付録3
平成20年2月12日
宇宙航空研究開発機構
本資料は、平成20年1月15日に開催された第1回推進部会における水星探査計画(BepiColombo(ベッピコロンボ))プロジェクトの説明に対する構成員からの質問に対し、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))の回答をまとめたものである。
5−1 | 国内関係機関との間の作業体制 |
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MMO探査機の熱設計や個々の機器の熱の問題に関して詳しい説明がありました。MMO探査機全体としての熱環境試験については、どのような方針でおられるのでしょうか。P.43のスケジュール図から概略は読み取れますが、少し具体的な説明をお願いします(国内で行える試験内容、ESA(イサ)で行う試験内容、特に10 Solarへの対応、など)。
推進1−1−2 39ページ 43ページ
JAXA(ジャクサ)
MMOシステムとしての熱設計および熱制御系の確認と熱数学モデルの調整は,3つの試験によって確認をおこないます.
相模原の4メートルφ縦型スペースチャンバを用いておこなう.熱環境はヒータおよび赤外ランプを用いて模擬する.熱環境下での熱設計・熱制御系の確認,熱数学モデル(熱伝導および赤外輻射による熱伝達)の確認・調整が目的です.
筑波の13メートルφスペースチャンバにて模擬太陽光照射しておこなう.熱数学モデル(可視光による熱入力)の確認・調整が目的です.
ESTECの熱真空試験装置にて10ソーラの模擬太陽光を照射しておこなう.10ソーラの可視光熱入力に対して耐性をもつことを確認するのが主目的です.
なお,10ソーラ模擬太陽光照射装置の平行度が悪いため,MMOの熱設計・熱制御系の確認,熱数学モデルの確認・調整が難しいことと,装置は建設中であり「1,2を省略して3だけ」という方針はMMO開発スケジュールに合致しないので,上記1〜3をおこなう方針にしています.
MMOとサンシールドを組み合わせた熱平衡試験については,上記とは別にESTECの熱真空試験装置にて10ソーラの模擬太陽光を照射しておこなう予定です.
外部露出する材料やサブシステムについては,上記とあわせて,相模原の内惑星熱真空環境シミュレーター(10ソーラの模擬太陽光を照射できる)を用いて耐熱環境や熱設計の確認をおこないます.
MMO探査機の機能確認のための熱環境試験(総合試験の一環,熱真空試験)は相模原の4メートルφ縦型スペースチャンバでおこないます.
通常の衛星の場合、太陽電池の温度は最大でも100度を多少越える程度と思うが、この衛星の場合は200度になる由である。太陽電池そのものの温度耐性は確認済みの由であるが、セルの温度上昇に伴って接着剤の減量が大幅に増加し、発電量が大幅に低下するリスクはないか?また、衛星は水星の食に入ることがあるのではないかと思うが、その場合セルが100度の状態で日照に入ると高電圧が発生して、シュート発生ポテンシャルが高くなる等のリスクもあるのではないか?このような太陽電池アレーのシステムとしてのベリフィケーションは終了していますか?
推進1−1−2 33ページ
JAXA(ジャクサ)
太陽電池を張り付ける接着剤に関しては高温環境下で使用可能である物を選定し、発生ガス量に関しては、来年度に測定を行う予定です。更に、太陽電池と組み合わせて11ソーラーの光を当てる長時間の高温連続動作試験を予定しています。
また、日陰明けの低温時に太陽電池から200V(ボルト)以上の高電圧が発生する事は把握をしており、配線などその電圧に耐える設計を行っています。また、バス電源に関しては一次側電圧が120V(ボルト)以下になるまで動作を停止する設計としています。
高効率太陽電池に関して180〜200度のサイクル試験で異常がないことを確認したとありますが、この太陽電池はどのようなものでしょうか。本ミッションを目指して高温耐性があるものとして開発され、それが確認されたのでしょうか。
推進1−1−2 33ページ
JAXA(ジャクサ)
この太陽電池セルはMMO用に開発されたものではなく、NASDA(ナスダ)認定部品である「宇宙開発用信頼性保証高効率3接合型化合物太陽電池セル」(SHARP製)です。この太陽電池セルについては、MMOで要求されるHIHT(High Intensity High Temperature)環境での追加評価を中心に行っております。180〜200度のサイクル試験もその一環として行ったものです。
使用機器で輸入品を使用するアイテムはありますか?また主要パーツで輸入品を使用するものにはどのようなものがありますか?主なアイテムとその理由を示してください。
推進1−1−2 28ページ
JAXA(ジャクサ)
主な輸入品は以下に示すものがあります。
これらは、いずれも国内では製作されていないか、MMOで要求される高温環境に耐える類似の既開発品が国内には無いものです。選定に当たっては宇宙での使用実績のあるもの、宇宙用品の開発実績の十分にあるメーカーを選定しています。
国内の多くの研究機関が参加する計画となっていますが、衛星およびミッション機器開発段階ではどのような協力体制となっていますか?例えばあるミッション機器はある大学で開発を担当する等のケースはありますか?或いは設計会議に参加して要求仕様を共同で設定する、ミッション機器の性能評価を行う等、開発作業の一部に参加する形式ですか?或いは衛星開発全てをJAXA(ジャクサ)が実施すると言う体制ですか?具体的内容とその理由を説明して下さい。また製造メーカ体制はどのようになっていますか?衛星のAITは何処で行われますか?
運用段階ではデータバンクがJAXA(ジャクサ)宇宙科学本部内に構築されて、各機関の研究者がそのデータにアクセスし、課題ごとに研究会を開く方式と理解して宜しいですか?
推進1−1−2 48ページ
JAXA(ジャクサ)
ミッション機器は60〜63ページに示された各主任研究者及び参加している各大学・研究機関(64ページに記してあるMMO科学観測機器チーム、MPO科学観測機器チームの事です)が分担してその機器の開発を行っています。
費用分担は国内開発分に関してはその費用はJAXA(ジャクサ)が負担し、海外開発分はそれぞれの参加国で資金調達を行っています。
この開発体制をとっているのは、科学観測機器として最高の性能を出せる機器を開発するのにはこれがベストであるからです。
バス機器はJAXA(ジャクサ)主導の下にメーカーが設計・製造を行っています。
MMO単体としてのAITはJAXA(ジャクサ)で行い、それらが全部済みMMOとして完成した状態にした後にESA(イサ)/ESTECに輸送し、他のモジュールと結合して全体総合試験を行います。
MMO搭載科学観測機器を開発したチームはJAXA(ジャクサ)宇宙科学研究本部におかれるデータベースから生データを取得・処理し物理データに変換します。変換後の物理データはMMO、MPOの区別なくJAXA(ジャクサ)宇宙科学本部、ESA(イサ)の双方に全データがアーカイブされ、各機関の研究者はどちらかにアクセスしデータ解析を行う事になります。
課題ごとに研究会を開く方式ではなく、個々の研究者が興味を持った事象に関して他の研究者とメールや観測機器の班会を通して議論をしながら解析を進めていきます。
ESA(イサ)との共同で水星探査を行い、ESA(イサ)ミッションとの相乗効果で大きな成果を目指すことは非常に望ましい方法ではありますが、ESA(イサ)側が失敗したら日本のミッションも目的を達成出来ないことも事実です。ESA(イサ)側ミッションのリスクはどのように評価していますか?また、母船としての衛星バス、共同観測を行うミッション機器等に関しては、日本側としても設計審査等を通じてリスク評価を行い,場合によっては支援を行う等の計画、或いは可能性はありますか?
推進1−1−2 50ページ
JAXA(ジャクサ)
ESA(イサ)側のミッションのリスクとしては技術的リスクとスケジュールリスクとが存在します。前者に関して57ページの「ESA(イサ)側の設計変更による影響」としてリスク管理項目をたてていましたが、この項目名を「ESA(イサ)側の設計・計画変更による影響」と改訂してスケジュールも陽に項目名に含めたいと思います。
ESA(イサ)側のリスクの評価に関しては処置の項に記してありますようにESA(イサ)側のシステムと緊密に連絡を取る事でリスクの軽減を図っております。
なお、ESA(イサ)側のSRR,PDR,CDRなど節目のレビュー時にJAXA(ジャクサ)宇宙科学研究本部からレビューアーとして一名、JAXA(ジャクサ)BepiColombo(ベッピコロンボ)プロジェクトからオブザーバーとして若干名が参加をしリスク評価を行っております。この事に関してリスク管理の項に記載を追加しました。
ESA(イサ)側リスクに関しては必要に応じてJAXA(ジャクサ)側から技術支援等を行う事になっています。
リスク項目にミッション機器の開発リスクがありませんが、ミッション機器には全く開発リスクは無いと言うことですか?全て既存技術でリスクが無いとすれば、更に精度を上げてより高い成果を目指す、それが達成出来なかった場合には実績のある範囲まで戻すといった方法論も考えるべきでは無いかと思いますが、そのあたりの考え方はどのようになっていますか?
推進1−1−2 50ページ
JAXA(ジャクサ)/SAC事務局
<JAXA(ジャクサ)回答>
ミッション機器は世界最高レベルの性能を要求されるために既存技術をそのままという物は存在しません。この為、各機器に対してアクションアイテムリストを管理し、問題点の早期発見、解決を図るようにしています。
この開発に伴うリスクは重量、熱設計などと同様にプロジェクトの開始から衛星製作の終了時まで注意をしておく必要がありますが、現時点のリスク評価では「リスク大」と識別されるものはなく、通常の技術開発と同様なため、リスク管理の表には記載しておりません。
約6年という長い期間にわたって巡行軌道にあるとのことですが、その間spacecraftの機能を維持し、水星到達後動作させることには、課題が多々あると思います。巡行軌道でのMMOの動作について、54ページに要約した記述がありますが、考え方と方針、動作の内容、信頼性の観点、機能確認の方法、何らかの科学観測はするのか、などを、具体的にご説明いただけますか。
推進1−1−2 54ページ
JAXA(ジャクサ)
巡航中は基本的に休眠状態で,MPOから保温のために供給される電力を受けるコンバータと保温用のヒーターのみの動作となります.また、MMOは周りをサンシールドに覆われているために1.観測器の視野が塞がれている、2.伸展物を伸展できないという制限があり、巡航中の科学観測は殆ど期待できません。このため,巡航中の科学観測は,MMOとしてはおこなわない事としています.
MMOの温度はMPOから供給される電力を用いて,サーモスタットとヒータを使用して保存温度に維持されます.電力系,サーモスタット-ヒータ系は冗長構成をとり信頼性を確保しています.MMOの温度は数点、MPOにより監視されます.
打ち上げ直後に機能確認がおこなわれたあとは,半年に1回,MMOを起動させて機能確認をMPO経由でおこないます.主な確認項目はバッテリの容量確認で,必要に応じてメンテナンスをおこないます.