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第2章 信頼性向上のために速やかに実施すべき改革

1. JAXA(ジャクサ)及び製造企業の間の開発(設計を含む・製造の責任分担体制の)改革

(1) 問題意識
 ロケットや人工衛星の信頼性が確保されるためには、それらの開発・製造を通して、JAXA(ジャクサ)と製造企業が持つ能力と資源が全体として最大限に活用され、開発(設計を含む)と製造が切れ目無くつながることが必要である。
 宇宙開発の初期段階においては我が国の宇宙開発に関する経験が未熟であったため、宇宙開発事業団(当時)が主体となり、企業の協力を得て開発段階はもとより、一部製造段階にも関与して技術開発を進め、企業においては
 そのような取組みの中で、技術やノウハウを蓄積してきた。しかしながら、宇宙開発を始めてから30年余りを経過した今日では、現状の体制は以下のような潜在的な弱さを抱えており、信頼性確保のためには最適なものとは言えず、改革を進める必要があると考える。

開発(設計を含む))(注1)
ロケットや人工衛星の開発(設計を含む)においては、JAXA(ジャクサ)との契約により製造企業が分担して実施し、JAXA(ジャクサ)がとりまとめている。製造企業はいまや事実上の設計の提案者であるが、最終判断を行うJAXA(ジャクサ)が契約上の責任を負っている。

しかしながら、JAXA(ジャクサ)は製造企業ではないため製造に直結することについて知見は限られており、JAXA(ジャクサ)に能力以上の責任が集中していると言える。また、各製造企業からの情報は、設計をとりまとめるJAXA(ジャクサ)を経由して各製造企業に提供されており、製造企業間での情報共有は十分に行われていない。

このように、製造に直結する詳細設計段階を含め、開発の全段階を通して、JAXA(ジャクサ)だけが全体システムを見ており、製造の中心となる製造企業の観点で全体を見る者がおらず、開発(設計を含む)と製造との間に切れ目が存在していると言える。

(注1) ここでいう「開発」とは、システム基本仕様の設定、基本設計及び詳細設計の一連の過程を指し、詳細設計を固めるための試作品の製造を含む。

製造)(注2)
ロケットや人工衛星の製造においては、民間が全体とりまとめを含め、中心となって行う体制となっているが、実態としてはJAXA(ジャクサ)が相当程度関与している。

H-2Aロケットの場合、宇宙関連企業の共同出資により設立された(株)ロケットシステム(以下「RSC」という)が製造とりまとめを行っている。しかしながら、RSCは出資各社からの出向者が多く、また、自ら製造現場を持っておらず、技術力、人材、経験において能力に限界があり、JAXA(ジャクサ)が不具合処置や審査等に関与している。

人工衛星の場合、飛行用機体・部品の製造と設計活動が同時並行的に行われることから、設計に基づき製造を行う過程で得られた知見を随時設計にフィードバックして設計が固められるため、製造における体制は設計におけるそれと同様にならざるを得ず、全体とりまとめにおいてJAXA(ジャクサ)が一定の役割を果たしている。

このため、製造についての知見が限られているJAXA(ジャクサ)が実態的に製造に関与する反面、製造において重要な役割と責任を担うべき製造企業の経験と能力が十分に活かされていない。

(注2) ここでいう「製造」とは、詳細設計終了後に実際の飛行用機体・部品を製造することを指す。

 以上の開発と製造の現状の体制においては、JAXA(ジャクサ)の限られた能力と資源が分散投下されており、能力以上に過大な負担をJAXA(ジャクサ)が負っている。他方、製造企業は、過去約年間に培ってきた能力を十分に活用しているとは言30い難く、その能力に見合う責任を負っていない。また、製造企業間での情報共有は十分に行われていない。この様な現状を改革し、我が国の宇宙開発の信頼性を一層向上できるような開発・製造体制の構築が必要である。
 
(2) 具体的な対策
JAXA(ジャクサ)と製造企業の間で役割・責任を応分かつ明確に分担するように見直し、JAXA(ジャクサ)は我が国における宇宙開発の中核機関として担うべき役割・業務に能力、資源を集中し、製造企業も能力に見合った役割と責任を負う体制に移行することが必要である。

そのため、今後のロケット及び人工衛星の開発・製造の体制については、JAXA(ジャクサ)が主体となり製造企業と協力して、それぞれの実状に即したプライム制(製造企業が一元的に全体をとりまとめる体制)の導入を進めることが適当である。具体的には、

1 プライム化の単位としては、サブシステムの単位と全体システムの単位が考えられるが、第1段階として、サブシステム単位でのプライム化を図るととともに、次の段階として、対象となるシステムの開発・製造過程の実状に応じ、全体システムについてプライム化するか、JAXA(ジャクサ)自らとりまとめを行うかを判断していく必要がある。

2 プライム化におけるJAXA(ジャクサ)と製造企業の役割分担は、
開発の初期段階で具体的な仕様を決定する段階である基本設計まではJAXA(ジャクサ)が責任を負う体制とする。
基本設計に続く、製造に直結する開発段階である詳細設計(そのための試作品の製造を含む)と製造段階(飛行用機体・部品の製造)においては、製造企業がプライム制により責任を負う体制とし、JAXA(ジャクサ)は詳細設計により実現される機能等が基本設計で設定した仕様を満たしているかどうかの十分な確認を行うにとどめることとする。
以上のJAXA(ジャクサ)と製造企業の責任分担は契約によって明確にする必要があるが、基本設計と詳細設計の各段階における現場の技術者の作業においては、両者間で設計思想を共有しながら、密接な協力によってこれを進めることが重要である。

プライム制を導入することにより、
開発段階において、製造に直結する詳細設計をプライム製造企業がとりまとめることにより、当事者としての責任意識が明確になるとともに、開発と製造の一体的な取組みが可能となり、一層の信頼性の向上が期待される。また、JAXA(ジャクサ)も限られた資源を主として基本設計までの開発段階に集中することができ、基本設計自体のシステム信頼性や技術水準の向上の実現が期待できる。
製造段階では、製造に関する技術力、人材、及び経験が豊富な製造企業に責任を一元化することにより、部品、サブシステム、そしてシステム全体の製造の一層の信頼性の確保が期待できる。

ここで示す対策は、上述のとおり、最終的には当事者間の契約において責任と権限が明確に定義される必要があり、そこに不明朗さを残さないように、関係者間での十分な調整を要請する。

H-2Aロケットについては、プライム制導入に向けた取組みを現在進めているところであり、今回の6号機の打上げ失敗を踏まえて、その取組みを強化する必要があるため、今後の対策について以下に詳細に提言することとする。

なお、ここで示す対策を実施するに当たり、製造企業にとっては、製造企業が負う役割と責任が事業として継続的に成り立つことが不可欠であり、政府及びJAXA(ジャクサ)は、製造企業において必要な体制、人材、技術を維持するという観点からも、打上げ機会の確保等に十分配慮する必要がある。

ア. H-2Aロケット
(1) H-2Aロケットの開発体制
今後の開発については、従来のように能力を超えてJAXA(ジャクサ)に責任が集中する形態ではなく、JAXA(ジャクサ)の責任の範囲を絞るとともに、製造企業もその能力に相応しい責任を分担する形態で進めることが適当である。

プライム化の実現>
H-2Aロケット能力向上型の開発については、開発段階においてもプライム制を導入し、JAXA(ジャクサ)は基本設計に責任を負い、製造に直結する詳細設計はプライム製造企業が責任を負う体制とすることが適当である。

プライム化までの補完的措置>
6号機の打上げ失敗を受けてJAXA(ジャクサ)が行うH-2A再点検や設計見直しについては、三菱重工業(株)(以下「MHI」という)が事実上のプライム製造企業として、これまでの設計・製造経験を基に主体的に参画し、H-2Aの設計(変更を含む)に関する信頼性を確認することが適当である。

将来プライム製造企業として製造責任を一元的に負うMHIが設計の信頼性について確認を行うことから、再点検や設計見直し作業と製造との間を埋め、ロケット全体の信頼性の向上に寄与することが期待される。

(2) H-2Aロケットの製造体制
プライム化の実現>
今後のロケットの製造については、RSCに代わって、MHIが製造責任を一元的に負うプライム制へ移行することが適当である。これにより、JAXA(ジャクサ)は、製造への関与は限定し、その能力及び資源を開発の役割に集中することが可能となるととともに、技術力、人材、経験が豊富なMHIが製造に一元的に責任を負い、ロケットの一層の信頼性の確保を図ることが期待される。

プライム化を適切に進めるためには、JAXA(ジャクサ)とMHIの責任分担、MHIと各企業の間の情報開示ルール、関係者間の損害の負担等の重要な事項について整理し、契約に反映することが必要である。

プライム化までの補完的措置>
既にRSCにより製造が進められているロケットについても、現行のRSCによる信頼性確認に加え、今後の製造工程についてはMHIが信頼性を確認する体制を構築することが適当である。

技術力、人材、経験が豊富なMHIが信頼性確認に加わることにより、一層の信頼性向上が図られることが期待できる。

イ. H-2Aロケット以外のロケット
将来、H-2Aロケットの後継となるロケットを開発する場合等、初期段階においてはサブシステム単位でリスクの高い開発が必要となると考えられる。その場合、JAXA(ジャクサ)と製造企業の責任分担についてはサブシステム単位でのプライム制の考え方のもとに進めることが適当である。

さらに、サブシステム段階の開発を経て、ロケットの全体システムの開発を行う段階においては、全体システムでのプライム制に移行することが適当である。

ウ. 人工衛星
人工衛星の場合、まず、搭載される観測センサや通信中継器等のミッション機器については、個々のミッションの要求に応じたものが必要であり、それに対応できる製造企業が担当することが必要となる。他方、ミッション機器を搭載するバスシステムについては、信頼性の高いものを開発し、継続して用いることが基本であるので、JAXA(ジャクサ)と製造企業の責任分担体制は、開発(設計を含む)段階から、ロケットと同様の考え方によることが基本と考える。

この考え方を踏まえ、今後、JAXA(ジャクサ)の人工衛星開発に関し、ミッションの性格、人工衛星の規模に応じたJAXA(ジャクサ)/バスシステム担当製造企業/ミッション機器担当製造企業の役割についてさらに検討を行い、適切なプライム制とJAXA(ジャクサ)の関与の在り方について考え方を整理し、平成17年度以降に開発に着手する人工衛星に適用していくことが適当であると考える。

2. JAXA(ジャクサ)における信頼性確保体制の強化

(1) 問題意識

 宇宙開発委員会調査部会におけるH-2Aロケット6号機打上げ失敗の原因究明においては、固体ロケットブースタのノズル部の設計に問題があったことが原因であったと推定されている。

 本特別会合において、固体ロケットブースタの開発過程について検討したところ、この開発過程、特に最後の地上燃焼試験で発生した技術的課題(局所エロージョン)への対処の仕方について、以下の問題が認識された。

H-2ロケット5号機及びH-2A8号機の打上げ失敗はロケットの開発中に発生したが、その原因がメインエンジンの不具合と推定されたため、関係者の関心がH-2Aロケットのメインエンジンに集中し、固体ロケットブースタへ十分な注意が払われなかった。
固体ロケットブースタの最後の地上燃焼試験で発生した技術的課題への対処において、徹底的にリスクを評価し、根本的な対策を指摘し、実施する機能が組織として十分に働かなかった。

 これらのことは、信頼性確保に対するJAXA(ジャクサ)の組織としての取組みの構造の不十分さ等を示すものと考えられ、特に、技術的課題が完全に解明されない場合の処理が厳しく行われることを確保するための仕組みが不十分と言わざるを得ない。

 宇宙開発委員会調査部会の報告書において、「過去の知見にとらわれることなく、事象を謙虚に受け止め、外部の専門家を活用するなど、幅広い観点から検討しなければならない。」と指摘されているが、これは上述の問題意識と共通するものと考える。

(2) 具体的な対策
 以下に示すように、JAXA(ジャクサ)全体として信頼性確保に向けた体制の強化を図ることが必要である。

JAXA(ジャクサ)において、第三者的な冷静な目で信頼性を確保する組織をプロジェクト担当組織から独立して設置し、徹底的な信頼性確認が行われていることをチェックする機能を構築すべきである。構成員は外部から招くなど、広く外部専門家の能力を活用することが必要である。

この第三者的に信頼性を確保する組織は、開発における技術的課題への対応が十分かどうかをチェックするだけでなく、開発過程全般における信頼性向上のための取組みの状況についてもチェックすることが必要である。

信頼性確保に関するこれら組織の役割分担等については、

1 まず、プロジェクト担当組織が関連する諸分野の専門家の協力も得て、あらゆるリスクを徹底的に洗い出し、信頼性の確認を行う第一義の責任を負うことが原則である。そのため、プロジェクト担当組織やそれを支える基礎基盤技術の研究開発組織においては、信頼性を高めるための手法の充実、リスク低減のための取組みの強化等、常に信頼性確保、品質保証等に関する研究及び職員の教育訓練等の取組みの継続・強化を忘れてはならない。

2 その上で、上記の第三者的に信頼性を確保する組織によるチェックは、プロジェクト担当組織における信頼性確認が適切な手順や基準に従って行われたか、判断や措置に重大な不備はないか、合理的な結論が出されているかどうか、信頼性確保等に関する研究や教育が適切に実施されているかといった観点から行われることが適当である。


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