新潟市検証改善委員会
平成19年4月1日。新潟市は,本州日本海側初の政令指定都市となった。政令市新潟では,「新潟市教育ビジョン」を策定し,目指す子どもの姿を「学ぶ目的意識と自分の将来への夢や希望をもち,基礎・基本とともに,思考力・判断力・表現力等を身に付けた子ども」とした。その具現のために,「教師一人一人の授業力の向上が,児童生徒の学力向上に直結する」との考えから,教師の授業力向上OJT推進事業や幼稚園・小・中・高等学校の全186校園の学校訪問の他に,各学校からの要請訪問等を実施している。
新潟市検証改善委員会は,新潟大学教育人間科学部准教授(国語1名,数学1名),小・中学校長会(国語1名,数学1名),新潟市小学校教育研究協議会(国語1名,算数1名),新潟市中学校教育研究協議会(国語1名,数学1名),新潟市立総合教育センター及び学校支援課の指導主事等の行政関係者(8名)の計16名の検証改善委員から構成され,沼垂小学校の田中和昭校長が委員長である。
6月に第1回新潟市検証改善委員会を開催し,3月まで計10回の会議を開催した。第3回までは新潟市の課題の整理と今後の方向性について検討し,第7回までは「授業改善フォーラム」についての検討と新潟市の全国学力・学習状況調査(以下,全国学力調査とする)の結果分析を並行して進め,3月の最終回まで「報告書」及び「リーフレット」の検討を行い,学校改善支援プランをまとめた。
全国学力調査の本市の結果としては,A問題はおおむね満足できる結果となっている。しかし,全国的な傾向と同様,本市も相対的にB問題が低下していることから「思考力・判断力・表現力等」を向上させることが学力向上の喫緊の課題となっている。そこで,上記の新潟市検証改善委員会を設置し,本市の児童生徒の「思考力・判断力・表現力等」の向上策についての検討を始めた。政令市新潟の目指す方向性と新潟市検証改善委員会の方向性は,新学習指導要領や全国学力調査の方向性と合致するものと考えている。
これを受けて,新潟市検証改善委員会では,次の2点を中心に学校改善支援プランをまとめた。
新潟市版の「報告書」では,主にB問題「主として『活用』に関する問題」を分析・考察の対象とし,本市では何がよくでき,何が足りなかったのかを分析し,それらを改善するための具体的な指導の手だてを示す方向で検討を重ねた。また,家庭学習習慣・生活習慣等との関連も図り,分析・考察した。出来上がった報告書は,各学校に配付し,学習指導の改善に役立てている。
上記の報告書に基づき,そのポイントを示したリーフレットを作成し,政令市新潟で大切にしている「学・社・民の融合」を図った教育の展開がなされるように,教職員・保護者に配付した。新潟市の各学校の取組を保護者・地域住民に対しても共通理解を図り,各学校の教育活動のさらなる充実に寄与することを目的としている。
前述したとおり,本市の検証改善委員会では,主にB問題「主として『活用』に関する問題」を分析・考察の対象としてきた。校種別・教科別に,課題となった注目すべき点を述べる。
平均正答率と相関の強い,朝食や読書等の生活習慣の項目に関しては,本市の児童生徒は全国平均と同等,あるいは良い状況にあるといえる。しかし,テレビやビデオ・DVDの視聴時間,家庭学習時間等の改善が必要な項目も見られる。
学校外の研修機関等の研修に教職員が積極的に参加したり,授業研究を伴う校内研修を熱心に実施したりしている学校が,全国平均と比べて多いのが特徴である。また,発展的な学習より補充的な学習に,国語より算数の指導に力を入れている学校が多いことが分かる。
以上のような,分析結果を受け,新潟市検証改善委員会では,「思考力・判断力・表現力等」の育成を喫緊の課題として取り上げ,国語,算数・数学の教科別に下記の図のような具体的な提案を行い,学校改善支援プランとしてまとめた。
前述の,学校改善支援プランについては,市内全学校園の代表を集め,平成20年1月22日に「授業改善フォーラム2008」を開催し,指導主事による提案授業という形でその周知を図った。(詳細は,「6 学校改善支援促進事業について」で述べる。)
また,詳細な問題分析・考察を加えた「新潟市全国学力・学習状況調査結果報告書」及び教職員・保護者向けの「リーフレット」を作成し,4月に全学校・園に配付し,広く周知した。
各学校では,4月から報告書及びリーフレットを活用して,政令市新潟の目指す「学ぶ目的意識と自分の将来への夢や希望をもち,基礎・基本とともに,思考力・判断力・表現力等を身に付けた子ども」の姿の実現に向けて,自校の実態に合わせた創意工夫した取組を展開していくこととなる。
新潟市検証改善委員会は,学校改善支援プランの先行的な実施として,文部科学省が公募した学校改善支援促進事業に応募し,8月に選定された。
本事業の中心テーマは,「授業改善フォーラム2008」の開催とともに,「パイロット授業に基づく各校での公開授業への支援」である。
新潟市検証改善委員会では,「政令市新潟の目指す子どもの姿を求めて」と題して,思考力・判断力・表現力等の向上を図る授業改善の方向性を示すため,「授業改善フォーラム2008」を開催した。フォーラムは次の3つの内容と関連している。
「授業改善フォーラム2008-政令市新潟の目指す子どもの姿を求めて-」では,新潟市検証改善委員会で検討した学習指導案(ホームページで公開中)に沿って,指導主事による提案授業を実施した。その際,全幼稚園・小・中・高等学校の研究主任等の参加を要請し,指導案のねらい,高める力について解説をし,共通理解を図った。同時に,大学教員等の講師を招聘し,指導主事による国語・算数のパイロット授業について助言する場も設定した。
これまで市教育委員会の事業等については,報告書の作成,研修会の参加等の方法で周知を図るのみであった。しかし,今回の「授業改善フォーラム2008」では,全学校・園の研究主任等に,指導主事による提案授業(地元の児童生徒の協力を仰ぎ,曽根小学校5年生の算数授業と,西川中学校1年生の国語授業)を公開し,実際の授業における子どもの姿を通しての提案を試みた。このような新たな取組により,これまでの報告書等で周知する方法に比べて,はるかに実感を伴って周知されたものと考えている。
「一番広い面積は,どんな形?」
「読み取ったことをもとに自分の考えをもとう」
教材「クジラの飲み水」
前述の「授業改善フォーラム2008」開催時に,中教審教育課程部会長である梶田叡一氏(兵庫教育大学長)を招き,「新学習指導要領の理念と課題」についてご講演をいただいた。全学校・園の校内研修をリードしている研究主任等が梶田氏の最新の教育情報について,示唆に富んだ講話を聞くことができたというのも各学校の財産になるものと考えている。
前述した(1)の指導主事によるパイロット授業の学習指導案を参考に,各学校の実情に応じて,研究主任等が自校で提案授業を実践したり紹介したりして,各学校の教職員に周知する場を設定した。その際,保護者・地域住民にも参観を呼び掛けるなどして,「学・社・民の融合」を図る取組とした。各学校は,自校の実践報告書をまとめ,それを新潟市検証改善委員会で集約し,「『思考力・判断力・表現力等の育成』を目指して-各学校の実践報告集-」として,4月に全学校・園に配付し,授業改善に生かしている。
パイロット授業を基に,各学校で授業実践を試み,各学校が実践報告書を提出した。その中に記載された教職員の声を紹介する。
提案授業を見て,思考力を付けるための授業を組み立てていくことは大変難しいと感じた。教師集団として意見を出し合い,話し合いながら工夫・改善を図っていくことが大切である。(舟栄中学校)
情報を取捨選択し,論理的に考え,文章化する過程を授業の中に取り入れていきたい。さらに,教材の精選や指導過程の工夫が必要であり,研修を積んでいく必要がある。(新津第一中学校)
発展学習として,複数の叙述を読むことはあったが,比べ読みは実践したことがなかった。今回の提案授業で思考力・判断力・表現力等を高める指導法の大切さが分かった。(味方中学校)
互いの考えを聞き合い,補い合いながら授業を進めることの楽しさや大切さを児童に伝えることができた。一つの答えを出すのにもいろいろな考え方があることが分かったようだ。(山田小学校)
提案授業を受け,児童が自ら思考し判断できるような単元構成をし,授業実践をした。これにより,一人一人が自ら考え,自分なりに判断して算数的活動をしている姿が見られた。(満日小学校)
授業後に児童が書いた「授業で学んだこと」の記述には,様々な内容が書かれていた。決まり切った答えを出す課題ではなく,思考力・判断力・表現力を育てる課題ならではの課題意識の広がりであった。これらの意識を次につなげる授業を創っていきたい。(下山小学校)
小学校・中学校の授業を見せていただく機会はほとんどないため,とても新鮮な思いで見せていただきました。幼稚園とは教育内容や形態が違っていても,大切にしたい部分は共通なのだと,改めて感じさせられました。幼稚園においても,「自分で考え,判断し,表現すること」が弱いといった実態があります。学校においても,「自分で思考し,判断し,表現すること」を大切にしていることをもっと保護者に伝えながら,幼児期からそのことを大切にしていく姿勢を保護者とともにもちたいと思いました。(沼垂幼稚園)
紙面発表だけでなく,指導主事が実際に授業を実施して提案したという画期的な試みで,算数に関しては図形,面積の総合単元的扱いで,その後に追試できる内容を提供してくださったことがありがたかった。(新津第一小学校)
提案授業の趣旨はよく分かった。思考力・判断力・表現力を高める大切さを,授業で見せていただいたことで指導方法が具体的に分かった。別の機会でも具体的に指導する場を見て勉強したいと思う。自校でやってみると,児童は一生懸命取り組んでいた。五角形の計算が出なかったので,全体の表から予想させようとしたら,「計算したい,時間がほしい」という意見が出るくらいだった。(木山小学校)
授業を見ましたが,意見を言った後,それがどこの記述からそう思ったのかという根拠を明らかにする場面があれば良かったと思います。それが情報収集だと思います。しかし,主事先生の授業実践には頭が下がります。この課題にチャレンジしたことが今回の一番の素晴らしい点だと思います。(舟栄中学校)
指導主事の方から公開授業をしていただいた今回の試みは,非常に有意義でした。紙面や口頭で求められる授業像を示されるよりも,実際に授業を目の当たりにする方が,何倍も意図が伝わってきました。うまくいく部分,難しい部分,実際の児童生徒の学習活動を参観でき,説得力がありました。今後とも,このような取組を期待しています。(小合中学校)
以上のように,新潟市検証改善委員会では,「全国学力調査結果の分析・考察→授業改善フォーラムで改善の方向を提案→各学校での実施と評価」という一連のストーリー性を大事にした取組を実施し,教師一人一人の授業力向上と児童生徒一人一人の学力向上を図るため,今後も各学校を支援していく考えである。
【授業改善フォーラム2008から】
指導主事によるパイロット授業の様子
面積を求めてみたい図形を一人一人が決め,拡大座席表にその図形を書き込む新潟市立曽根小学校の児童たち。(小学校算数の授業から)
友達の判断とその理由が合っているか話し合っている西川中学校の生徒たち。(中学校国語の授業から)
新潟市教育委員会学校支援課のホームページに当日の指導案等を掲載してある。
-- 登録:平成21年以前 --