ー提言-質の高い学力を求めて

京の学力向上検討委員会(京都府検証改善委員会)

はじめに

 京都府では、「『京の子ども、夢・未来』プラン21」に基づき、教育改革の一層の推進や教育の更なる充実を目指し、学力の充実・向上と個性や能力の伸長を図る教育の推進を進めてきた。特に学力調査に関連する取組としては、以下のものを実施してきた。

○京都府独自の学力調査

  • 小学校基礎学力診断テスト(平成3年より)
  • 中学校学力診断テスト(平成15年より)

○調査の分析を生かした取組

  • 府教育委員会:学力向上対策会議
  • 府総合教育センター:学力充実講座
  • 市町村(組合)教育委員会:各校の分析取組等の交流
  • 各学校:校内研修等で分析と改善

○指導課題の洗い出しとその施策

  • 個に応じた指導(京都式少人数教育)
  • 指導課題の解決(「京の子ども、夢・未来校」等における研究開発)

○情報交換・成果普及の場

  • 指導方法の改善に関する研究協議会
  • 教育局別「学力向上対策会議」
  • 教育課程京都府研究大会

1 検証改善委員会の体制について

 京の学力向上検討委員会(京都府検証改善委員会)は、22名で構成される組織である。

【構成員】

  • 京都府教育庁指導部学校教育課長(委員長)
  • 京都大学大学院教授(座長)
  • 京都教育大学教授(国語担当)
  • 同志社女子大学教授(算数・数学担当)
  • 京都府PTA協議会会長
  • 府内公立小学校長
  • 府内公立中学校長
  • 府内公立高校教諭
  • 府教育委員会指導主事等行政関係者

 以上の構成で全体委員会を6回、各教科の分析を専門的に行うための小委員会(ワーキング)を13回開催し、学校改善支援プラン(下図)をまとめた。
学校改善支援プラン

2 学校改善支援プランの概要

 京の学力向上検討委員会では、京都府における全国学力・学習状況調査の結果について、概要を以下のとおり整理した。

【教科に関する調査の実施結果】

  • 今回のテストで測定できる学力は、特定の一部分ではあるが、結果を平均正答率や正答数分布などで見ると、京都府内の児童生徒の学力は、おおむね全国水準を超えている。

<校種・教科別>

  • 小学校においては、すべての教科や問題種別で全国水準を超えている。
  • 中学校においては、数学では全国水準を上回り、国語でもほぼ全国水準を維持している。

<問題種別>

  • 「知識」に関する問題に対応する力については、おおむね身に付けているが、「活用」に関する問題に対応する力については、更に身に付けさせる必要がある。これらの問題種別に見られる傾向は、国全体の結果と同様である。

学校改善支援プラン

【質問紙調査に関する結果】

  • 本府の状況を全国と比較すると、大部分の質問項目において全国の状況と同様の傾向が見られる。しかし、「食習慣」や「家庭でのコミュニケーションや朝食を食べること」など細部を比較すると本府の特性が現れている項目もあり、他の項目との相関も含め詳細に見る必要がある。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

【教科に関する調査の実施結果】

  • 小学校国語Aについては、全国を上回っており、今回出題されている学習内容をおおむね理解していると考えられる。国語Bについては、全国を上回っているが、知識・技能を活用する力に課題がある。具体的には、聞き手の反応や表情を確かめながら話したり、話の要点を押さえて大事なことを聞き取ったりすることや、必要な事柄を取り出して与えられた条件に即して書き換えること、登場人物の関係を押さえて心情を把握したり、資料と関係付けたりして正しく読み取ること等に課題が見られた。
  • 中学校国語Aについては、全国とほぼ同程度で、相当数の生徒が今回出題されている学習内容をおおむね理解していると考えられる。国語Bについては、全国と同じであるが、知識・技能を活用する力を更に身に付けさせる必要がある。具体的には、適切な情報を収集・活用し、根拠を明確にした説得力のある表現をすることや、伝えたい事柄や自分の考えを、根拠を明確にして書くこと、書き手の工夫(比喩等の表現技法)に着目して読み取ること等に課題が見られた。
  • 小学校算数Aについては、全国を上回っている。相当数の児童が今回出題している学習内容をおおむね理解していると考えられる。算数Bについては、全国を上回っているが、知識・技能を活用する力に課題がある。具体的には、分数や小数の意味と表し方について理解する。様々な図形の底辺や高さの関係の理解が十分でないこと等に課題が見られた。
    学校改善支援プラン
  • 中学校数学Aについては、生徒の平均正答率が、全国の平均正答率より上回っているが、基礎的・基本的な知識・技能を更に身に付けさせる必要がある。数学Bについては、全国の平均正答率より上回っているが、知識・技能を活用する力に課題がある。具体的には、目的を明確にして等式を変形することや、錐体の体積を柱体の体積と関連付けて理解すること、日常的な事象を理想化したり単純化したりして、その特徴をとらえること等に課題が見られた。

【質問紙調査に関する結果】

  • 生活習慣や学習環境に関する質問紙調査をテーマごとに整理し、その中から「府としての課題」「取組の重点化を図る必要があるもの」に絞り、学力の基盤として子どもの生活習慣や学習環境を見直すとともに、それらの結果と教科の結果を関連させて以下の6つのテーマに沿って分析した。

1学習に対する関心・意欲・態度、2学習習慣、3基本的生活習慣、5自尊意識、6運動・スポーツとの関連

  • 特に「食習慣」や「家庭でのコミュニケーションや朝食を食べること」など学習状況との相関から詳細に見ると、以下のような特徴が見て取れた。
    • 正答率の高い児童生徒ほど、朝食を毎日とる割合が多くなっている。
    • 朝食を毎日とっている児童ほど、学校に持って行くものを確かめている割合が多くなっているなど他の基本的生活習慣が身についてる傾向が見られる。
    • 朝食を毎日とっている児童ほど、学校で楽しみにしている活動がある割合が多くなっている。

      【学校改善支援プランより】

    • 朝食を毎日とっている生徒ほど、学習時間が長くなる、家で宿題をするなど学習習慣が身についている傾向が見られる。
    • 正答率の高い児童生徒ほど、家の人と学校での出来事について話をする割合が多くなっている。
    • 家庭でのコミュニケーションをよくしている児童は、自分の興味のあることについて調べたり勉強したりするなど学習意欲が高い傾向が見られる。
    • 家庭でのコミュニケーションをよくしている生徒は、学習時間が長くなる傾向が見られる。
    • 家庭でのコミュニケーションをよくしている児童生徒の方が、人の気持ちを思いやろうとしたり、世の中の出来事について関心を持ったりする傾向が見られる。

4 学校改善支援プランについて

 3で述べた分析結果を受け、まず「京都府学校改善支援プラン」の基調となっている「質の高い学力」について整理した後、それを求めていくための具体的な提言を、それぞれの立場に向けて行っている。

  • 中央教育審議会においては、学力の重要な要素を次の3点としてとらえている(1基礎的・基本的な知識・技能の習得、2知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等、3学習意欲)。これらの要素が統合された学力は、「質の高い学力」と言うことができるであろう。今後は、これらの要素相互の関係性を意識し、全体を一体のものとして高めていくよう、学校は、授業改善や家庭・地域社会と連携した取組を推進することが重要である。

<提言>

1 取組の重点

  • 引き続き基礎学力を重視しつつ、特に、知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等を伸ばすことに努める。
  • 目的意識や学ぶ意欲を培い学習習慣を確立するため、学校と家庭や地域社会が連携した取組を推進する。

2 学校の取組

○継続的に広い視野で取り組む。
  • 学力・学習状況の課題に真正面から向き合い、単なる学力調査対応ではなく、中長期の視野で継続的に取り組むことが必要である。
  • 義務教育9年間を見通した学びの連続性や教科間の関連を確認するなど、広い視野で取り組むことが必要である。
○調査結果を十分に分析し自校の教育を検証して改善に取り組む。
  • 小中学校の教員が、小学校中学校双方の調査問題を実際に解いてみることを出発点として、校内研修を活用して問題の分析を行い、問題内容や出題意図への理解を深めるなど、学校を挙げた授業改善に取り組むための共通基盤を形成する。
  • A問題・B問題別の平均正答数、平均正答率、中央値等の数値による分析の他、児童生徒の正答数の分布の形状等から全体的な状況を把握したり、領域別、観点別、問題(解答)形式別に誤答や無解答の状況を分析したりするなど、それぞれの状況に即し、多面的な分析を行い、自校の教育の成果と課題を検証する。
  • 学校単位の分析に基づき、京都式少人数教育の実施方法にも関連付けながら、カリキュラムや新たな評価方法の開発に取り組む。
  • 学級単位で、教材分析を踏まえた指導内容や指導方法の改善、評価方法の在り方、個別の児童生徒への対応などへの考察を深め実践する。
  • 質問紙調査については、全国や府の結果との比較や、学力との相関、調査項目相互の相関について、文部科学省や本資料が示した手法を参考にして、多面的に分析し、校内での取組や家庭や地域社会と連携した取組を推進する。
  • 府総合教育センターを始めとする研修・研究機関や教育研究団体等の有する機能や研究成果を活用する能力を高め、校内研修、研究活動、授業改善等を充実させる。
○全国学力・学習状況調査に係る検証改善サイクルを確立する。
  • 全国学力・学習状況調査に係る検証改善サイクルを、自校の学力向上プログラム(システム)の中に位置付けるなど、既存の取組との関連性を持たせて確立する。また、学校評価のプロセスで作成する学校経営計画にも適切に位置付けることが重要である。
  • 一つの単元レベルでの授業改善をサイクル化した取組を一層推進する。
  • 教職員一人一人の目標が、学校経営計画の目標と一致することによってこそ学校の組織的一体性が生まれ、学校経営は効果的に改善していく。教職員評価における「自己目標」の中に、学力の充実・向上に関連した目標が設定されることが重要である。

3 教育委員会の取組

  • 全国学力・学習状況調査、京都府の(基礎)学力診断テストの分析結果の周知を図ること。
  • 分析ツールの開発や分析のノウハウに関する資料の作成など各学校での分析の支援を行うこと。
  • 学校評価を軸にした学校経営改善や教職員の資質向上の取組を支援すること。
  • 指導内容や指導方法の改善・充実を図るため、実践交流会、フォーラム等を開催すること。
  • 本提言に示す質の高い学力を求めて、カリキュラムや評価方法などの研究開発を進め学校に普及すること。
  • 研究指定事業の在り方を見直し、学力の要素の個別又は全体の充実・向上に対応する研究を継続的に支援すること。
  • 府総合教育センターにおける研修講座、調査・研究活動、カリキュラムセンター等の充実を図ること。
  • 学力の充実・向上を目指す校内研修等に対して、府総合教育センターによる講座の出前や講師の派遣を推進すること。
  • 教科別の指導方法の工夫改善に係る実践事例や、評価方法の開発事例などを収録した資料を作成し普及すること。
  • 京都式少人数教育の充実など、指導方法や指導体制の充実を支援すること。

4 地域社会総がかりの取組へ

  • 学力向上についての自校の方針や具体的なプラン、実施結果などを家庭や地域社会に示し、それらに対する学校外部の声(評価)に耳を傾けることが求められる。このプロセスは、学校評価における学校関係者評価(外部評価)に適切に位置付けて取り組むこと。
  • 家庭教育の充実、地域の人材育成、地域づくり等の観点に立って、児童生徒の学力の充実・向上について、学校外部の方々と協議する機会を設けること。
  • 「まなびアドバイザー」、「京のまなび教室」、「親のための応援塾」など、子どもたちの多様な状況やニーズに応じた、学校と家庭、地域社会が連携した取組を一層推進すること。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 2月終わりから3月初めにかけて「京の学力向上フォーラム」を南北2会場で開催し「学校改善支援プラン」の周知を図るとともに、冊子を府内公立小中学校(京都市を除く)全教職員、教育委員会及びPTAに配付した。
 また、地元ラジオ局(FM京都αステーション)で概要を紹介するとともに、府教委広報(A3判4頁)に掲載し、府内公立小中学校(京都市を除く)全児童生徒の家庭に配付した。

【府教委広報「きょうとふの教育第107号より」】

6 学校改善支援促進事業について

(1)指導事例集「-課題提起-『質の高い学力』を目指す授業と評価」の発行

  • 学校改善支援プラン「-提言-質の高い学力を求めて」の続編として、提言のポイントを受けた事例集を作成し、「活用」に関する学力についての改善事例をもとにした課題提起を盛り込み、支援プラン同様に府内公立小中学校(京都市を除く)全教職員、教育委員会及びPTAに配付した。
  • ここでは全国学力・学習状況調査による検証改善の取組が、該当学年だけの取組に偏ることがないよう、小学校の第3学年の事例も入れて、義務教育9年間の学力充実・向上の取組となるよう配慮している。
  • 一つの学年の事例は、見開きA4判2頁で紙面を構成し、左頁に学習指導案による授業の提示とその改善のポイントを解説し、一工夫加えることでより確かな「習得」と「活用」に関する学力が身に付くような指導の在り方について示唆している。
  • また右頁に、そのような授業を進める上での評価の在り方と評価問題について解説している。
【学校改善支援促進事業冊子より】

(2)京の学力向上フォーラムの開催

 府内南北二会場で開催し、約500名の参加(府内全ての公立小中学校(京都市を除く)から参加)で「質の高い学力」形成に向けて共通理解を図る機会とした。

  • 講演「質の高い学力を求めて」
    -「活用」に関する問題が提起したこと-
  • シンポジウム「学校改善支援プランから各学校へ」
    -これからの改善の視点-

府民啓発用リーフレット

(3)地域検証改善委員会への再委託

 府内各地域における結果等に基づいた取組について、「地域検証改善委員会」を設け、京の学力向上検討委員会(京都府検証改善委員会)と連携して、地域の実情に応じた事業を推進した。

  • 山城学力向上検討委員会
  • 南丹学力向上検討委員会
  • 未来につながる学力充実会議
  • 丹後地域検証改善委員会

(4)府民啓発用リーフレットの配付

(5)分析用ツールの作成配付

 表計算ソフトを使い次の機能を持った分析用ツールを各校に配付した。

  • 質問紙と学力のクロス集計ができる分析用表計算シート
  • 散布図(学力の相関図)の視点例と散布図やバブルチャート作成シート

分析用ツール

7 おわりに

 京都府では、平成3年度から学力診断テストに取り組んできたので、調査を改善に生かす分析の方法や研修への生かし方については、各学校で既にいろいろな効果的な手法を築き上げてきたところである。こういった素地を生かし、全国学力・学習状況調査の結果明らかになった全国的な状況とともに、京都府の全体的な成果や課題を把握し、改善の具体的なポイントを明らかにすることで、その手立てを一層確固たるものとしていく機会となった。
 今後、京都府では、提言に引き続き、「活用」に関する学力について考えるとともに、個に応じた指導方法の工夫改善や指定校における取組、各市町村・学校におけるより効果的な方策について更に検討を進め、学力の充実・向上に一層努めていきたいと考えている。

京都府教育委員会HP(資料掲載予定)

-- 登録:平成21年以前 --