別添3 日本学術会議シンポジウム「礎(いしずえ)の学問:数学-数学研究と諸科学・産業技術との連携-」提言

2006年5月17日

 本シンポジウム第1部における産学官の方々による講演から、諸科学や産業技術の飛躍的発展のためには、複雑化する研究対象の中に潜む論理構造を見出す必要があり、さまざまな現代数学の活用、またさらなる高度な数学の創造が不可欠であることが改めて明らかとなった。例えば材料科学や生命科学のさまざまな根源的な問題の解明のために、数学的アプローチが真剣に試みられ、数学研究者との連携が求められている。また製造現場でも画期的な新技術の創出のために、高度な数学的洞察力と思考力に基づく発想が要求されている。そのため、米国などの欧米諸国では、研究開発戦略における数学の重要性を既に認識し、数学と諸科学・産業技術との連携を進めるための研究機関の設置や、数学研究の国家プログラムなどを実施していることが判明した。
このように、21世紀の現在、数学の可能性は大きく拓けている。科学技術創造立国を目指す我が国にとって、科学技術によるイノベーションの達成のために最新数学の創造と活用は急務ではないだろうか。

 しかし、我が国の数学研究を取り巻く状況は極めて厳しい。数学は現象の科学的記述という諸科学における礎(いしずえ)の役割を担い、諸科学の発展に直接的又は間接的に大きく貢献してきたにも関わらず、その成果を誰にでも理解しやすい形で伝えることが困難であるために、我が国の科学技術政策では長らく忘れられてきた。一方、発展著しい科学技術を背景に数学教育がますます重要性を増したが、数学研究者はこれに対しても誠実に対応し、学生の数学力の維持に努めてきた。数学研究者の能力を社会に有効に活かすためには、数学研究者に教育と研究に専念できる環境を与えるべきであり、彼らもそれを望んでいる。しかし、教員や事務員の定員削減や事務量の増加等により、数学研究者一人当たりのオブリゲーションがあまりに膨れ上がり、結果的に教育の事前準備や研究に向けられる時間が大幅に減少してしまった。
 そのため第2部でも指摘されているように、日本の数学者は能力があるにも関わらず、それを諸科学・産業技術に活かすことが欧米に比べ難しい環境に置かれている。それどころか、世界的に非常に高い研究レベルを誇ってきた我が国の数学に陰りが見え始めるまでに及んでいる。

 このような事態を真に打開し、数学研究を活性化し、それを諸科学や産業技術に積極的に活かすためには、数学教員の増員や基盤的研究費の増額など国家レベルの抜本的な対策が必要だろう。しかし、事態の根本的解決とまではゆかずとも、今日の高まる諸科学や産業技術からの要望に応えていくために、我が国の数学研究者がこれまでの流れを変える「きっかけ」として何か出来ることはないであろうか。

 その「きっかけ」として、本シンポジウム第2部において、全国の数学研究者有志が「ネットワーク型科学技術数学研究拠点構想」を提案した。この構想では、我が国の既存の数学研究能力を活用し、数学研究との連携による諸科学・産業技術の振興とともに数学研究の活性化を目指している。そのポイントは次の4点である。

  1. 諸科学・産業技術研究者と数学研究者が連携する場の構築と、それを支える最高水準の数学研究交流の場を提供すること
  2. 最先端の諸科学・産業技術を数学的にサポートする全国ネットワーク型の数学研究者チームを結成すること
  3. 数学情報文献ネットワークをはじめとする科学技術者向け現代数学普及のための実用システムを開発すること
  4. 高度の思索のための継続した研究時間を数学研究者に与えるための方策の実施

 本シンポジウムは、我が国の数学研究を取り巻く危機的状況を打開し、数学と諸科学や産業技術との連携を実施するための「きっかけ」となり得るこの構想を支持し、その実現をここに提言する。

 

お問合せ先

研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)

-- 登録:平成21年以前 --