別添2

知的基盤整備プログラムの追跡評価結果(個表)

課題名 1.国際的先進材料の実用化を促進するための基盤構築に関する研究(平成9年〜平成13年)
代表者 緒形 俊夫:独立行政法人 物質・材料研究機構
課題概要  本課題では、国際的にも緊急に実用化と標準化の求められている、比較的実用化に近い先進材料のプレスタンダード化を目指し、材料信頼性、試験評価法の確立等を主体とする知的基盤整備のための研究を、先進材料の国際標準に関する活動(VAMAS、1982年G7合意)との強い連携のもとに実施する。本課題を効率的に推進するため、1セラミックス、2高分子材料、3生体適合性耐磨耗性材料、4超伝導材料・極低温構造材料、5強度特性、6表面・薄膜、7データベースの7つの研究分野を設定し、JIS規格やISO規格等への標準化を目指し、実用先進材料の統合的な知的基盤整備を推進する。
事後評価の概要  本課題の成果はISO・IEC・JISなどの制定に積極的にとりあげられ、規格として採用されたものはISOで8件、IECで5件、JISで3件である。この他審議中のものを含めると合計20件の提案を行っている。日進月歩のはげしい先進材料において、至急確立が求められている規格の制定に研究成果は十分貢献している。研究目標は全体的に控え目な感があるが、研究成果の科学的技術的価値は概ね高く、今後日本の世界戦略に重要な役割を果たすと考える。従って、総合的に非常に優れた研究であったと評価される。本課題は、国際的公約要素が強く、また、国際的標準を日本から発信していくために必要性が高い研究である。今後、国・民間資金の導入も含め、研究体制を強め、継続が望まれる。
<総合評価:a>
追跡評価の結果概要

 本課題は、先進材料に係わる知的基盤技術を整備し、多くの国際標準を成立させ、G7合意のVAMASに貢献しており、国際的評価は高い。ただし、一部ではその後の予算確保が十分ではなく、関連分野のその他標準化があまり進まない等の状況も見られ、国内外からは更なる貢献が求められている。国際標準化活動を将来の日本の市場を確保する橋頭堡と位置づけ、先進的な科学技術の進歩に伴って、知的基盤を継続的に整備することが重要である。

  • (1)実施期間終了後の知的基盤の発展状況
     実施期間終了後は、装置開発や導入を伴う新規の評価法の開発研究ができず、課題実施中の成果取りまとめが主となっている。ただし、一部のサブテーマでは、終了後に機関独自の予算を投入し、活動を縮小しながらも継続・発展させている。例えば、超伝導材料、強度特性、材料データベース、表面化学分析では、NIMS独自の予算を投入し、VAMASの専門部会のTWA10,15,16,17の国際議長の責務を果たし幹事国として国内外の標準化業務を取りまとめるとともに、多くの国際標準を成立させている。高分子材料や生体適合性材料では、NEDOの国際標準化推進プログラムとの連携や、組織工学分野の再生医療材料の新規評価法の提案などが行われている。材料データベースでは、データベースや構造モジュールの整備を行い、これらを相互利用するために必要な手法の構築を進めている。
  • (2)知的基盤に対する国内外の評価
     本課題はVAMASに大きく貢献したことで国際的評価は高い。特に、生体適合性材料においてはVAMASで新規のTWAの活動が開始され、生体材料の評価法の標準化に関して主導的な役割を果たしている。また、超伝導材料や耐熱高温材料、表面化学分析手法、データベース共有化手法の国際標準は国内外で広く参照され、多くの標準規格成立及び信頼性・安全性向上に貢献している。その一方で、課題終了後に担当機関の予算を確保できず、日本の活動が縮小したことに対して、最近では海外から積極的な国際貢献が求められている。
  • (3)知的基盤の活用状況やそれによって生み出された成果
     超伝導材料では多くの国際標準を成立させており、これらの国際標準は商取引、利用機器の設計に活用されている。また、高温材料では、昨今の国内外のエネルギー問題への高い関心と相まって、耐熱材料の評価基準として国内外で広く参照されており、高温材料や高温機器の信頼性・安全性向上に役立っている。さらに、サブミクロンの人工関節摩耗粉の細胞刺激性の定量化は、現在のナノテク安全性評価においてナノパーティクルの毒性評価技術へと引き継がれている。
  • (4)過去の評価の妥当性
     本課題によって当該分野の知的基盤は実施期間中において十分に整備され、多くの国際標準を成立させた。VAMASに貢献したことで国際的評価も高い。また、本課題を実施する中で構築された国内外の研究機関・研究者のネットワークは極めて貴重で、提案した標準規格案の円滑な成立に寄与したものと考えられる。課題期間終了後、規模は縮小されているものの、日本の立場を主張しつつ国際的な貢献を継続し、新規標準化提案に繋がるプロジェクトも実施されており、過去の評価は妥当と言える。ただし、現在では逆に国内外から大きな貢献が求められている。知的基盤は刻々と積み上げていかなくては時代遅れになってしまうことから、絶えずアップデートする「知的基盤整備」プログラムこそが将来の日本にとって必要不可欠であろう。今後、ナノ材料に関わる国際標準化は大きな展開・発展が見込まれており、本課題で得られた成果を活かす方途が喫緊の課題と言えよう。