仙台市検証改善委員会
仙台市では、全国学力・学習状況調査に併せて、市独自に標準学力検査を平成19年度から実施している。市の学力調査では、小学校1年生を除く全ての児童生徒を対象に、社会や理科、英語を加えた教科を調査し、より詳細な学力の状況を把握することにしている。
本年度においては、これら2つの学力調査に基づいて結果の分析を行い、習得が不十分な領域や単元などを把握して、指導の充実と改善を図っているところである。また、各学校においては、学校の全体的な学力状況を分析するとともに、個々の児童生徒の学力実態について把握・分析し、補充的な指導や個別指導の必要性についても認識を深めたところである。
このように、本市及び各学校においては、調査結果の分析に基づいて指導の充実と改善に向けての挑戦を新たにしたところであり、その指導実践について以下に示す。
仙台市検証改善委員会は、宮城教育大学教授である相澤秀夫氏を委員長として、仙台市立小・中学校の教頭や教諭を中心に、大学教授等や教育センターと教育指導課の指導主事等、図に示すように計71名の検証改善委員から構成されている。
本市の検証改善委員会は、調査研究部と教科研究部の二つの部からなる。調査研究部においは、学力調査や本市が独自に作成している質問紙調査等のデータ分析とその結果のとりまとめを行っている。教科研究部においては、調査研究部の分析結果等に基づいて提案授業を実施・公開したり、教科指導の工夫・改善に資する取組等を行ったりしている。
本委員会の平成19年度の計画については、表に示すとおりであり、第1回を7月に開催し、学力調査の分析と結果の取りまとめや、指導改善の提案授業、そして2月には学校関係者、保護者、一般市民を対象にしたフォーラムを行っている。
また、委員会で取りまとめた学力調査等の結果や指導改善の方策等については、小・中学校の学力向上担当が一堂に会する担当者会にて、速報や報告として周知しているところである。この担当者会は、計画表に示すように年に2回実施し、本市の学力調査の分析結果等が取りまとめられた8月と、全国の学力調査の分析結果や提案授業が実施された後の1月に開催している。
検証改善委員会では、全国学力・状況調査と本市の学力検査の結果から、小・中学校ともに、学力においては実施したすべての教科間で相関関係が高く、このことから学力の下位層はすべての教科で学力が下位である傾向が強いことが検証されている。また、学習状況調査等の結果からは、特に小学生が学力と基本的生活習慣や家庭学習の習慣に相関関係が分析結果から判明し、学力の下位層の児童がこれらの習慣の定着状況に課題があることが見出されている。
これらの結果を受けて、仙台市検証改善委員会としては、以下の4点を中心に学校改善プランをまとめた。
平成19年度から実施されている全国学力・学習状況調査と仙台市標準学力検査により得られるデータを教育統計処理し、分析により的確な学力の状況を把握する。さらには、経年比較を行い児童生徒の変容を確認する。
表1.平成19年度実施計画 |
本市における二つの学力調査については、その概要を次の表に示す。また、検証改善委員会がこれらの調査の分析を行った結果、以下の点が明らかになった。
表2.全国学力・学習状況調査と仙台市標準学力検査の実施状況 |
教科間の相関分析を行い、その係数を表に示す。分析結果としては、仙台市の全ての教科間で、相関係数は1パーセント水準で有意であり、それぞれの教科間で強い相関関係が認められた。また、相関関係の分布状況について、国語と算数及び数学の散布図で示す。
表3.教科間の相関 |
図1.散布図(小学校国語と算数の相関) |
図2.散布図(中学校国語と数学の相関) |
相関分析により全ての教科間で強い相関関係が検証されたため、国語Aで学力上位であれば国語Bでも上位の傾向にあり、さらには算数か数学においても上位を占める可能性が高まる状況になる。このような傾向は、平成19年度に実施している仙台市標準学力検査においても同様な状況にある。
このために、学力向上の基本的な対策としては、特に学力下位の児童生徒に対して、主として知識を問うA問題を中心に学習指導を行うことが重要であり、その必要性が今回の学力調査でも高まる結果となった。
以下の表は、各学年の教科間の相関を統計的な数値で表したものである。数値が1.000に近づくほど相関が高まることを示す。実際はありえないが、仮に、数値が1.000になる場合は、ある教科とある教科が完全に比例関係にあることを示すことになる。
以下の表に示すように、すべての学年のすべての教科間で、統計的に相関関係が認められる結果となっている。つまり、ある教科で成績が良好な児童生徒は、その他の教科においても良好であるという傾向を示すことが、統計的に結論付けられるものとなった。
表4.小・中学校における教科間の相関 |
|
基本的生活習慣と学力の関係では、表に示されているように、特に小学校では学力が下位から上位に高まるほど定着状況が高いことが分かる。しかし、中学校では学力と基本的生活習慣との関連について、明確なものが見られない。
表5.家庭学習と学力の関連 |
|
家庭学習と学力の関連についても、小学校では下位から上位になるほど、家庭学習の定着が高まっている。中学校では、小学校ほどではないが、復習や予習において学力との関連が見られる。
小・中学校の因子分析の結果は以下のとに示すように、平均値、標準偏差を算出して天井効果及びフロア効果が見られた項目と因子負荷量が低い項目を除外し、小学校38項目、中学校51項目により、8因子を仮定して行った結果である。
これらの分析によって、小・中学校で抽出された因子の概要は以下の表のとおりであり、児童生徒が学校や家庭などの学習や生活の中で、関与する因子(要因)が検証・確認できたことになる。なお、第~因子については、支配力の強い因子の順序になっている。
表6.質問紙調査の因子分析の結果 |
因果関係を明らかにするパス解析については、小学校と中学校にそれぞれに分けて行っているが、紙面数の関係で中学校のパス解析図を以下のように示す。
図3.学力と質問紙調査におけるパス解析図(中学校) |
パス解析に基づいて、小中学校ごとの因子間の因果関係を模式的に表すと、次のとおりとなる。
小学校の因果関係からは、生活体験や総合的な学習が国語や算数の学習に影響を及ぼしている。特に、学力においては生活体験が直接効果として負の影響を与えているが、生活体験から国語の学習を経由した間接効果(0.880.69)については、正の影響になり、様々な因果構造をなしている。中学校においても、因子間の因果関係については、図に示すとおりである。これらの因果構造を詳細に分析することで、学力向上にかかる要因等を特定することが可能となるものと考える。さらには、経年的な比較により、本市の児童生徒の特性を追究することもできると考える。
検証改善委員会に属する小中学校教諭の委員が、検査・調査の分析結果等に基づいて提案授業を実施し、仙台市立小中学校の学力学習改善等のための授業を提供するものである。また、その実施結果については、参観者からの意見等を掌握したり、授業分析により成果や効果、そして課題等についてまとめたりして、広く市立学校に報告するものとする。
検証改善委員や指導主事等は、学力検査の分析結果や学力向上対策事業の成果等に基づき、教員の学習指導方法等の改善や指導力向上を図るため、教科研修や学校訪問を実施する。指導主事等による学校訪問については、仙台市立小学校123校・中学校63校について、平成19、20年度の2か年で全ての学校訪問を行い、改善の実施状況の調査及び課題等の指摘・指導を行う。
各学校は仙台市標準検査と全国学力・学習状況調査の分析結果を受けて、自校の分析をして学力向上対策を検討して実施することになる。そこで、各学校の対策について仙台市立小中学校の担当者が一堂に会し、各校の取組の情報を交換し、その改善を図ることを目的に担当者会を以下のとおり年2回開催する。
また、検証改善委員会では、学校が作成する学力向上方策とその実践事例の収集調査・分析を行い、この結果を周知する。各学校では、この結果を受けて対策の改善を図り、学力向上のためにより的確な実践を行うことにつなげるものである。
これらの分析結果に基づく教材開発については、以下に示すように学習ドリルを作成し、そのドリルをさらにコンピュータを活用して学習できるものとするために、コースウェア教材としても作成する。(コースウェア教材による学習では、学習者ごとの学習の進度や正誤状況などの学習履歴が記録されるシステムであるため、紙面ドリルよりも個々の学習状況を一括管理できる。このことで、よりきめ細かく個別指導が可能にもなる。)
また、作成するドリル教材は、今日求められている学力の向上を図るため、基礎基本の定着を目指すだけでなく、思考力や判断力、表現力と知識活用能力を育成できる教材の開発を模索するものとする。
なお、仙台市は全ての小・中学校にコンピュータ室を設置し、コンピュータの台数も1クラスの人数分の台数と校内LANが配備されているため、コースウェア教材の稼動を可能としている。
今年度は小学校5年と中学校2年の算数・数学の学習ドリル教材を作成し、基礎基本の定着(計算問題)と表現力や思考力等を育成するものを作成する。次年度以降は、年々対象の学年や教科を拡大していく予定である。また、ドリル教材として、一つ一つのドリルの学習が定着できるように粘り強く指導支援を行い、学習に対する有能感や効力感を育成し、心理的側面による変容を図ることで学習意欲の向上も目指す。
また、各学校に調査し、ドリル教材を活用しての成果や効果等を検証し、ドリル教材の改良を図り続ける。
学習ドリル教材を中心に、教材作成ソフト(オーサリングソフト)を用いて、コースウェア・ソフト教材に作り変える。また、ソフト教材による学習では、正誤の即時応答と誤答分析により、誤答ごとにコメントや振り返り学習を設定して誤りに対する指導を可能にできるようにソフト作成する。
紙面の学習ドリルとコースウェア教材においては、双方向の活用(紙面ドリルを行ったらコースウェアを実施、又はコースウェアで学習した後に紙面ドリルを宿題で行う等の活用)を工夫することにより、より効果的な学習方法を可能とし、学力向上を着実に図ることが期待できるものと考える。
教科指導において課題がある学校に、教科指導のエキスパート(有識者:退職校長や大学退官者など)を長期的に派遣し、指導改善のための支援や助言などを行う。このことにより、教科指導で課題のある学校は、エキスパートの指導により、学校の教科指導の充実ができるとともに、その教科の個々教員の教科指導方法の改善や指導力の向上を図ることが可能となる。
エキスパートは、全国学力調査と仙台市標準学力検査で課題が見られた教科の有識者を中心に選出し、一つの学校に数か月単位で在駐し、年間に数校に派遣する。その派遣の結果については、エキスパートが改善状況や残された課題などを報告書にまとめ、検証改善委員会に提出する。
報告を受ける検証改善委員会は、派遣の結果等をまとめ、派遣校名を除く成果等を公表し、次年度以降には教科指導で課題を持つ学校が自ら希望する形でも、エキスパートの派遣も可能とする。このことにより、多くの仙台市立学校が自ら積極的に教科指導の改善を図る意欲を高揚させ、学校改善の起爆剤としても反映させる。
大学教官が認知心理学等の知見に基づいて調査紙を作成し、学習方略や学習環境、友人や教員との関係などの調査項目から、学習意欲等の「学ぼうとする力」を因子分析や重回帰分散分析等の教育統計処理により分析し、学習指導改善の的確な方略や手法を検証するものである。
この調査紙による分析・検証結果は、学力検査・調査などとも相関分析を行い、成果や効果、課題の抽出をより科学的に掌握するものとする。そこで、本事業の学校改善支援プランに反映させるものである。
このカルテは、(1)に示した手法を生かし、学校ごとに調査紙によりデータを取得して教育統計的な分析を行うとともに、認知心理学の知見から結果を出すものである。これにより、学習指導等の課題や問題等を抽出して、その結果を学校に提供するものである。処方箋については、カルテにより得られる学校の学習指導上の成果や課題、問題点等を、学習指導等の改善にどのように生かすべきかについて指摘・助言、ヒント等を提供するものである。平成19年度は、抽出学校に試行的に実施し、その手法の問題点を検討する。平成20年度以降に要望する学校に対して本カルテと処方箋を随時提供していくことにする。
著名な教育関係者を講師に依頼し、講演や討論会をフォーラムとして開催する。参加対象者としては、教育関係者に限らず、保護者や市民等の様々な方々に公開する。また、全国学力・学習状況調査と仙台市標準学力検査の結果について討論したり、学力向上について様々な立場からの意見をいただいたりして、立場超えた学校と家庭の協力・支援をどのように図るかについて議論を深める。
これら二つの調査・検査を実施し、本市の児童生徒の学力と学習状況を教育統計による分析を行い、的確に学力の状況を把握する。なお、仙台市の検査については平成19年度から実施しており、小学校2、3年生は国語と算数の2教科、小学校4~6年生は社会と理科を加えた4教科、中学校1年生は英語を除く4教科、中学校2、3年生は英語を含む5教科で実施している。
検証改善委員会で行う分析結果や指導改善の手引き、提案授業の内容と結果等を取りまとめ、市立学校などに配付する。さらに、報告書について学校関係者等からの意見や批判などについても把握し、次年度以降のプランや報告書等の改善に生かすものとする。
学習意欲の向上とそれを支え、継続させる学習方法(方略)や自己効力感等に関する調査を行い、その結果をもとに指導法の改善等を図り、児童生徒の基礎学力の充実に資することをねらいとする。以下の図はこのねらいにそった調査の仮説を立て、学力に関する項目の関連を図式化したもので、図の矢印は関連の向きを表している。
図6.調査研究の仮説(括弧内の数字は以下の13あるグループの番号) |
調査項目は大まかに次の13のグループに分類している。
今年度は、以下の表に示す学校数で試行調査を実施して、グラフに示す課題等を抽出し、その改善について提案をしている。
平成19年9月
小学校10パーセント程度〔10校〕、中学校15パーセント程度〔10校〕
小学校:第4~6学年、中学校:第1~3学年
表7.「学校診断カルテ&処方箋」対象と人数 |
学校を抽出する視点として、以下のような条件を考慮して、多様な条件で学校を選択している。
図7は、横軸が小学校と中学校、縦軸が動機付け・得意度、実線が学力上位校、点線が学力下位校を示したものである。小学校段階では、動機付けや教科に関する得意度においてあまり差が開いていないが、中学校ではその差が広がっていることが分かる。
図7.上位校と下位校の間の動機付け・得意度の比較 |
図8.校種別に見た意欲と得意意識の違い |
図8は、縦軸が教科に関する得意・意欲、横軸が国語などの教科を示し、左のグラフが小学校、右のグラフが中学校を示す。ともに実線が学力上位校、点線が学力下位校を示したものである。小学校と中学校において、学力の上位校と下位校で理科に差が見られ、理科についての学力格差が小学校段階から生じていることが分かる。
人的リソース方略とは、学習場面での困難を他からの助けを借りて解決する方略である。図6の性別に見た人的リソース方略では、男女ともに保護者が年齢とともに下降しているが、教師では男女ともに中学校3年生で持ち直している。このことは、進路指導のためと想定される。また、男女ともに友人については、ほぼ安定した推移を示し、友人の存在が学習場面での困難さを克服する上で重要となっている。
図9.性別に見た人的リソース方略(友人、保護者、教師) (E4は小学4年生、JH1は中学1年生) |
提案授業は、仙台市検証改善委員会の委員である小中学校の教員が、全国学力・学習状況調査や仙台市標準学力検査の分析を行い、課題となる領域や分野等での指導方法の改善策を、本委員会の教科部会の委員と協力し、自ら提案して実践するものである。その実施概要は、以下の表に示すとおりである。
なお、社会、理科、英語については、仙台市標準学力検査の分析結果に基づいて、指導方法等の改善を図った提案授業であり、国語と算数・数学については仙台市の結果に加えて、全国学力調査の分析結果に基づいた授業を提案している。
提案授業の参加については、仙台市立学校の教職員にも呼びかけ、教科によっては教科研究部会の事業の一環に位置付けて実施している。
表8.「提案授業」実施概要 |
教科指導エキスパートの派遣については、当初10月からの派遣を予定していたが、様々な事情により1月からの派遣となっている。以下に示す学校については、1月から3月までの長期的に派遣を行っており、その成果についても各学校で徐々に判明しつつあるものとなっている。
表9.教科指導エキスパート派遣状況 |
10.学習ドリル作成委員会 |
作成された学習教材は、次年度の冊子として小学校5学年と中学校2学年の全員に配付する。さらに、学習ソフトにも作成し直し、コンピュータ室等で児童生徒が個別学習ができるようにソフト化を図る。
この教材の活用については、学力調査にて検証するとともに、効果的な活用の事例については、研修会等の機会を兼ねてすべての学校に周知する。
平成19年度の学力調査の分析から、小学生においては基本生活習慣や家庭学習と学力に相関関係が認められ、また国語、算数・数学、社会、理科などとの教科間での強い相関が検証されている。これらの課題を解決するため、これから調査活用協力校を学校に依頼し、具体的な改善策を模索してその成果や効果について検証していく必要がある。
また、次年度には調査データを経年比較するなど、より詳細に分析して学力に関わる相関や因果などの関係から、学力向上に必要な要因を抽出して指導の工夫や改善のために、具体的な指導実践手法を見出していく。
-- 登録:平成21年以前 --