5.超巨大地震に関する当面実施すべき観測研究の推進

(1)超巨大地震とそれに起因する現象の解明のための観測研究

○ 平成23年東北地方太平洋沖地震のようなM9クラスの地震(超巨大地震)やそれに起因する現象を予測するための基礎的な知見は少ない。このため、本見直しの計画では、まず超巨大地震の発生機構解明を目的とする観測研究を実施する。プレート境界では近年の我が国の研究によって、低周波微動・低周波地震やゆっくり滑りなど、多様な滑りとプレートの固着の形態が発見されている。これらの知見に基づいて、プレート境界で発生する超巨大地震の発生機構を理解する必要がある。

○ これまで知られていたM8クラスの巨大地震の発生サイクルと超巨大地震の発生サイクルの関係を理解することは、地震発生の準備過程を解明するために重要である。このためには、幅広い規模にわたる地震の発生サイクルや、サイクルの階層性についての研究を進める必要がある。このためには長期間にわたる歴史地震や地質学データなどの古地震学的な研究を推進する必要がある。

○ 平成23年東北地方太平洋沖地震の震源断層は、従来考えられていた複数のM8クラスの巨大地震の震源断層領域を含み、地震時の滑り量もM8クラスの巨大地震より一桁大きく、海溝軸近くの浅部の滑り量は特に大きかった。こうした超巨大地震の震源過程の詳細を明らかにすることは、M8クラスの巨大地震の発生機構を理解するためにも重要である。なお、超巨大地震は甚大な被害を与えるが、極めてまれな現象である。一方、M8クラスの巨大地震、内陸地震、スラブ内地震は、より発生頻度の高い被害地震となる可能性がある。これらの研究のバランスを取ることが重要である。

○ 超巨大地震の発生を理解するためには、超巨大地震に先行して起きた各種現象を調査研究して超巨大地震の地震発生メカニズムや準備過程として進行する現象を理解する事が必要である。

○ 平成23年東北地方太平洋沖地震発生後は余震活動が活発であり、M7クラスの余震も発生している。東北地方太平洋沖地震後にプレート境界がゆっくり滑ること等による余効的な地殻変動が東北地方の太平洋側沿岸部を中心に継続し、新たな大地震の発生の可能性もある。超巨大地震の発生に伴う日本列島の応力場の変化が原因と考えられる、日本列島の内陸や火山周辺で地震活動が活発になる現象が見られており、応力やひずみの再配分を明らかにするための観測研究が必要である。

ア.超巨大地震の発生サイクルの解明

○ 大学と産業技術総合研究所は、千島海溝沿い、日本海溝沿い、南海トラフ沿い、及び、世界の沈み込み帯の超巨大地震の発生サイクルを、地球物理学的、変動地形学的、古地震学的、地質学的手法を用いて解明する。

○ 高性能計算(high-performance computing、HPC)等により、沈み込み帯で発生する地震に関する大規模シミュレーション等を行い、超巨大地震発生サイクルの解明を目指す。

イ.超巨大地震の発生とその前後の過程の解明

○ 平成23年東北地方太平洋沖地震に先行して発現した地震活動や地殻変動の特徴を調べ、地震発生の準備過程の推移として理解する。とりわけ、震源域を含むプレート境界付近における地震活動の時間的・空間的推移、地震数の規模依存性に関する理解を深め、直前の前震活動とゆっくり滑りの解明を進める。

○ 大学は、平成23年東北地方太平洋沖地震の震源過程を解明するために、海域で観測研究を実施する。海域での観測によって推定された数十メートルに及ぶ地震時滑りの実体解明とその特殊性や一般性についての理解を深める。

○ 大規模に進行している余効滑りを含む平成23年東北地方太平洋沖地震後の地殻変動とそれに伴う応力の再配分に関する観測研究を進める。

○ 余効滑りの時空間的変化と、地質学的研究による地殻上下変動の長期的収支の関係を解明するための水準測量等を含む観測研究を行う。

○ 大学と産業技術総合研究所は、地球物理学的、変動地形学的、古地震学的、地質学的手法を用いて南海トラフ超巨大地震の発生履歴を解明する。

ウ.超巨大地震に誘発された内陸地震や火山活動等の解明

○ 平成23年東北地方太平洋沖地震とその余効的な地殻変動によって変化した日本列島全域の地殻とマントルの応力状態を把握し、内陸地震発生や火山活動への影響を解明する。

○ 大学等は、地殻活動の活発な内陸の活構造地域や火山地域等において、超巨大地震に起因した応力変化の影響を解明するために観測及び数値モデリングに基づく研究を実施する。

(2)超巨大地震とそれに起因する現象の予測のための観測研究

○ 超巨大地震やそれに起因する現象を予測するための基礎的な知見は必ずしも多くないが、予測のためには地殻活動の現状把握のためのモニタリングを行う。

○ 超巨大地震の発生可能性や頻度を予測するために、地形・地質学的手法など古地震学的手法を用いた地震発生履歴の調査を強化する必要がある。これらは、陸上での調査だけでなく、海底地形・地質の調査も重要である。これらの成果は、(1)超巨大地震の発生機構の解明のための観測研究にも利用される。

○ 超巨大地震は低頻度の現象であるため、その発生予測には、新しい統計的な手法を用いた低頻度現象の予測手法の開発を行う必要がある。同時に、歴史地震学、地質学などのデータを用いた低頻度現象の事象発生シナリオとその分岐確率を求める研究を始める必要がある。

○ 超巨大地震に伴い発生する現象として津波がある。超巨大地震に伴う津波の予測手法を開発する研究を進める必要がある。

ア.超巨大地震の震源域における地殻活動のモニタリング

○ 陸域と海域の観測によって、平成23年東北地方太平洋沖地震震源域における地震活動などの地殻活動の予測のための地震・地殻変動のモニタリングを行う。

○ 防災科学技術研究所は、日本海溝海底地震津波観測網を整備し、日本海溝沿いの地震活動及び津波のモニタリングの強化を図る。

○ 海洋研究開発機構は、沈み込み帯域での地殻活動、地殻構造調査研究を行う。

○ 海上保安庁及び大学は、多項目・高精度な海底地殻変動観測によってプレート境界付近の地殻活動のモニタリングを行う。

○ 気象庁は、関係機関の地震津波観測網のデータも併せて、地震活動及び津波のモニタリングを行う。

イ.超巨大地震の長期評価手法

○ 古地震学的な手法等による地震発生サイクルの研究とそれに基づく巨大地震の発生可能性(地震発生ポテンシャル)と発生頻度の評価(長期評価)の高度化を図る。

○ 超巨大地震のような低頻度の事象については、史料や地質データに基づいて、事象発生シナリオと分岐確率の評価の研究を始める。

○ 大学は、まれにしか発生しない超巨大地震の長期評価を統計的手法に基づいて行う手法を開発して、全世界の地震データに基づいて検証する研究を行う。統計地震学的モデルと震源物理学的モデルに基づく数値実験的手法を統合した新しい手法を開発して、巨大地震発生の超過確率を評価する研究を行う。

ウ.超巨大地震から発生する津波の予測

○ 防災科学技術研究所は、日本海溝海底地震津波観測網を整備して津波予測の高度化に資する研究を進める。

○ 大学及び気象庁は、陸上及び海域の観測データ、海底観測データを用いて即時的に超巨大地震によって発生する津波を予測するシステムの研究開発を行う。

(3)超巨大地震とそれに起因する現象の解明と予測のための新技術の開発

○ 超巨大地震の発生の準備過程、震源過程、余効滑りとそれに伴う地殻変動と地震活動を精度よく観測するためには、海溝軸付近の海底の地殻変動を観測する必要がある。この領域の地殻変動を陸域の観測から推定するだけでは精度が不足するため、海溝軸付近の深海底での観測が不可欠である。このため、既存の海底地殻変動の観測技術を高度化する技術開発が必要である。なお、新しい海底観測による研究を強化すると同時に、既存の陸上の地震・地殻変動観測網を維持する必要がある。

○ 沈み込み帯で発生する超巨大地震の発生履歴の調査研究は、沿岸域での古地震調査だけでは限界がある。海溝軸付近の深海底において、海底地形調査や地質調査を行うことができれば、超巨大地震の発生履歴の解明に貢献できる。このためには、深海底で高分解能の反射法地震探査や掘削調査等から地震活動履歴を明らかにすることのできる技術を開発する必要がある。

ア.超巨大地震のための海底地殻変動観測技術

○ 大学は、深海型の海底地殻変動観測システムを開発する。

イ.海底地形・堆積物調査技術

○ プレート境界断層の活動履歴を解明するために、深海底で地形・地質学的調査に基づく古地震学的研究手法を開発する。

 なお、超巨大地震に関する観測研究の最終的目標は、東日本大震災のような甚大な地震・津波災害の軽減に資することである。このため、断層運動と地震動の生成・伝搬から、地表での強震動、建物の揺れなどを、地震学、地震工学、地盤工学などの分野が連携して総合的に理解し、建物などの構造物の被害予測の研究を行うことが重要である。また、幅広い分野の知見を生かし、本研究で得られた観測研究の成果を、地震や火山噴火の災害軽減に役立てられるように、社会に対してより速やかに伝える必要がある。さらに、本計画推進への理解を得るため、本計画の方向性や内容についても、地球科学関連学界や広く社会に対して、より積極的に伝えていく十分な努力が必要である。発生頻度の低い超巨大地震・巨大噴火や津波予測に関する研究においては、世界の他の地域のデータを用いた研究を推し進めることが重要であり、国内の関係機関の協力はもちろん、国際共同研究や国際協力をより一層推進する必要がある。特に、米国や欧州などの地震や火山噴火の多い国との共同研究や、データの交換を進め、各国の地震火山のデータベースと国際的なデータベースとの整合性を図る必要がある。加えて、本研究に関する予算や人事面についてもメリハリを利かせた適切な措置を講じるとともに本計画の実施機関においても幅広く協力していくべきである。また、今後は地震調査研究推進本部が策定する調査観測計画に、本計画の研究成果が適切に反映されることを期待する。

 

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