はじめに

 1957年、世界初となる人工衛星「スプートニク1号」が打ち上げられた。それから半世紀、我々人類の宇宙開発は急速な進歩を遂げている。気象衛星、通信・放送衛星、測位衛星による全地球測位システム(GPS)などは、宇宙空間を活用した社会基盤として我々の生活に欠くことができないものとなっている。
 また、科学観測を目的にした探査機は、地球近傍から内、外惑星、さらには遠く太陽系の外までその活動域を広げ、未知のフロンティアたる宇宙への挑戦を行っており、我々の宇宙に対する理解は著しく進んできている。

 我が国の宇宙開発は、スプートニクの2年前、糸川博士によるペンシルロケットの水平発射実験の成功から始まった。その後「おおすみ」の打上げ成功により世界で四番目の人工衛星打上げ国となるなど、90年代前半にかけて、順調な進展を遂げた。
 しかしながら、90年代後半に入って、打上げの失敗や衛星の不具合などが相次ぎ、2003年には、H−2Aロケット6号機の打上げ失敗や「みどり2」の運用停止などが重なり、これまでの取組の総点検を余儀なくされる事態に直面することとなった。その後、信頼性の向上を中心に、我が国の宇宙開発を立て直すための取組が進められた結果、2005年の打上げ再開からこれまでにH−2Aロケット7機、ミューファイブロケット3機の連続成功を達成するに至っている。勿論、この連続成功をもって、技術基盤が薄いという我が国の宇宙開発が抱える構造上の問題が十全に克服されたということではなく、今後とも引き続き、技術基盤の強化などの諸課題に対応し、改善へ向けた取組を不断に積み重ねていく必要がある。しかしながら、立て直しに向けて関係者が一丸となって努力してきたことにより、我が国の宇宙開発は、再び着実な発展への軌道に立ち戻ることができたと言えよう。
 このような状況の下で、現在の我が国の宇宙開発に求められているのは、宇宙開発の成果の社会への還元、すなわち、“人々の役に立つ宇宙開発”ということである。宇宙開発は、現状でも、様々なところで人々の役に立っているが、宇宙開発の持つ力からすれば、ごく一部を具現化しているにすぎない。宇宙開発は、さらに人々の役に立つことができる力を持っているはずである。
 これまで、我が国の宇宙開発においては、成果の社会への還元が必ずしも十分でない面があった。幸いにして、これまでの開発努力の積み重ねの結果、技術基盤が薄いという弱点を抱えつつも、世界に比肩する技術を手にするに至っている。今後は、これまでに培った技術をもって宇宙開発の潜在力を最大限に引き出し、より多様な場面で人々の役に立つようにしていくことが必要である。また、我が国の宇宙産業等の技術力及び国際競争力の強化を通じて、産業の振興に資していくことが必要である。

 一方、スプートニクから半世紀を経た今日、米国の新宇宙探査ビジョンを契機に、各国が協力して宇宙探査に乗り出そうという壮大な構想について議論がなされるなど、宇宙探査に対する国際的な動きが活発化しつつある。我が国においても、平成19年9月にアポロ計画以来の本格的な月探査計画となる月周回衛星「かぐや」を打ち上げ、月の起源等に迫る成果や、将来の月面活動等に必要な地形・表層・構造等のデータの取得が期待されている。宇宙探査の進展によって、「我々はどこから来て、どこへ行くのか」といった人類の根源的な問に対する答えの鍵となる成果や、新たな経済機会の創出、さらには人間の活動域の拡大がもたらされるかもしれない。
 宇宙探査は、宇宙開発の本質ともいえる未知のフロンティアへの挑戦という要素を最も色濃く内包するものであって、人類の宇宙開発は、これを駆動力に進歩、発展してきたと言っても過言ではない。今後、世界が協調して、あるいは競争して、宇宙探査に精力的に乗り出そうとするような状況が予想されるが、そうなれば、それを駆動力に、人類の宇宙開発は、もう一段の飛躍を遂げることが考えられる。世界の宇宙開発の中において、一つの極としてその発展に役割を果たしてきた我が国が、引き続き一定の役割を果たし、存在感を保っていくためには、このような大きな飛躍へ向けての胎動の音を聞き逃すことなく、世界の中でどのような活動を展開していくかを戦略的に検討すべき期にある。
 本計画は、上に述べたような国内外の状況に対する認識を念頭に置いた上で、今後20年〜30年の将来の我が国の宇宙開発利用の在り方を展望しつつ、10年程度の期間を対象とし、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下、「機構」という。)が果たすべき役割について検討を行ったものである。
 今後、この計画に基づいて宇宙開発利用の取組を進めることにより、国民に夢と希望を与えるとともに、社会に恩恵をもたらし、国民生活をより豊かにすることが期待される。

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