別添2

知的基盤整備プログラムの追跡評価結果(個表)

課題名 3.ゲノム機能解析に資する遺伝子操作マウスの胚・配偶子バンク確立のための基盤的研究開発(平成9年〜平成13年)
代表者 藤本 弘一
  • 当時:株式会社三菱化学生命科学研究所
  • 現在:慶應義塾大学知的資産センター
課題概要  本研究の課題は第一に、多面的利用が可能な胚・配偶子バンクの確立に資するため、遺伝子操作を行ったミュータントマウスの胚・配偶子を凍結保存することを中心とした生殖工学的技術の標準化と、その技術の普及に努める。また、第1期で確立された技術をもとに、外部研究機関からのミュータントマウスの寄託を受け、その胚・配偶子の凍結保存を行うバンキングを進めデータベースの公開を目指していく。第二に、マウス胚バンクに保存される新しいミュータントマウスの作成に必要な配偶子の遺伝子操作技術の開発に関する研究を行う。これら2つの柱を相互に有機的に機能させることにより効率的な胚・配偶子バンクの確立に向けての基盤を作る。
事後評価の概要  前期で蓄積された技術に基づく試作バンクを構築と運用、さらに現行の技術よりも革新的な配偶子操作の新規技術開発を目標に追加した。その成果として凍結保存技術の一層の普及、マウス胚バンクのデータベース公開、マウス核移植クローン技術の再現性確認等が達成された。これらは波及効果、情報発信、科学的価値のいずれの観点からも優れた研究成果である。第2期において研究者間でのバイオリソースの有効活用を可能にし、知的基盤整備の促進に貢献したと評価することができよう。研究発表件数、特許出願件数等、具体的な成果についても見るべき点が多い。また本研究課題において設置された「マウス胚バンク」は平成14年度開始の「ナショナルバイオリソースプロジェクト」に引き継がれることとなり、今後の展開が期待されるところである。
<総合評価:a>
追跡評価の結果概要

 実施期間終了後の知的基盤の発展状況、これに対する国内外の評価、知的基盤の活用とその成果のいずれの観点からも、また、今回実施した追跡評価においても、「知的基盤整備」プログラムの課題として十分な成果を得ているものと判断される。

  • (1)実施期間終了後の知的基盤の発展状況
     「Mouse Embryo Banking System」(以下:MEBS)は、その後、理化学研究所バイオリソースセンター(文部科学省・知的基盤整備計画において、本施設がバイオリソースセンターの中核的な役割を担うとされている。以下:理研BRC)での技術的根幹となり、現在では、サブバンク的な役割として理研BRCと連携しながら順調に発展している。さらに、人材育成、マニュアルビデオや凍結保存キットの頒布・販売等を通じた開発技術の標準化・体系化にも大きく寄与し、マウスの発生工学・生殖工学技術の底上げに重要な役割を果たしている。また、ES細胞から造精生殖細胞が分化誘導される可能性が示唆され、個体発生を経ない生殖工学技術の開発が想定されるなど、引き続き、ES細胞培養系を用いた生殖技術確立への重要な進展をもたらしている。
     また、三菱化学生命科学研究所及び新潟大学では、本課題の成果を基に技術講習会やセミナー等を行っており、人材の育成にも務めている。
  • (2)知的基盤に対する国内外の評価
     整備されたMEBSには国内外から相当数のアクセスがあり、遺伝子資源の供与依頼もおこなっている。遺伝子資源の供与は理研BRCに役目を移譲しているが、適切な対応からその評価も高い。また、顕微鏡下での授精技術があれば、容易かつ効率的にトランスジェニック動物を作出できる技術は、国内外で高く評価されている。
  • (3)知的基盤の活用状況やそれによって生み出された成果
     本課題で整備されたMEBSでは、我が国独自のモデルマウスを収集・保存し、その品質管理と情報提供を行い,特にヒト疾患モデル・遺伝子機能解析モデルマウスの品揃えと、それらの正確な特性情報を収集しデータベースで公開しており,世界最高水準の数と質を兼ね備えたマウスリソースが整備されており高く評価されている。
     また、本課題の成果を基礎として、理研BRCや熊本大学動物資源開発センター(CARD)が発足した。我が国のマウスを用いたライフサイエンス研究の基盤として,さらには、国際的には国際マウスデータベース(IMSR)を通じて、世界に我が国で開発されたマウスリソースを発信している。
  • (4)過去の評価の妥当性
     本課題で構築されたMEBSは、その後「ナショナルバイオリソースプロジェクト」に引き継がれ、理研BRCとしてさらに国際的な発展を遂げていることなどからも、事後評価での期待に即した知的基盤整備がなされており、事後評価が適切、かつ有効であったと言える。