別添2

知的基盤整備プログラムの追跡評価結果(個表)

課題名 6.三次元電子顕微鏡の研究開発(平成9年〜平成13年)
代表者 岩木 正哉:独立行政法人 理化学研究所
課題概要  材料、デバイス等の高性能化、あるいは新しい高機能材料、新デバイスの創出は、原子レベルの微細構造を制御することによって達成される。それらの機能、特性などを含めた微細構造評価、新現象の発見には、原子レベルの三次元観察と高精度な結合状態や元素の分析が必要不可欠である。このような微細構造の計測技術は、重要であるにも拘らず、従来の計測技術では内部構造の二次元的な観察しかできないことや、ナノメーター領域の元素結合状態を高精度で測定できないなどの問題があり、新しい装置の実現が必要とされている。このような状況を鑑み、本研究では、研究の飛躍的進歩を可能にし、また、波及効果の大きい先端的3次元観察・分析装置をめざして、固体内部構造を0.5ナノメートル以下の空間分解能で立体観察するとともに、元素の結合状態と元素の種類をエネルギー分解能0.5eV(電子ボルト)以下で分析する三次元電子顕微鏡を開発する。
事後評価の概要  本研究課題は、半導体デバイスやナノ材料の構造の観察を可能とし半導体の不良解析等に有力なツールと成りうる興味深い研究である。目標設定は概ね正しくなされた上で、三次元像を得るための回転機構、位置ぶれ補正機構、画像処理等の各要素技術が確立されており、また、これらの要素技術は従来の透過電子顕微鏡や走査電子顕微鏡に搭載する可能性もあり、波及効果の高い成果であると評価できる。さらに、各要素技術を統合し、世界に先駆けて0.5ナノメートルの分解能での観察が実現しており、基盤ツールとして有用であると高く評価できる。ただし、この成果を知的基盤として広く活用するにあたっては、論文・特許等によってより多くの情報を発信すること、及び、本成果をもとに、フラーレンやナノチューブなどが原子レベルで観察されるなどアトラクティブなデータ取得がなされること、およびユーザーへ安価で提供されることなどが求められ、今後の発展に期待される。
<総合評価:a>
追跡評価の結果概要

 本課題によって開発された、を走査型透過電子顕微鏡で3次元電子顕微鏡観察行うためのシステム技術、要素技術、評価技術、ソフト技術の成果は、国内外の研究を触発し、製品開発に繋がり、三次元電子顕微鏡観察を標準的な観察手段にした。その意味で、期待された知的基盤は整備された。

  • (1)実施期間終了後の知的基盤の発展状況
     3次元電子顕微鏡観察を可能とする円筒状試料の作製技術(回転試料台、FIB加工技術)、実試料の三次元観察手法(ソフト開発)と最適化が達成され、材料のナノスケールでの立体観察技術として期待される成果が出された。本課題で開発された要素技術が基礎となって、三次元電子顕微鏡観察システムが日立ハイテクノロジーズから商品化された。また高分解能エネルギー分析装置EELSが開発され、日立より製品化された。このように大きな成果が得られたが、開発した実機そのものは広く一般ユーザーへ装置開放されていない。この点は、研究代表者が亡くなったことも影響したと思われる。いずれにしても、本課題の実施により三次元トモグラフィーを走査型透過電子顕微鏡で行うためのシステム技術、要素技術、評価技術、ソフト技術が開発され、その成果は学会で認知され、材料研究者に普及し、国内外の製品開発にも繋がり、新たな科学技術の発展に大いに貢献した。この意味で、期待された知的基盤は整備された。
  • (2)知的基盤に対する国内外の評価
     電子顕微鏡関連学会に於いて、三次元電子顕微鏡観察をテーマとしたセッションが常設されるようになった。研究成果は、学会賞を受賞するなど国内外で高い評価を受けている。また材料研究者にとって三次元電子顕微鏡観察が新たな観察手法として認知され使用されている。研究参画者は海外でも招待講演され、日立以外の日本ならびに海外の電子顕微鏡メーカが商品化しており、本知的基盤整備プログラムによる研究成果の評価は国内外で高い。
  • (3)知的基盤の活用状況やそれによって生み出された成果
     本課題の成果により生物試料だけでなく材料観察において三次元電子顕微観察ができることが示された結果、結晶材料やナノスケールのデバイス構造を扱うエレクトロニクス産業において本観察手法が使われている。本課題の波及効果により、三次元電子顕微鏡は本課題参画者の日立以外の電子顕微鏡メーカ(日本電子、FEI)からも製品化され世界の主要3社から製品が供給されている。この結果、世界の電子顕微鏡ユーザに新たな観測・解析技術の手法を幅広く提供することとなった。また三次元観測技術開発のために超高分解能を目指して本課題で開発した「冷陰極電界放出電子源を用いた高加速300kV(キロボルト)電子顕微鏡」と同クラスの電子顕微鏡は、最近日立ハイテクノロジーより製品化された。
  • (4)過去の評価の妥当性
     三次元電子顕微鏡のシステムが確立し、本課題で得られた成果が新たな科学技術の発展に大いに貢献した。課題終了時点では、情報発信が不足し具体的な観察事例と用途の開発が乏しいことが指摘されていたが、本課題の参画者が学会の三次元電子顕微鏡セッションにおいて主導的な役割を果たすなどの諸活動の結果、材料研究者に本観察手法が普及し、ナノ材料やナノデバイスの三次元像に加え、高解像度エネルギー分析装置EELSを用いた金属内包カーボンナノチューブの材料分析などの注目すべき成果につながっている。