別添2

知的基盤整備プログラムの追跡評価結果(個表)

課題名 8.中性子光学素子の応用と開発(平成12年〜平成16年)
代表者 清水 裕彦
  • 当時:独立行政法人 理化学研究所
  • 現在:独立行政法人 高エネルギー加速器研究機構 中性子科学研究所
課題概要  第1期では、中性子光学素子そのものの研究を最も効率的に行える研究環境を実現し、中性子光学素子の製作と評価を最優先とし、並行して複合光学システムや中性子光学素子の能力を引き出すために必要な周辺技術開発を行う。さらに、中性子光学システムがもたらす中性子解析能力の向上を包括的に理論体系化し、先端的科学研究分野における新たな研究手法の開拓を迅速化する準備を行う。
 第2期では、第1期に確立された要素技術を新概念に基づく中性子散乱装置という形で応用・実用化することを目的とする。また、国際会議主催及び国内会議において各テーマを網羅的に発表する等の活動を行い、外部への情報発信を行う。さらに、産業界と関わりの深い研究者を通じて議論の場を持ち、産業界の要請に応えられるよう産業界との連携も目指す。
事後評価の概要  本課題では、ニッケルの6倍の全反射臨界角を有するスーパーミラーの開発、中性子磁気光学素子の開発、中性子光学素子全般及び周辺装置の設計、新装置の理論的定式化・シミュレーションを通じて新概念に基づく中性子散乱装置を製作し、その性能の評価を行っている。開発技術はタンパク質、金属超微粒子、高窒素ステンレス鋼などの構造解析に応用され、ナノスケールからミクロンスケールに及ぶ材料評価が可能であることを実証したことは評価できる。
 本課題で中性子利用効率の向上が図られたことにより、中小規模中性子源で材料の高度な解析が可能になっており、日本においてもEUのように研究拠点の分散型体制実現が期待できる。
<総合評価:a>
追跡評価の結果概要

 本課題では、世界最高性能のスーパーミラーの配備をはじめとして、世界をリードする多くの知的基盤が整備され、国際的評価は極めて高い。また、本課題で生まれた技術は新たな中性子利用技術の開発へ発展しており、中性子光学という技術分野も世界的に認められている。本課題の実施により、中性子に係わる知的基盤の拠点を構築できた意義は極めて大きい。

  • (1)実施期間終了後の知的基盤の発展状況
     本課題で開発された技術は中性子実験施設に配備されており、中性子の高分解能実験が日常的に行われる環境が整備されている。また、偏極スーパーミラー、低磁場駆動ミラーなどの世界最高性能の技術も開発されている。これらに加え、本課題で開発されたシミュレーション技術を基に、新概念に基づく高エネルギー分解能中性子散乱装置の開発や、大幅な小型化を実現する中性子散乱装置(F-SANS)の実証試験に向けた取り組みなど、知的基盤技術の拡充も図られている。
  • (2)知的基盤に対する国内外の評価
     世界最高性能のスーパーミラー技術や中性子散乱装置など、我が国発の新技術として国際的に極めて高く評価され、英国、仏国との共同研究として実証研究が進められている。また、中性子光学によって中性子利用効率を向上させるという概念の提案とその実証を行ったことにより、中性子光学という新分野の形成に至っている。実際、世界に呼びかけて行った中性子光学に関わる国際会議が2004年に開催され、これをきっかけに2007年にも再度開催されるなど、シリーズ化される方向である。
  • (3)知的基盤の活用状況やそれによって生み出された成果
     原子炉中性子源JRR-3の導管実験室で、その全てのビームラインに本課題で開発したスーパーミラー技術が適用され、材料の歪みや構造変化、生体高分子の繊維化などの重要問題の解決に繋がる成果が生まれている。また、開発した知的基盤技術は、J-PARCや中小規模中性子源を用いた中性子利用施設実現に向けての技術開発に繋がっている。さらに、中性子光学を主たる業務とするベンチャー会社により、基本的な技術の基盤レベルでの供給体制ができている。
  • (4)過去の評価の妥当性
     本課題により、世界最高性能の中性子光学部品や中性子実験装置などが、我が国発の優位技術として開発された。これら世界をリードする知的基盤技術のいくつかはすでに実戦配備され、開発技術は材料やバイオの分野の解析装置として活用されている。また、新概念に基づく中性子散乱装置、中小規模中性子源利用に向けた技術開発など、次の目標に向けて知的基盤技術は発展している。さらに、本課題で開発された中性子光学技術が大きく発展したことにより、中性子関係の国際会議において、中性子光学が1つの技術分野として地位を確立している。以上のように本課題の研究機関は実施期間終了後も研究を発展させ、中性子に関わる知的基盤技術の拠点として国際的にも高い評価を得ている。これらの状況から見て、過去の評価は妥当であると言える。