3.各論 第6章 自然資源の統合的管理の事例調査(国内)

6‐1 岐阜県森林関係機関の事例調査

6‐1‐1 現状

(1)岐阜県域統合型GIS

 2007年5月に成立した地理空間情報活用推進基本法(National Spatial Data Infrastructure:NSDI法)は、安心して豊かな生活を営むことのできる経済社会を実現する上で、地理空間情報の高度な活用がきわめて重要であるとの認識のもとに、関連する施策の総合的かつ計画的な推進を謳ったものである。この法律のなかで、地方公共団体は当該地域の状況に応じて地理空間情報の活用推進に関する施策を策定・実施することを義務付けられているが、岐阜県はそれを先取りする形で、早くから情報の整備を進めていた。
 県は1999年に県内市町村と連携して統合型GIS整備指針を策定し、2002年には県域統合型GIS市町村検討会を立ち上げて共通地図の整備に着手している。具体的には既存の公共測量成果を利用して、地理標準に準拠した基本地図「岐阜県共有空間データ」を作成した。これは既存の森林基本図(県、1/5,000)、道路台帳図(県、1/1,000)、都市計画基本図(市町村、1/2500)などから必要な要素を抜き取り、高分解能衛星イノコスの画像データ(S=1/2,500)を背景において調整したものである。共有空間データの目的は、1.地図整備における重複の軽減、2.共同整備によるコストの縮減、及び3.GISでの活用など地図情報の高度利用であった。
 地理情報化の流れを見ると、紙地図・紙台帳から、データベースソフト、個別GIS、統合型GISへと展開してきた。個別GISは、業務に特化していて自在性が高く、高度で多様な解析が可能という利点がある反面、効果の及ぶ範囲が狭い、業務間で同じようなGISが乱立する、導入コストが高くつく、他のGISとの連携が難しい(想定されていない)などの短所がある。
 岐阜県は現在、県域統合型GISに取組んでいるが、これは共有空間データをベースにして個別業務ごとに作成された個別空間データを重ね合わせ、1つの地図として利用することをめざしている。この種の共同システムの狙いは、第1に情報の交流、共有、公開であって縦割り行政の解消にも結びつくとされる。第2に初期費用の低減や導入リスクの低下,業務の改善などによる行政コストの低減が期待されている。さまざまなマップがWeb上で公開されていて、誰でも自由に閲覧できる。
 共同利用システムの運営は岐阜県ふるさと地理情報センターが担当し、その運営費(7,000万円/年)は県と市町村が半分ずつ負担する。 

(2)岐阜県の森林GIS

 岐阜県が運用している個別GISのなかで特筆に価するのは森林・林業分野での活用である。GISの導入については1992年ころから検討が始まり、98年度から第1期森林GISの運用が開始された。その後GIS技術の急速な進歩や多様化するニーズに対応するため、再開発事業に取り組み、2006年度から第2期森林GISが稼動している。これにより全県に配備されたイコノスの画像や航空写真デジタルオルソ画像を背景として重ね合わせることが可能となり、森林情報の一層の精度向上につながっている。
 岐阜県の森林GISは、県の林政部が運用する基本情報システムで、域内民有林68.5万haの森林区域と関連情報(地番、所有者、樹種、面積、蓄積、土壌、法的規制など)を管理する。このGISの背景地図になっているのは、上記の岐阜県共有空間データを構成する森林基本図である。
 具体的な運用について述べると、県内が5つの流域に大別され、それぞれの流域で5年周期で航空写真の撮影とデジタルオルソ(地上解像度50㎝)の作成が行われるが、これがイノコス画像とともにGIS背景画像として使用される。ただしイノコス画像は撮影時期が異なっていたり、場所によっては雪や雲が写っているため、森林区域等の修正作業では使いづらく、両方の写真がある場合は航空写真オルソを使う。
 もともと森林基本図は県が地域森林計画の作成に用いる基本データで、一般公開されることはなかったのだが、「ぎふふぉれナビ」は外部公開型GISで衛生写真や森林基本図のほか、樹種分布、間伐実積、松枯れ危険度、冠雪害危険度、流木災害監視地域などのマップを一般に公開している。
 このほか、県内全域を対象にSPOT衛星画像を1年おきに撮影して違法開発を監視している。

(3)治山GIS

 これまでの治山事業ははげ山復旧や崩壊地の復旧が中心であったが、山地災害の予防に重点が移っている。この場合、厳しい財政事情のもと、災害発生の危険度と損害の程度をできるだけ客観的に予測して、限られた予算を有効に配分する必要がある。また災害危険マップを作成して地域と連携した防災・危機管理の体制を構築しなければならない。治山GISはそのためのものである。
 基本的な情報は、流域の森林状況、災害の発生状況、法指定の状況、過去の治山事業の実施などの関するものだが、これには治山GISで管理作成する情報(レイヤー)と他のシステムからインプットされる情報の2種類がある。前者の例としては、治山施設、山地災害危険地区、災害発生状況、地域からの要望箇所などであり、後者には森林GIS、保安林、砂防指定地、流木災害監視区域、活断層、等高線、数値地図などが含まれる。
 治山事業の客観性・効率性を確保するには、1.どこが崩れやすいか、2.どこが崩れると被害が大きいか、3.どのような事業規模が適切か、を判定しなければならない。これには広域的な危険個所の判定と局所的な崩壊予測とがある。

○山地災害危険地区判定(広域)
 比較的広い範囲の森林を視野に入れて、人家・道路等の保全対象に留意しながら、山地災害が発生した箇所および発生する恐れのある地区を予測し、その危険度が一定以上の地区を山地災害危険地区とする。具体的には、地質、地形及び林況のよる危険度の自動判定と活断層、災害発生状況など他のレイヤーからの情報の自動抽出である。

○崩壊予測判定(局所的)
 これは各種の情報を解析して得られるもので、斜面の水位予測計算(タンクモデル)、斜面の安定解析、1次河床変動解析(線的な土砂移動)、2次河床変動解析(面的な土砂移動)から構成される。
 山地災害危険地域については、インターネットで公開され、この情報がそれぞれの地域での防災に活用される。

6‐1‐2 岐阜県森林づくりプロジェクトでの活用

 岐阜県は2006年5月に策定した「森林づくり基本計画」にもとづき、林業及び木材産業の振興に関する新しい施策を展開しているが、2007年から始まった「森林づくりプロジェクト」は第4章の林業資源の項で述べた「課題」に対応すべく、所有規模の零細な森林を団地化して効率的な木材生産(主として間伐)を実施しようとするものである。モデル団地での森林面積はおおむね500ha程度。この森林をどのように取り扱うかについては公募することになっており、提案できるのは森林組合、素材生産業者、NPOなどの事業体で、それらが連携してもかまわない。提案者に求められているのは次の3点である。

  1. 森林づくり・木材生産計画の作成(現況林分調査、路網整備・作業システムの検討)
  2. 施業集約化の実践(団地化のための座談会と合意形成、モデル林の整備)
  3. 木材生産の実践(作業路の開設、高性能機械による伐出)

 提案が採択されると、その事業体は「市町村森林管理委員会」などと協議しながら実践していくことになるが、県は手持ちの助成策を動員して全面的に支援することになっている。
 この森林づくりプロジェクトでは上記の1.~3.のいずれにおいても、森林GISのデータなどが重要な役割を果たしているが、以下では資源現況の正確な把握、所有界の確定、合意形成を含む計画作成の局面での活用状況について一瞥しておきたい1)。 

(1)森林現況の正確な把握

 わが国の森林資源に関する基礎情報は、地域森林計画作成のベースとなっている「森林簿」と「森林計画図」である。森林簿というのは、林班・小班別に面積、所有者名、樹種、林齢、蓄積量など森林の状況を詳しく記載した帳簿のことで、5年ごとに更新されることになっている。計画図は森林の所在を地図に示したものだ。この両者はともに紙に書かれたもので、これまで別々に管理されてきたが、近年、情報処理技術の発達でGISデータとして管理されるようになり、相互参照が容易になった。さらにそれが空中写真や衛星写真などとの重ね合わせ可能になって、地理空間情報としての正確度が大幅に上昇し、活用の範囲も一段と広がっている。
 実のところ、広大な面積の森林を定期的にくまなく調べるのは不可能に近い。5年ごとにデータを更新するといっても、いちいち踏査しているわけでなく、過去5年間に変化した部分(伐採・造林・森林転用など)だけを修正しているのである。変化のない部分はそれぞれの地方で作成されている標準的な「収穫表」にしたがってコンピュータのなかで規則正しく成長していく。しかしこのようなやり方を20年も30年も続けていると、帳簿上の森林と現実の森林とのあいだに相当な狂いがでてくる。そこで森林簿を更新するために5年に一度空中写真を全国くまなく撮影されてきたのだが、データの補正にはあまり役立っていなかった。
 それが情報処理技術の飛躍的な発展で、空中写真を地図と重ねられるオルソフォトの価格が劇的に低下し、近年では航空機搭載の空中写真用デジタルカメラが登場して撮影と同時にオルソフォトができあがるGPS/IMUの技術も出現した。これらのオルソフォトと森林計画図・森林簿とを整合すれば森林現況を効率的に把握することができる。
 さらに航空レーザー測量の技術も森林資源の把握に応用されるようになった。これは航空機に搭載されたレーザー測距儀からレーザーを地面に向かって照射し、レーザーが跳ね返ってくる時間から地面や土地被服の高さ情報を取得する技術である。得られた情報を使って、個々の樹木の高さや直径、あるいは立木密度などの計測も試みられるようになった。この場合のレーザーデータは分解能が50㎝以下と非常に細かく、広域の資源量の把握には向いていない。空中分解能2mの情報では単木単位の情報は得られないが、広域的な森林を対象に林木蓄積量の概数を把握することは可能なようである。
 衛星画像も広く使われるようになった。空中写真に比べと情報量が多く廉価であることも魅力である。衛星画像と空中写真をうまく組み合わせ、必要なら踏査をかけるという方式をとれば、これまでよりもずっと廉価に森林簿の補正・更新ができるようになっている。

(2)森林所有界の明確化

日本の私有林は所有規模が概して零細なうえに同一の所有者の山でも分散して所在することが多い。従って所有の境界がきわめて錯綜している。従来は各所有者の責任で境界の管理を行ってきたが、近年ではそれができなくなり、所有者の代替わりも重なって所有界が曖昧になりつつある。木材の生産コストを引き下げるには、多数の所有者の森林をまとめて間伐などの施業を計画的・組織的に実施するしかない。この場合に大切なのは各自の森林所有権をしっかりと保護することだ。そのひとつの手段として、各自の所有界を確定したうえで、それを緯度経度で表示し、その情報が永久保存されるようなシステムが考えられる。
 問題は記憶から薄れつつある森林の所有界をどのように確定するかだ。現実にはさまざまなケースがあって、境界が現地で確認できるかどうか、合意可能な図面があるかどうか、オルソフォトが使えるかどうかで、処理の仕方が違ってくる(図6‐1‐1参照)。いずれの場合も最終的にはGPSで現地に再現される。

 図6‐1‐1 森林所有境界明確化の手順

図6‐1‐1 森林所有境界明確化の手順

(3)施業計画の作成と合意形成

 上述の(1節)と(2節)の情報をベースにして集合的施業のための計画が作成される。具体的には施業対象林分の摘出、林道・作業道の配置計画、年度ごとの団地施業計画であるが、これらの計画は立体的な3次元の俯瞰図することができ、そのうえに森林資源や所有者にかかわる情報などを重ね合わせることができる。
 1人ひとりの所有者から合意を取り付けて団地を組むのは容易なことではないが、納得してもらうには、なぜ団地化が必要であるか筋道を立てて説明することである。その説得にあたって、3次元の俯瞰図は合意形成の有力なツールになるであろう(図6‐1‐2参照)。モニターに映し出される森林の状況を俯瞰しながら、間伐を要する林分がどこにあるのか、そこへのアクセスを確保するにはどのような路網が必要か、団地化によって伐出コストがいかほど削減されるか、間伐のあと残された林木はどのように成長するかなどについて、わかりやすく説明するのである。

図6‐1‐2 団地化合意形成ツールとしてのGISの活用

図6‐1‐2 団地化合意形成ツールとしてのGISの活用

6‐1‐3 中山間地における小水力発電のポテンシャル評価2)

 岐阜県は降水量が多く、山地地形が卓越しているため、小水力発電のポテンシャルが非常に高いといわれている。電力中央研究所は郡上市全域を対象に、当所が開発した水循環解析コード(HYDREEMS)を用いてアメダスデータ・GISデータ等から河川の日平均流量時系列を算出し、取・放水口地点間の総落差、林道長などをGISデータから与え、発電出力、建設単価、発電単価等を推計している(評価手法の概略は図6‐1‐3に示す)。

図6‐1‐3 水力発電ポテンシャルと経済性評価

図6‐1‐3 水力発電ポテンシャルと経済性評価

 ここで前提となっている水力発電方式は、低コストで簡易なチロリアン渓流取水方式と呼ばれるもので、大きな砂粒子は極力取り込まず、流水とともに取り込んでしまった小さな砂粒子は取水施設と一体化させた沈砂池に沈降させる。水圧管路は取水施設に直接接続し、導水路は設けない。その水圧管路は一般市販管で林道などの既設道路に沿わせて設置する(図6‐1‐4参照)。

図6‐1‐4 低コスト・簡易型渓流水力発電システムの概念図

図6‐1‐4 低コスト・簡易型渓流水力発電システムの概念図

 対象となった郡上市の面積は1,030㎞2で、人口は48,300、世帯数は14,900である。土地のほとんどは森林で、田畑は30㎞2しかない。水循環解析コードに使われたデータは、標高、土地利用、土壌、地質、土地被覆などの地理空間情報のほかに、アメダスなどの気象情報も使われている。こうしたデータから日平均流量が求められ、これを用いて年間可能発電電力量が求められた。
 郡上市には大小21の河川があるが、その発電ポテンシャルと発電コストを求めると(図6‐1‐5)のようになる。ここで円筒の高さは最大発電出力、円の大きさは年間可能発電電力量を表す。このなかで亀尾島川、吉田川、石徹白川は、最大使用水量が2.8~4.7m3/sと大きく、最大発電出力はおおむね2,000kW以上、年可能発電量も1,100万kWh前後である。この3者について年間可能発電電力量で建設工事費を割った「発電単価」を求めると、99~135円/kWhでかなり低い。これ以外では140~240円が8箇所、200円台が7箇所、300円以上が3箇所ある。
 仮に発電単価が150円/kWhとした場合、耐用年数40年、補助率50%とすると年経費率は4%となり「発電原価」は6円/kWhとなる。耐用年数22年、補助率30%なら、年経費率は5.7%で、発電原価は約9円になる。
 21の河川において発電単価が最も安い組み合わせを合計すると、最大出力18,900kW、年間可能発電量8.9×107kWhとなり、その発電単価は173円/kWhである。1世帯が1年間に使う電力量が3,500kWhとすれば、これは25,700世帯分に相当し、郡上市の一般家庭の電力を十分にまかなえる。

図6‐1‐5 郡上市における水力発電ポテンシャルと経済性

図6‐1‐5 郡上市における水力発電ポテンシャルと経済性

参考文献 6‐1節
(1) この節の以下3項の記述はNPO法人安心技術振興機構『森林バイオマスの多目的利用に関する調査研究』(2007)第4章地域森林管理のための新しい情報技術(竹島)に依った。
(2) 電力中央研究所『中山間地における森林資源のエネルギー利用システム開発に関する研究』(2007)第2章中山間地における水力発電ポテンシャルと経済性評価

6‐1‐4 統合的管理のあり方と国内展開の基本事項について

 よく指摘されるように森林が果たすべき社会的な機能はきわめて多面的である。木材などの林産物の生産のみならず、山地災害の防止、水源の保護、生物多様性の維持、良好な景観の保持、保健休養面での役割など、国民の各層が森林に寄せる期待は枚挙にいとまがないほどである。林業資源として統合的管理をするというのは、こうした多面的な要求のほか需要面についても応えられるように管理することであろう。しかしこれは口で言うほど簡単なことではない。
 森林利用についての全体的なデザインは中央政府や地方政府の担当になっているが、現実にはそれぞれの機能に即して別々の部局で計画がつくられ、全体を統合するという努力が十分になされてきたとは思えない。多くの場合、担当部局は独自に情報を収集し、自らの判断でそれを加工して、施策に結びつけていたのである。集められた情報の多くが公開されてない以上、資源情報の共有に基づく統合的管理など望むべくもない。
 もともと森林資源の現況把握は現地での踏査をベースにしていた。地形の険しい奥地の森林について正確な情報を得るのは非常に難しく、憶測の入る余地も大きくなる。それが今日では、空中写真や衛星画像のデータが広く利用されるようになり、状況が一変した。さらに情報処理技術の飛躍的な発展を背景にして、各部局ごとに独自のGISがつくられ、さまざまな解析や応用がなされるようになった。
 岐阜県が整備を進めてきた県域統合型GISの画期的な点は、個別GISの共通のベースとして共有空間データが準備され、業務ごとに作成されたデータの重ね合わせが可能になったことである。この報告では、個別的な事例の紹介にとどまっているが、これらを重ね合わせることにより、相互の矛盾や問題点を容易に発見することもできるであろう。林業の統合的管理というのは、1人の全知全能な計画者が描き出すような性質のものではない。業務ごとに作成される個別空間データの重ね合わせを通して、問題点を是正しつつ、国民各層の合意を得ていくのが、現実的なアプローチであろう。そのような意味で共有できる地理空間情報の整備は統合的な林業資源管理を進めるうえできわめて重要な意味をもっている。 

6‐2 宮崎県農林牧業関係機関の事例調査

6‐2‐1 諸塚村の林畜複合経営管理

(1)現状(面積、人口、管理単位)

 諸塚村は宮崎県北部の耳川上流の九州山脈に位置しており、諸塚山をはじめとする標高1000m級の山岳に囲まれている。
 総面積18,759haのうち田は69ha(総面積の0.4%)、畑は48ha(同0.2%)にすぎず、山林原野が17,798ha(94.9%)と総面積のほとんどを占めている(数値は05年)。田畑等の経営耕地面積の推移をみると90年以降05年までの15年間に43%も減少しており、特に畑の減少が著しい。
 村内総生産では建設業を主とした第2次産業が27%、電気・ガス・水道業やサービス業を主とした第3次産業が66%を占め、第1次産業は7%にすぎないが、その6%部分を林業及び狩猟業が占めているように、林業を中心として発展してきた(数値は03年)。主要産物(05年)は多い順に木材(356百万円)、シイタケ(217百万円)、和牛(154百万円)、茶(60百万円)となっている。
 人口の推移を見ると1955年7141人であったものが、60年の8048人をピークに減少を続け、05年には2,119人にまで減少している。世帯数も60年の1,567世帯が05年には740世帯と減少傾向をたどっている。逆に65歳以上の高齢化率は、55年の5.5%が05年には35.3%にまで上昇している。 

(2)取組内容・管理単位

 林地の下草を牛に食べさせることにより、粗飼料の自給化をはかる放牧が「林間放牧」とされる。諸塚村の第1次産業の柱は林業であることもあって、林間放牧のひとつとして、植林後7~8年の育林期間中の林地での放牧「育林放牧」に重点を置き、特に林業面での労働力軽減をねらいとする取組を展開してきた。
 育林放牧は行政が主導するかたちで農林家が放牧に取り組んできた。すなわち牛は畜産振興センター(以下「センター」)が所有するものを無家畜農林家に預託等し、農林家は預託料等をもらいながら、育林放牧による林地の下草刈りを牛にさせるものである。無家畜農林家は5月頃から11月頃まで林地に繁殖牛を放牧し、冬季は牛舎で飼料給与を行う。繁殖牛から生まれる子牛を約半年間育成したうえで、肥育素牛として出荷・販売する。 

(3)取組推移

 昭和40(1965)年代に多くの有畜農家が林間放牧を導入したが、放牧空間を有刺鉄線による柵で囲ったことから、牛舎に連続する林野だけを利用するにとどまり、畜産的利用が主で林業との有機的結合はできていなかった。また牛の脱柵やダニによるピロプラズマ病等を発生するようになったことから放牧は減少し、ほとんどみられなくなった。
 その後、有畜農家数や牛飼養頭数の減少が続く中で、隣接する椎葉村が取り組んでいたクヌギ林への放牧に着目し、95年度から畜産での省力化を目的に林地の放牧による利用が始められた。
 こうした中で、繁殖牛を保有しない無家畜農林家が放牧による“舌草刈り”をねらいに、林地を提供して放牧を依頼するケースも見られるようになってきた。諸塚村では林業を最重要産業として位置づけていることから、畜産主導できた林間放牧を、林業と畜産との複合させた「育林放牧」として99年度から、農水省による日本型放牧モデル事業(林業・畜産連携型)の支援を得て推進することとした。具体的には村が所有するセンターで飼養する牛の無家畜農林家への預託やレンタル、「出張放牧」などの仕組を講じてきた。
 これに伴い一時は「畜産農家70戸のうち25戸、諸塚村役場を中心とする事業体が約52haの林地で林内放牧に取り組むようになった。」「混牧林の多くはクヌギ林であるが、最近スギ林やヒノキ林への放牧が進んでおり、2001年だけでも新規に約20haのスギ、ヒノキ林への放牧が開始」され、和牛の飼養頭数も増加してきた。
 しかしながら、その後和牛飼養頭数は漸増傾向をたどってはいるものの、林業情勢が厳しくなるのにともなって育林そのものは減少し、これに連動して育林放牧も減少してきた。現状ではシイタケ原木を確保するためのクヌギ林の一部で育林放牧が残るにとどまっており、有畜農林家で育林放牧を行っているのは10戸で、放牧頭数は40頭となっている。これとは別にセンターから牛の預託を受けている無畜農林家は07年12月時点で2戸、頭数は12頭にとどまっている。 

(4)支援策

 育林放牧を開始するにあたっては電気牧柵が必要となることから、電気牧柵購入資金の助成が行われた(1台4万円)。
 さらに無畜農林家についてはセンターをつうじて牛のレンタルや「出張放牧」に加えて、次のような支援が行われてきた(主なもののみ)。

  • 子牛飼育委託事業=センターで生産された子牛の飼育を農家に委託。センターが農家に委託料を支払うとともに、飼料代はセンターで負担
  • 妊娠牛飼育委託事業=センターの妊娠牛を農家に委託して子牛を生産。母牛は離乳後センターに返却し、子牛はそのまま農家に飼育を委託。飼育された子牛の販売額の70%が委託料として農家に支払い。飼料代は生産農家が負担
  • 妊娠牛供給事業=センター所有の妊娠牛を生産者の増頭、更新牛として払い下げ

(5)育林放牧の直接的効果

 99年度からの取組実績をつうじて次のような育林放牧の効果が確認されている。

  • 林地の下草刈りによる森林管理
  • 林業労働の省力化
  • 畜産経営における粗飼料自給化・省力化
  • 牛の健康確保、家畜福祉
  • きれいな景観、ほっとする空間
  • 鳥獣害被害の抑制

(6)技術の導入・活用

 電気牧柵の導入により牧柵を順次移動することが容易となり、林地の下草の状況に応じての放牧が可能になった。また放牧時の育成牛に多発しやすい、ダニによって媒介され40度以上の発熱、貧血、生殖器異常等を発生させる法定伝染病であるピロプラズマ病が抗生物質によって予防できるようになった。飼養技術もほぼ確立され、畜産サイドでの育林放牧の障害は取り除かれたとみることができる。
 さらには牛が木に体をこすり付けることによっておこる植栽木被害や、土壌流出や渓流水の水質汚染等も、放牧密度の調整や、渓流と放牧地の距離を一定以上確保するなどによってクリアできるようになっている。

(7)育成放牧の課題等

 畜産農家や農林家等育林放牧等に関係する者のほとんどは、育林放牧の効果について理解・評価しており、また技術や環境対策も確立しているということができる。その意味では育林放牧が行われなくなった主たる原因は林業情勢の悪化にあることから、森林の伐採・植林が可能となるような木材価格の上昇、もしくは支援の確保が最大課題となる。

(8)放牧育林の自然資源統合的管理の視点からの評価等

a.農林家レベル
 高齢化と担い手不足が進行する中で、日光の照射量が多く下草が繁茂しやすい育林時期に、放牧した繁殖子牛が下草を“舌刈り”してくれることによる労働節減効果は大きい。
 収支フローをみると、無畜農林家は繁殖子牛の預託を受けることによってセンターから預託料を受け取る。一方、子牛に飼料を供給しなければならないが、飼料代はセンターが負担することになっており、直接的な支出は発生しない。またあくまで子牛は預託していることから、子牛販売にかかる価格変動リスクを被ることもない。
 センターの役割は管内の和牛肥育農家に健康で質のいい肥育素牛を供給することであり、繁殖子牛を農林家に預託することによって、放牧により足腰の丈夫な子牛が供給でき、また地域資源のひとつである林地にある豊富な下草を食べさせることによって飼料代の圧縮もはかられ、さらには子牛管理にかかる人件費等の節約も図られることになる。
 無畜農家にとってもセンターにとってもメリットは大きいが、育林時期の林地を有していることが前提となり、したがって常時伐採と植林が行われている状態にあることが本システムを持続させていくための必要条件となる。

b.諸塚村レベル
 諸塚村は置かれた自然条件を生かしての林業立村を基本としており、林業の担い手が不足する中、高度な技術集団を集めて財団法人ウッドピア諸塚を設けての森林管理の受託を推進するとともに、FSCの森林認証制度の導入による木材の付加価値造成に取り組むなど、林業そのものの活性化に注力している。あわせて「百彩の森づくり」による全村の森林公園化により、「森を人々に広く開放し、多くの人に森をよく知って」もらうことをつうじて、「従来の林業立村から、林業以外の新たな柱を加えた新しい村づくり」を推進している。森林、渓流をはじめとする豊かな自然と、諸塚産の木材をふんだんに使ったログハウスのキャンプ場やグリーンパーク等施設、さらには古民家等も利活用してのグリーンツーリズム、エコツーリズムや「大豆応縁倶楽部」による休耕田活用等によって都市部から多くの人を呼び込んでいる。
 このようにして都市と農村との交流がすすむ中、育林放牧により手入れされたきれいな林地とそこで草を食む放牧牛のいる風景が都会から人をひきつける役割の一部を果たしているということができる。 

6‐2‐2 高千穂町の放牧による遊休農地管理

(1)現状

 高千穂町は宮崎県の北西部に位置し、熊本県・大分県と県境を接しており、九州山脈の中央部に位置する。総面積237.32平方㎞のうち、山林その他が86.4%を占め、田が4.6%、畑が3.8%と農用地はごくわずかであり、農用地は集落とともに標高300mから800mの急傾斜地に点在している。
 経営耕地面積は1985年1,722haであったものが、00年には1,327haと、15年間で22.9%もの減少を示しており、田や桑園の減少が大きい。農家数も1985年の2,215戸が2000年には1,761戸と20.5%減少している。
 2002年の町内総生産額は、第1次産業が7.4%、第2次産業が28.4%、第3次産業が57.4%と、第1次産業のウェイトは小さい。
 第1産業での生産額内訳(2003年)を見ると、農産物は2,335百万円で、主なものは水稲735百万円、果菜類628百万円、タバコ361百万となっている。畜産物は2,594百万円で、うち肉用牛子牛が1,342百万円、ブロイラー1120百万円となっている。また林産物は634百万円で、うち素材427百万円、シイタケ202百万円となっている。このように基本的には水稲をベースにして肉用牛、葉タバコ、野菜等を組み合わせた複合経営が展開されている。
 人口は1950年29,901人であったものが、2000年には15,843人とほぼ半減している。2004年の65歳以上人口は4,807人であり、高齢化が進行している。 

(2)取組内容・管理単位

 農業者の高齢化や後継者不足等により遊休農地が増加し、イノシシやサルによる農作物被害が拡大してきた。こうした遊休農地に牛を放牧して生い茂った草を食べさせることによって里山の景観を取り戻すとともに、獣害を減少させてきた(写真を参照)。

土捨て場(放牧前)

土捨て場(放牧前)

土捨て場(放牧後)

土捨て場(放牧後)

水田(放牧直後)

水田(放牧直後)  

水田(放牧後)

水田(放牧後)

(注)写真はいずれも高千穂町役場提供

 伊東和美氏(67歳)を中心に3名で今狩牧野営農組合を結成して、上田原地区の遊休農地、耕作放棄地での放牧とともに水田放牧をも行っている。 

(3)経営推移

 本地域は中山間地域で傾斜地が多い。もともと役牛に刈り干しを供給してきたところであり、山あいの農地で水稲を中心に肉用牛・葉たばこ・野菜・花き・茶等による複合経営が展開されてきた。当時は刈り干しが行われることによって「バリカンで刈り込んだようにきれいだった」という。
 昭和40(1965)年代には林間放牧にも取り組んできた経過はあるものの、脱柵、過放牧、ピロプラズマ病発生等により尻つぼみとなってしまった。
 その後、遊休農地や耕作放棄地が増加するのに伴い、荒廃が著しく景観も悪化するとともに獣害も拡大した。こうした状況に心を痛めていた伊東和美氏が単独で手をいれて荒廃するのを阻止しようとしてきたが、妻の病気等で人力による管理継続は困難となった。周辺の農用地がこれ以上荒廃していくことには耐えられないということで、西臼杵農業改良普及センターに相談してみたところ、電気牧柵を活用しての水田放牧、林間放牧等による成功事例があることを知り、現地見学等も踏まえて06年度から耕作放棄地での放牧を開始した。牛を放牧することにより繁茂していた雑草が“舌刈り”され、景観は見違えるほどにきれいになったことから、その効果をみて放牧を委託する農家が増加しており、放牧面積は急増している。上田原地区には水田60ha、畑20haがあるが、これらも含めて10haで放牧が行われており、「山から放牧が下りてくる」感じで放牧面積は広がりつつある。このほかに昔からの採草地があり、また林間放牧もある。現在、放牧に取り組んでいる農家は実施希望者も含めると30人にのぼっている。 

(4)放牧による遊休農地活用支援策

 当初、遊休農地については宮崎県単独事業「遊休農地復元条件整備事業」を活用して補助金をもらい、放牧利用するための必要資材を購入した。電気牧柵セット、永年牧草種子、土壌改良剤・肥料の合計金額は372千円(税込み)と比較的少額であり、補助効果は高い。
 また耕作放棄地やノリ面等に生えた竹や灌木等の伐採や火入れに必要な重機のレンタル料は、中山間直接支払いを活用することが可能である。
 また水田放牧については国庫事業「強い農業づくり交付金事業」としても取り上げられており、牧草種子や肥料購入等代金に充当している。 

(5)放牧による遊休農地管理の直接的効果

 放牧一般の効果として、

  • 粗飼料確保、飼養管理の省力化
  • 飼料代軽減
  • 牛の健康度向上
  • 景観確保
  • 鳥獣害被害の抑制

があげられるが、当地での取組みでは、特に

  • 景観の回復、農地の保全
  • 牛舎内のふん尿減少と衛生状態改善

の効果が大きいことが強調され、「耕作放棄地は宝だ」と語るほどまでに営農組合員はもとより集落内のほとんどの人たちが放牧牛の効果を実感している状況にある。

(6)技術の導入・活用

 もともと役牛の管理に手馴れた生産者が多く、また高千穂地区は優良牛の産地として知られており畜産農家のレベルは高い。
 基本的には電気牧柵の導入によって放牧管理と適切な農地利用が可能になっている。ただし、耕作放棄地での放牧の経験はまだ浅いことから「毎日が新たな経験」「日々勉強」であり、播種する牧草の選定や野草の生え方、区分けした放牧地間での牛の移動時期等、手探りの状況にある。 

(7)放牧による遊休農地管理の課題等

 大きなトラブルも発生することなく順調に推移してきており、技術面、管理面では特に大きな課題はない。過放牧による環境汚染を懸念する声もなくはないが、放牧密度を調整することによって対応している。
 遊休農地での放牧導入は、補助金交付がきわめて大きなインセンティブになっている。今後とも補助金を確保していくことができることが放牧継続・拡大の前提となる。 

(8)自然資源統合的管理の視点からの評価

a.上田原地区レベル
 担い手の不足と高齢化から農地の遊休化がすすみ耕作放棄地が増加してきたが、この担い手の不足を牛が代替しており、耕作放棄地等に生い茂った雑草を放牧された牛がきれに“舌刈り”し、かつての管理されることによって作り上げられてきた見事な景観がよみがえりつつある。きれいになった景観をみて放牧を依頼する農家も多く、放牧が地域に活力をよみがえらせている。
 今狩営農組合を設立して放牧を開始するにあたって、放牧用の牛は営農組合のメンバーがそれぞれ畜舎で飼養していた牛を利用している。したがって放牧取組みにあたって必要とされる資材は電気牧柵と牧草用種子、土壌改良剤、肥料であったが、これは県単独事業によって受け取った補助金を充当した。また放牧によって粗飼料が自給できるようになったことから繁殖牛1頭当たり年間2~3万円のコスト圧縮が可能となり、代表の伊東氏の場合、繁殖牛を25頭飼養していることから経営全体では50万円もの利益増加につながっている。さらには畜舎で飼養していた牛の一部を放牧にまわしたことから畜舎の飼養密度にゆとりが生まれて衛生状態が向上するなど、本業である和牛生産そのものにも大きなメリットがもたらされている。
 また水田の裏作として牧草を育て、ここに放牧する水田放牧もあわせて行われており、水田の有効利用がはかられている。
 こうした取組みをリードしているのが伊東和美氏であり、松野富夫氏等とともに営農組合を設立し、放牧面積を広げている。これを西臼杵農業改良普及センターが技術・管理面での指導と情報の交流・共有化を支え、農協が子牛や肥育牛の販売や良質資材の供給で支え、高千穂町は補助事業によって経営を支援しており、地域ぐるみの連携システムによって遊休農地管理のための放牧が展開されている。

b.高千穂町レベル
 当地には高千穂渓谷、高千穂神社等の自然や史跡等に恵まれ、観光地として全国的に知られているが、放牧による景観整備により観光への貢献も認められ、間接的に都市から人をひきつける役割を発揮している。
 そして当地は優良牛の産地でもあり、5年に一度開催される全国和牛能力共進会が、07年は鳥取県米子市で開催され、宮崎県は出品全9区分中、7区分で優等主席を確保しており、そのうちの2区分が高千穂地区からの出品であった。繁殖牛の放牧は健康で素質のいい子牛の供給を可能にし、銘柄牛産地を基礎から支えることになるとともに、美しく手入れされた景観が銘柄のイメージをアップしていくことにもつながってくる。

c.国民経済的レベル(諸塚村、高千穂町の両事例をまとめて)
 育林放牧は育林時の下草刈りの、遊休地農地管理としての放牧は遊休地等の雑草処理にかかる労働力を、放牧牛に代替させるものであり、高齢化、担い手不足が深刻な中山間地等では放牧牛が貴重な役割を果たしている。
 こうした放牧牛の働きは、たくさんの効果・メリットをもたらすが、国民経済的に見て評価可能な基本的ないくつかの効果等を上げれば、第1に豊富にある草資源を粗飼料として供給することをつうじて、食料自給率の向上をももたらすことができる。
 第2に、農林地や草地等の土地資源を畜産の粗飼料として活用することによって、畜産経営の低コスト化を可能にする。
 第3に、耕作放棄地等がきれいになり、農地としての復元も可能になるとともに、鳥獣害の抑制にもつながり、定住条件が維持されることになる。
 第4に、景観の保全が、都市住民が農村と交流していくための重要な環境整備を果たすことになり、人口減少と高齢かがすすむ中での人の往来が増えることによって中山間地等の活気をよみがえらせることにもつながってくる。
 従って電気牧柵購入費や牧草種子の購入等のために支出された補助金は、経済的効果だけにとどまらず、定住条件の維持や景観保全等の国土政策、環境政策も含めた多様な効果を発揮するということにもつながっている。
 ところで人口減少時代の本格的な到来とともに、国民1人当たりの米消費量のさらなる減少によって水田の過剰化がいっそう深刻化することが想定され、耕作放棄地等が一段と増加する可能性がある中で、牛1頭が1ha近くの農地等を管理することが象徴しているように、牛の放牧が何よりも土地利用型であることの持つ意味は大きい。また牛という生き物に土地資源を管理させることは基本的に環境調和的でもあるということができ、今後、放牧の重要性がますます高まってくるものと考えられる。 

<参考資料1>わが国における放牧の状況(肉用牛繁殖)

<参考資料1>わが国における放牧の状況(肉用牛繁殖)

<参考資料2>九州地区における放牧の状況

<参考資料2>九州地区における放牧の状況

6‐3 愛媛県水産関係機関の事例調査

6‐3‐1 現状

 愛媛県は、四国の西に位置している。大消費地である大阪や東京とは離れているが、近年の交通網の整備で、その距離は克服されつつある。2008年1月時点での総人口は1,450,971人、松山市を県庁所在地に27の市、郡、町からなり、北は、伊予灘、燧灘で、瀬戸内海に面し、西は宇和海を挟み大分県に面する。
 パルプ産業やタオル等衣類の生産が盛んであるが、生産額から言えば1次産業、柑橘類の生産や水産業も主要産業のひとつである(表6‐3‐1参照)。 

表6‐3‐1 愛媛県水産業の現状(平成16年)

項目 愛媛県 全国
漁業生産 海面 生産量(トン) 169,428 5,670,050
生産額(億円) 953 15,002
内水面生産量(トン) 507 150,773
担い手   漁業経営体 6,090 129,877
個人 5,872 122,877
団体 218 7,197
漁業従事者世帯数 47,260
漁業就業者数 231,000
漁港数 195 2,924
漁船隻数 10,169 223,818

(1)愛媛県水産業

 とりわけ、水産業は重要である。正確な海域面積は知られていないが、宇和海側で約100万平方キロメートル程度で、海岸線の総延長は、全国第5位の1,633㎞に及び、複雑なリアス式海岸となっていて、全国第3位の195もの港がある。宇和海には南から恒常的に黒潮が流れ込むために、愛媛県は海水温も気候も温暖である。こうした地理的要因から養殖業が盛んで、マダイ養殖や真珠生産は全国一である(表6‐3‐2参照)。
 ここ5年の年間総漁業量は17万トン前後を推移し、養殖がその半分近くを占め、漁船漁業従事者は2005年には11,051人と暫減傾向にあるが、60代以下が50%以上、40才以下が1割以上、他県と比較すると若い後継者が多少多い。特に、養殖の盛んな宇和島で若い人が多い傾向にある。養殖業を中心に、他県より安定した経営環境下にあることが、後継者の定着率に反映していると考えられている。とはいえ、(2)愛媛県水産試験場での聞き取り調査にあるように、漁業環境、経営は厳しさを増し、先細る傾向にあり、一段の漁業構造の改革、経営改善が必要である(表6‐3‐3、表6‐3‐4参照)。
 漁業権から見ると、沿岸漁業での養殖漁業件数が多い。養殖は温暖な宇和海に片寄り、特に、真珠産業は宇和海にほとんど大部分が集中している。
 2006年の漁船漁業における主要魚種はイワシ17,679トン、アジ類16,428トン、カツオ類8,307トン、サバ類6,055トンと付加価値の高い魚種が多い。もうひとつの特徴は、愛媛県における総水揚げ金額356億円中釣り漁業で26.8億円を稼ぐことにある。これは、主としてサバ、アジの一本釣りによる(表6‐3‐5参照)。
 今回の調査対象となった三崎漁業協同組合は宇和海に面している。宇和海は、養殖業で71,733トン、漁船漁業で51,763トンを水揚げし、県の総漁獲量の過半75%、金額ベースでも、県の水揚げ総額953億のうち、705億を稼ぐ主要漁場である(表6‐3‐6参照)。

表6‐3‐2 平成16年の海面漁業生産量・生産額の状況

(単位:トン、億円)

区分 愛媛県 全国
生産量 (トン) 169,428 5,670,052
  漁船漁業 89,731 4,455,064
  遠洋漁業 8,346 535,433
沖合漁業 29,173 2,405,946
沿岸漁業 52,212 1,513,685
養殖業 79,696 1,214,988
  ノリ(100万枚) (生産量) 96 6,043 9,220 358,929
真珠(Kg) 母貝 7,849 1,002 29,210 1,418
生産額 (億円) 953 15,002
  漁船漁業 356 10,659
養殖業 596 4,343

表6‐3‐3 愛媛県における海域別漁業就業者数の推移

(人)

海域
愛媛県 宇和海 瀬戸内海
11 15 11 15 11 15
区分            
13,120 11,051 6,860 5,489 6,270 5,562
10,260 8,808 5,380 4,325 4,890 4,483
15 ~ 39 歳 1,770 1,532 1,200 875 570 657
40 ~ 59 歳 3,900 3,526 2,370 1,997 1,530 1,529
60 歳~ 4,590 3,750 1,810 1,453 2,790 2,297
内 65 歳~ 3,110 2,725 1,190 992 1,920 1,733
2,860 2,243 1,480 1,164 1,380 1,079

表6‐3‐4 漁業の免許件数

(平成18年4月1日)

漁業分類\区分 海面 内水面 合計
燧灘 伊予灘 宇和海
定置漁業 2 3 2
共同漁業 173 144 52 369 23 392
区画漁業 5 13 241 259 23 282
  真珠 4 12 240 256 256
  魚類 1 1 23 24
  その他 1 1 2 2
  特定区画漁業 135 22 383 544 4 548
魚類 54 6 189 249 249
真珠貝 1 156 157 157
その他 81 15 38 138 142
合計 313 179 677 1,174 50 1,224

表6‐3‐5 海面漁業主要魚種別生産量の推移

(単位:トン)

区分\年 12 16
総計 92,809 89,731
  魚類小計 75,263 75,730
  イワシ 類 19,483 17,679
ア ジ 類 9,061 16,428
カツオ 類 8,266 8,307
サ バ 類 5,695 6,055
タチウオ 3,215 2,990
タ イ 類 2,997 2,619
その他 2,6546 21,652
水産動物小計 15,291 11,808
  イ カ 類 8,596 6,957
エ ビ 類 2,609 2,005
その他 4,086 2,846
貝類小計 1,228 999
  サザエ 576 586
その他 652 413
類小計 1,027 1,193
テングサ 433 475
その他 594 718

表6‐3‐6 愛媛県の海域別漁業生産量・額の推移

(単位 上段:トン、下段:万円)

区分 漁船漁業 浅海 養殖業 合 計
海域 魚類 水産動物 貝類 藻類
12 宇和海 40,061 7,644 83 382 48,172 62,107 110,279
1,274,376 108,219 11,614 4,954 1,399,162 6,312,272 7,711,434
瀬戸内海 35,202 7,647 1,144 644 44,637 11,787 56,424
2,035,530 584,303 133,307 11,721 2,764,862 607,148 3,372,010
75,263 15,291 1,228 1,027 92,809 73,894 166,703
3,309,906 392,522 144,921 16,675 4,164,024 6,919,421 11,083,444
16 宇和海 46,210 4,940 47 565 51,763 71,733 123,496
1,336,786 114,558 7,470 12,768 1,471,335 5,586,417 7,057,752
瀬戸内海 29,520 6,867 953 628 37,968 7,964 45,932
1,430,615 534,714 109,832 15,768 2,090,927 377,736 2,468,663
75,730 11,808 999 1,193 89,731 79,696 169,428
2,767,401 649,269 117,302 28,290 3,562,262 5,964,153 9,526,415

(2)愛媛県水産試験場

 愛媛県は、水産関係試験研究機関として、愛媛県水産試験場(技術職員17名)、中予水産試験場(東予分場も含む。技術職員22名)、魚病指導センタ‐(技術職員5名)、調査船「よしゅう」(船員2名)を抱え、他県より陣容は豊である。愛媛県水産試験場は、宇和海、中予水産試験場は伊予灘、東予分場は燧灘を管轄し、魚病指導センタ‐は文字通り魚病を担当している。
 2007年の運営費は、愛媛県水産試験場で50,362千円、中予水産試験場で91,374千円、他に、試験研究費として、国、県から2億円近い予算配分(代船建造費も含め)がある。近年の縮減による影響はあるものの、研究予算はある程度確保されている。
業務は多岐にわたり、沿岸域の漁業資源調査、放流事業、高品質アコヤ貝の育成、アコヤ貝の魚病に関する研究、養殖魚病、養殖魚に関する研究、養殖魚の飼料に関する研究を展開している。最近の具体的研究課題では、「宇和海における海況の変遷について」、「中国系及び日本系アコヤガイの真珠層構造の差異」などがある。他に、漁業関係者に対する様々な漁業指導も行っている(表6‐3‐7参照)。
 訪問時に、漁業生産に関して、漁獲量は、近年、16万トンとほぼ安定的に推移し、資源的にも低位安定にある。課題については、県魚連、漁協でも指摘があり、全国共通状況だが、1.近年の著しい魚価低迷、2.原油高騰、のために出船意欲、回数が大きく減少し、漁獲の伸びが停滞している。資源的には、こうした出航の不振が資源の維持、回復をもたらしている。愛媛県では養殖産業が盛んで、この分野では僅かながら増産傾向にあり、平成16年度には7.9万トンに達している。しかし、1.人件費の高騰、2.ミールがトン6万円から20万円と値上がりし、飼料代の負担が重くなり、収入は低下し、漁家経営は難しくなっている。水域環境について、海洋域全体の海水水温の上昇は明瞭で、平均で2~3℃に達し、愛媛県でも大量のハリセンボン来襲など、異常現象の兆候があるが、これが地球の温暖化、人為的な起因なのかは現場では断定できない。愛媛県沿岸でもしばしば赤潮が発生しているが、陸域には排水を大量排出する工業がほとんどないこともあり、排水は大きな事故となっていない。むしろ、養殖業の自家汚染の方が重大で、生餌を使わないなど抑制策の普及に務めてきたが、今後とも、赤潮の発生を防止するために飼料の改善などに取り組むことが必要であるとなどと言った説明があった。 

表6‐3‐7 愛媛県沿岸への放流尾数

魚種 種苗受入 放流目標 備考(平成 17 年度放流実績)
マダイ 150千尾(20mm) 105千尾(50mm) 中間育成放流 94千尾
ヒラメ 400千尾(25mm) 224千尾(80mm) 中間育成放流 316.8千尾
キジハタ 20千尾(80mm) 20千尾(80mm)
トラフグ 40千尾(70mm) 40千尾(70mm) 直接放流 40千尾
サワラ 60千尾(40mm) 37.8千尾(100mm) 中間育成放流 25.9千尾
クルマエビ 1500千尾(20mm) 945千尾(35mm) 中間育成放流 482.6千尾
シマアジ 中間育成放流 25千尾

(3)愛媛県漁業協同組合連合会(県漁連)

 県内65漁業共同組合が加盟している。理事12名、監事3名、職員113名で構成されている。連合会として、県内水産業の振興を図ることが主たる業務、特に漁業養殖、真珠養殖が重要となっている。2005年の取扱高は278億円であった。
 県内組合組織(全部が県魚連組合員ではない)としては、2007年の統計で、沿岸漁業協同組合として64組織があり、松山市三津浜組合が組合員数43名と最も小さく、八幡浜市の八幡浜組合が最大で、組合員2,389名を擁している(表6‐3‐8参照)。平均すると1組合当たり組合員数200名前後である。他に内水面漁業共同組合15団体、業種別協同組合2団体がある。内水面関係組合では大州市の肱川組合が3,439名の組合員を抱えている。業種別では宇和島市の愛媛県真珠養殖組合、組合員70名、が含まれる。信用事業(貯金残高)から見ると宇和島市の遊子組合(組合員260名)が59,94億円と一番多い。他に、愛媛県漁協女性部連合会、会員数2,852名、44団体、愛媛県青年漁業者連絡協議会、会員数705名、37団体が含まれる。
 県魚連では、訪問時、真珠の公開入札が行われ、閑散としていた昨年度打って変わり、50社以上の参加があり、盛況であった。真珠産業も7,8年前の赤変現象、魚病、の発生(温暖化などに起因するかどうかは不明)で壊滅状態となり、近年、さまざまな取り組みが効を奏して、回復基調にあるとの説明があった。

表6‐3‐8 愛媛県の沿岸漁業協同組合(64組合の内一部掲載)

(平成18年8月現在)(単位:人、百万円)

地方局 市町名 組合名 組 合 の 概 要
組 合 員 数 信用事業 ( 貯金残高 ) 販売事業供給高 販売事業取扱高
八幡浜地方局 大洲市 長浜町 357 354 711 1,136 106 933
伊方町 三崎 220 530 750 2,729 225 1,605
八幡浜市 八幡浜 1,166 1,223 2,389 10,301 2,194 5,769
宇和島地方局 西予市 明浜 140 163 303 1,577 492 1,154
宇和島市 吉田町 410 320 730 2,415 1,629 2,990
遊 子 190 70 260 5,994 3,670 5,088
戸 島 146 36 182 4,669 3,445 4,111
日振島 133 0 133 3,145 2,353 4,475
北 灘 323 5 328 1,524 192 6,688

6‐3‐2 三崎漁業協同組合(三崎漁協)

(1)現状

 三崎漁協は佐多岬にあり、漁場は,速吸(はやすい)(の)瀬戸を挟んで、瀬戸内海側、宇和海側にある。宇和海側の対岸は大分県で、三崎漁協は関サバで有名な大分県漁業協同組合佐賀関支部と一部漁場を競合する関係にある。組合員数は、正会員が220名、准組合員数が530名、計750名で構成されている。
 三崎漁協は地理的要因に恵まれ、対岸は佐賀関で、そこで漁獲されるマサバ、マアジは関マサバ、関マアジとして1996年に商標登録され、ブランド品として確立されていて、築地市場でのマサバ、マアジの一般的価格が㎏当たり5~600円程度なのに対して、関サバ、関アジは5,000円余と、付加価値が高い。三崎漁協が漁獲するマサバ、マアジも漁場が重複、隣接し、資源学的に同一系群を漁獲対象としていると考えられることから、関サバ、関アジのブランドに引きずられる形で三崎漁協が漁獲するマサバ、マアジの市場での評価は高く、高値で取引されている。
 こうした取り組みもあり、販売事業の取り扱い高は16.05億円に達している。これらは経費負担の少ない漁船漁業での収入ということで、漁家収入は高く、組合長の説明では、漁家所得が年間1,000万円を超える個人も少なくないとのことである。

(2)組織運営

 水産庁は、経営の安定という視点から、1県1漁協体制を指導している。対岸の大分県は2002年に統合し、旧来の漁協は支店(佐賀関支所)となった。これについては、愛媛県の対応は今後の課題となっている。
 三崎漁協は、理事13名、監事3名、職員22名からなる。ここ数代、漁協経営に優れた組合長の指導の下、佐多岬物産センターの開設など多彩な経営戦略を展開し、安定した経営を続けている。すなわち、三崎漁協で販売するマサバ、マアジは、関サバ、関アジと同一群と考えられることから、関サバ、関アジの高品質という市場の知名度を生かしつつ、岬(はなさき)サバ、岬(はなさき)アジとして新しいブランドとして,直販を主体とし、住み分けを図った。こうした戦略が効を奏して、関サバと異なるブランドを確立し、安定した経営の基盤を築いている。 

(3)近隣地域等との連携

 八幡浜地区の漁業従事者(漁協組合員数とは異なる。地区の漁業者数)は1,743名で、漁業は地域の主要産業の1つである。しかし、三崎漁協は、主要交通ルートから外れていて、一番近くの消費地、八幡浜へは車で1時間、松山市へは2時間かかり、地理的に不利であるが、三崎漁協は、漁獲物を一般の市場向けではなく、直販を主体にすることで、近年の道路、交通網の整備もあり、地理的欠点を克服している。他漁協との連携は、県漁連内で図るが、地域との連携は今後工夫することが必要である。

(4)大分県漁業協同組合佐賀関支店との連携

 三崎漁協は販売戦略ばかりでなく、漁獲物の高品質化の努力も怠らない点で優れている。高品質化のために内外で操業規則を決めて、実施している。漁協内では漁法(釣り、たて網、潜水)や漁法ごとに禁猟期、体長制限など、外部の佐賀関支店とはブランドの維持、高品質化のために申し合わせを行っている。特に、三崎漁協内では、漁期については資源保護の問題もあり、漁期の短縮、調整など年々見直しし、厳格化を図っている。また、佐賀関支店とは、関サバ、関アジとは魚場が重複、隣接することから、同一系群を利用していると考えられ、漁場をめぐる紛争防止、相互のブランドの尊重という観点から、連携を取り、

  • 漁場の調整
  • 漁法を釣りに限定する。
  • 釣り漁業では擬餌針を使用する。

などを申し合わせ、取り決めている。漁獲した魚についても、即殺による品質の高度化に務めるなど、取り扱いにも工夫している。

(5)技術的課題

 漁協の安定した運営を図るためには、不断の一定の漁獲物、量の水揚げ確保、高品質化が条件となる。加えてブランドの維持が欠かせない。そのためには、

技術的に
 ○ 漁場管理
 ○ 資源維持のための操業、漁業規則の見直し
 ○ 正確な資源情報の把握
 ○ 幼弱魚を守るため網目規制も含め漁労技術の確立
 ○ 漁労の安全性確保、緊急時の安全対策

ソフトの整備
 ○ 正確な漁業情報(市場など)の入手、伝達
 ○ 確固とした長期的漁協運営方針
 ○ ブランド維持のためのコンプライアンスの確保
 ○ 組合員間の連携協力、意思の疎通を図る。
 ○ 漁協の円滑な運営
 ○ 隣接する漁協、関係機関との調整
 ○ 県漁連、水試との密接な連携
 ○ 組合員の労働条件の改善
 ○ 人材の育成

などを整理し、克服していくことが必要である。

(6)今後の展望と問題点

 三崎漁協の戦略はブランド化の成功例で、一度ブランド化されてしまえば、直販体制をとる限り、地理的障害は克服が可能である。ただ、絶えず宣伝を行い。ブランド品としての名前を残す努力が欠かせない。現況が変らず、現在の体制をとる限り、経営は安定的に推移すると考えられる。当面の課題は、優れた戦略を、確固として維持、継続できる後継指導者、幹部の育成にある。
 一方で、新たな不安要因も出てきている。1つは、原油の高騰に端を発する船の油代の値上がり、油代に限らず利益率を上げるために、コストの削減は絶えず見直し、新規技術の導入しなければならない。漁船の共同運航も一案である。2つ目は、後継者の育成で、組合員の給与体系や労働環境などを改善し、漁業の魅力を高める必要がある。3つ目に、温暖化による漁獲量減少が将来起こる可能性がある。こうした情報の共有化を図ることも重要である。

(7)統合的管理のあり方と国内展開の基本事項

 水産を取り巻く状況は、エネルギー問題、環境問題の広がり、時代のニーズ(健康志向)、日本の置かれている国際情勢の変化に伴って、刻々変化する。そうした変化に即応するためには、絶えず状況分析を欠かさず、来るべき変化を事前に予想し、従来の枠組みを超えた前述のソフト、ハードを組み合わせた対策を講じておくことが必要である。
地域的課題と問題克服のための処方箋は、1.技術的課題、2.今後の展望と問題点で読み取って貰い。ここでは、よりグローバルな視点で海洋資源の問題を次の4点に絞り取りまとめて議論する。

イ)資源管理の問題:
 海洋生物資源は、自立的に再生産されるものではあるが、自然環境の異変ばかりでなく、乱獲、海洋汚染などの人為的原因から生物が減少、絶滅することもある。一面で、海洋生物が人の貴重な食料資源ということもあり、人為的起因による資源の減少、絶滅を避け、持続的な利用を図って行くと言うことは後世に対する責務である。そのためには、海洋生物の科学的管理、生物の発生から死亡まで、微生物から人までの生物循環を明らかにして、地球規模での海洋生物の再生産を阻害しない適正漁獲量を把握することが喫緊である。世界の海のどこかで、過剰漁獲が起こっていれば、適切な対応策、放流事業など修復作業も行う必要があるが、こうした海洋管理には単に水産業関係者だけでなく、全ての分野の英知が欠かせない。

ロ)水圏環境の問題:
 水圏環境の変化は、そこに生息する生物にとって重大な影響をもたらすが、それのみならず地球環境とも関係している。人為的原因によって地球の温暖化が起こっているとすれば、最終的にその影響は深海生物にも及び、また、フィードバックして、人の生存も危うくすることになる。人為意的理由による海洋の汚染や攪乱にもっと注意が必要で、そうした問題や海況の変化、海洋大循環の動向に対して、地域漁業者、関係者ばかりでなく地球規模での監視が必要である。

ハ)海洋の運用:
 海の管理運用は、その所属する国、地域によって適切に行われるべきで、そのために、法制度も含めて国民的に検討する必要がある。現行、地球規模では国際海洋汚濁防止法、国内関係でも地域、県単位でさまざまな海域管理施策が採られている。こうした方策が着実に実施されれば、水圏の保全はかなりの部分で保持され、他地域の情報を、相互に交換し、縦横に流通させ、実行していくことで、水圏問題がかなり改善されると考える。

ニ)海洋生物資源の有効利用:
 近海で漁獲される生物資源は、沿岸域で食料資源となる。水産物は鮮度低下が速いということもあり、大規模流通には向かない。そうした特性を熟知して、流通機構を整備し、廃棄物を出さないよう、かつまた、沿岸域の自給率向上に貢献するように効率的、有効に活用する方途を科学的に研究し、実用化を図るべきである。

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科学技術・学術政策局政策課資源室

(科学技術・学術政策局政策課資源室)

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