ナノテクノロジー・材料分野のおける当面の研究開発の推進に関する考え方について

平成13年8月30日
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
ナノテクノロジー・材料委員会

 文部科学省におけるナノテクノロジー・材料分野の推進に関する基本的な考え方(中間報告)にのっとり、特に文部科学省においては、平成14年度は以下のような点を十分に留意し、総合的かつ戦略的なナノテクノロジー・材料の施策を推進することとする。

1.物質・材料

 物質・材料分野において、社会ニーズ対応への重点化が求められている一方、これら社会ニーズ対応の技術開発を支える基盤技術、物質・材料の発掘は将来の技術革新につながる新たな芽を生み出すものであり、これら萌芽的な基礎研究が行われている文部科学省においては欠くことのできない視点である。
 そこで、社会ニーズ対応として、「環境保全材料」、「エネルギー利用高度化材料」、「安全空間創成材料」の3つの領域を、これらを支える基盤として、「評価・加工等基盤技術」、「新機能・高度な機能を生み出す物質・材料の発掘」の2つの領域を重点領域として位置づけることとする。
 なお、重点的に推進するに際して、研究者の自由な発想に基づく、萌芽的な基礎研究を重視する。

(1)環境保全材料

 材料のライフサイクル全体における環境負荷の低減、すなわち環境効率や資源生産性を飛躍的に向上させる環境影響評価、低環境負荷プロセス技術などゴミゼロ型・資源循環型技術や、有害物質の分解・無害化技術、毒性元素等の代替化技術など環境浄化・無害化技術に重点的に取り組む。

(2)エネルギー利用高度化材料

 1次エネルギー源の多様化、エネルギーの輸送・貯蔵・利用における高効率化と安全性の確保及び省エネルギーに資する画期的な材料関連技術に重点的に取り組む。

(3)安全空間創成材料

 高信頼性・高強度・高靱性・長寿命化を目指した材料研究開発、材料劣化や寿命を評価する技術、人体に適合した高強度・長寿命な生体適合材料の研究開発に重点的に取り組む。

(4)評価・加工等基盤技術

 材料の製造・加工プロセス技術の科学とその高度化、高度構造解析・分析技術の開発、広領域特性評価技術・部材性能保証技術の開発、計算科学による材料設計および新物質の探索、知的基盤のデータベース化・標準化に重点的に取り組む。

(5)新機能・高度な機能を生み出す物質・材料の発掘

 画期的な新物質は、多くの研究者により長期にわたって絶え間なく行われた試行錯誤の蓄積に基づいている。予測困難性から来る非効率を避けるため、目標とする物性・機能を予め明確に提示できる理論・計算科学を開発すること、合成法と物性測定法を充実・革新し組成・構造・かたちの多様性を広げ新しい物性・機能を効率よく探索すること、新物質を速やかに材料化のための原料・合成・加工/集積に関するプロセスにのせることが必要である。

2.ナノテクノロジー

(1)研究フェーズ毎の取り組み

  1. 個人の独創性を重視した萌芽的な研究への取り組み
     学術的な観点から科学研究費補助金を活用し、研究者の主体的、独創的提案に基づく、いわゆるボトムアップ型の研究の支援を行うとともに、大学、大学共同利用機関、公的研究機関等における独創的・先端的研究のための組織及び施設面での基本的な整備を行う。
  2. 10~20年後の実用化・産業化を展望した挑戦的な研究への取り組み
     ポテンシャルを有する大学、大学共同利用機関、独立行政法人及び特殊法人において各機関の特性を活かした個々の取り組みを着実に推進することに加え、分野や所属組織を越えて協力体制を構築するために、競争的資金を活用しつつ人を中心とした戦略的な連携体制を構築する。
     なお、10~20年後の実用化・産業化を目指した挑戦的な研究として期待される具体的研究課題は以下の通り。
    ○ 次世代通信用ナノデバイス
    ○ 超集積システム・素子・素材技術の研究
    ○ 単一分子素子と集積
    ○ テラビット級メモリーの原理・素材・方式
    ○ 新原理・量子デバイスの探索的研究
    ○ 次世代フォトニクスの基礎
    ○ バイオ分子デバイス
    ○ 超高感度知的センサ技術
    ○ IT化医療:ドラッグデリバリー・ナノマシン
    ○ ナノソフトマシン
    ○ 超分子制御
    ○ ナノチューブ・フラーレン
    ○ クラスター・ナノ粒子
    ○ ナノ構造制御触媒
    ○ ナノポア系材料
    ○ ナノ組織制御・機能材料
    ○ ナノ組織エネルギー貯蔵・変換材料
    ○ ナノコンポジット構造材料
    ○ ナノ制御高機能表面界面材料
    ○ 有機・無機融合ナノ構造体構築
    ○ ナノスピンエレクトロニクス
    ○ ナノ造形
    ○ プログラム自己組織化
    ○ ナノ新計測
    ○ ナノシミュレーション
  3. 5~10年後の実用化を目指した研究
     主に事業官庁及び産業界における研究開発プロジェクトにより推進されているところであるが、大学、独立行政法人、特殊法人等の文部科学省傘下の研究機関の研究者が、中核的なプレーヤーの一翼を担い、積極的に参画し、産学官連携に積極的に応えることにより我が国の産業競争力の強化に貢献してゆく。また、そこに派生する基礎的な研究課題について、科学的な解明や探索を行うことにより、相補的な役割を追求する。
  4. 共通基盤技術開発への取り組み
     物質・材料研究機構における超高圧電子顕微鏡や物性計測に用いる超強磁界マグネット群等の大型機器の開発等をはじめとした共通基盤技術開発を着実に行う。理化学研究所においては、ナノスケールでの物質操作及び、物性計測・観測技術等に関する共通基盤の開発に取り組む。更に、大学及び大学共同利用機関では、学術研究の拠点という特性を活かしつつ、各機関の特徴を最大限に生かした独創的な基盤技術の芽を創出し、発展させていく。

(2)人材育成への取り組み

 大学の構造改革の1つとして、ナノテクノロジーという切り口で融合されたコース、研究所、センター等を拡充するとともに、公的研究機関においても、企業の研究者に対する人材育成を図るとともに、最先端の研究施設等を活用した研究に学部学生、大学院生等が参画することにより、基礎分野のみならず実践研究にも対応できる若手人材を育成する。

(3)機関、分野を越えた横断的研究サポート機能の構築

 多種多様な機関や豊富な人材及び大型・特殊施設を擁する文部科学省が、情報収集・発信、施設の共同利用、人材育成等の研究支援機能を緊急に構築し、我が国産学官の研究者の総合的な支援の強化を図る。

文部科学省におけるナノテクノロジーの総合的推進

ナノテクノロジー・材料委員会名簿

井上 明久 東北大学金属材料研究所所長
小野田 武 三菱化学株式会社顧問
茅 幸二 岡崎国立共同研究機構分子科学研究所所長
川合 知二 大阪大学産業科学研究所教授
  岸 輝雄 物質・材料研究機構理事長
北澤 宏一 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
榊 裕之 東京大学生産技術研究所教授
澤岡 昭 大同工業大学長
  柳田 敏雄 大阪大学大学院医学系研究科教授
○・・・主査

ナノテクノロジーワーキング・グループ名簿

猪飼 篤 東京工業大学大学院生命理工学研究科教授
井上 明久 東北大学金属材料研究所所長
魚崎 浩平 北海道大学触媒化学研究センター長
臼井 勲 科学技術振興事業団常勤理事(基礎研究担当)
江刺 正喜 東北大学未来科学技術共同研究センター教授
茅 幸二 岡崎国立共同研究機構分子科学研究所所長
川合 知二 大阪大学産業科学研究所教授
川合 真紀 理化学研究所主任研究員
岸 輝雄 物質・材料研究機構理事長
北澤 宏一 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
榊 裕之 東京大学生産技術研究所教授
玉尾 皓平 京都大学化学研究所所長
塚田 捷 東京大学大学院理学系研究科教授
中村 道治 株式会社日立製作所理事研究開発本部長
舛本 泰章 筑波大学物理学系教授
柳田 敏雄 大阪大学大学院医学系研究科教授
早稲田 嘉夫 東北大学多元物質科学研究所所長
○・・・主査

物質・材料ワーキング・グループ名簿

相澤 益男 東京工業大学副学長
  秋元 光延 三菱マテリアル株式会社取締役会長
阿部 光延 元新日本製鐵株式会社顧問
井上 明久 東北大学金属材料研究所所長
遠藤 剛 山形大学工学部教授
小野田 武 三菱化学株式会社顧問
岸 輝雄 物質・材料研究機構理事長
北澤 宏一 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
国武 豊喜 理化学研究所グループディレクター
米屋 勝利 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授
高野 幹夫 京都大学化学研究科教授
福山 秀敏 東京大学物性研究所所長
松尾 陽太郎 東京工業大学理工学研究科教授
山本 良一 東京大学国際・産学共同研究センターセンター長
早稲田 嘉夫 東北大学多元物質科学研究所所長
○・・・主査

科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会 ナノテクノロジー・材料委員会(下部組織も含む)議論の経緯

―ナノテクノロジー・材料委員会―

○ 第1回(平成13年5月18日)

  • ナノテクノロジー・材料委員会について
  • ナノテクノロジーWG及び物質・材料WGの設置について
  • ナノテクノロジーを巡る検討の現状について
  • 文部科学省におけるナノテクノロジー・材料に係る取り組みの現状及び
  • 平成14年度の施策の検討にあたってのポイントについて

○ 第2回(平成13年8月27日)

  • 文部科学省におけるナノテクノロジー・材料分野の推進に関する基本的な考え方

―物質・材料ワーキング・グループ―

○ 第1回(平成13年5月28日)

  • 物質・材料ワーキング・グループについて
  • 物質・材料科学技術を巡る検討の現状について
  • 文部科学省における物質・材料科学技術に係る取組みについて

○ 第2回(平成13年6月14日)

  • 総合科学技術会議における議論について
  • 物質・材料分野の研究開発の現状及び重点事項に関するヒアリング
     井上明久(東北大学金属材料研究所長)
     岸輝雄(物質・材料研究機構理事長)
     佐久間健人(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)
     北澤宏一(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)

○ 第3回(平成13年6月29日)

  • 物質・材料分野の研究開発の現状及び重点事項に関するヒアリング
     小林英男(東京工業大学大学院理工学研究科教授)
     牛尾誠夫(大阪大学接合科学研究所長)
     牧正志(京都大学大学院工学研究科教授)
     遠藤剛(山形大学工学部教授)
  • 物質・材料分野の研究開発の重点事項について

○ 第4回(平成13年7月18日)

  • 物質・材料分野の重点領域について

○ 第5回(平成13年8月13日)

  • 物質・材料分野の重点領域について

○ 第6回(平成13年8月27日)

  • 「物質・材料科学技術の推進に関する基本的考え方」(物質・材料ワーキンググループ中間報告書)について

―ナノテクノロジー・ワーキング・グループ―

○ 第1回(平成13年5月18日)

  • ナノテクノロジー・ワーキング・グループについて
  • ナノテクノロジーを巡る検討の現状について
  • 文部科学省におけるナノテクノロジー・材料に係る取り組みの現状及び平成14年度の施策の検討にあたってのポイントについて

○ 第2回(平成13年5月24日)

  • 文部科学省傘下の機関におけるナノテクノロジーへの取り組みに関するヒアリング
     東北大学(井上明久委員、江刺正喜委員、早稲田嘉夫委員)
     岡崎国立共同研究機構(茅幸二委員)
     大阪大学(川合知二委員、柳田敏雄委員)
     物質・材料研究機構(古屋一夫企画室長)
     理化学研究所(川合真紀委員)
     日本原子力研究所(安岡弘先端基礎研究センター長)
     科学技術振興事業団(臼井勲委員)
     京都大学(玉尾皓平委員)
     筑波大学(舛本泰章委員)
  • 経団連におけるナノテクノロジーへの取り組みに関するヒアリング
     中村道治委員
  • 文部科学省における取り組みについての検討

○  第3回(平成13年6月7日)

  • 文部科学省傘下の機関におけるナノテクノロジーへの取り組みに関するヒアリング
     北海道大学(魚崎浩平委員)
     東京大学(榊裕之委員、塚田捷委員、北澤宏一委員)
     東京工業大学(猪飼篤委員)
     広島大学(山西正道副学長)
     九州大学(梶山千里工学府長)
  • 10~20年後の実用化・産業化を目指した挑戦的研究として重要な分野の抽出について

○ 第4回(平成13年7月6日)

  • 「ナノテクノロジーの推進について」検討のポイント
  • 10~20年後の実用化・産業化を目指した挑戦的研究として重要な分野の抽出について

○ 第5回(平成13年8月10日)

  • 文部科学省におけるナノテクノロジーの推進に係る基本的な考え方について
  • 10~20年後の実用化・産業化を目指した挑戦的研究として重要な分野の抽出について

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科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)