別添2

知的基盤整備プログラムの追跡評価結果(個表)

課題名 2.機能材料の熱物性計測技術と標準物質に関する研究(平成9年〜平成13年)
代表者 小野 晃:独立行政法人 産業技術総合研究所
課題概要  電子技術、精密・光学技術、エネルギー、航空宇宙、原子力、計量標準などの分野で種々の先進的材料が製造されていながら、それらの新材料については、信頼性の高い熱物性データを得ることが極めて困難な状況にある。このような背景のもと、機能材料の熱物性値(熱伝導率、熱膨張率等)を高い信頼性で効率よく入手できるような標準物質と計測技術を整備することを目的として、機能材料の標準物質、精密計測技術、実用計測技術、先端計測技術、及びそれらのデータベース化等の研究を実施する。
事後評価の概要  精度の高いデータを得ることは科学の基本であり、国家的な一次標準を確立し、国際的な整合性を得る上で非常に重要な課題である。研究テーマが広範であり、かつ、多数の研究機関が参加する中、研究代表者がよく指導力を発揮し、各機関の役割及び関連性を明確化し、また、適切な目標を設定した上で、熱物性計測技術や一次標準の整備からデータの利用に至るまで体系的に成果が上がっており、大変優れた研究であると高く評価できる。これらの成果は、多くの新しい材料を、迅速に社会に普及させる上で重要な役割を果たすものであり、科学的・技術的波及効果の高いものである。特に、アボガドロ定数を精度良く求めた上で国際比較を行い基礎物理定数の確立に寄与している研究成果は、科学的価値が高く特筆できるものである。また、研究成果はデータベース化され、インターネットにより公開されており、論文化されにくい研究項目もふくんでいる分野でありながら、情報発信も十分行われている。今後とも、データの保守・充実を継続的に図ることが重要である。
<総合評価:a>
追跡評価の結果概要

 本課題では実施期間終了後も機能材料の熱物性の標準化が進められ、世界をリードする分野も生まれている。また熱物性データベースもさらに拡充され、多くの活用事例がある。課題実施前は、国際的にみて米国NISTが熱物性標準の中心であったが、本課題の実施により、NISTに並ぶ知的基盤の拠点を日本国内に整備できた意義は極めて大きい。

  • (1)実施期間終了後の知的基盤の発展状況
     本課題の研究成果は標準物質の供給、校正サービスの実施、依頼試験の受託などの形で発展し、JISやISOの規格策定などに貢献している。特に、熱伝導率/熱拡散率/比熱容量の分野では、標準物質、測定サービスなどの標準供給体制の拡充に加えて、産業界への技術移転も行われている。例えば、レーザフラッシュ法熱拡散率・比熱容量計測装置は現在市販されており、超高速光パルス加熱法薄膜熱拡散率計測技術は産業界における熱設計に貢献している。また、インターネット上で公開している研究情報公開データベース(RIO-DB)は、熱物性データの更なる充実が図られ、収録データはおよそ1万件に達している。
  • (2)知的基盤に対する国内外の評価
     本課題の実施機関は、国際度量衡委員会(CIPM)の複数の作業部会において技術的に貢献しており、課題実施者が作業部会議長に就任した事例もある。また、熱膨張標準物質、音速標準物質、薄膜の熱物性などは、世界をリードする形で標準物質の供給を実施しており、国際的に高い評価を受けている。さらに、実施期間終了後、本課題に関連して課題実施者が国内学会の表彰や文部科学大臣表彰を受賞した事例が5つあり、国内での高い評価も確認できる。
  • (3)知的基盤の活用状況やそれによって生み出された成果
     本課題の研究成果は、標準物質の供給及び既存の標準物質の評価、JIS規格やISO規格策定への貢献、産業界からの依頼測定(校正サービス)の受託、計測技術の広報・技術移転、技術相談などの形で結実しており、産業界への大きな波及効果が認められる。また、得られた成果を発展させた新しい測定法や測定装置の開発も行われている。熱物性データベースについては、インターネット公開して以来、エレクトロニクスメーカや大学などから毎月平均1万件のアクセスがある
  • (4)過去の評価の妥当性
     本課題が修了して5年以上経過しているが、標準物質の供給、校正サービスの実施などにおける発展が確認され、得られた物性値をデータベース化してインターネットで公開することにより、成果を広く普及させることにも成功している。本課題を担当した機関は、熱物性に係わる知的基盤技術の拠点としてさらなる発展を遂げており、過去の評価は妥当であったと考えられる。また、本課題実施前は、国際的にみて米国NISTが熱物性標準の中心であったが、本課題の実施により、もう1つの軸を日本国内に整備できた意義は極めて大きい。