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第3章 国民から信頼される宇宙開発の実現に向けて

 第2章において、本特別会合において議論された論点のうち、特に信頼性向上のために速やかに実施すべき改革について提言した。
 他方、国民から信頼される宇宙開発を実現するためには、第2章の提言に限らず、JAXA(ジャクサ)、製造企業等は信頼性向上に向けた真摯な取組みを継続して実施するとともに、社会への説明責任を果たしながら宇宙開発に対する国民の理解を得ていく姿勢が強く求められる。
 こうした点については、成果が一朝一夕に現れるものではないが、本特別会合としては、助言として提示し、関係者の着実な取組みを求めたい。

1. 信頼性向上に重点を置いた開発の在り方

 宇宙開発は極めて厳しい技術的条件を満足することが求められることから、開発には相当のリスクが内在するものであり、JAXA(ジャクサ)、製造企業等にはこれを克服していく行動と手法の開発が必要であるとともに、人材、技術力、産業基盤を維持することが不可欠であるため、以下の点について留意することが必要であると考える。また、これらの点について政府の適切な支援を期待したい。

信頼性を高めるための手法の充実>
打上げ機会が少なく、少数生産となり、実条件下での試験が困難であること等の固有の制約を有する宇宙分野においては、信頼性を確保するためには、地上の試験や解析を十分に行うことが必要不可欠であるなど、信頼性を高めていくための手法の成熟、データの集積の充実、試験設備の整備に努めるべきである。また、上記のような固有の制約にも対応できる信頼性管理手法等、新たな手法の研究も充実するべきである。

同時に、信頼性の確立は最終的に飛行実証によらなければならないことから、打上げ機会の十分な確保に努めるとともに、飛行実証を通じてデータを集積することにも努めることが必要である。

リスク低減のための取組み>
設計においては、定量的にシステム信頼性を評価し、システム全体としての信頼性を管理していく技術を確立していくことが必要である。そのようなシステム信頼性管理技術のもとで、システム上の重要度に応じて冗長系を組むことや、当初は余裕を持たせた設計から始めて徐々に成熟させていくという考え方も重要である。

また、人工衛星については、新規な技術、サブシステム等を多く搭載することにより人工衛星全体の機能についてのリスクが高まることのないよう、段階的に開発していくという考え方や、長期間の運用中に構成要素に故障が発生しうることを前提に、故障部位の切り離しや代替機能の組込み等、故障が発生しても要求ミッションができるだけ多く達成しうるような設計を行うという考え方も重要である。

さらに、設計・製造を通したチェックにおいては、定量的なリスク評価、チェック項目の体系化等の重要な視点を踏まえた仕組みを整備し、実践を通して継続的に充実させていくことが必要である。

信頼性確保に不可欠な産業基盤等の維持>
信頼性確保のためには、宇宙開発に携わる製造企業における体制、人材、技術の維持が不可欠であり、それには、製造企業における開発や製造の活動がある程度の規模で継続される必要がある。事故の対策等に取り組む際にも、開発や製造が長期間にわたって停滞することにより、これらの維持に支障が生じないよう、十分留意すべきである。

また、我が国の宇宙開発関係製造企業の事業においては、JAXA(ジャクサ)に関係する事業が相当程度の比率を占めており、JAXA(ジャクサ)における継続的な取組みが、我が国の宇宙開発の人材、技術力、産業基盤を維持し、信頼性の確保のためにも重要であることを認識すべきである。

2. 組織運営、組織文化、教育・訓練

(1) JAXA(ジャクサ)における組織運営
宇宙3機関統合の相乗効果の実現と役割・目標の明確化>
 JAXA(ジャクサ)は、昨年10月、基礎的な科学研究から実用的な研究開発までを一貫して行う独立行政法人として発足し、これまで宇宙3機関(宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団)が培ってきた能力、経験、或いは特長を有機的かつ効果的に活かしながらプロジェクトを推進していくことが期待されている。
 特に、発足からまだ半年余りと過渡的な期間であるこの時期こそ、宇宙3機関の統合効果を、信頼性向上も含め、いかに発揮していくかについて、また、組織の統合、ロケット事業の民間移管等により組織が流動的で不安定な状態にあるなか、現場が不安にならないように、JAXA(ジャクサ)の役割や目標を明確化することについて、経営者の理念と実行力が求められる。
 目標設定、資源配分等の経営判断においては、現場の負担が過大になり必要な余裕がなくなってはいないか、また、現場の能力が効率的かつ最大限に活かされているかという視点からも検討されることが必要である。
 政府は、JAXA(ジャクサ)の活動の目標や役割が、変化する環境に適切に対応するものとなり、併せて、国民からよく理解されるものとなるよう支援することが重要であり、今後の目標の改定や設定に当たり、上記の状況をも踏まえて対応することが必要である。

新たな役割と組織体制の見直し>
 第2章で提言したプライム化が導入された時点では、これまでのJAXA(ジャクサ)と製造企業との間の開発・製造の責任体制が改革され、JAXA(ジャクサ)はその能力と資源を開発の役割に集中することになる。その際、JAXA(ジャクサ)は、本来の我が国の中核的宇宙開発機関として、個々の技術、個々の部品・サブシステムを超えて、宇宙開発プロジェクトの全体計画や全体設計にリーダーシップを発揮するとともに、プロジェクト遂行の管理能力を高め、それによって信頼性を総合的に確保することが期待される。また、JAXA(ジャクサ)は将来を見据えた新しい宇宙技術の研究及び開発に積極的に挑戦することも求められる。
 このため、JAXA(ジャクサ)はプライム化時代に向けて、以上のような役割を的確に果たし、研究開発業務を一層、効果的かつ効率的に遂行できるように、それに相応しい組織体制を速やかに検討し、具体化すべきである。

プロジェクトの実施体制の評価・改善>
 JAXA(ジャクサ)及びJAXA(ジャクサ)と製造企業の間における責任体制の改革については、第2章において提言したところであるが、JAXA(ジャクサ)のプロジェクトにおける実施体制(本部長、プロジェクトマネージャの役割と責任の分担等)の在り方については、JAXA(ジャクサ)が信頼性向上を含め、その事業を適切に実施していく上での重要な課題である。JAXA(ジャクサ)はこの体制がどの程度有効に機能しているか、それが機能するために必要な条件(例えば、予算も含めた権限)が与えられているか、そして第2章2.で提言した「第三者的に信頼性を確保する組織」との関係をどうするか等について評価し、必要な改善を行っていくべきである。

(2) 組織文化と教育・訓練
信頼性向上の取組みが強化されるためには、JAXA(ジャクサ)を始めとする宇宙開発関係機関において全ての関係者が信頼性向上を最優先の課題ととらえ、そのための行動が奨励される組織文化を育むことが必要である。

そのような信頼性重視の組織文化を我が国の宇宙開発コミュニティに醸成していくため、JAXA(ジャクサ)内、各製造企業内、JAXA(ジャクサ)と製造企業の間、製造企業相互間において、個人の間の信頼関係と組織の間の連帯を基盤とし、徹底した問題解決指向、アウトプット指向でオープンに問題点が議論できる風土を形成し、組織改革を進めることが期待される。

また、個々の関係者が信頼性向上のために的確に行動していくようにするためには、そのために必要な知識・能力、行動規範を各人が身につけられるよう教育・訓練を行うことが必要である。

3. 宇宙開発に関する社会への説明責任と国民の理解

(1) 問題意識
 宇宙開発を進める上で、社会への説明責任を果たし、国民の理解を得ることは極めて重要である。このことは、これまで繰り返し議論されながらも、十分な成果を挙げることが困難であった課題であるが、今回の打上げ失敗を受けて今後の宇宙開発の進め方を考えるに当たって、改めて検討することが必要であると認識された。


 宇宙開発について国民に説明すべき重要な事項としては、大きく分けて、
1宇宙開発の意義(何故、国費を投じて宇宙開発を進めるのか)、2宇宙開発の現状(何が達成されているのか、何が課題なのか)の2点があると考えられる。
 広大なフロンティアであり新たな可能性を秘めた宇宙への挑戦は、多くの人々、とりわけ次代を担う若い世代に夢を与えてきた。同時に、気象観測、地球観測、通信・放送等の広範な分野における宇宙の利用の拡大は、安全の確保、国民生活の利便の向上、産業の活性化等、経済社会の発展に大きく寄与している。宇宙開発は先端的な多くの科学技術を結集して初めて進められるものであり、科学技術創造立国を目指す我が国にとって、国として戦略的に重要な基幹技術の分野である。我が国は後発ながら、宇宙開発先進国の一角にようやく加わったところであるが、他の国が国威をかけた強力な取組みを続ける中、我が国としても宇宙開発によって何を達成しようとしているのか、国民によく理解されなければならない。したがって、上記12について、国民にわかりやすく説明し、国民に身近な問題として宇宙開発を考えてもらえるように努力しなければならない。

 我が国においては、宇宙開発の現状について、特に、宇宙開発においては一定のリスクが内在していることについて、これまで社会に十分に説明し、理解を得るには至っておらず、国民の理解を得ながら宇宙開発に挑戦するという状況になっていない。その結果、事故や失敗が起きた際に社会から厳しい非難を受け、現場が萎縮する結果を招いている。
 また、宇宙開発に携わる側からの働きかけが成果を生むためには、国民の側に、宇宙開発に限らず科学技術や研究開発に対する理解や関心が十分あることが前提となるが、そこに課題があることを指摘したい。

(2) 具体的な対策
宇宙開発に関する政策や目標が策定される段階から実際にプロジェクトが実施される段階までの過程において参画する全ての関係者、すなわち、国、JAXA(ジャクサ)、製造企業等が、それぞれの役割と立場から我が国の宇宙開発の意義と現状に関する説明を積極的に行う必要がある。
特に、宇宙開発における技術的挑戦やそれに伴うリスクについて十分に説明すべきである。具体的には、宇宙開発には技術的困難さもリスクもあるが、関係者が一丸となって技術開発に挑戦し、リスクを可能な限り低減するために徹底的な対策を講じていること、また、我が国においては十分な打上げ機会が確保されているとは言い難いが、その中で懸命の努力により技術の信頼性を向上すべく努力していること、等について、継続的に情報発信することが必要である。また、個々のプロジェクトについて、どのような技術的課題に取り組んでいるのか等について、わかりやすく情報発信することが必要である。

宇宙開発関係者が情報発信に努めても、受け取る側がそれに関心を持たなければ、情報発信の目的は達せられない。そのため、我が国の宇宙開発の現状について、開発の成果、技術的な水準、利用の進展等の国際比較を行うなど、国民が関心を持って受け取れるような情報発信を行うことが有効であろう。また、一方的な情報発信で満足するのではなく、国民が興味を持ってアクセスする情報チャンネルに載せるためにはどうすればよいか、具体的な試みを行っていくことが求められる。

以上のような国民への情報発信や説明を実施するため、及び関係機JAXA(ジャクサ)関の間で具体的方法を検討し、速やかに成案を得て実行に移すことを期待する。

さらに、国民の側においても、宇宙開発に限らず科学技術や研究開発に対する理解や関心を深めることが必要であり、初等中等教育における理科教育、科学技術に関する理解の増進等の取組みの充実が重要であると考える。


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