●宇宙開発に関する長期的な計画
(平成15年9月1日 総務大臣、文部科学大臣、国土交通大臣)
.我が国の宇宙開発に関する基本的考え方 2.我が国の宇宙開発の目的と基本方針
(1)我が国の宇宙開発の目的
○国民生活の豊かさの質の向上
物質・精神の両面で一層快適で便利な生活を実現するため、宇宙開発により、高度情報通信ネットワーク社会の形成といった知を基盤とした知識社会の実現に貢献するとともに、人類の生存基盤や自然生態系に係わる地球環境問題の解決につなげる。
.重点的に取り組む業務に係る目標と方向 1.社会的要請への対応 (1)地球観測
)地球温暖化・水循環観測
(重点的に取り組むプログラム)
水循環観測
気象予報の精度向上、洪水や渇水等自然災害の監視、地球規模の水循環の変動予測の実現のため、関係機関と協力して、霧雨等弱い降雨を含む降水量を全球規模で高頻度に観測する衛星観測システムの開発・運用・高度化を行うとともに、関係機関と協力して、観測データを即時(リアルタイム)で提供できる体制を整備することを目的とする。
このため、全球規模での降水量を高頻度で観測する衛星観測システムを開発し、その運用により衛星観測システムによる気象予報の制度向上等への利用可能性を明らかにする。さらに、継続的な観測により、水循環の把握や変動予測に貢献するための技術基盤を確立する。
●独立行政法人宇宙航空研究開発機構が達成すべき業務運営に関する目標(中期目標)
(平成15年10月1日 総務大臣、文部科学大臣、国土交通大臣)
2.宇宙開発利用による社会経済への貢献 (A)安全・安心な社会の構築
(4)地球環境
(b)水循環変動把握への貢献
水循環メカニズム解明に貢献するデータを取得するとともに気象予報精度の向上に資することを目的として、熱帯域を中心とする衛星観測システムの運用を行うとともに、国際協力のもとでの今後の全球規模での降水観測システムの実現に備え、降水観測の領域を熱帯域から全球レベルに拡大し精度を向上した衛星観測システム(全球降水観測システム(GPM))搭載二周波降水レーダ(DPR))を開発する。
●我が国における宇宙開発利用の基本戦略
(平成16年9月9日 総合科学技術会議)
2.宇宙開発利用の意義、目標及び方針
- (1)意義
- 地球・人類の持続的発展と国の矜持への貢献
宇宙開発利用は、長期的視点から地球システムの持続的発展を目指すため、地球環境の現状と人類活動の及ぼす影響を全地球的規模で把握するために、もっとも有効な手段である。また、フロンティアとしての宇宙への挑戦を続けることは、国民に夢と希望を与えるとともに、国際社会における我が国の品格と地位を高めることにも大きく貢献する。
- (2)目標
- 知の創造と人類の持続的発展
多くの人々に夢や希望を与えるべく、未知のフロンティアとしての宇宙に挑む。宇宙空間を探査し、利用することにより、宇宙の起源、地球の諸現象などに関する根源的な知識・知見を獲得する。さらに、地球の有限性が語られるようになった今日、宇宙からの視点を活用して、人類の活動と地球環境との共生を目ざすとともに、更なる飛躍を求めて、宇宙における人類活動の場を拡大する。
- (3)方針
我が国の国際的地位、存立基盤を確保するため、諸外国における宇宙開発利用の状況を踏まえつつ、我が国は人工衛星と宇宙輸送システムを必要な時に、独自に宇宙空間に打ち上げる能力を将来にわたって維持することを、我が国の宇宙開発利用の基本方針とする。
そのため、技術の維持・開発においては、信頼性の確保を最重視する。また、重要技術の自律性を高めるため、適切な選択と重点化を行った上で、ソフト面も含めた基盤的技術を強化するとともに、技術開発能力を維持する。
なお、研究開発目標の設定や研究開発計画の策定に関しては、利用者の要求を十分に反映することが可能となる仕組みを構築する。
4.分野別推進戦略 (1)衛星系
- 地球観測
地球環境監視、国土保全、災害対策に資するもの、国際間で協力して推進すべき観測、開発リスクの高いセンサなどの開発については、原則として国が推進する。観測・センサ開発の進め方については、利用機関や関連コミュニティの要望を十分に踏まえつつ、適切な外部評価の下に透明性を持って決定するとともに、その成果の社会還元を明確にする。また、国が運用する衛星についても、そのデータの有償・無償の考え方について整理する必要がある。・・・(略)・・・
継続的で長期的なデータを取得するため、以下のような点に留意して、地球観測衛星の効率的な開発・運用を推進する。その際、2004年4月の地球観測サミットにおいて採択された10年実施計画の枠組文書にも留意する。
- −利用者要求に基づき、観測項目の選定や重点化戦略の策定を行う。
- −衛星の効率的な運用のため、継続的実用センサと研究開発センサの相乗りや単機能衛星の群構成による観測頻度向上(常時観測体制の実現)について検討する。
- −データ利用促進のため、データ形式、フォーマットは既存の枠組みを活用し、可能な限り共通化する。
- −気候変動メカニズムの解明と予測、気候変動影響の検知と予測、災害の予知・予測など、科学的知見を活用して実社会に役立つ情報を引き出し、その提供を推進する。
- −国際的な協力関係に配慮するとともに、我が国の得意分野を活かす。また、アジア地域への貢献として、必要とされるデータの提供、センサの共同開発や宇宙実証機会の提供などを考慮する。
●地球観測の推進戦略
(平成16年12月27日 総合科学技術会議)
.我が国の地球観測の推進戦略 2.戦略的な重点化
(2)ニーズにこたえる戦略的な重点化
- 水循環の把握と水管理
開発途上国を中心として世界各地で水不足、水質汚染、洪水被害の増大等の水にかかわる問題が発生しており、今後水問題に起因する食料不足、伝染病の発生、生態系の劣化等が顕在化し、水をめぐる国際的な紛争がさらに深刻な事態となることが予想される。
水循環変動は大気・陸域・海洋の相互作用に複雑に影響され、さまざまな時間・空間スケールで引き起こされる。水循環にかかわる包括的な観測を組織的に行い、適切な水管理に有用な情報を提供することは、市民生活の安全性の確保のみならず、政治的・経済的な安定に貢献するものである。
したがって、水循環データとその関連データの包括的な収集と情報の共有・提供を促進する体制の整備が望まれている。我が国においては、世界人口の6割を擁するアジア地域の水問題の解決を目指して、アジアモンスーン域の包括的な水循環観測データの整備を行い、アジアモンスーンの変動についての理解を深め、的確な水管理に必要な水循環変動予測の精度向上と災害被害の軽減に寄与することが望まれる。
.分野別の推進戦略 2.地球規模水循環
- (1)分野の観測ニーズと10年間の全体目標
水災害を防御し、陸水・地下水等の水資源を適切に利用し、水環境を保全して、持続可能で望ましい水管理を実現するために、国際協力の下で地球規模水循環の統合観測システムの構築を図る必要がある。さらに、観測データと社会経済データの統合・融合を図り、危機管理、資源管理及び環境管理における政策決定に資する情報を提供する必要がある。
- (2)今後10年間を目処に取り組むべき課題・事項
- 地球規模水循環統合観測システムの構築
水循環変動の解明と予測に重要な地域に拠点観測網を設けるとともに、広範囲を体系的にカバーする自動観測による現地観測ネットワークを構築する。さらに、降水、土壌水分、水蒸気等の水循環要素の衛星観測能力を向上させる。これらを用いて、アジア全域に広く影響を及ぼしているアジア・オーストラリアモンスーンとその水循環変動及びユーラシア高緯度地域における水循環変動を観測するシステムを構築する。
●我が国の地球観測における衛星開発計画及びデータ利用の進め方について
(平成17年6月27日 宇宙開発委員会 地球観測特別部会)
4.我が国における地球観測衛星の開発計画
- (1)基本方針
我が国が主体的に全球地球観測の推進を提唱し、またGEOSS構築への積極的な貢献を諸外国から期待されていることに鑑みれば、衛星観測と現場統制を統合した地球観測システム実現のための取組みを政府が主導して強化していかなければならない。従って、地球観測衛星についても、引き続き政府主導の下に開発を推進することを基本とすべきである。
また、地球観測システムを我が国の社会インフラとして捉え、データ取得・提供の長期継続性と運用の自立性を前提として、衛星開発計画を立案し、推進する必要がある。
さらに、我が国が持つ技術の強みを活かして独自性をさらに発展させるとともに、他国の計画とも有機的な連携を図り、国際的なリーダーシップを発揮すべきである。
- (2)具体的な開発計画
- 気候変動・水循環分野及び地球温暖化・炭素循環分野
気候変動・水循環分野及び地球温暖化・炭素循環分野では、地球の状態の全体像を把握するための多様な情報が必要であることから、可視・赤外域からマイクロ波に至る広い波長領域に対応するセンサによる観測が求められている。
従って、「みどり」に搭載された多波長放射計及びマイクロ波放射計の後継となるセンサを開発して長期継続的なデータ取得を行う。
●分野別推進戦略
(平成18年3月28日 総合科学技術会議)
●平成19年度の我が国における地球観測のあり方
(平成18年5月25日 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 地球観測推進部会)
2.分野横断的事項
- (3)基盤的技術開発
以下では、推進戦略で示されている5つの重点ニーズと15の分野に関する分析の過程で、特に平成19年度等に取組む必要があるとされた、地球観測のための基盤的な技術の開発について、リモートセンシング、現場観測、データのアーカイブ・通信に関するものに分けて整理した。
- ()リモートセンシング
- 地球環境変動観測ミッション(GCOM)プロジェクトの着実な推進(温暖化)
3.5つのニーズに対応した重点的取組み
(2)水循環の把握と水管理
- ()アジアモンスーン域の包括的な水循環観測データ整備
- 衛星観測
衛星観測については、現状では、静止気象衛星やTRMMの衛星レーダ観測があるが、高緯度地方に対する観測が不十分、変動の激しい降水に対しては観測頻度が不十分、海域上に比べて陸域上での観測精度が不十分、局地的な洪水予警報や水資源計画・管理の問題に対処するには分解能(時間、空間)が不十分、気候変動に伴う水循環変動の実態を把握するには均質なデータの蓄積期間が十分でない、衛星による土壌水分量の空間的に均質な全球の観測がなく精度向上が必要、といった状況にある。
このため、今後の、・・・(略)・・・
- 地球環境変動観測ミッション(GCOM)による水蒸気、降水、土壌水分等の水循環に関する長期継続的な観測のための同プロジェクトの着実な推進
といった中期的な展開を見据えつつ、特に平成19年度においては、
- 降水レーダ、マイクロ波放射計、合成開口レーダ、可視・赤外イマージャ等の開発研究
- 降水量の高頻度、高分解能観測手法と土壌水分観測手法の高精度化に関する開発研究
を行うことが必要である。
(4)風水害被害の軽減
- ()衛星観測等による、自然災害が頻繁に発生する地域の重点的な観測の実施
現状では、WMOの枠組みにより、静止気象衛星の世界6機体制による全球毎時観測や、極軌道衛星等の地球観測衛星による様々な物理量の観測が行われているが、より一層の高空間分解能・高頻度な観測の実施が必要である。また、夜間・荒天時の観測が実施できていないことから、合成開口レーダーやマイクロ波による観測が必要である。さらに、全球降水観測計画(GPM)による降水の高頻度・高精度観測、地球環境変動観測ミッション(GCOM)による降水・水蒸気量、積雪、波浪、海面水温等の観測が必要である。
4.15分野における地球観測の推進
- (1)地球温暖化
地球温暖化分野においては、特に平成19年度には、以下の観測等を重点的に進めるべきである。
<全球的把握>
- 温室効果ガスの全球的な計測を行うGOSAT衛星の平成20年度の打ち上げに向けた研究開発の推進、全球の降水を観測するGPM衛星観測プロジェクトの実施、地球表層環境の変動にかかわる各種パラメータを観測するGCOMプロジェクト計画評価に基づく推進
●水循環変動観測衛星(GCOM−W)プロジェクトの事前評価結果
(平成18年7月11日 宇宙開発委員会 推進部会)
- (6)総合評価
GCOM−Wプロジェクトは、我々の生存基盤として不可欠な気候や水循環に関わる物理量を全球規模で長期継続的に観測するシステムを構築しようとするものであり、気象予報、漁業情報提供、水路情報管理等の現業分野への貢献が期待されることも踏まえると、極めて大きな意義を有している。
今回の事前評価では、GCOM−Wプロジェクトの目的、目標、開発方針及び実施体制等について審議を行い、現段階までの計画は、具体的かつ的確であると判断した。
以上を踏まえ、本小委員会としては、GCOM−Wプロジェクトについては、平成19年度から「開発研究」に移行することは妥当であると考える。
なお、「開発研究」への移行に当たっては、今回の評価対象であるGCOM−WプロジェクトがGCOMの最初のプロジェクトに位置付けられており、その取組みはGCOM全体に大きな影響を与えることに留意する必要がある。GCOMのような衛星のシリーズ化は、JAXA(ジャクサ)にとって初めての取組みであり、本プロジェクトにおける検討は、常にGCOM全体を視野に入れ、入念に行うべきである。特に、衛星シリーズの有効活用による信頼性の確保、コスト低減、開発期間の短縮、人材育成等は、GCOM全体に関わる重要な課題となると考えられる。
本小委員会としては、JAXA(ジャクサ)が今回の評価を十分に踏まえ、利用者の要求を汲み取った利便性の高い観測システムを構築することを望む。また、本プロジェクトには巨額の開発費が投じられることから、研究開発の様々な段階で得られた成果を積極的に公表し、社会の理解を得ながらプロジェクトを推進する工夫がなされるように留意されたい。
なお、本プロジェクトが「開発」に移行する段階には、宇宙開発委員会において、今回の評価結果を活かして評価が行われることを期待する。