別添2

知的基盤整備プログラムの追跡評価結果(個表)

課題名 4.物理標準の高度化に関する研究(平成9年〜平成13年)
代表者 田中 充:独立行政法人 産業技術総合研究所
課題概要  計量標準は科学技術や産業技術を支える最も基本的な基盤でありながら、我が国の計量標準に関わる活動は欧米に比較して優位にはないとして、その戦略的・体系的な整備が急務とされてきた。このような状況に鑑み、本課題では、基礎科学分野・産業・社会分野に広く波及する技術基盤としての計量標準の整備及び国際化への対応のため、長さ、幾何学量、力学量、電気量などの基本的な物理標準に関する技術の高度化を図り、知的基盤の整備を実施する。
事後評価の概要  物理標準という国家標準・国家基盤技術の高度化を目指した重要な研究課題である。国家的に整備すべきとして掲げられている計量標準が250項目である中、本課題において31項目について開発・高度化・供給を実現し、また18項目において国際比較への対応を行っており、科学的・技術的波及効果の期待できる非常に優れた研究であったと評価できる。研究目標の設定は、国際的な動向に留意しながら高い目標を定めるなど概ね適当であり、また、広範なテーマに対し、研究代表者がよく指導力を発揮している。本研究テーマを、敢えて産業界の国際競争力強化に活かすという視点からみれば、社会へのインパクトの高いテーマを選択すること、研究参画者以外の企業も含め産業界のニーズを捉えられるような研究連携体制を整備すること、研究成果を標準として供給するためにより多くの情報発信を行うことなどが期待される。
<総合評価:a>
追跡評価の結果概要

 課題終了後も物理標準の量・質を継続的に充実させ、科学技術・産業振興に貢献しており、知的基盤が整備された。国内外への情報発信も積極的に行われており、産業技術総合研究所は計量標準総合センターの機能を大幅に強化し、国際的にも認められ、海外との交流を推進する上で重要な役割を担っている。

  • (1)実施期間終了後の知的基盤の発展状況
     波長標準は国際度量衡委員会において認知されており、開発した高精度角度校正装置、非接触三次元測定機、トルク標準機、圧力計、重力計など、いずれも国際的に高く認知され使用されている。提供している計量標準の数は戦略的計量標準を含む目標500種に対して250を超え、基本計量標準はほぼ全て供給可能の体制となり、それに続く戦略的計量標準も毎年計画以上に供給数を増やしている。産業技術総合研究所はメートル条約に基づく法定計量標準機関として国際的に認められ、国内のみならず近隣諸国の計測装置の検査、試験、承認、校正サービスを実施している。当該研究機関はホームページ情報が極めて充実しており、社会への情報発信、成果還元が効果的になされている。
     本課題は、「物理標準」という共通のキーワードで組織されただけではなく、強力なリーダーシップにより、多岐に渡る高い成果が得られたと考えられる。物理標準という地味ながら科学技術の根幹に位置する分野をオールジャパン体制で推進させ、大いに研究・産業に貢献した点において、当該研究の意義と成果は高く評価できる。特に産業技術総合研究所チームは国際的にも認めら、同研究所は吉川理事長の方針のもと計量標準総合センターの機能を大幅に強化し、当該分野の海外との交流を推進する上で重要な役割を担っている。
  • (2)知的基盤に対する国内外の評価
     産総研はメートル条約に基づく法定計量標準機関として国際的に認定されている。ロータリエンコーダの高精度角度校正装置の開発では、経済産業省から計量法下の特定標準器に認定され、論文賞、研究業績賞などの学会レベルの受賞暦が複数認められ、その他の測定機器に関する特許取得も活発である。本課題で整備された非接触三次元測定機は,工作機械や大型の座標測定機の校正に使用されており,日本が得意とするものづくり分野に貢献している。本課題終了後、NEDOからの資金を獲得したことから、本課題は妥当な計画の下、優れた成果を創出したと考えられる。
  • (3)知的基盤の活用状況やそれによって生み出された成果
     トルク標準は、本課題実施以前には全く存在しなかったものであり、これが国家計量標準として確立されたことは、自動車製造業・航空機製造業・建設業・材料試験などに大きな貢献を果たした。産総研では、長さ標準の依頼校正を実施しており、ユビキタス校正・遠隔地校正へとサービスの拡大が図られており、多くの標準で公的機関と連携した校正サービスが実施されている。分野ごとに計測クラブを創設し物理標準の研究者とユーザーが、共同で現場ニーズに適したトレーサビリティーに関する国内体制の設計・普及ならびに国際相互承認等の国際的活動の推進を図っている。
  • (4)過去の評価の妥当性
     事後評価は極めて妥当と判断される。課題終了後も当該チームを母体として研究を継続させており、今後の展開も期待できる。測光・放射標準の高度化に関する研究(サブテーマ4)においては、光源施設(電子蓄積リング)の閉鎖等の理由により当初研究目標を達成できなかったが、光源の問題を重水素ランプ等の既存光源の高度利用によって解決する見通しが立っている。初期段階では社会へのインパクトの高い基本計量標準の供給に力を入れ、課題終了後5年で供給をほぼ達成したこと、産業界のニーズを捉える計測クラブを発足し運営したこと、ホームページ等で情報発信に注力したことなど、事後評価のコメントに十分答える活動が継続されている。