災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画の実施状況等のレビューについて(報告)【概要】

 (科学技術・学術審議会 測地学分科会)

●レビューの背景

○ 現在の我が国の災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究は,平成25年11月の科学技術・学術審議会の建議により策定した「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」(以下,「現行計画」)により推進。

○ 現行計画の実施期間は,平成26~30年度であることから,次期計画策定に向けて現行計画の実施状況,成果及び今後の課題についてレビューを実施。

○ 現行計画は,地震・火山噴火の現象を理解し,地震と火山噴火の予知を目指すこれまでの方針から,それらに加え,災害を引き起こす地震動・津波・火山灰や溶岩の噴出などの災害誘因の予測に基づき災害の軽減に貢献することを目標とした計画を推進する方針に転換。

●レビューの目的

○ 「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」について,方針の転換が適切であったか,計画が順調に進捗しているかを含め,総括的に自己点検し,次期計画の検討に資することを目的として実施。

●おもな成果

○ 2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動の観測データなどに基づいた東北地方の粘弾性構造を解明。物理モデルに基づいた今後の地震発生の予測シミュレーションを実施。

○ 震源域の即時推定や沖合津波計の観測データに基づく津波の即時予測手法を開発し,2011年東北地方太平洋沖地震で観測されたデータにより検証。さらに,津波浸水域の即時予測手法を開発。

○ 南海トラフ巨大地震の震源域において,海底地殻変動観測によりプレート境界の固着状況の空間分布を推定。

○ 首都直下地震について,房総半島沖のゆっくり滑りの解明。また,地震動による地滑り発生可能性の研究,史料に基づく江戸時代の大地震の研究,関東平野の地震波伝播特性の研究が進展。

○ 桜島火山について,地下のマグマ活動の高精度な把握に基づく火山活動の解明が進展。深部からのマグマの供給率と中長期的な噴火活動の様式や規模についての関連性を解明。2015年8月には新たな岩脈形成によりマグマが貫入したことを把握。

○ GNSS観測等による火山灰噴出の即時把握,数値シミュレーションによる火山灰拡散予測に関する研究が進展。降灰による交通網への影響評価を実施。加えて,過去の噴火に至る過程の考察に基づく自治体の防災訓練を実施。

○ 「地震・火山科学の共同利用・共同研究拠点」である東京大学地震研究所と「自然災害に関する総合防災学の共同利用・共同研究拠点」である京都大学防災研究所による拠点間連携共同研究を開始。理学と防災に関する工学・人文・社会科学の連携により南海トラフ巨大地震のリスク評価研究等を実施。

○ 近代観測以前の地震・火山現象解明のため,歴史学や考古学の研究者と地震学・火山学の研究者との組織的な連携研究を開始。史料,考古データ,地質データの収集とデータベース化が進展。

○ 低頻度大規模地震・火山現象に関しては,津波堆積物のデータに基づき,17世紀の北海道太平洋沖の巨大地震の震源モデルを提示。

○ 観測データと物理モデルに基づくデータ同化手法開発の研究が進展。プレート境界における摩擦特性の推定や,滑りの推移予測実験などを実施。

○ 2011年東北地方太平洋沖地震の地震波放射特性の空間的不均一性を解明。

○ 測地観測データなどに基づき,2016年熊本地震の断層モデルを構築。

○ マグマ噴火について,観測データに基づく研究成果に,マグマ火道流モデルや噴出物特性の分析結果を合わせることにより,噴火のメカニズムや様式,またその推移について,定量的な検討も実施。

○ 2014年の口永良部島や御嶽山の噴火事例から,小規模な水蒸気噴火でも,噴火の数時間前~数分程度前から急激な山体膨張が発現することを把握。

○ 浅間山や有珠山,桜島など,噴火と観測量の関係が十分に得られている火山について,分岐判断に観測量を取り入れるなど噴火事象系統樹に応用。

●今後の課題

○ 2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動や隣接域への影響についての継続的な研究。また,2011年東北地方太平洋沖地震による災害の発生機構の解明。

○ 桜島火山について,頻発する噴火を利用した科学的研究の実施と,その成果に基づく将来起こりうる大噴火時への対策に関する継続的な研究の実施。

○ 近代観測以前の地震・火山噴火に関する史料,考古データ,地質データの統合解析を可能にするシステムの構築。これらのデータを低頻度大規模地震・火山現象の予測に活用するための手法開発。

○ 内陸活断層の一部の活動による地震の長期的評価手法の開発。また,2016年熊本地震のような複雑な断層系で発生する地震活動の推移予測の研究の推進。

○ 構造不均質性などから応力集中機構を解明し,内陸地震や海洋プレート内地震が発生しやすい場所を特定。

○ 観測データと物理モデルによるプレート境界滑りの推移予測実験の推進。さらに,前震等の様々な地震先行現象の客観的評価に基づく地震の確率的短期予測研究の推進。

○ 噴火事象系統樹の高度化,事象分岐の判断の高度化のため,観測データ分析や火山現象のモデル化を推進。

○ 構造物被害等の工学的研究での活用ができるように,地震動・津波等の災害誘因の予測を高度化。

○ 災害軽減に役立てるため,地震・火山噴火の知識を効果的に発信する手法を研究。

●まとめ

○ 災害科学の一部として推進している現行計画では,近代観測以前の地震・火山現象の解明のため歴史学,考古学研究者が,また,地震学,火山学の成果を災害軽減につなげるために防災に関する工学や人文・社会科学の研究者が参加。そのため,新たな機関の計画への参加,地震・火山噴火予知協議会の改革,地震研究所と防災研究所による拠点間連携共同研究の実施など,新たな推進体制を構築。

○ 地震学,火山学の成果を災害軽減につなげるための新たな取組が関連研究分野の連携のもと着実に進展。災害科学の一部として推進した観測研究計画の方針の転換は適切と判断。今後も,関連研究分野の研究者間の連携を一層強固なものとして,この方向で推進。

 

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(研究開発局地震・防災研究課)