奈良県検証改善委員会
基礎・基本の確実な定着により、確かな学力を育成することは、これまで重要視されてきたことである。また、PISA調査の結果等から、情報を読み取ったり、活用したりすることに課題があることが明らかになっている。こうした状況の中、全国学力・学習状況調査が実施された。
奈良県では全国学力・学習状況調査の結果等を分析・活用して課題を明らかにし、改善につなげるため、必要に応じて大学・研究機関等と連携して詳細な分析を行うなど、学校改善支援プランを作成することとした。
奈良県検証改善委員会は、重松敬一奈良教育大学副学長を委員長として、平成19年7月に設置された。教科に関する調査結果の分析・考察を中心として担当する大学の研究者2名と公立小学校教員4名(国語、算数各2名)、公立中学校教員4名(国語、数学各2名)、主に学校経営の視点から考察する県内の公立小中学校長2名(小・中学校各1名)、質問紙調査等を基に生活習慣、規範意識等を中心に考察する県立教育研究所家庭教育部長、また、保護者の視点を入れるため保護者の代表を、そして教育委員会事務局関係者として教育次長をはじめとした3名の計18名から構成される。なお、教科に関する調査結果の分析とともに、授業改善、指導改善に役立つ指導資料を作成するため、大学の研究者と公立小・中学校教員、指導主事によるワーキンググループが設置されている。
7月末に第1回検証改善委員会を開催した後、2月末までに計4回の検証改善委員会を開催するとともに、4回のワーキンググループの委員会を開催した。これらを通して、学校改善支援プランを作成した。また、その一環として指導資料集や家庭教育の向上啓発につなげるリーフレットの作成にも取り組んだ。
奈良県検証改善委員会では、一人一人の子どもの学力をどのようにして伸ばすかということを考え、学力調査の結果等を分析し、県や市町村における教育施策や学校における教育活動の改善につなげる学校改善支援プランを作成した。
図1のように、学校改善支援プランでは、まず全国学力・学習状況調査の結果からみた本県の児童生徒の姿を明らかにした。次に、その結果から本県の児童生徒の課題を明らかにした。そしてそれらを踏まえた学校の取組例とそれを支える県教育委員会の支援策について示した。具体的な内容については、以下に示す。
図1 学校改善支援プラン概要 |
また、図2のとおり、検証改善サイクルの構築を構造図を用いて示している。構造図では、R-PDCAサイクルの中で、それぞれの取組がどのように位置付くかを示している。
図2 検証改善サイクル構造図 |
正答率については、次のとおりであった。
基礎的・基本的内容は概ね身に付けていると考えられるが、しかし、その一方で基礎的な内容を身に付けていても、活用の正答率が低い児童生徒や、「知識・理解」に関する正答率が60パーセントを下回る児童生徒が存在することは課題である。
「言語事項」に関しては概ね理解できている。「話すこと・聞くこと」に関する問題では、相手意識をもって話すことの理解に課題がある。
「活用」に関する問題の県平均正答率が63パーセントであり、「読むこと」に関して課題がみられる。特に、記述式の問題の正答率が低い。観点に沿って詳しく書いたり、簡潔に書いたりする活動を充実する必要がある。
「知識」に関する問題の中にも、平均正答率を下回る問題がある。基本的な処理だけでなく、豊かな数感覚を伴った意味理解が必要だと考えられる。
「活用」に関するの問題の県平均正答率が63パーセントであり、平均正答率が18.8パーセントと低い問題も見られた。学習したことを問題解決に活用すること、特に数量関係について授業改善の工夫が必要である。
「話すこと・聞くこと」に関する基礎的な知識は概ね身に付けている。言語事項の内容に関して概ね理解することができているが、使用頻度の低い常用漢字の読みは正答率が低くなっている。
平均正答率が73パーセントであり、「活用」に関する問題に課題がある。また、記述式の問題の正答率が低く、無解答率が高くなる傾向にある。複数の資料を用いて情報を整理して自分の考えを話したり書いたりする言語活動を充実させる必要がある。
「数量関係」に関する問題で平均正答率を下回る問題が多かった。また、「図形」に関する問題は概ね全国平均正答率を上回っているが、極端に低い問題もある。知識や技能について、実感を伴った理解を深める必要がある。
「数と式」に関する問題で、全ての問題が平均正答率を下回っている。数学的に記述したり、説明したりする問題では、いずれも平均正答率が低く、数学的な判断力や表現力を高める必要がある。
などが明らかになった。
学校改善支援プランの内容は大きく4つからなる。
調査の概要や本県の児童生徒の調査結果をまとめたもので、「全国学力・学習状況調査の概要」「教科に関する調査結果から」「児童生徒質問紙調査結果から」「学校質問紙調査結果から」からなる。
「自校の結果の分析」「自校の課題の把握」「授業の工夫改善」「教職員研修の充実」「児童生徒の生活習慣の改善」「児童生徒の規範意識の育成」「取組への自己評価」「成果と課題の明確化」「成果と課題を基にした新たな取組」等
「集計・分析ソフトの作成」「指導主事の派遣」「研修講座の開催」「教育セミナーの開催」「教材の作成、配付」(小学校算数・中学校数学「わくわくワーク」、指導資料)「家庭への啓発」「人的支援」「学校サポート体制の整備」「学力調査等を活用した学力向上推進事業」(協力校を指定)等
県教育委員会では、本プランを県教育委員会Webページで公開するとともに、冊子を作成し、各市町村教育委員会及び公立小・中学校等に配付する。
各市町村教育委員会及び各学校においては、本プランを活用し、取組に生かすものとする。
教員だけでなく広く保護者や地域住民に対し、公開することにより、学校と家庭との連携や学校の取組への理解などを啓発できることなどの意義があると考えられる。
教育セミナー“2007”において、本県の学力・学習状況調査の結果分析の報告と、その結果を受けて改善の方向性を示す内容を含んだ講演とシンポジウムを平成20年2月8日に県立教育研究所で開催した。
講演会では、奈良県検証改善委員会重松委員長から「奈良県検証改善委員会からの提言」と題して講演を行った。学力・学習状況調査の分析から、5つの課題と改善の方向性を示した。また、シンポジウムでは、小・中学校長、国語、算数・数学教育を専門とする大学教員、県立教育研究所家庭教育部長の計5名がそれぞれの立場から、結果分析から見られる本県の児童生徒の課題と改善に向けての意見を述べた。
セミナー終了後のアンケートには、「調査結果を正確に分かりやすく分析し、説明してもらったので、子どもたちへの手立てや保護者、地域へのアプローチなど、効果的な取組を考える意欲が出てきた。」「奈良県の子どもたちの弱点がよく分かり、勤務校での指導の改善への提言となった。」などの意見がみられた。
指導資料は、小・中学校の国語、算数・数学についてそれぞれ4例を示した。
国語では、学力向上に向けた具体的提案として、小・中学校とも、説明的な文章の教材を軸とした“読む”ことの授業モデルを提示した。説明的な文章教材を取り上げた理由は、近年の説明的文章教材は言語論理教育的な要素をもっているということと、メディア情報教育的な要素が色濃くなってきているということ、読むことと表現することの橋渡しをするものが説明的な文章であることなどの理由による。
一方、算数・数学では、小学校、中学校それぞれの問題A、問題Bで正答率の低さが目立った問題を取り上げ、どう取り組むのかという視点から指導資料を作成した。
各校が、授業改善に取り組む際の参考資料として活用していく。今後は、来年度県立教育研究所で開催する研修講座や学校への要請訪問等の機会を活用し、その成果を県内に広めるものである。
表面 |
裏面 |
児童生徒質問紙調査、学校質問紙調査の結果から本県の児童生徒について、生活習慣や規範意識、学習意欲等に課題があることや、学力と生活習慣等とには関連があることが明らかになった。
そこで、保護者向けにリーフレットを作成し配付した。県立教育研究所家庭教育部を中心に、これまで取り組んできた成果等を踏まえ、「ならっ子みんなで育てよう家庭教育7カ条」でも取り上げている家庭教育7カ条も紹介した。そして、リーフレットの中では平成19年度の学力・学習状況調査の結果から、教科に関する調査と質問紙調査の結果の相関関係を示した。
このリーフレットは、県内公立小・中学校の全保護者に配付し、家庭の教育力の重要性を啓発するとともに、全教員にも配付し、懇談会等でも活用するなど、家庭と学校との連携を図るツールとしても活用できるようにした。
学校改善支援プランの先行的な実施として、文部科学省が募集した学校改善支援促進事業に応募し、11月に採択された。
全国学力・学習状況調査の結果では、本県の児童生徒の学力の状況は概ね全国と同じような傾向であることが分かった。
基礎・基本となる「知識・技能」の確実な定着を目指すことは、実生活で活用する力の育成に不可欠である。本県の児童生徒は、「知識」に関する問題では、概ね学習内容を理解していると判断できるが、正答率70パーセントを下回る児童生徒も小学校「国語A」で16パーセント「算数A」で22パーセント、中学校「国語A」で15パーセント「数学A」で35パーセントとそれぞれ存在しており、より一層基礎・基本を確実に定着させる取組が必要である。また、調査結果から、多くの児童生徒に「知識・技能を活用」することに課題があるということも分かった。さらに、「活用」する力の土台には、知識や技能がきちんと身に付いていることが必要であることも、相関関係から明らかになっている。
これらのことから、「基礎・基本の確実な定着と実生活で活用する力の育成」を調査研究のテーマとして設定した。
以下、取組の概要について記述する。
基礎・基本にかかわる力をさらに定着させることを目的とした学習資料集「わくわくワーク」を作成、配付した。
平成20年度以降、県立教育研究所で開催する研修講座で実践事例を発表したり、要請訪問等の機会をとらえて、活用について指導したりするなど啓発していく。
全国学力・学習状況調査では、「知識・技能」等を実生活の様々な場面に「活用」する力等に関する問題が出された。しかし、各学校では児童生徒に身に付けさせるべき「活用」に関する力をどう授業の中で育成していけばよいかなどについて、教員の理解が十分でない状況がある。そこで、「活用」する力や様々な課題解決のための構想を立て、実践し評価・改善する力を身に付けさせることの重要性等を解説した説明資料を、クリアホルダーに印刷し、全教員に配付した。
これまでに多くの調査が行われてきた。しかし、その結果がなかなか有効に活用されないのは、その結果をどのように解釈し、分析・考察を加え、取組に生かすかという見方・考え方が学校でイメージできなかったことが一因であると考えられた。そこで、「結果の分析・活用の手引き」を作成し、配付することを計画していた。しかし、各学校及び各市町村教育委員会を対象に実施した「学力・学習状況調査の活用に関するアンケート」では、調査結果を活用していると回答した割合は小学校で47.9パーセント、中学校で55.1パーセントであった。また、調査結果を活用する際に、データを分析するソフトが必要であるとした小学校が29.8パーセント、中学校で31.1パーセント存在したため、急遽、分析ソフトを作成し、学校に提供することとした。
このソフトを活用することにより、調査結果の分析が円滑に行われ、分析を踏まえた改善策が、より具体的になると考える。平成20年度の各学校、各教育委員会における取組に生かされるよう、県教育委員会が指導していく。
間もなく平成20年度の全国学力・学習状況調査が実施される。
学校改善支援プランを各市町村教育委員会及び各学校において、どのように生かしていくのか、作成、配付したワークシートやクリアホルダー等がいかに効果的に活用されていくのかは、重要なポイントである。
奈良県検証改善委員会としては、県教育委員会がこれらを活用し、各市町村教育委員会及び各学校での取組を見取り、指導の工夫改善を指導、助言、支援することにより、本県の子どもの学力が向上することを期待するものである。
-- 登録:平成21年以前 --