第1章 基本的考え方

1.1 評価の意義

 評価は、貴重な財源をもとに行われる研究開発の質を高め、その成果を国民に還元していく上で重要な役割を担うものである。評価により、新しい学問や研究の領域を拓く研究開発、世界的に高い水準にある研究開発、社会・経済の発展に貢献できる研究開発等の優れた研究開発を効果的・効率的に推進することが期待できる。

 評価は主として以下の意義を有し、評価に関係する者は、これらの実現を目指して評価を行うものとする。

  1. 創造へ挑戦する研究者を励まし、優れた研究開発を積極的に見出し、伸ばし、育てること。
  2. 研究者の創造性が発揮されるような、柔軟かつ競争的で開かれた研究開発環境を創出すること。
  3. 研究開発施策等の実施の当否を、社会への影響にも配慮した幅広い視点から適切に判断するとともに、より良い施策の形成に資すること。
  4. 評価結果を積極的に公表し、研究開発活動の透明性を向上させることにより、研究開発に国費を投入していくことに関し説明する責任を果たし、広く国民の理解と支持を求めること。
  5. 評価結果を適切に反映することにより、重点的・効率的な予算、人材等の資源配分等を実現し、限られた資源の有効活用を図ること。また、既存活動の見直しにより新たな研究開発への取り組みの拡大を図ること。

1.2 本指針の適用範囲

 本指針では、「研究開発施策」、「研究開発課題」、「研究開発機関等(注3)」、「研究者等(注4)の業績」の4つを評価の対象とする。また、研究開発の範囲は、国費を用いて実施される研究開発全般とする。

(注3)「研究開発機関等」とは、大学等及び研究開発法人等(研究開発を実施する機関及び資源配分機関)をいう。

(注4)「研究者等」とは、研究者及び研究支援者をいう。

1.3 評価システムの構築

 文部科学省の所掌に係る研究開発は、大学等における学術研究から、研究開発法人等における特定の政策目的を実現する大規模プロジェクトまで多様である。文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、評価の意義を深く認識し、各々の研究開発の特性に適した評価システムを構築する。

 評価システムの構築に当たっては、評価は、研究開発の企画立案や研究開発を的確に実施するなど戦略的な意思決定を行うための重要な手段であることを十分認識した上で、「研究開発を企画立案し、実施し、評価するとともに、その評価結果を次の企画立案等に適切に反映させていく」といった循環過程(いわゆる「マネジメント・サイクル」)を確立する。

 また、個々の研究開発課題や研究者等の業績の評価から、研究開発機関等や研究開発制度の評価、さらには研究開発戦略等の評価といった評価の階層構造が存在することを考慮し、個別の課題等から上位の機関や施策・政策に至る効率的な評価システムを構築するために、それぞれの評価の目的や位置付けを明確にするとともに、評価相互の有機的な連携・活用を具体的な機関やそこでの研究開発の特性に応じつつ各階層で進めていく。

 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、評価システムの適切な運用を確保するとともに、その改善を図る観点から、評価の在り方について評価者や被評価者(注5)等からの意見聴取に努めるなど、評価の検証を適時行い、評価の質の向上や評価システムの改善に努める。その際、各階層における評価が指針等に沿って適切に行われているか、無駄な評価や形式的な評価になっていないか、評価実施主体、評価者及び被評価者の間で十分なコミュニケーションがとれているかなどが必要な視点として考えられる。

 また、効果的・効率的な評価を行うため、評価に関する必要な情報・データ等を収集・蓄積し、評価に役立てる。

 さらに、評価は研究開発活動の効果的・効率的な推進に不可欠であることから、必要な予算、人材等の資源を確実に拡充し、充実した評価体制を整備する。

 (注5)「被評価者」には、研究開発を実施している研究者のみならず、評価対象が研究開発施策の場合は、その施策の実施者、評価対象が研究開発機関の場合は、その機関の長等が該当する。

1.4 関係者の役割

1.4.1 文部科学省内部部局、研究開発機関等

 優れた研究開発を伸ばすためには、研究開発に関係する全ての者が、評価活動を成熟させ、研究開発における評価の文化を創り上げることが重要である。

 文部科学省内部部局は、自ら研究開発施策等の評価を行うとともに、研究者や研究開発機関等の自律的な取り組みを補完するために、評価システムの構築・運営や評価環境の整備を適切に行う。

 研究開発機関等は、研究者が創造性を発揮し、優れた研究開発を効果的・効率的に実施できるよう、評価システムの構築や運営を適切に行う。また、評価者としての業務を重要なものとして理解し、研究者が評価者として積極的に参画しやすい環境の整備に努める。

1.4.2 評価者

 評価者は、厳正かつ公正な評価を行うことが評価システムの信頼を保つ根幹であることを理解するとともに、自らの評価結果が資源配分や研究開発施策の見直しに反映されるなどの評価の重要性を理解し、評価者としての責任と自覚を持ち評価に取り組む。

 評価に当たっては、適切な助言を行うなど、創造へ挑戦する研究者を励まし、優れた研究開発を見出し、育て、さらに伸ばすような視点に配慮する。

 また、自らの評価結果が、後の評価者によって評価されることになるとともに、最終的には国民によって評価されるものであることも自覚し、取り組むことが望まれる。

1.4.3 研究者

 研究者等は、国費の支出を受けて研究開発を行う責任の自覚と研究活動の改善・活性化にとって評価が重要であるとの認識の下、自らの研究開発に係わる評価について自律的に取り組むとともに、外部評価(注6)・第三者評価(注7)を受ける場合には、自発的かつ積極的に評価に協力する。また、専門的見地からの評価が重要な役割を果たすものであることを認識し、評価者として評価に積極的に参画する意識を持つことが必要である。

 研究者コミュニティにおいても、研究者の評価業務への参画が、研究者のキャリアパスにおいて十分意義があるものであるとの認識の醸成を一層図っていくことが必要である。

 (注6)「外部評価」とは、評価の対象となる研究開発を行う研究開発実施・推進主体が評価実施主体となり、評価実施主体の外部の者が評価者となる評価をいう。これらは、専ら評価実施主体の内部の者が評価者となる「内部評価」と区別される。

 (注7)「第三者評価」とは、評価の対象となる研究開発を行う研究開発実施・推進主体とは別の独立した機関が評価実施主体となる評価をいう。

1.5 評価における過重な負担の回避

評価に伴う作業負担が過重となり、研究開発活動に支障が生じないよう留意する。

 評価実施主体は、評価目的や評価対象に応じ、複数の評価実施主体が同一の評価対象についてそれぞれ異なる目的で評価を行う場合や研究開発課題・施策・機関といった階層構造の中で複数の評価を行うような場合等において、評価の重複を避けるよう、可能な限り既に行われた評価結果を活用する。具体的には、

  • 制度等の下にある個々の研究開発課題の評価は、制度等によって設定されている目標や運営等の枠組みに照らして評価を行うとともに、制度等を評価する際には、これらの評価結果を活用する。

  •  

    また、研究開発課題等の特性や規模に応じて、適切な範囲内で可能な限り簡略化した評価を行うなど、評価目的、趣旨を一層明確化した上で、評価の必要性の高いものを峻別し、評価活動を効率的に行う。具体的には、

  • 萌芽的研究、比較的小規模な研究、大学等における基盤的経費を財源とする基礎研究(注8)等は、特に必要と認められる場合を除き、実施報告書等の提出をもって評価に代える。なお、この際には、次の段階の研究開発の事前評価等を通じて、優れた研究開発を見落とさないように配慮する。
  • 外部評価は、評価者、被評価者ともに大きな負担を強いるため、小規模な研究開発等については、外部評価の実施の必要性も含め、評価方法について事前に十分に検討する。
  • 評価対象となる研究開発課題が比較的少額の場合、メールレビューを実施したり、評価項目を限定する。等

 なお、評価方法の簡略化を行う場合には、公正さと透明性を確保する観点から、評価実施主体はその理由等を示す。

 評価実施主体は、評価に当たっては、その目的・役割を明確化することを徹底し、評価システムとしての重複がある場合には、統合化・簡素化等の評価システムの合理化を図る。

 また、評価文書を可能な限り統一すること等により評価作業を省力化する。さらに、文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、外部評価の効果的・効率的な実施の観点から、あらかじめ自らの研究開発について適切な関係資料の整理に努める。

 我が国では、評価に従事する者が質・量ともに不十分なため、過重な負担一部の者にかかっていることを踏まえ、評価実施主体は、評価者、評価事務局職員等の育成・確保等評価体制の強化を図る。

 また、評価が無駄となったり形式化したりすること等により、現場に徒労感を生み出す恐れがあることから、評価に当たっては、評価実施主体は、誰がどのような目的で評価を実施するのか、また、評価結果は誰がどのように活用し、どのような効果をねらっているのか等に関して、それぞれの主体、その役割と責任などをあらかじめ明確にし、それを関係者に周知するとともに、評価結果が適切に活用されるようにする。

 (注8)本指針において、「基礎研究」には、研究者の自由な発想に基づく研究と特定の政策目的に基づく基礎研究を含む。以下同じ。

1.6 評価人材の養成・確保等

1.6.1 評価事務局職員、プログラムオフィサー等

 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、評価部門を設置し、国の内外から若手を含む研究経験のある人材を適性に応じて配置し、効果的・効率的な評価システムの運営と評価の高度化を推進する体制を整備する。

 競争的資金の配分機関は、競争的資金制度の適切な運用、研究開発課題の評価プロセスの適切な管理、研究開発の質の向上の支援等を行うために、研究経験のある人材を専任のプログラムディレクター(注9)(以下PDと記す)、プログラムオフィサー(注10)(以下POと記す)として充てるマネジメントシステムの構築を図る。この際、各制度の趣旨や目的等に応じて、PO等を最大限活用した効率的かつ的確な評価を行うための方法や評価に関係する者の役割分担の明確化が必要である。

 競争的資金以外の大規模プロジェクト等においては、恒常的に当該プロジェクトに関与し、円滑な推進のために助言等を行う者を必要に応じて配置する。

 PO等は、評価結果の信頼性を確保する上で重要な役割を担っていることに鑑み、資質向上のための研修等を受ける。

 また、研究開発機関等において、PO等の経歴を研究活動の一環として適切に評価し、給与や処遇に反映するなどインセンティブを確保することにより、PO等への従事を研究者のキャリアパスとして位置付ける。さらに、研究者がPO等へ円滑にキャリアを転換できるような仕組みについて検討する。

 文部科学省及び研究開発機関等の事務局における人的拡充を含めた研究開発評価体制の構築や職員等の評価実施能力の向上を図ることは、評価に係る各種作業を円滑に行う上で不可欠である。このため、文部科学省及び研究開発機関等は、職員等を対象とした研修等の開催、職員等の海外研修・海外留学等への派遣、評価に係る相談窓口の設置、評価機関のネットワークの構築、研究開発評価専門研究者等の国際会議等への派遣等の取り組みを進める。

 また、研究開発機関等は、評価部門に専門性が蓄積されるように人事運用面で配慮するとともに、評価事務局職員等を持続的に養成・確保していくために有効な対応策の構築やキャリアパスの確立に努める。

 (注9)「PD」とは、競争的資金制度と運用について統括する研究経歴のある高い地位の責任者をいう。

 (注10)「PO」とは、各制度のプログラムや研究課題の選定、評価、フォローアップ等に関わる諸実務を行う研究経歴のある責任者をいう。

1.6.2 評価者

 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、研究者の評価に対する認識を深め、評価の質の向上を図るなどの観点から、若手や海外の研究者を含む多様な研究者等を評価者として積極的に参加させることなどにより評価者の層の拡大に努める。

 さらに、適切な評価者を選任するため、評価者候補となる人材に関する情報を蓄積・活用する仕組みの構築を図る。

 研究開発機関等において教育や研究といった活動を兼任している評価者やPO等について、過重な作業が原因で本務である教育や研究の活動に支障が生じることがないよう、評価実施主体は、当該評価者等の所属機関に対する適切な支援策やその所属機関における評価者等に対する適切な措置を検討する。例えば、競争的資金の配分機関等においては、評価者等の教育負担等を軽減するための経費の所属機関への措置等、所属機関においては、評価者等としての経歴の評価や教育負担等を軽減するための措置等を検討する。

 また、評価者として優れた人材の参加を確保するためには、評価者の社会的地位の向上と研究者が評価者となるインセンティブについての検討が重要であり、文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、有効な取り組みを検討する。例えば、研究開発機関等においては、研究者の任用において、研究開発評価に評価者として参加したことを履歴の一つとして考慮する。

1.6.3 評価システム高度化のための評価支援体制の整備

 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、評価の信頼性を高めるために、評価に先立つ調査分析を充実させるとともに、事前評価や追跡評価における研究開発の効果や波及効果等といった社会経済への還元に係る評価手法の開発、基礎研究に関する評価手法の開発など、評価システム高度化のための調査研究を実施する。

1.7 データベースの構築・活用等

 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、評価業務の効率化等を図るため、研究開発課題毎にその目的や領域の区分を明確にするとともに、研究者(エフォートを含む)、資金(制度、金額)、研究開発成果(論文、特許等)、評価者、評価結果(評価意見等)を収録したデータベースの構築やその活用、データベースへの情報提供を行う。

1.8 世界的水準による評価の実施

 経済社会のグローバル化が進展する中で、国費を用いて実施される研究開発においては、我が国における科学水準の向上、産業等の国際競争力の強化、地球規模の課題解決のための国際協力の推進など、世界的あるいは国際的な視点からの取組が重要となっている。このような研究開発の国際化への対応に伴い、評価者として海外の研究者等や豊富な海外経験を有する研究者等を参加させる、評価項目に世界的なベンチマーク等を積極的に取り入れるなど、研究開発評価に関しても、研究開発の特性や規模に応じて、実施体制や実施方法などの全般にわたって評価が世界的にも高い水準で実施されるよう取り組んでいく必要がある。

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