国際バカロレア日本アドバイザリー委員会報告書 ~国際バカロレアの日本における導入推進に向けた提言~

2014 年4月
国際バカロレア日本アドバイザリー委員会

1.はじめに

近年、日本においては、少子化等の様々な課題に直面する一方、社会の多様な場面でグローバル化がますます進行する中、日本が引き続き発展を遂げ、未来を切り拓いていく上で、それを支える人材の育成、特に、グローバル化した社会で活躍できるよう、豊かなコミュニケーション能力と異文化への理解、そして自ら課題を発見し、解決する能力を有する人材の育成が以前にも増して重要であるとの認識が共有されつつある。
こうした素養・能力を育成するため有益なツールとして、世界では、国際バカロレア(IB)の教育プログラムが高く評価、活用されてきており、2014年3月現在、IBは、147カ国、3,700以上の学校で導入され、117万人の生徒が学んでいる。

IBは、国際バカロレア機構(本部:ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラムであり、全人教育を通じて、主体性を持ちバランス感覚に優れた、国際社会で貢献できる人材の育成を目的としている。
IBのプログラムには、現在、生徒の年齢に応じて4つのプログラム(※1)があり、このうち高校相当のディプロマ・プログラム(DP)は、2年間のカリキュラムを履修し、国際バカロレア機構が実施する世界統一の試験を経て所定の成績を収めると、国際的に通用する大学入学資格(IB資格)が取得可能である。このIB資格とその成績結果(スコア)は、海外の大学入試等において広く活用されている。

このような中、日本においても、グローバル化等に対応した人材力強化の観点から、「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」(2013年6月閣議決定)において、2018年までに国際バカロレア(DP)認定校等を200校にまで大幅に増加させる目標が掲げられた。現在、日本におけるIBの導入拡大に向けて、文部科学省及び国際バカロレア機構の協力により、「日本語DP」(Dual Language IB Diploma Programme: English-Japanese)(※2)の開発が進められているなど、様々な取組が実施されているところである。

しかしながら、日本におけるIBの導入拡大に向けては、IB導入校に対する様々な支援はもとより、日本の大学入試におけるIBの活用など、文部科学省や国際バカロレア機構等が更に取り組むべき様々な課題が存在するのが現状である。
このような状況において、本委員会(委員長:藤崎一郎上智大学特別招聘教授/前駐米大使)は、高校、大学及び産業界のリーダー等の方々の幅広い参加を得て(※3)、日本におけるIBの導入拡大に向けた課題とその対応方策について検討を行うべく2013年7月に発足し、これまで、これらの関係者等からの意見聴取を含め、議論を積み重ねてきた。
本報告書は、これらの議論を踏まえ、文部科学省及び国際バカロレア機構をはじめとする関係機関が取り組むべき課題とその対応方策ついて提言を行うべく、取りまとめたものである。

2.本委員会の趣旨、議論の経過等

  1. 本委員会の趣旨等
    本委員会の開催に当たり、委員会の趣旨及びIBの概況等について、以下の発言や説明等があった。

    (1)冒頭、下村文部科学大臣より、本委員会に対する期待について要旨以下のとおり発言があった。
    ・ IBは、これからの我が国を支えるグローバル人材育成の観点から非常に優れたプログラムであり、教育再生実行会議の提言を経て、「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」(2013年6月閣議決定)において、IB認定校等を2018年までに200校に増加させる目標が明記された。
    ・ 政府では、スピード感を持って、しかし拙速に陥ることなくグローバル人材育成を図っていきたいと考えている。IB普及に向けた課題としては教員確保や大学入試での活用等が考えられるが、こうした課題を含め、本委員会には、幅広い立場から忌憚のない議論を頂き、提言の取りまとめをお願いしたい。

    (2)文部科学省 山中事務次官からは、要旨以下のとおり発言があった。
    ・ 高校教育の改革やグローバル化への対応など、日本の教育をこれからの時代に合ったものにするため、IBを積極的に導入していきたいと考えている。そのため、国際バカロレア機構と協力して「日本語DP」の開発も進めている。
    ・ IB普及に向けた課題として、まず、高校や教育委員会、更には大学関係者にIBを十分理解してもらうことが重要である。
    ・ 特に、IBを履修した生徒に一般の大学入試を課すことは、そもそも高校教育をより良いものに変えていくためにIBを導入するにもかかわらず、結局、生徒にこれまでと同じことを強いることになり、生徒の負担も大きい。このため、日本の大学にも、IBを活用した入試を導入してもらえるような努力が必要と考えている。その他、カリキュラムや教員確保の問題もあるが、本委員会の議論を踏まえ、文部科学省としてもしっかり取り組んでいきたい。

    (3)各委員からは、所属組織においてどのような形で教育のグローバル化に取り組んでいるか等について発言があった。

    (4)藤崎委員長からは、要旨以下のとおり発言があった。
    ・ IB導入の目標は、生徒の進路を広げることにあり、生徒に過大な負担となったり、進路を狭めたりすることにならないよう検討していきたい。
    ・ 本委員会で提起される諸点については、IBに関する技術的事項のみならず、文部科学省も協力しつつ制度・政策的事項も含めたQ&Aを作成し、関係者に広く共有することにより、導入に当たり不明な点を減らすようにしていきたい。(※本委員会における指摘等を踏まえ事務局にて作成したQ&Aについて、参考資料として別添)

    (5)IBの概況等に関し、国際バカロレア機構及び文部科学省より、IBの概要やその導入拡大に向けた取組状況等について、また、大迫委員(リンデンホールスクール中高学部校長/広島女学院IB調査研究室長)より、IBの評価システムや卒業後の進路等について、それぞれ説明が行われた。

  2. 本委員会の議論の経過等
    本委員会では、1.の発言や説明等を踏まえつつ、高校、大学、産業界の関係者等から順次説明を聴取し、意見交換を行った。

    (1)IBを導入する側の高校からは、実際にIBを取り入れている学校として、出口委員(東京学芸大学附属国際中等教育学校校長(当時)。2014年4月からは東京学芸大学学長)及び立命館宇治高等学校・東谷教頭(ゲスト)から、その実施状況や、導入に当たっての課題等について発表があり、意見交換を行った。

    (2)以上の発表や意見交換等を通じて挙げられた課題は、大きく以下の3点に集約される。なお、課題のとりまとめに当たっては、現在、IB導入に関心を有する自治体からの意見も参考にした。
    [1]学校教育法第一条に定める「学校」(いわゆる「一条校」)がIBを導入する場合、IBのカリキュラムと学習指導要領との関係が課題となる。これらを同時に満たす上で、生徒にとって過度の負担とならないよう、特に学習指導要領上の必修科目を含め、どのように読替えが可能か、また、その読替えを誰が判断するのか、などの点が提起された。
    [2]「日本語DP」を導入した場合でも、一部の科目は引き続き英語で実施する必要があるため、当該科目等について英語で指導可能な教員を安定的に確保する必要がある。これに関し、海外から外国人教員を招聘する際の教員免許状の授与に関しては、免許管理者である都道府県教育委員会ごとに対応が異なり、免許状取得が容易でない場合が多く、改善が望まれるとの指摘があった。また、IB導入に関心を有する自治体関係者からは、外国人教員確保のノウハウやネットワークに乏しいことから、そのための支援等が必要との指摘があった。
    このほか、IBの導入は高校にとり資金面での負担が大きいが、高校の一部のコースでIBを導入する場合、必ずしも全ての生徒が裨益するわけではないので、理事会、父兄会の理解を得ていくためには、教員の確保や運営面等に関する財政面の支援も課題である旨の指摘があった。
    [3]日本のIB生の進学先については、今後、「日本語DP」の導入等によりIB校が増加するにつれて、海外の大学だけでなく、国内の大学への進学を希望する傾向もますます強くなることが想定される。また、海外の大学への進学に当たっては、国内の大学に比して高額な費用負担が発生するなどにより、生徒等にとっては必ずしも容易でない場合がある点についても留意する必要がある。こうした状況から、IB生の進路に関わる切実な課題として、これまで国内大学入試におけるIB資格やそのスコアの活用が進んでいない現状について多くの委員から提起があった。また、これに関連し、大学の受入れ目標についても考えるべきである等の指摘もあった。
    なお、「日本語DP」との関連で、海外の大学で本当に受け入れられるのか等の指摘があったが、これに対しては、国際バカロレア機構より、IBでは、「日本語DP」を含め、どの言語を用いて履修したかにかかわらず、そのカリキュラムや試験内容は世界共通のものが適用されることになっており、成績証明としてのIBのスコアそのものも、基本的に同等に扱われる旨の説明があった。
     
    (3)こうした議論を踏まえ、本委員会では、特に上記[3]の国内大学入試においてIBの活用が進んでいない現状等に関して、多くの時間を割いて意見交換等を行った。具体的には、以下のとおりである。
    ・文部科学省より、海外の大学入試においてIBが積極的に活用されている状況やその活用方法の概要、国内の大学入試における現状について説明があったほか、国際バカロレア機構より、同機構が米国のIB生を対象に実施した調査結果として、IB生の米国の有力大学等における合格率は、当該大学における全体の合格率と比べ、全体的に高い値を示している等のデータ(※4)について紹介があった。
    ・ゲストとして、英国のIB校を卒業した日本人の経験者や、同じく別の英国のIB校を卒業した経験者の保護者を招き、それぞれのIBに関する経験や、それがどのように大学への進路決定や現在のキャリアに生かされているか等について聴取した。
    ・山本委員(大阪大学教授)からは、既に国内でIBを活用した入試を実施している大学としての経験等に基づき、IBを活用した入学者選抜のプロセスや、学内でIB生が高く評価されている状況について説明があった。
    ・教育再生実行会議の委員でもある大竹委員(Aflac創業者・最高顧問)から、企業経営者の視点から見たIBへの期待とともに、大学入学者選抜等の在り方に関する同会議の検討に際し、同委員より日本の大学入試においてもIBの積極的な活用を図るべきであるとの意見を具申している旨の紹介があった。
    なお、その後、教育再生実行会議において、2013年9月に第4次提言「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」が取りまとめられ、その中で、大学入試におけるIBの活用について以下のとおり明記されるに至っている。
    「大学は、入学者選抜において国際バカロレア資格及びその成績の積極的な活用を図る。国は、そのために必要な支援を行うとともに、各大学の判断による活用を促進する。」

    (4)産業界からは、田中委員(住友商事理事)及び田宮委員(日本経済団体連合会/日立製作所 人財統括本部人事教育部長)より、企業から見たIBの導入拡大に向けた期待等について発表があった。なお、田宮委員よりは、IBを含むグローバル人材の育成に関する日本経済団体連合会の提言「『世界を舞台に活躍できる人づくりのために』―グローバル人材の育成に向けたフォローアップ提言―」(2013年6月)についても紹介があった。
    さらに、天外委員(元ソニー上席常務、工学博士)より、将来産業界で活躍できるような人材を大学で幅広く受け入れる観点からは、従来型の入試だけでなく、IBの成績について、より積極的な活用を図っていくべきとの意見が出された。

    (5)また、藤崎委員長からは、2013年9月に米国及び欧州を訪問した際に、国際バカロレア機構ハーグ本部事務所(オランダ)、同機構米州地区事務所(米国)、オランダ及びスペインのIB認定校、更には米国の大学(ジョージタウン大学)において関係者との意見交換等を行った旨とその概要について報告が行われた。

    (6)本委員会における議論を通じて、日本においてIBの導入を図ることは、次のような意義を有することについて認識が共有された。
    [1]IBは、双方向・協働型の学習が主体であるなどの特徴により、生徒に知識を学ばせるのみならず、課題発見・解決能力、論理的思考力、コミュニケーション能力などを育成する上でも優れたプログラムであり、また、英語能力の向上につながること。
    [2]IBは、その世界に通用する大学入学資格、成績証明書としての特徴により、海外の大学進学への敷居を下げる効果もあり、生徒の進路の多様化に資すること。
    [3]さらに、IB導入に伴う日本の教育全体への波及効果として、教育の国際化のほか、初等中等教育改革(教員による一斉指導型の授業から、双方向・協働型の授業への変革など)や大学教育改革(IBの学びを経験した学生を適切に評価することにより、多様な人材を確保し、大学の活性化に資するなど)への寄与も期待できること。

    (7)その上で、本委員会としては、日本におけるIBの円滑かつ持続可能な導入拡大に向けては、IBに関心を有する学校や自治体等のニーズにも十分配慮しつつ、(2)[1]~[3]で挙げられた課題に対応していくことが重要との認識で一致した。
    本委員会の議論の結果、関係機関において取り組むべき今後の対応方策については、以下Ⅲ.で述べる。

3.今後の対応方策

本委員会の議論を通じて示された課題に関し、今後、文部科学省や国際バカロレア機構等が中心となって取り組むべき対応方策は、以下のとおりである。
なお、本委員会の議論の過程で、文部科学省及び国際バカロレア機構よりIB導入校に対する支援等を含めた具体的な対応方策について、大学の委員より、入試におけるIBの活用やIB教員養成課程の設置について、それぞれ新たな方針の表明や現在の取組に関する説明等が行われ、現在、実行に移されつつあるものもあるが、これらについても以下に述べる。

  1. IB導入校に対する支援等
    (1)IBのカリキュラムと学習指導要領との対応関係
    IBの科目と学習指導要領の科目については、これまで各学校で必要な読替え等の対応が行われてきたところであるが、IBの導入推進に向けては、国がこれらの対応関係について整理を行い、一定の考え方を示すことが重要である。
    これに関しては、本委員会において、文部科学省から、国際バカロレア機構よりIBのカリキュラムについて必要な情報提供を受け、その対応関係について整理を進め、それが済み次第、結果を高校等に周知していきたいとの方針が示された。
    現在、文部科学省においては、IBの科目と学習指導要領の科目との対応関係について整理作業を行っているところであり、今後速やかに整理作業を終え必要な対応を検討し、一定の考え方を示すこととしている。

    (2)外国人指導者に対する教員免許状の円滑な授与
    IBのために招聘する外国人指導者に対する教員免許状(特別免許状等)の授与に関しては、本委員会において、文部科学省から、その円滑化に向けて、各都道府県教育委員会に対し、一定の指針(ガイドライン)を提示するよう検討していきたいとの方針が示された。
    このため、まず、文部科学省から各都道府県教育委員会に対し、2013年12月の通知において、各学校において外国人等を教員として受け入れ、登用していくことができるよう、各都道府県教育委員会において特別免許状の授与に関する適切な審査基準を定め、積極的にその授与を行うよう要請が行われたところである。現在、文部科学省において、特別免許状の授与に係る都道府県教育委員会の現状を把握するとともに、特別免許状の授与に係る指針の検討が進められている。

    (3)国内におけるIB教員養成等の充実
    IBに対応可能な教員を確保するためには、国内においてIB教員の養成、再研修を行うための十分な体制整備等を図っていくことも重要である。
    これに関しては、本委員会において、文部科学省と国際バカロレア機構から、これまで国内においてIB教員養成を行うためのワークショップ等を随時開催してきているが、今後も、IBの導入に関心を有する学校や自治体等のニーズを踏まえつつ、こうしたワークショップ等を積極的に開催していきたいとの方針が示された。また、玉川大学・江里口准教授(高橋委員代理)から、国際バカロレア機構の認定の下、IB教員やIB研究者としての資格が取得できる「IB研究コース」を2014年4月に大学院修士課程に開設するとの説明が行われ、さらに、永田委員(筑波大学学長)、藤井委員(東京学芸大学理事・副学長(当時))からも、それぞれ、IB教員養成課程の設置について今後検討していきたい旨の説明が行われた。
    今後、こうしたワークショップやIB教員養成課程の設置などを通じ、日本におけるIB教員の養成、再研修に関する体制整備等が一層図られることが期待される。
    なお、ワークショップに関しては、学校や自治体からは、東京以外の地域におけるワークショップや、DP導入の基盤となるMYPやPYPに関するワークショップについても定期的な開催の要望があり、国際バカロレア機構と文部科学省が連携して積極的に対応を図ることが望まれる。また、学校や自治体においては、IB導入校がIB導入を目指す学校の教員を受け入れ、これらの学校が連携して人材養成を図ることや、海外姉妹都市・姉妹校への教員派遣を通じた再研修などの取組も進められつつあり、こうした取組について、その促進や情報共有を図っていくことも有効である。

    (4)その他IB導入校に対する支援等
    以上のほか、自治体や学校においては、外国人教員確保に向けた体制整備や教員確保等に関し、資金面での負担が大きいことやノウハウ等に乏しいことなどについても提起されており、今後の課題として、これらに対してどのような対応が可能かについて文部科学省等において必要な検討を行っていくことも重要である。
     
  2. 国内大学入試におけるIBの活用
    国内大学入試におけるIBの活用は、IB生の進路に関わる切実な問題として、本委員会で最も多くの時間を割いて議論が行われた事項であるが、その促進に向けた考え方と大学における現在の取組状況等は、以下のとおりである。

    (1)国内大学入試におけるIBの活用促進に向けた考え方
    [1]海外の大学入試等における活用状況
    英国の大学では、中央機関等がIBや英国の共通試験であるAレベル等のスコアの統一的な換算表を作成し、各大学がIBスコアを入学オファー等の目安に活用している(※5)。一方、米国の大学では、共通試験(SAT等)や高校の成績等を総合的に評価して入学者選抜を行っているが、選抜性の高い大学等において、IBの履修を推奨又は積極的に考慮するケースも多く見られる。なお、米国の大学等において、例えばIBの上級レベル科目(HL)において高得点を取得した生徒に対して、当該科目に相当する一部科目について、入学後の履修免除(単位認定)等の特典を付与するケースも多く見られる(※6)。
    [2]日本における活用促進に向けた考え方
    一方、これまで日本でIBを活用した入試を行っている大学では、   AO入試や特別入試等の一環として、IBスコアを勘案する例が一般的である。
    こうした現状を踏まえると、いわゆる換算表については今後の検討課題としつつ、当面は、各大学のアドミッション・ポリシー(入学者受入方針)に基づき、いわゆる「IB枠」の設定を含め、IBの積極的な評価、活用を促していくことから始めることが現実的と考えられる。
    これに関しては、本委員会において、文部科学省から、こうした活用に向けた動きを促進するため、様々な機会を通じて大学に対する働き掛けを行っているところであり、引き続き、この取組を推進していきたいとの方針が示された。
    また、文部科学省から、日本の高等教育の国際競争力の向上を目的に、2014年度より「スーパーグローバル大学創成支援」として、海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進める、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学に対し重点支援を行うこととしているが、本事業において、大学入試でのIBの活用等も促進していきたいとの方針が示された。
    [3]活用を進めるに当たっての留意点
    日本でIBの導入が進み、2018年にIB認定校等(一部候補校を含む。)が200校に達した場合、各学校の1学年当たりのIBコースの履修生を仮に25名程度と見積もっても、2018~20年頃(※7)には、計算上、最低でも毎年5千名以上が日本のIB校から輩出され得るようになる。このうち、海外進学する生徒の割合等について一概に予測することは困難であるが、相当数が国内大学への進学を希望することになると考えられる。IBを活用した入試の促進に当たっては、今後、こうした点なども十分念頭に置きつつ、その進捗状況等に応じて、一定の規模感を持って対応していくことが重要である。
    なお、これに関連し、IBを活用した入試を導入する予定の大学(以下(2)参照)の一部委員から、IB認定校等が今後増加していくに伴って、学部ごとの「IB枠」の募集人数を、必要に応じ、更に拡充することなども検討する可能性について言及がなされた。
    [4]IBスコアに係る仕組みや具体的な活用方法に関する情報提供
    各大学がIBの活用について検討する上では、客観性・透明性の高いIBスコアの特徴や、IBスコアそれ自体が基礎学力を有することの証明となることを、海外大学におけるIBの活用事例も示しつつ、分かりやすく説明していくことが重要である。
    これに関しては、国際バカロレア機構及び文部科学省により、2014年3月に、海外の大学の入試関係者等を招いて、日本の大学の入試関係者等を対象とした「国際バカロレア 大学入試活用セミナー」が開催されたところであるが、引き続き、このような各大学に対する情報提供等に努めていくことが求められる。

    ※予測スコアの活用方法について
    海外の大学においては、IBの最終スコアが確定する時期(※8)より前に、高校等から提出される「予測スコア」を用いて審査を進め、必要に応じ「条件付き合格」を出し、最終スコアの確定をもって最終的に合否決定を行う方法が一般的である。さらに、具体的なスコアの活用に関しては、海外の大学では、特に自然科学系の学部学科等を中心に、生徒に求められる全体スコアのレベルを設定することはもとより、生徒が、6つの選択科目中どの科目を上級レベル科目(HL)として選択しているか(※9)、また、そのスコアはどうかについても一定の基準等を設定しているケースも多い(例えば、大学の物理学科において、生徒が6つの選択科目のうち、少なくとも「数学」と「物理」を上級レベル科目として選択していることを求めるとともに、これらの科目ごとに必要なスコアのレベルも設定するケースなど)。
    このように、全体のスコアに加え、特に自然科学系の学部学科等を中心に、当該学部学科等に応じた専門分野の観点から、上級レベル科目(HL)についても注意を払うことは、日本の大学がIBのスコアを入試で活用するに当たっても非常に有効であり、文部科学省及び国際バカロレア機構において、こうした留意点等についても周知に努めていくことが重要である。

    (2) 最近の大学入試における活用の動き
    これまで日本において、IBスコア等を活用した入試は、玉川大学、大阪大学、早稲田大学、上智大学等のいくつかの大学で行われていたが、本委員会の議論の過程で、昨年末以降も、慶應義塾大学、筑波大学、東京大学、京都大学、上智大学、大阪大学から、IBを活用した入試を新たに導入又は拡大する方針等が以下のとおり示された(※10)。
    【慶應義塾大学 帰国生・IB入試】
    2014年9月入試より、法学部において実施予定。また、総合政策学部、環境情報学部においても調整を開始。
    【筑波大学 国際バカロレア特別入試】
    2014年10月のアドミッションセンター入試及び国際科学オリンピック特別入試と同時期に、全ての学群・学類において実施予定。
    【東京大学 推薦入試】
    2016年度より導入する推薦入試の概要(2014年1月公表)において、学部ごとに「求める学生像」と推薦要件等を設定。この中で、推薦要件に合致することを具体的に証明する根拠となる書類の例として、IBの成績証明を示している学部(法学部、教養学部)もある。
    【京都大学 特色入試】
    2016年度より導入する特色入試の概要(2014年3月公表)において、基本方針の中で、高校での学修における行動や成果の判定等を行うに際して提出書類の中に記載すべき高校在学中の顕著な活動歴の例として、IBの成績も明記。
    【上智大学】
    2016年度より、これまでの国際教養学部、理工学部英語コース(物質生命理工学科グリーンサイエンスコース、機能創造理工学科グリーンエンジニアリングコース)に加え、全ての学部において実施予定。
    【大阪大学】
    グローバルアドミッションズオフィス(GAO)入試において、2017年度より、現在一部の学部のコースで行われているIBを活用した入試を、全ての学部に拡大して実施予定。

    こうした大学の動きは、日本におけるIBの導入拡大の観点から特筆すべき進展として評価できるものである。特に、筑波大学、上智大学及び大阪大学の方針は、これまでの玉川大学に引き続き、多分野にわたる学部等の全てにおいて、全学的にIBを活用した入試を導入しようとするものであり、大きな決定として注目に値する。
    さらに、他のいくつかの大学においても、IBの活用の在り方について活発な議論等が行われているところであり、今後、以上の2.(1)「国内大学入試におけるIBの活用促進に向けた考え方」で示した取組等を通じて、国内大学入試におけるIBの活用の動きが更に拡大していくことが強く期待される。

  3. IBに関する適切な情報提供・発信
    IBについては、近年、日本において、以前と比べ大きな注目を集めるようになってきているが、IBの導入拡大を図っていくためには、IBに関する技術的事項のみならず制度・政策的事項も含めたQ&Aの作成、共有を含め、学校関係者等への分かりやすい情報提供を行うとともに、一般へのIBに対する理解・関心の幅広い喚起にも、更に取り組んでいくことが重要である。
    これに関しては、文部科学省から、2013年末以降、ソーシャルメデイアなどを通じて、IBに関する国内のシンポジウムやイベント等の告知のほか、文部科学省の取組や大学入試を含む関係機関の動向紹介をはじめとする独自の情報発信を行う体制を整備した旨の紹介があった(※11)。また、国際バカロレア機構のホームページにおいても、2013年から、IBに関する一部の情報について日本語ウェブサイト(※12)が開設されているが、関係者が更に利用しやすいものとなるよう、一層の充実が望まれる。
    さらに、文部科学省及び国際バカロレア機構からは、最近も、地域におけるIB導入の意義を広く市民一般に紹介するシンポジウムや大学等の関係者向けセミナーの開催、文部科学省と日本経済団体連合会が協力して官民が連携した形での広報、日本のオピニオンリーダーに向けたIBに関する情報提供の場の設定など、様々な広報イベントの実施や協力を進めている旨の紹介があった。
    今後も、関係機関が連携して、こうした取組を効果的・継続的に実施していくことも重要である。

4.おわりに

 グローバル化等が進行する中で、日本が引き続き発展を遂げ、未来を切り拓いていくためには、それを担う人材の育成が重要であり、IBは、そのための非常に有益なツールとなり得るものである。
 日本におけるIBの導入拡大に向けては、これまで述べたとおり、様々な取り組むべき課題があるが、本委員会での議論の過程で、文部科学省、国際バカロレア機構等の関係機関により、既にいくつかの具体的な取組が、着手可能なものから順次実行に移されつつある。
 特に、昨年末以降、国内の大学入試においてIBの活用の動きが以前にも増して広がりつつあることは、IB普及に向けた大きな一歩として特筆に値する。
 また、最近、各自治体において公立学校での導入機運が急速に高まってきていることも注目に値する。具体的には、東京都が都立国際高等学校、札幌市が市立札幌開成中等教育学校でそれぞれIBを導入する方針を決定している。また、現在、佐賀県、滋賀県、京都府、北海道などにおいて具体的な検討が行われつつあるとともに、大阪府・市も、国家戦略特区による公設民営学校の導入検討の中でIB校の開設の可能性を視野に入れているなど、いくつかの自治体において動きが相次いできている。
 本報告書では、IBの導入拡大に向けて取り組むべき課題とその対応方策について提言を行ったが、日本政府が掲げている目標の実現、すなわち2018年までにIB認定校等を200校に増加させるためには、関係機関において、本提言に沿った取組の実施及びその進捗についての不断のフォローアップとともに、IB導入に関心を有する自治体や学校のニーズにも十分配慮しつつ、必要に応じ取組の更なる充実に努めていくことが重要である。
 最後に、本委員会として、文部科学省及び国際バカロレア機構等において、本報告書の提言の実現に向け全力を挙げて取り組むことを要望するとともに、本報告書の内容が、IB導入の可能性について検討している多くの自治体や学校にとって、IB導入の意思決定を行う際の後押しとなることを強く期待するものである。

 

(※1)IBには、3-12歳を対象とするプライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)、11-16歳を対象とするミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)並びに16-19歳を対象とするディプロマ・プログラム(DP)及びキャリア・プログラム(IBCC)がある。このうちDPは、国際的に通用する大学入学資格が取得可能なプログラムであり、IBCCは、主に就職や専門学校進学を目指す生徒のための、社会に出て役立つスキルを習得させるプログラム。
(※2)DPのカリキュラムは、これまで原則として英語、フランス語又はスペイン語で実施する必要があったが、それを一部日本語でも実施可能とするプログラム。
(※3)アドバイザリー委員会の構成員リストは、添付の参考資料を参照。
(※4)The IB diploma graduate destinations survey 2011, Country report, United States of America, 2012によると、例えば、2011年に米国のIB校を卒業した生徒のアイビーリーグ(プリンストン大、イェール大、ブラウン大、ハーバード大、コロンビア大、コーネル大、ダートマス大、ペンシルバニア大)における合格率は、当該大学における全体の合格率と比べて3~13%ポイント高くなっている。なお、本調査結果は、国際バカロレア機構の以下HPアドレスから入手可能。
    http://www.ibo.org/iba/commoncore/documents/GlobalDPDestinationSurveyUS.pdf
(※5)例えば、オックスフォード大学では、入学オファーの対象となり得るIBスコアの目安を38~40点以上としている。
(※6)例えば、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)では、IBの上級レベル科目(HL)のスコアが7点満点中5点以上の場合、当該科目に相当する科目について単位が与えられる(学部学科等により異なる)。
(※7)IBの候補校申請を行った学校が認定校となるには、通常1年半~2年程度を要する。
(※8)高校3年次の11月に最終試験が行われる日本の一条校の場合、最終スコアが出るのは翌年の1月5日になる。
(※9)DPでは、6つの選択科目のうち、3~4科目を上級レベル科目(HL)として、2~3科目を標準レベル科目(SL)として、それぞれ選択する必要がある。
(※10)IBを活用した入試であって、日本の高校等に在籍している者を対象としたもの(例)については、添付の参考資料を参照。
(※11)文部科学省国際バカロレア普及拡大広報ページ(https://www.facebook.com/mextib)
(※12) IB Japan Information eGateway(http://www.ibo.org/ibap/schoolservices/ibjapangateway.cfm)

お問合せ先

大臣官房国際課国際協力企画室

電話番号:03-5253-4111(内線3222)

-- 登録:平成27年06月 --