資料6−4

平成19年度科学技術振興調整費による実施課題の追跡評価について

平成19年12月11日
文部科学省
科学技術・学術戦略官付
(推進調整担当)

1.平成19年度における追跡評価の位置付け

 科学技術振興調整費においては、従来より中間評価及び事後評価を実施してきたが、一昨年改定された「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成17年3月29日 内閣総理大臣決定)、「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成17年9月26日 文部科学大臣決定)の中で、研究開発施策、研究開発課題等においては、終了後、一定の時間を経過してから、副次的効果を含め、研究開発の直接の成果(アウトプット)から生み出された効果・効用(アウトカム)や波及効果(インパクト)を確認することも、評価の在り方や制度運用の見直しに当たって有用であるとの観点から、追跡評価の一層の定着・充実を図ることが求められている。
 アウトカムやインパクトといった観点については、これまでも中間評価や事後評価において評価項目の一つとして評価を行ってきているが、これらの観点は、中長期的な視点から遡及的に評価を行うことにより、より精緻な、より質の高い評価が行えると考えられるため、中間・事後評価では必ずしも十分でなかった点を補うものとして、新たに追跡評価の仕組みを導入することとし、科学技術振興調整費のプログラム・オフィサー(PO)により、平成17年度から試行的に実施している。
 本年度については、17、18年度に実施した「総合研究」プログラムにおける追跡評価の経験を踏まえ、「総合研究」以外のプログラムについて、昨年を上回る規模で追跡評価を実施した。
 その際、実施課題のアウトカムやインパクトの把握に際しては、プログラムの設計に即した調査設計となるよう留意した。
 また、追跡評価の結果として、単なる個別課題のアウトカムやインパクトの評価のみならず、評価対象プログラムが果たした役割や成果を明らかにするとともに、今後のプログラム設計に関する改善事項を分析・提案するよう努めた。
 追跡評価の結果については、科学技術振興調整費の制度運用に活かしていくこととする。

2.平成19年度における追跡評価の対象プログラム

 平成19年度においては、昨年・一昨年に実施した「総合研究」以外のプログラムについて実施した。
 具体的には、事後評価から5年程度が経過している課題が最も多く、また、「総合研究」のプログラム趣旨が大きく異なる、「知的基盤整備」、「流動促進研究」の2プログラムを対象とした(各プログラムの調査対象課題は別添1を参照)。

〔知的基盤整備プログラムの概要〕

目的

先端的・独創的な研究開発を積極的に推進するためには、研究者の研究開発活動を安定的かつ効果的に支える知的基盤を総合的に整備することが極めて重要。このため、知的基盤に関する研究開発を推進することにより、我が国の知的基盤の整備を加速し、もって我が国の研究環境の向上を図る。

公募期間

平成9年〜平成12年

実施期間

5年以内

費用

1年につき2億円程度

〔流動促進研究プログラムの概要〕

目的

研究者の創造性の発揮に基礎を置いた柔軟かつ競争的で開かれた研究開発環境を整備するためには、研究者の流動化を促進させることが必要。任期付研究員が成果を上げることが可能となるよう必要な経費を措置することにより、国立試験研究機関における研究者の流動的かつ独創的な研究活動を推進することを目的とする。

公募期間

平成9年〜平成12年

実施期間

3年〜5年

費用

1年につき15百万円程度

3.各プログラムにおける追跡評価の方法

 追跡評価の実施に際しては、各プログラムの設計に即した調査となるよう、プログラム毎に調査方法を定めることとし、具体的には以下のとおり実施した。

(1)知的基盤整備プログラム

 本プログラムの追跡評価の実施に際しては、優れた取組がなされた結果として課題終了時に各研究機関に整備された知的基盤が、その後どのようなアウトカムやインパクトを生み出しているのかについて分析する必要がある。
 また、課題毎に整備された知的基盤の性質(研究用材料の開発、計測・分析手法等の標準化、計測・分析ツールの開発、情報のデータベース化 等)や研究領域が異なることから、実施課題毎に、詳細な分析・評価を行う必要がある。
 このため、本プログラムに関する追跡評価については、以下の手順・内容にて実施した。

  • 1 事後評価の結果が「a」評価であった課題を対象とした。知的基盤整備プログラムは全部で15課題実施されたが、そのうち事後評価の総合評価が「a」であった課題は8件であった。
  • 2 事前調査により、各課題において整備された基盤の内容と、現在における当該基盤の状況の把握に努めた。事前調査は、事後評価で評価された内容(項目)の発展状況ならびに現在の状況をインターネットや専門誌等を参照して調査した。
  • 3 事前調査によって得た情報とともに、研究代表者、研究参画者、外部有識者等を対象とした自由記述形式のアンケート調査を実施することにより、a)実施期間終了後の知的基盤の発展状況 b)知的基盤に対する国内外の評価 c)知的基盤の活用状況やそれによって生み出された成果 を把握した(アンケート調査票は別添4を参照)。アンケートに事前調査の内容を盛り込むことにより、回答者(課題実施者)に対して、質問内容を適切に伝え、より的確な回答が得られるよう努めた。
  • 4  3のアンケート調査の結果を踏まえ、積極的にインタビュー形式での調査を行い、さらに調査内容を深化させた。なお、客観性の確保の観点から、各課題で1名以上の当該分野の有識者(第三者的立場の者)を選定しインタビューを実施した。インタビューは直接面談方式または電話により行い、いずれも1時間程度行った。
  • 5 整備された知的基盤がどのようなアウトカムやインパクトを生み出しているのかを中心に、課題毎に評価結果を取りまとめるとともに、本プログラムの果たした役割等についても考察した。

(2)流動促進研究プログラム

 本プログラムの追跡評価の実施に際しては、国立試験研究機関が本プログラムで任期付研究員を採用した結果として、国立試験研究機関にどのようなアウトカムやインパクトを与えているのか(具体的には、研究者の流動的かつ独創的な研究活動が推進されたのかどうか)を調査・分析する必要がある。
 その際には、任期付研究員のリーダーシップや協調性、周辺環境等の外部要因から影響を受けることが想定されることから、個々の任期付研究者による研究成果の優劣にはこだわらず、むしろ、可能な限り多くの課題を対象とし、また、統計的手法によって総合的に分析することが妥当と思われる。
 このため、本プログラムに関する追跡評価については、以下の手順・内容にて実施した。

  • 1 事後評価の結果を問わず、採択課題全69課題中、1年の期間で終了となった1課題を除く68課題を対象とした。
  • 2 統計的な分析手法が可能となるよう、選択式のアンケート調査を任期付研究員、上司等に対して実施することにより、任期付研究員の採用が組織に与えたアウトカムやインパクトを調査した。
  • 3  2で得られたデータについて統計的手法による分析を行うとともに、必要に応じてインタビュー形式での調査を実施した。
  • 4 任期付研究員の採用が研究機関にどのようなアウトカムやインパクトを与えているのかを中心に評価結果を取りまとめ、本プログラムの果たした役割等についても考察した。

4.追跡評価の実施者

 追跡評価は、科学技術振興調整費のPOが実施した。調査の実施に際しては、各POが有する知見を最大限に活かしつつ、各POの知見等をとりまとめて総合的に分析を行う、「総括担当PO」を配置することにより、体系的な調査・分析を実施した。

5.評価結果

5−1 知的基盤整備

5-1-1 日程

9月中旬 事前調査の実施
10月上旬 アンケート調査表の作成
10月中旬 アンケート調査表の送付(研究代表者、主な研究担当者、研究運営委員会委員)
10月下旬 アンケート調査表の回収
11月上旬 インタビュー調査の実施(研究代表者、外部有識者等)
11月中旬 取りまとめ

5-1-2 評価結果概要

(1)本プログラムで整備された知的基盤の主な内容(各課題の終了時点)
  • 1 セラミックス、高分子材料、生体適合性材料、超伝導材料等の実用化に近い先進材料の標準化を目指し、これらの材料における標準物質、標準計測手法を開発し、ISO・IEC・JIS規格として策定させると共に、材料データベースを構築し、国内外の研究機関が活用できる基盤技術として整備した。
    【1.国際的先進材料の実用化を促進するための基盤構築に関する研究:独立行政法人物質・材料研究機構】
  • 2 機能性材料の熱物性値に関する標準化を目指し、熱伝導率、熱膨張率、音速等の分野の標準物質、標準計測技術を開発し、ISO・JIS規格として策定させた。また、標準物質の供給、依頼測定(機器校正サービス)等を行うと共に、熱物性データベースを構築し、国内外の研究機関が活用できる基盤技術として整備した。
    【2.機能材料の熱物性計測技術と標準物質に関する研究:独立行政法人産業技術総合研究所】
  • 3 寄託を受けたミュータントマウスの胚・配偶子を凍結保存するバンキング事業を進め、その情報をデータベース化し、「Mouse Embryo Banking System」(マウス胚バンク)として公開した。また、本バンクに保存される新しいミュータントマウスの作成に必要な、配偶子の遺伝子操作技術を開発し、これらを有機的に機能させることにより効率的な胚・配偶子バンクを確立し、その基盤整備を行った。
    【3.ゲノム機能解析に資する遺伝子操作マウスの胚・配偶子バンク確立のための基盤的研究開発:株式会社三菱化学生命科学研究所、(国)感染症研究所、岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所】
  • 4 長さ、幾何学量、力学量、電気量などの基本的な物理標準は広く基礎科学分野から・産業技術・社会分野に波及する技術基盤であり、これらの計量標準の整備及び国際化対応は重要な課題である。本取り組みの結果、国家的に整備すべき計量標準250項目中、31項目について開発・高度化・供給を実現した。また18項目において国際比較への対応を達成し、知的基盤が整備された。
    【4.物理標準の高度化に関する研究:独立行政法人産業技術総合研究所】
  • 5 ナノ精度のなめらかな表面を要求される超精密光学部品(たとえば、宇宙天文台の光学レンズの表面加工)や超精密金型、超微細精密部品などの加工技術の基盤を確立した。また、高感度X線検出素子開発技術に関する成果では、非破壊検査で最近知られるようになったテラヘルツ光学、中性子光学のための装置として、その応用分野で必要不可欠な知的基盤を確立した。
    【5.X線極限解析装置の研究開発:独立行政法人理化学研究所】
  • 6 透過電子顕微鏡は原子レベルの高分解能を有する観察手段として一般に用いられ、ナノテクノロジーをはじめ多くの分野の研究開発に貢献しているが、より多くの情報が得られる三次元像観察は生物試料に限られていた。本取り組みの結果、一般的な材料の三次元像を得るための試料回転機構、位置ぶれ補正機構、画像処理等の各要素技術、及びこれらの要素技術の透過電子顕微鏡や走査電子顕微鏡への応用等の基盤技術が開発され、観察技術としての三次元電子顕微鏡技術の知的基盤が整備された。
    【6.三次元電子顕微鏡の研究開発:独立行政法人理化学研究所】
  • 7 高度化する科学技術の基盤技術として、時間・周波数の標準の高精度化と校正技術は重要な課題であるが、世界最高レベルの安定度をもつセシウム原子泉方式の一次時間周波数標準器の開発、アジア太平洋地域の衛星双方向時間比較ネットワークの構築、超広帯域波長域光の発振、高エネルギーフォトン標準の開発等、量子標準に関する知的基盤が整備された。
    【7.量子標準体系の高度化に関する研究:独立行政法人産業技術総合研究所】
  • 8 中性子実験施設を用いた材料の構造解析分野において、中性子の利用効率を向上させ、物質の構造を効率的に研究できる環境を構築することを目指して、世界最高性能のスーパーミラー、中性子磁気光学素子等を開発している。開発した技術を用いて、中性子を用いたナノスケールからミクロスケールにおよぶ構造解析に適用できる環境が整備された。
    【8.中性子光学素子の応用と開発:独立行政法人理化学研究所】
(2)本プログラムで整備された知的基盤の発展状況

 独立行政法人産業技術総合研究所の開発した「一次時間周波数標準器」が、その後、世界レベルである2,000万年に1秒の誤差まで精度を高めている等、調査を行ったほぼすべての対象について、その後も知的基盤として発展している。
具体例:

  • 1 本課題で構築された「Mouse Embryo Banking System」は、その後、理化学研究所バイオリソースセンター(文部科学省・知的基盤整備計画において、本施設がバイオリソースセンターの中核的な役割を担うとされている。以下「理研BRC」)での技術的根幹となり、現在では、サブバンク的な役割として理研BRCと連携しながら順調に発展している。また、人材育成、マニュアルビデオや凍結保存キットの頒布・販売等を通じて、開発技術の標準化・体系化にも大きく寄与し、マウスの発生工学・生殖工学技術の底上げに重要な役割を果たしている。
    【3.ゲノム機能解析に資する遺伝子操作マウスの胚・配偶子バンク確立のための基盤的研究開発】
  • 2 開発した一次時間周波数標準器が、現在までに世界トップレベルの2,000万年に1秒の誤差まで精度を高め,測位衛星を用いた時刻比較を含め、米国,ドイツ,日本の平均値で標準を作っている国際原子時ならびに協定世界時の校正に用いられている。光領域の絶対周波数標準では、現在主流となっている光コム(光を一定周波数間隔で多数発生させることにより高精度に光の周波数が計測できる技術)の実用化研究に早くから着手し、世界水準に達した。
    【7.量子標準体系の高度化に関する研究】
  • 3 開発したスーパーミラーの配備により、高分解能の中性子実験が日常的に行える環境が整備されている。また、開発したスーパーミラーの作製技術ならびにシミュレーション技術を基に、偏極スーパーミラー、低磁場駆動ミラーなどの新しい世界最高性能技術も生まれている。また、新しい中性子散乱装置や大幅な小型化を実現する装置の開発など、知的基盤技術の拡充も図られている。
    【8.中性子光学素子の応用と開発】

 なお、「1.国際的先進材料の実用化を促進するための基盤構築に関する研究」においては、課題実施期間終了後に担当機関の予算の十分な確保ができず、新規関連分野の分析手法の標準化が進まない等の状況も見られ、国内外から更なる貢献が求められている。科学技術の進歩に伴って、知的基盤を継続的に整備することが重要である。

(3)本プログラムで整備された知的基盤に対する国内外の評価

 独立行政法人理化学研究所が開発した世界最高性能の中性子散乱装置は、我が国発の新技術として国際的に高く評価され、英国、仏国との共同研究として実証研究が進められている等、本プログラムで整備されたほぼすべての知的基盤に対し、国内外から高い評価を受けている。
具体例:

  • 1 国際度量衡委員会(CIPM)の複数の作業部会において技術的に貢献しており、本課題実施者が作業部会議長に就任するなどの事例があり、これまで熱物性標準の中心であった米国NISTに並ぶ標準化拠点として国際的に高い評価を受けている。
    【2.機能材料の熱物性計測技術と標準物質に関する研究】
  • 2 電子顕微鏡関連学会において、三次元観察が常設のセッションとなり、その研究成果は学会賞受賞など国内外で高い評価を受けている。また、材料観察手段として三次元電子顕微鏡観察が普及している。
    【6.三次元電子顕微鏡の研究開発】
  • 3 世界最高性能のスーパーミラー技術や中性子散乱装置など、我が国発の新技術として国際的に極めて高く評価され、英国、仏国との共同研究として実証研究が進められている。また、中性子光学によって中性子利用効率を向上させるという概念の提案とその実証を行ったことにより、中性子光学という新分野の形成に至っており、中性子光学に関わる国際会議を世界に呼びかけて2007年にスイスで開催し、国際的に高い評価を受けている。
    【8.中性子光学素子の応用と開発】
(4)本プログラムで整備された知的基盤の活用によって生み出された成果

 独立行政法人理化学研究所の開発した「超精密非球面加工技術」を活用することにより、世界一のマーケットシェアを占める加工機が開発される等、本プログラムで整備された知的基盤の活用によって、高い成果が得られている。
具体例:

  • 1 本課題で具体的な製品として開発された超精密非球面加工機は、世界一のマーケットシェアと最高の性能、品質を維持している。また、本課題で開発した技術を発展させて、超高帯域の基板吸収型テラヘルツ波検出器が世界で初めて開発され、テラヘルツ波アレイ検出器の開発でも世界で唯一の高品質アレイの作成に成功している。
    【5.X線極限解析装置の研究開発】
  • 2 光コムの技術は、産総研により、世界で初めて校正サービス(絶対光周波数計測)として利用され,現在もサービスを継続している。光コムの研究開発は,国際比較に必要なコンパクトな光周波数計測システムを開発するプロジェクトに発展し、その簡易版が株式会社アドバンテストから市販される予定である。高エネルギーフォトン量子標準の研究は,JSTの「人道的対人地雷探知・除去技術研究開発推進事業」(名古屋大学と共同)に発展し,地雷探知技術として発展している。
    【7.量子標準体系の高度化に関する研究】
  • 3 原子炉中性子源(JRR-3)にスーパーミラーが適用され、中性子を用いた構造解析の拠点として、材料のひずみや構造変化、生体高分子の繊維化等に関わる成果が得られている。また、開発した技術は、J-PARC(東海村)や中小規模中性子利用に向けた技術開発に展開するとともに、ベンチャー会社により、基本的な技術を供給する体制も構築されている。
    【8.中性子光学素子の応用と開発】
(5)まとめ

 以上のように、本プログラムで整備された知的基盤が、その後も継続的に発展しつつ活用され、第二期科学技術基本計画で定める「知的基盤」の4つの領域(研究用材料、計量標準、計測方法・機器、データベース)で、それぞれ高い成果を残している。しかしながら一部の取組においては、その後の予算確保が十分ではなく、関連する分野の分析手法の標準化が進まない等の状況も見られ、国内外から更なる貢献が求められているものもみられる。科学技術の進歩に伴い、整備した基盤の更なる発展が重要であり、知的基盤の継続的な整備が重要である。
 今回の調査対象課題は、いずれも事後評価で高い評価を得ているものであるが、上述のとおり、その後も順調に活用・発展されており、事後評価の結果も妥当であると考えられる。本プログラムは高い成果を上げており、今後とも整備された知的基盤の有効活用が望まれる。なお、時間標準や、標準物質などの科学・産業技術の基盤となる知的基盤に関しては、その精度の向上と運営の維持のために継続的な取組が必要である。このように終了後も継続して発展させる必要のある知的基盤に関しては、公募時に振興調整費による支援終了後においても継続して知的基盤を発展させることを求める等、プログラムの設計時に継続性を担保できる仕組みを設けることも重要と考えられる。

5−2 流動促進研究

5-2-1 日程

10月上中旬 調査票の作成
10月下旬 実施機関、本プログラムで雇用された任期付研究員(以下「調整費の任期付研究員」)及び当時のその上司への調査表の送付と回収
11月上中旬 分析、ヒアリング等追加調査の実施
11月中下旬 取りまとめ

5-2-2 評価結果概要

 課題が実施された国立試験研究機関(旧国研を含む)13機関、課題を実施した調整費の任期付研究員68名、その当時の上司68名を対象にアンケート調査を行った。回収されたアンケート数は機関12(92パーセント、内1機関は1部分のみに回答)、調整費の任期付研究員53(78パーセント)、上司49(72パーセント)であった。

(1)実施機関における任期付研究員制度の普及状況

 本プログラム実施前(平成8年以前)には殆ど見られなかった任期付研究員であるが、回答が寄せられた11機関において、本プログラムの開始年(平成9年)に研究員総数(常勤)比で平均約0.6パーセント、実施課題の取り組みが概ね終了した年(平成16年)には平均11パーセント弱に達し、任期付研究員数は平成9年以降急速に増加した。

表1.「流動促進研究」プログラム参加研究機関における研究員数と任期付研究員数
(平成9年と平成16年の比較)
  機関 機関A 機関B 機関C 機関D 機関E 機関F 機関G 機関H 機関I 機関J 機関K 機関L 合計(比率は平均)
平成9年 常勤研究員総数(名) 191 150 155 91 119 436 310 179 52 2,451 285 機関にデータが無い 4,419
内、任期付(名) 0 0 0 0 0 1 0 0 3 15 1 機関にデータが無い 20
任期付比率(パーセント) 0 0 0 0 0 0.23 0 0 5.76 0.61 0.35 機関にデータが無い 0.63
平成16年 常勤研究員総数(名) 174 139 155 75 110 399 247 209 52 2,395 291 81 4,246
内、任期付(名) 16 3 2 0 6 15 9 130 9 148 18 9 356
任期付比率(パーセント) 9.2 2.16 1.29 0 5.45 3.76 3.64 62.2 17.3 6.18 6.19 11.1 10.67
注)*:機関にデータが無いことによる

 新規採用研究員の採用形態は、本プログラム開始の年(平成9年)には回答が寄せられた12機関の合計において、定年制職員としての採用が91名に対して、任期付での採用は21名と少ない人数であった。一方実施課題の取り組みが概ね終了した年(平成16年)には、定年制職員としての採用が55名、任期付での採用は182名と、平成9年の採用比率とは逆転して任期付での採用が一般的となった。
 さらに、回答が寄せられた12機関中11機関より、「任期付研究員制度が研究員新規採用の一般的形態として、あるいはその一部として定着した」との回答が寄せられた。

(2)本プログラムが任期付研究員制度の定着に果たした役割

 本設問に回答のあった9機関中6機関が「任期付研究員数の増加に有効」あるいは「まずまず有効」であったと回答し、他3機関も「多少の効果があった」と回答した。
 また調整費の任期付研究員、上司共にその6割強が「有効」あるいは「まずまず有効」と答え、「効果が無かった」との回答は2割弱であった。機関、調整費の任期付研究員、上司のいずれも5割以上が「有効」或いは「まずまず有効」と回答しており、本プログラムは、任期付研究員数の増加に効果があったものと考えられる。

表2.任期付研究員数増加に対する効果
(パーセント)
  機関 調整費の任期付研究員 上司
有効 25 34 50
まずまず有効 33 30 14
多少の効果有り 25 11 20
無効 0 17 14
無回答 17 8 2

 本プログラムの任期付任用制度定着への寄与についても半数の機関が「寄与した」あるいは「まずまず寄与した」と回答し、残る半数が「多少の寄与が認められた」として、「寄与が無かった」とした機関は認められなかった。

表3.任期付研究員数増加に向けて効果が認められた点
(パーセント、複数回答可)
  機関 調整費の任期付研究員 上司
機関における任期付研究員採用のきっかけとなった 58 28 25
機関における任期付研究員採用の動機となった 33 26 16
機関における任期付研究員の認知度を高めた 50 42 57
その優れた成果より、任期付研究員採用の増加につながった 0 8 10
任期付研究員志望者数が増加した 0 6 10
任期付研究員応募のきっかけ(要因)となった 0 8 8
その他 8 15 6

 機関の多くが、本プログラム実施が任期付研究員採用のきっかけとなったと回答し、任期付き研究員の認知度を高めたとの回答も多く示された。調整費の任期付研究員、そしてその上司も共に、本プログラムが任期付研究員の認知度を高めた点を高く評価している。アンケートでは、採用数を高めることにつながったとの回答が多く、任期付研究員採用のきっかけ又は、動機となったとの回答も続いて多く認められた。また、本プログラムに参加することを目指し任期付研究員に応募して採択された研究者も見られ、任期付研究員応募者の増加にもつながったことがアンケートに示されている。
 任期付研究員制度は、科学技術基本計画(平成8年7月2日閣議決定)に基づき、研究開発システムの整備の一環として政策的に推進されたものであるが、本「流動促進研究」プログラムで雇用された任期付研究員は、その国立試験研究機関で始めて雇用された任期付研究員であったケースが多い。
 このため、科学技術振興調整費による任期付研究員の雇用に伴い、任期付研究員の評価制度や、再任用制度、処遇など人事制度の改訂・改革が試みられ、採用される任期付研究員数の拡大に伴って、そうした人事制度改革がさらに具体化・定着したことも、ヒアリングにて伺われた。この意味では本プログラムは各機関において任期付任用制度が定着する過程において、一定の役割を果たしたものと考えられる。


図1.人事制度改革に対する任期付研究員採用の効果(実施機関回答より)
左:調整費の任期付研究員による効果、右:本プログラム以外で雇用された任期付研究員をも含む、任期付研究員一般の採用による効果)
(3)本プログラムで実施した任期付研究員の雇用が研究機関に与えたその他のインパクト
[研究成果の創出]

 機関、調整費の任期付研究員の7割、そして上司の9割が、本プログラムの実施が研究成果等の創出に有効であったことを示し、その理由として論文発表等研究成果向上に有効であったこと、研究レベルが向上したこと、成果発表機運が高まったことを挙げている。

[若手研究者育成]

 10機関中6機関が「有効」または「まずまず有効」と回答し、残る4機関も「多少の効果があった」と回答した。調整費の任期付研究員とその上司による評価はさらに高く、いずれも8割強が「有効」または「まずまず有効」と回答した。その理由として、大多数が「研究レベルの向上」、「成果が得られたこと」そして「成果発表機運の高まり」を挙げている。
 「課題を実施した調整費の任期付研究員の成長に有効であったかと」の問いにも、同様の回答が得られており、実際に調整費の任期付研究員の約半数が「課題終了後国内の学会で注目されるようになった」とし、「国内国外との共同研究が増えた」との回答も目立ち、「国際学会で注目されるようになった」との回答も2割強認められた。
 このようにアンケートにおいて、本プログラム実施は若手研究者の育成に有効であったとの回答が多い。また、その要因として、「調整費の任期付研究員に対して相当規模の研究費が支給されたことが、その育成に寄与した」との回答が多く寄せられた。

[外部研究機関との交流促進]

 外部研究機関(所属研究機関以外の大学や他研究機関)との交流促進に関しては、回答を寄せた10機関中5機関が「有効」または「まずまず有効」と回答、4機関が「多少の効果あり」と回答し、上司も5割強が「有効」または「まずまず有効」と回答した。有効であった点として、「外部研究者との討議の機会の増加」、また「共同研究増加につながったこと」が挙げられ、本プログラムが外部研究機関との交流促進に有効であったとの回答が多い。

[研究員の流動化]

 本プログラムが研究員の流動化につながったかについては、表4に示されるように、「多少の効果」とする回答が最も多く示され、「有効」あるいは「まずまず有効」とする意見と「無効」とする意見が拮抗して、その効果は明瞭に示されていない。

表4.研究員の流動化に有効であったか
(パーセント)
  機関 課題実施者 上司
有効プラスまずまず有効 20 28 36
多少の効果 60 34 44
無効 10 32 16
無回答 10 6 4

 「有効」との回答では任期付研究員制度導入により主として任期付研究員の雇用や任期満了に伴う研究員の異動を評価し、「無効」との回答においては「任期満了後再任用されるケースが多かった」、「対象となる任期付研究員が少ない」とする回答が見られた。
 また、アンケートに寄せられた関連コメントにおいて、「受け皿としてのポストが限られるために流動化が促進されない」との声が複数寄せられた。

[その他]

 本調査において、「独創的研究の創出」、「機関内の交流促進」、「研究機関の国際化」についてもアンケート項目に含め、その効果を分析したが、明確な方向は得られなかった。

(4)まとめ
  • 1 科学技術基本計画に示された任期付任用制度を国立試験研究機関において推進するにあたり、「流動促進研究」プログラムの実施は、同機関における任期付研究員への認知度を高め、本プログラムで直接任期付研究員が採用されたのみでなく、同機関が任期付研究員の採用を推進するきっかけとなり、研究員の評価制度や再任用制度等、任期付任用制度の導入に必要な人事制度改革も誘導したことが伺われた。
  • 2 本プログラム実施により国立試験研究機関において推進された任期付研究員の採用は、論文発表などの成果向上や研究レベルの向上につながって、研究成果の創出に効果を示したとの声が多い。また、同様な観点より任期付研究員の育成にも有効であったとの声も聞かれている。
     本プログラムにおいては、任期付研究員に対して相当規模の研究費を支給していることから、他の任期付研究員について同列に論じることは避けるべきである。
  • 3 本プログラムの名称でもある「流動促進」については、その効果が明確に現れておらず、その背景として、任期付研究員の再任用が多いこと、本プログラムの対象となる研究員が少ないこと、そして、任期満了後の受け皿となるポストが少ないことが伺われた。
  • 4 機関内での交流や共同研究の促進、国際化、また、独創的研究推進の観点において、本プログラムの効果は明瞭に示されなかった。
  • 5 以上のことから、研究員の流動を促進する為には、任期付任用制度の推進・定着のみならず、本プログラムでは明確な効果が確認出来なかった事項を推進する観点も含め、さらなる取組が必要と考えられる。現在実施されている「若手研究者の自立的研究環境整備促進」プログラムなどは、このような観点を含んでいると考えられ、今後とも着実に推進すべきである。