光資源を活用し、創造する科学技術の振興-持続可能な「光の世紀」に向けて-まえがき

 地球に降りそそぐ太陽光は、地球環境システムの根幹をなすものであり、すべての生命の源である。
 46億年ほど前、誕生したばかりの地球にはオゾン層がなく、生物のDNAを破壊する紫外線がふりそそいだことから、生物は水中にしか存在し得なかった。約27億年前、水中のラン藻類の光合成は、次第に大気中の酸素濃度を増大させ、オゾン層が形成されて有害紫外線がカットされるようになり、4億2千万年前には生物が陸上に進出することが可能となった。このようにして、次第に現在の地球環境が形成されて、その下に、多様な生物が現れるとともに、人類が誕生し、人類は、光環境に様々に適応しながら、また、光を活用して、文明社会を築き上げてきた。
 太陽光は、地表上の気温を保つことなども含めて、生命の生存の基盤となっているが、経済活動の高度化等に伴う地球温暖化、オゾン層の破壊等の地球環境問題は、その基盤の存続を脅かしかねないものとなっている。
 また、太陽光は、光合成を通じて地球上の生命現象のほとんどすべてを支えており、文明社会の基礎となっている石油、天然ガス等の化石エネルギー資源や水力、風力等のエネルギーも、もとをたどれば皆、太陽光が源であるということができるが、太陽光の地表に到達するエネルギーのうち、食料やエネルギー源として有効に使われているのは、その十万分の一程度に過ぎないといわれている。
 更に、人類は、白熱灯や蛍光灯などの照明やレーザー、放射光といった新しい光を創出し、また、光触媒、光ファイバー通信をはじめ、光に関連する科学技術を飛躍的に発展させてきたところであり、21世紀は、エレクトロニクスの時代からフォトニクス(光科学)の時代、「光の世紀」になると考えられる。このように、光科学技術の研究開発には大きな期待が寄せられているが、今なお、光の持つポテンシャルは、十分に活用されているとは言えない。
 このような中で、経済と環境を両立させつつ、持続可能な社会を築き、安全かつ安心して暮らせる豊かな未来の実現を図るためには、光全体を様々な可能性を秘めた資源として捉えて、これを活用し、又は創造する科学技術を振興していくことが極めて重要である。
 また、光科学技術は身近なくらしに密接に関係するものも多いことから、これらをわかりやすく説明し、国民一般の理解を深めることが重要である。
 このような観点に立って、科学技術・学術審議会資源調査分科会では、光資源委員会を設置して、光科学技術を振興し、光資源を総合的に活用する方策について、調査審議を行ってきたものである。

 本報告書の構成は、以下のとおりである。
第1章 光と地球環境
 太陽光は、生命を支える地球環境システムの根幹であり、太陽光と地球環境の関係、地球環境の保全のために活用される光科学技術について記載している。
第2章 豊かなくらしに寄与する光
 光科学技術は、住環境や食生活など身近な日常生活を支え、より豊かなくらしに寄与することを記載している。
第3章 健康なくらしに寄与する光
 光科学技術は、精神医療やがん治療など、健康にくらしていくために活用されることを記載している。
第4章 経済・社会の高度化に寄与する光
 光科学技術は、我が国経済・社会の基盤を支えており、新しい光の創造等を通じてイノベーションをもたらし、経済・社会の高度化に寄与することを記載している。
第5章 提言 今後の展開方向と課題
 前章までの記述を踏まえて、今後の光科学技術の展開方向と共通する課題について整理している。

 なお、本報告書では、太陽光発電等のエネルギー分野に触れていないが、太陽光発電が究極のクリーン・エネルギーとして、光を活用した極めて重要な技術であることは周知の事実であり、引き続きその振興を図っていくことが重要であることについては言うまでもない。

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