学校法人会計問答集(Q&A)第17号 計算書類の注記事項の記載について[5]

関連当事者の範囲
Q25 関連当事者の範囲はどこまでですか。
A  第1号通知による関連当事者の範囲は、以下のとおりである。
1  関連当事者とは、次のとおりである。
 
ア. 関係法人
イ. 当該学校法人と同一の関係法人をもつ法人
ウ. 当該学校法人の役員及びその近親者(配偶者又は2親等以内の親族)又はこれらの者が支配している法人
2  関連当事者との取引の注記の対象となる関係法人とは、一定の人的関係、資金関係等を有する法人をいい、具体的には以下の場合に該当することとされている。
ア. 一方の法人の役員若しくは職員等が、他方の法人の意思決定に関する機関の構成員の過半数を占めていること
イ. 法人の資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているものに限る。)の総額の過半について融資を行っていること
ウ. 法人の意思決定に関する重要な契約等が存在すること
 ただし、財務上又は事実上の関係から法人の意思決定に関し重要な影響を及ぼさないことが明らかな場合には、対象外とされている。
 関連当事者の注記の対象となる関係法人とは、学校法人の出資割合が2分の1超という形式的な支配のみならず、上記のように一定の人的関係、資金関係等も判断基準となる。なお、学校法人の出資割合が2分の1以上の会社については、別途注記されるため、関係法人であっても関連当事者との取引の注記事項としては扱わないものとされている。
 また、役員の出資割合が2分の1以下であり、それだけでは支配しているとはいえない法人であっても、役員の近親者又はこれらの者が支配する法人の出資割合と合計して2分の1超である法人についても、当該学校法人の役員及びその近親者(配偶者又は2親等以内の親族)又はこれらの者が支配している法人に該当することとなる。
 このように注記の対象となる関連当事者とは、例えば学校法人の出資割合が2分の1超という形式的な支配のみならず、実質的に法人の意思決定に関する機関の構成員の過半数を占めている場合も該当するものと考えられる。
(参考)配偶者又は2親等以内の親族

会計年度中の関連当事者の変更
Q26 会計年度中に関連当事者でなくなった場合の取引も注記しなければなりませんか。
A  関連当事者に該当するか否かは、個々の取引の開始時点で判定するものとし、関連当事者が会計年度中に関連当事者に該当しなくなった場合には、関連当事者に該当している間の取引については注記しなければならない。なお、同一会計年度における取引であっても関連当事者に該当しなくなった後の取引については記載を要しない。

関連当事者との取引の記載事項
Q27 注記すべき関連当事者との取引の記載事項はどのようなものですか。
A  取引の内容については、次に掲げる事項を原則として関連当事者ごとに注記することが望ましい。なお、Q19に示したとおり、学校法人の出資による会社に係る事項に注記した事項については重複を避けるため、ここでの注記を要しない。

(1)  当該関連当事者が会社等の場合には、その名称、所在地、資本金又は出資金、事業の内容(及び当該会社等の議決権に対する当該学校法人の所有割合)
(2)  当該関連当事者が個人の場合には、その氏名、職業
(3)  当該学校法人と当該関連当事者との関係
(4)  取引の内容
(5)  取引の種類別の取引金額
(6)  取引条件及び取引条件の決定方針
(7)  取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高
(8)  取引条件の変更があった場合には、その旨、変更の内容及び当該変更が計算書類に与えている影響の内容
 なお、具体的記載例は以下のとおりである。


【記載例】
関連当事者との取引
関連当事者(関連当事者)との取引の内容は、次のとおりである。
(単位円)
属性 役員、法人等の名称 住所 資本金又は出資金 事業の内容又は職業 議決権の所有割合 関係内容 取引の内容 取引金額 勘定科目 期末残高
役員の兼任等 事業上の関係
関係法人 C社(注1) 東京都
バツバツ
バツバツ 丸丸製造・販売 兼任3名 C社製品の購入 機器備品の購入
(注2)
バツバツ 未払金 バツバツ
当法人の銀行借入に対する被保証
(注3)
バツバツ
当該学校法人と同一の関係法人をもつ法人 D社
(注4)
神奈川県
バツバツ
バツバツ 清掃請負業 10パーセント 清掃委託 清掃料の支払
(注5)
バツバツ 未払金 バツバツ
債務保証
(注6)
バツバツ
保証料の受入れ
(注6)
バツバツ
理事 佐藤
三郎
設備の賃貸 住宅の賃貸料
(注7)
バツバツ
役員及びその近親者が議決権の過半数を所有している会社 E社
(注8)
大阪市
バツバツ
バツバツ 食堂等の運営管理 食堂等の委託契約の締結 業務委託費の支払
(注9)
バツバツ 未払金 バツバツ
取引条件及び取引条件の決定方針等
(注1)  C社の役員及び職員が当法人の理事の過半数を占めている。
(注2)  機器備品の購入については、C社以外からも複数の見積りを入手し、市場の実勢価格を勘案して発注先及び価格を決定している。
(注3)  当法人は銀行借入に対してC社より債務保証を受けている。なお保証料の支払は行っていない。
(注4)  当法人の関係法人であるC社の子会社である。
(注5)  清掃料の支払については、提示された見積りを他社より入手した見積りと比較の上、交渉により決定している。
(注6)  D社の銀行借入(バツバツ円、期限バツバツ年)につき、債務保証を行ったものであり、年率バツバツパーセントの保証料を受領している。
(注7)  設備の賃貸は、近隣の賃貸条件を勘案した上で協議し、賃貸契約を締結している。
(注8)  理事長バツバツバツ及びその近親者が議決権の80パーセントを直接保有している。
(注9)  食堂等の業務委託費については、市場価格を勘案して一般的取引条件と同様に決定している。

記載上の注意
(1)  「属性」の欄には、関連当事者の種類を記載する。具体的には、関係法人、当該学校法人と同一の関係法人をもつ法人、理事長、理事、監事、役員の近親者、当該学校法人の役員及びその近親者が支配している法人、団体等があげられる。なお、複数の属性をもつ関連当事者については、影響が強いと考えられる属性により重要性を判断することが考えられる。
(2)  「住所」の欄には、関連当事者が法人、団体等の場合、市町村(政令指定都市においては区)までを記載する。ただし、役員及びその近親者等、個人である場合には記載を要しない。
(3)  「議決権の所有割合」の欄には、当該学校法人の所有割合を記載する。その他は注記で補う。
(4)  「役員の兼任等」の欄には、兼任をしている役員のほか、出向、転籍等の形態により派遣されている役員の年度末日現在の人数を記載する。学校法人の職員が出向又は転籍して当該法人の役員の過半数を占め、当該法人の意思決定に関する機関の構成員が過半数を占めることとなった場合についても、兼任の数に含める。
(5)  「事業上の関係」の欄には、資金援助、設備の賃貸借、業務委託等の関係内容について簡潔に記載する。
(6)  「取引金額」の欄には、会計年度中の関連当事者である期間の取引について、取引の種類ごとに総額で記載する。
(7)  「科目」及び「期末残高」の欄には、取引により発生した債権債務に係る主要な科目及びその期末残高を記載する。
(8)  取引条件及び取引条件の決定方針を注記することが望ましい。なお、取引条件が、一般の取引に比べ著しく異なる場合には、その条件を具体的に記載する。
(9)  役員及びその近親者等、個人である場合には、「資本金又は出資金」及び「関係内容」の欄の記載を要しない。

記載を要しない取引
Q28 記載を要しない取引はどのようなものですか。
A  注記を要しない取引は第1号通知において、次のとおり示されている。
ア. 一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当金の受取りその他取引の性格からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
イ. 役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払
ウ. 当該学校法人に対する寄附金
なお、関連当事者との取引が無償の場合又は有償であっても取引金額が時価に比して著しく低い金額等による場合には、原則として第三者間において通常の取引として行われる場合の金額等によって重要性を判断して注記することとされていることに留意しなければならない。
 また、その他取引金額及び残高からみて重要性が乏しい取引については、省略することが考えられる。その場合の重要性の判断については、学校法人の規模によって異なるため、学校法人が決定し毎年度継続的に採用することが望ましいが、例えば、以下のように決定することが考えられる。
 役員及びその近親者との取引については、100万円を超える取引についてはすべて注記する。
 その他の関連当事者との取引は、帰属収入の1/100に相当する金額(その額が500万円を超える場合には、500万円)を超える取引についてはすべて注記する。

後発事象
Q29 後発事象の注記は、どのように記載するのですか。
A  監査対象となる後発事象とは、会計年度末日の翌日から監査報告書日までの間に発生した会計事象で、学校法人の財政及び経営の状況に影響を及ぼすものをいい、修正後発事象と開示後発事象に区分される。
 修正後発事象は、会計年度末日後に発生した事象ではあるが、その実質的な原因が会計年度末日現在において既に存在しており、会計年度末日現在の状況に関連する会計上の判断ないし見積りをする上で、追加的ないしより客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない事象である。したがって、重要な事象については、計算書類の修正を行うものである。開示後発事象は、会計年度末日後において発生し、当該会計年度の計算書類には影響を及ぼさないが、次年度以降の計算書類に影響を及ぼす事象である。したがって、重要な事象については、学校法人の財政及び経営の状況に関する的確な判断に資するため、当該会計年度の計算書類に注記を行うものである。
 開示後発事象のうち、次年度以降の計算書類に重要な影響を及ぼすものについては、次年度以降の学校法人の財政及び経営の状況を正確に判断するために後発事象として注記することとなる。

【記載例】
後発事象
ア. 火災により被害を受けた場合
   平成バツバツ年5月バツ日、丸丸高等学校本館が火災により焼失した。この火災による損害額及び保険の契約金額は次のとおりである。
  (損害額) (契約保険金額)
建物 バツバツバツ バツバツバツ
構築物 バツバツバツ バツバツバツ
なお、機器備品の損害額は調査中である。
イ. 係争事件が新たに発生、又は解決した場合
平成バツバツ年4月バツ日、本学園を被告とし、三角三角社からバツバツバツ円の賠償請求を受ける丸丸事件の訴訟が提起された。
ウ. 募集の停止又は再開
平成バツバツ年5月バツ日の理事会において、新年度より丸丸学校の募集を停止することを決定した。

その他考えられる注記項目
Q30 その他考えられる注記項目はどのようなものですか。
A  その他考えられる注記項目として、事例を示すと以下のとおりである。
(1) その他の重要な会計方針
1  減価償却の方法等について
   減価償却の方法については、基準第26条において、減価償却の方法は定額法と定められており、その他の方法の選択はできない。一方、減価償却額の計算の構成要素である耐用年数については、学校法人が自主的に決定している場合のほか、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(財務省令)による場合又は学校法人委員会第28号「学校法人の減価償却に関する監査上の取扱い」(昭和56年1月14日、改正平成13年5月14日)に掲げる「固定資産の耐用年数表」によっている場合も妥当な処理として認められている。さらに残存価額を零として行った場合であっても、妥当な処理として認められている。したがって耐用年数等の相違によって、その減価償却額の金額が異なり、消費収支計算に影響を及ぼすと判断される場合には、どのように算定しているかを注記することが望ましい。

【記載例】
 残存価額を零とする定額法による減価償却を実施している。
 耐用年数は学校法人委員会報告第28号による耐用年数を採用しており、主な耐用年数は以下のとおりである。
建物 50年
構築物 15年
機器備品 10年

2  減価償却資産の計上基準について
  基準では減価償却資産の計上基準について何ら規定しておらず、また各都道府県によっては計上基準について定めている場合もあるが、その設定金額の範囲は一定ではない。しかし、減価償却資産は基本金の設定対象となり消費収支差額に影響を及ぼすと判断されるので、当該計上基準を注記することが考えられる。

【記載例】
 取得日後1年を超えて使用する有形固定資産(土地、建設仮勘定、図書を除く。)のうち、1個又は1組の金額が10万円以上のものを減価償却資産として計上している。ただし、学生生徒が使用する机、椅子等は少額重要資産として金額の多寡に関わらず教育研究用機器備品に計上している。

(2) その他財政及び経営の状況を正確に判断するために必要な事項
1  退職年金制度について
   退職給与引当金に記載した退職金制度とは別に退職年金制度に加入している場合には、その制度の概要、年金資産額、退職給付債務(又は年金財政計算上の責任準備金)の額等を注記することが考えられる。

2  継続企業の前提について
   いわゆる「継続企業の前提」については、従来、学校法人では該当事例がほとんどなく開示の慣行も成熟していない。また、どのような状態が、いわゆる「継続企業の前提」に重要な疑義を抱かせる場合に該当するのか詳細な検討が行われていない。しかし、学校法人がいわゆる「継続企業の前提」に重要な疑義を抱かせる場合に該当しているという状況を自ら認識し、何らかの対策等を自主的に行っている場合には、自主的に講じている対策等を注記することが望まれる。

適用初年度の留意事項
Q31 適用初年度に留意しなければならないことはありますか。
A  適用初年度となる平成17年度の計算書類に「会計処理及び表示方法の変更」の注記が必要であり、基準の改正に伴い、当会計年度から改正後の基準によっている旨を必ず記載する。また、基準の改正に伴い従来と同一の方法によった場合と比較して変更による影響額を記載する。なお、変更による影響がない場合にも影響がない旨の記載を要する。

【記載例】
 (会計処理及び表示方法の変更)
 「学校法人会計基準」(昭和46年文部省令第18号)の改正に伴い、当会計年度から改正後の基準によっている。なお、この変更により、従来と同一の方法によった場合と比較して基本金組入額がバツバツ円増加し、当年度消費収入超過額が同額減少している。また、基本金取崩額が丸丸円増加している。
  以上

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-- 登録:平成21年以前 --