別添2

知的基盤整備プログラムの追跡評価結果(個表)

課題名 7.量子標準体系の高度化に関する研究(平成10年〜平成14年)
代表者 松本 弘一:独立行政法人 産業技術総合研究所
課題概要  本研究は、量子標準を高精度化すると共に相互の技術的な結合を図ることにより、より高精度で整合性のとれた標準体系を構築し、SI単位系の高度化への貢献を通じて、科学技術開発のための知的基盤整備に寄与することを目的とする。そのため、以下の研究を行う。
 (1)レーザー冷却技術を応用した国際的にトップクラスのセシウム時間・周波数標準器を開発し、それらを相互に比較するための技術開発を行い、さらにシステムとして完成させ、精度評価、相互比較、実証実験を行う。(2)セシウム時間・周波数標準器を用いて、光の絶対周波数を測定するための要素技術の開発を行い、さらに高効率化とシステム化を行い、光周波数の測定実験を行う。(3)未整備の高エネルギーフォトン量子標準場を開発するための要素技術開発を行い、さらにシステム化して標準場を実現し、量子標準体系との整合性の確保のための実験を行う。
事後評価の概要  ごく一部の計画変更や未達成部分はあったが、代表者の適切な指導のもとに、世界最高レベルの安定度をもつセシウム原子泉方式の一次時間周波数標準器の開発、アジア太平洋地域の衛星双方向時間比較ネットワークの構築、超広帯域波長域光の発振、高エネルギーフォトン標準の開発が計画的に行われ、当初予定した以上の優れた成果をあげている。新しい方式で世界最高レベルの時間標準を達成するなどサブテーマそれぞれについて世界的な精度を得ることに成功しており、全体として高精度で整合性のとれた標準体系を構築し、外部に供し得る知的基盤の整備に大きく貢献している。
 また、得られた様々な派生技術は、広い範囲において科学的・技術的波及効果が大きいものであり、産業界への貢献も期待できる。今後はこの世界的に第一級の水準をいかに保ち、関連技術を普及させていくかが課題となるが、計量標準体系の確立と維持は国策であるべきであり、このポテンシャルを維持するための恒常的な予算の手当が必要である。
<総合評価:a>
追跡評価の結果概要

 本課題は、時間ならびに周波数標準技術の精度を高め、この分野における日本の地位を世界的なレベルに引き上げ、標準機関として認知されるに至り、知的基盤が整備された。離れた地点間の校正技術の開発、レーザーや光周波数計測システムなどの製品化も行い、広く時間・周波数標準の校正技術を提供し、我が国の産業技術の発展に大いに貢献している。

  • (1)実施期間終了後の知的基盤の発展状況
     時間標準では、開発した一次時間周波数標準器が、現在では2,000万年に1秒の誤差まで精度を高め,測位衛星を用いた時刻比較を含め、米国,ドイツ,日本の平均値で標準を作っている国際原子時ならびに協定世界時の校正に用いられている。光領域の絶対周波数標準では、現在主流となっている光コムの実用化研究に早くから着手し、その技術レベルは世界水準に達し、標準として認知されている。このように本課題は、時間ならびに周波数標準技術の精度を高め、この分野における日本の地位を世界的なレベルに引き上げ認知されるに至った。また離れた地点間の校正技術の開発、レーザーや光周波数計測システムなどの製品化も行い、広く時間・周波数標準の校正技術を提供し、我が国の産業技術の発展に大いに貢献している。
  • (2)知的基盤に対する国内外の評価
     時刻や周波数の標準化活動に於いて、国内の時刻標準として使われており、世界時の校正にも用いられるなど、本課題で開発した技術とそれを運用しているAISTならびにNICTは世界的に認められた数少ない機関に挙げられている。また光コムの開発では、日本の研究がノーベル賞候補にもなった。このような点から国内外の評価は極めて高いことがわかる。
  • (3)知的基盤の活用状況やそれによって生み出された成果
     光コムの技術は、産総研により、世界で初めて校正サービス(絶対光周波数計測)として利用され,現在もサービスを継続している。また,国際比較に必要なコンパクな光周波数計測システムを開発するプロジェクトに発展し成功している。ノーベル賞候補の東京大学の光格子時計の光周波数測定に貢献し、この成果はメートル条約における長さ諮問委員会(CCL)に報告して,認知されている。光コムの研究開発は,国際比較に必要なコンパクな光周波数計測システムを開発するプロジェクトに発展し、その簡易版が株式会社アドバンテストから市販される予定である。高エネルギーフォトン量子標準の研究は,JSTの「人道的対人地雷探知・除去技術研究開発推進事業」(名古屋大学と共同)に発展し,地雷探知技術として発展している。
  • (4)過去の評価の妥当性
     過去の評価は妥当であると判断できる。研究終了時において、開発されていた世界最高レベルの安定度をもつ一次時間周波数標準器の開発など主要4テーマの研究開発を継続し、世界から認知されるに至った。また開発した相互比較技術を現在も活用しアジア地域を中心に諸外国に貢献し日本の地位を高めている。このように課題終了後は、その成果のレベルを落とすことなく、精度の一層の向上,普及と実用化を進め、世界的な評価を高めていることは大いに評価される。開発した世界最高レベルの技術を維持するために継続的な支援が望まれる、との意見があった。