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実施報告書【まとめ】芦屋市教育委員会

平成19・20年度JSLカリキュラム実践支援事業実施報告書【まとめ】

実施団体名【芦屋市教育委員会】

2年間の取組内容及び成果と課題

1.具体の取組内容

【1】JSLカリキュラムを活用した授業実践

 いかに授業内容を,日本語指導が必要な外国人児童たちにわかりやすく工夫するかがこの支援事業の重要なポイントである。対象児童の学習状況に合わせて,最も効果的な具体物なども用いて,また実際に体験させるなどして,対象児童に応じた具体的な支援を行った。
 例えば,3年生における「かさ」の授業においては,言葉による説明だけではなく,具体的にペットボトルに入れた水などを用意するなど,視覚だけではなく,五感すべてに訴えかけるような授業を構築してきた。
 また同様に,1年生の足し算の基礎を学習する場面では,日本語表現として量が増える言葉の一つ一つにこだわり,どの言葉を使用したときには量の増加を示すのかを理解させていった。引き算においても同様に日本語の表現にこだわった。そうした児童への支援を工夫することで,日本語のもつ感覚,似た言葉どうしの微妙な意味の違いについても研究することができた。
 また,既習事項をその都度,振り返り確認することにより,対象児童の学習の理解が大きく高まった。授業内容も対象児童の経験を確認し,体験させ,考えさせ,繰り返し聞き取らせ,書き取らせ,発音させることにより,学習活動の定着を図った。
 異なる文化的な背景を持つ対象児童にとって,学校生活の中でも自らの文化に誇りを持っていられることは,大変重要なことであり,また他の児童においても,幼い頃からの異文化との交流はとても貴重な経験である。対象児童の持つ文化に配慮した学習活動や異文化コミュニケーションの経験は,これからの学習活動のみならず,社会生活全般に大きな力となり得る。
 また,開催したワークショップの場で,そのような実践を報告することができた。JSLカリキュラムを活用した授業の実践報告を通じ,JSLカリキュラムを理解していく中で,この授業は何も特別なことではなく,より個別の児童と向き合って授業を構築していくことが重要であるということを報告した。

【2】支援員による学習支援

 特に日本語指導が必要な外国人児童2名に対して,週2回各4時間ずつ,日本語講師を2名配置した。
 定期的に授業中児童の横で,授業の内容をより具体的に,対象児童に理解されやすい日本語を使って解説するなどの支援を行った。
 また、週一度放課後、対象児童に日本語指導を行ったり,学習活動の中で日本語理解が不十分なことから理解しきれなかった授業内容の振り返りをしたりするなどの支援を行った。
 さらに、児童に理解されやすい適切な言語を選ぶことについて,全職員が実践の場で日本語講師による講習を受けた。児童の理解を深めるためには,言語をいたずらに変化させて言うだけではなく,パターン化することによって授業の進み方を理解させること,また,対象児童の経験に基づく言語の選択が重要であることなどを学んだ。

【3】ワークショップの開催

 2年間で計5回(7日間)のワークショップを開催し,のべ13名の講師を招いてJSLカリキュラムの理解を深める研修を行った。研修会には,幼稚園・小学校・中学校の日本語指導担当の教員,市内関係機関からも多数の参加者があった。また,市外のJSLカリキュラム実践支援事業を進めている複数の学校とも交流した。

2.成果

【1】担任と担当教員が連携し複数指導を行った授業では,日本語の理解不足のため授業内容を理解できずにいた児童に対し,日本語の言い回しを変た指導で理解を深めることができた。
 また,日本語が理解できないことに端を発する「理解できなくても仕方がない。」と学習をあきらめてしまう対象児童の心理を「やればできるんだ。」という自信に変え,学習に前向きに取り組む姿勢をはぐくむことができた。保護者との信頼も深まり,家庭学習の大切さを説くことで,対象児童の家庭学習に向かう姿勢が大きく変化した。宿題を忘れることはほぼなくなり,理解ができないためにやりきれなかった宿題でも,そのまま放置せずJSL担当教員の指導を受けながらやりきらなければいけないという意識が芽生え,休み時間,放課後の時間を利用してやり遂げられるようになった。

【2】JSLカリキュラムは,より具体的に,より児童の側に立った教科指導のあり方のひとつと考えられる。従って,対象児童にのみ効果があるのではなく,すべての児童を対象としていると考えることもできる。そのためJSLカリキュラムの視点に立った授業は,在籍学級の他の児童にとっても理解しやすく,また興味を持って取り組みやすい内容となっている。
 例えば,JSLカリキュラムを活用して個別の児童の経験、体験を十分に吟味した授業では,対象児を含んだ在籍学級のすべての児童にとっても,より具体的であり,よりイメージしやすい授業となった。特に担当教員が学級の授業に入り込み,担任と同室複数指導した授業では,対象児童の近くに理解に時間のかかる児童たちの席を設けることで,対象児童への支援がそのまま周りの児童たちへの支援にもなり,学級全体の授業理解を助けることにつながった。わからないことをわからないまま切り捨てるのではなく,授業中にわからないことがあれば,同室指導を行っているJSL担当教員に質問し,きちんと理解するようになった。JSLカリキュラムの視点を,取出授業だけではなく在籍学級の授業においても活用することにより,どの児童にとっても,より具体的で,共感を持って感じられる,理解しやすい授業を作り出すことができた。
 また,多くの指導略案を作成することで,JSLカリキュラムを活用した学習を校内に広め,理解を深めることができた。

3.課題

【1】ワークショップを開催したことから,市内の学校園だけではなく,市内外の関係機関とも交流することができた。芦屋市内においては,芦屋市交流協会等をはじめとする,外国人との交流を目指す団体や,外国人への日本語指導を目的とした団体,外国人コミュニティーによる外国人児童生徒への学習支援をする団体,また個人との連携が生まれつつある。「多文化共生センターひょうご」や大学の研究者などとも連絡を取ることができるようになってきている。情報共有と,連携した取組の基礎づくりができたが,今後具体的にどのように推進していくかが課題となる。

【2】効果的な授業を計画するとき,在籍学級の担任との綿密な打ち合わせは欠かせない。時間をかけるほど授業の細かい部分まで相談でき,効果もその分期待できるが,そのための時間がなかなかとれない。対象の児童によって課題も異なり,支援手段も変わるため,担任といつどのように授業づくりの相談をするのか。この点の工夫も課題である。

【3】児童の学習理解を促進させるためには,反復学習が必要である。計算問題や文字・用語などを覚えるのは,教室で机とノートがあれば繰り返し学習でき,根気よく続ければ身につくが,日常の生活では体験することが少ないことがらの定着は難しい。意図的に場面を設定する必要があり,授業中にそれを繰り返すことは困難なので,放課後などを活用した学習場面の設定が必要となる。

【4】平成19年と20年の2年間,JSLカリキュラム実践支援事業で研究を重ね,多くの研修会に参加し,また研修会を開催してきた。多くの講師の先生方や学校園,関係機関とも交流を深め,多くのことを学び,少しずつ実践を積み重ねてきたが,この事業終了後に,これまで学んできたことのレベルを維持しながら継続させていくことが大きな課題である。

4.その他(今後の取組等)

【1】「第3回芦屋市日本語指導担当教員等資質向上研修会」 

 芦屋市立浜風小学校での最後の研修会を,平成21年1月27日に開催した。同室複数指導による授業実践である。神戸大学留学生センターの水野 マリ子教授に指導、神戸大学発達科学部附属住吉小学校の榎並雅之教諭に助言を受けた。

【2】取組体制の検討・関係機関との連携

 浜風小学校のすぐ隣にある県立芦屋国際中等教育学校が,今年度からJSLの事業を開始している。事業終了後も,引き続き同校との連携を深めるとともに、児童への効果的な支援方法や体制等について検討していきたい。

お問合せ先

総合教育政策局国際教育課

-- 登録:平成22年01月 --