「学習内容の系統が子どもにも親にも見える教材」「子どもの実態に応じた内容を提供できる教材(基礎的・補充的・発展的)」「教師にとって、指導法にヒントとなる教材」を提供して教師の指導力・授業力を高め、安定した授業を提供するシステムの構築を図る。

6 おわりに

 本市は、全国学力・学習状況調査以前から、市独自で「横浜市学習状況調査」を実施し、児童生徒の学習改善や教師の授業改善及び指導力向上に向けた取組を行ってきている。
 今回、全国学力・学習状況調査が実施されたことで、本市として把握してきた学習状況等の実態や、学力向上に向けた取組の方向性が一層明確になったといえる。
 本市は、市立小学校346校、中学校145校、市立高校や特別支援学校を加えると計512校の大所帯である。今回、検証改善委員会として、市全体の実態や傾向は把握したが、各学校の実情は様々である。
 各学校においては、自校の実態を平均値だけで捉えるのではなく、成績分布(ちらばり)や各設問の解答状況等をもとに詳細な検証を行い、自校の学力向上に結び付けていく必要がある。
 また、今回の調査で生活環境等の学力への影響も明らかになったことから、課題のある学校に対する継続的な人的支援の必要性を強く感じた。

【参考】

 学力向上施策関連ホームページアドレス

-- 登録:平成21年以前 --