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安全・安心に資する科学技術の推進について(中間まとめ)

    平成21年6月
    科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術委員会

1. 現状認識(導入)

 近年、科学技術に対しては、知の創造だけでなく、新たなイノベーションの源としての重要性が改めて認識されつつあり、海外諸国においても、科学技術の成果をイノベーション創出に結びつけ、経済的な発展を促進するための政策が実行されている。物質的な資源に乏しい我が国においても、これまでの科学技術政策から、科学技術・イノベーション政策として、単なる科学技術の推進に留まらず、科学技術を経済的・社会的な新たな価値創造の原動力とする政策が求められている。その際、安全・安心の確保は、重要な社会的価値の一つとして、国の政策の目標として掲げられるべきものである。

 第3期科学技術基本計画(平成18年4月~平成23年3月)においては、「健康と安全を守る」を理念の一つとして、「安全が誇りとなる国~世界一安全な国・日本を実現」を大目標の一つに掲げている。これを受け、総合科学技術会議では「安全に資する科学技術推進戦略」(平成18年6月)をまとめ、文部科学省においても、「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会報告書」(平成16年4月)、「安全・安心科学技術に関する研究開発の推進方策について」(平成18年7月)、「安全・安心科学技術の重要研究開発課題について」(平成19年7月)など、各種報告書をまとめており、これらに基づき、大規模自然災害、重大事故、新興・再興感染症、食品安全、情報セキュリティ、テロリズム、各種犯罪などの事態別の研究開発等を推進してきた。特に、平成19年度からは、テロ対策や地域の安全に資する科学技術について、ニーズとシーズのマッチング、知・技術の共有化に取り組んできている。

 しかしながら、テロや海賊対策等における国際的な取組への対応、新型インフルエンザ等の感染症の流行、大規模地震や火山の噴火、無差別殺人や子どもが被害者となるような凶悪犯罪の発生、食品の安全性への疑念など、国民の安全・安心確保に対する課題は山積しており、課題解決に向けた安全・安心科学技術への期待は高い。また、こうした問題を解決するためには、単に科学技術の研究開発を行うのみならず、開発された技術が社会の問題解決へ結びついていくためのシステムづくりが必要である。

 そこで、本報告書では、第4期科学技術基本計画に向けて、科学技術の成果を安全・安心な社会の実現へと結びつけるため、安全・安心に資する科学技術の推進と社会への実装のための方策を中心に検討を行い、中間まとめとして提言することとする。また、その際に重要となる安全・安心科学技術に関する基盤的な取組についても指摘した。 

2. 基本的な考え方

 第3期科学技術基本計画では分野別推進戦略を策定し、研究開発分野を8分野に分け、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の重点推進4分野、エネルギー、ものつくり技術、社会基盤、フロンティアの推進4分野としている。安全・安心科学技術はこのうち、社会基盤分野に分類されている。しかし、本来、安全・安心に資する科学技術は特定の縦割り分野に分類されるものではなく、科学技術を社会問題の解決に活用する際には、単一の分野だけではなく、複数の分野や融合分野の技術・知識が必要となる場合が多い。また、単に優れた科学技術を実用化するだけでは十分ではなく、規制の緩和、社会・国民の理解と許容、市場原理に基づく普及、人文社会学的な知見の活用など、総合的な取組が必要となる。従って、第4期科学技術基本計画においては、縦割りの分野の推進としてではなく、実際の社会問題の解決を目的とした、分野横断的な取組として推進されるべきである。

 その際には、安全・安心を軸とした分野横断的取組のマネジメントができる人材の育成、安全・安心の向上に資する基盤的な研究開発、課題解決のための社会システム改善の取組の充実、研究者の啓発や情報管理体制の整備、さらには、一般国民とのコミュニケーションなど、基盤的となる環境の整備も重要である。

 安全・安心科学技術では、国民の安全・安心を確保するという目的達成のために、必要な政策ツールを柔軟に組み合わせて実施するという視点が重要であり、そのために求められる推進方策を以下に取りまとめる。

3. 推進方策

○ 社会ニーズの把握と研究開発の推進について

 安全・安心な社会の実現のためには、科学技術で解決すべき課題を特定し、そのニーズに対応した技術・知識を活用することが必要となる。その際、ニーズには、例えばテロ対策のように行政機関や公的機関など、国家レベルの安全確保のためのニーズと、社会や住民レベルでのニーズとに大きく分類することができる。これは、安全確保の専門家のニーズと、一般国民・住民のニーズの分類とも言い換えられ、それぞれに適した研究開発の推進方策で実施すべきである。また、科学技術の成果を社会実装するためには、それを支える基盤となる取組も重要であり、あわせて推進する必要がある。

(1) 国家レベルの安全確保のための科学技術の研究開発体制の整備

 安全・安心科学技術には、主に行政機関や公的機関が主導し、あるいはユーザーとなって、社会の安全・安心を確保するものがある。現場での危険物探知や被害拡散のシミュレーションを行う機器・装置など、国民生活の安全保障上重要なテロ対策技術などはその一例である。現在でも、そうしたニーズを有する現場を所管する各省庁において取組は行われているものの、既存の製品の性能評価、調達が主であるなど、現場のニーズにあった最新の科学技術を活用する体制は十分とはいえない。そうしたニーズを踏まえた安全・安心に資する研究開発制度としては、平成19年度から文部科学省の「安全・安心科学技術プロジェクト」においてテロ対策等に資する研究開発が行われており、一定の成果が認められる。しかし一方で、こうした最新の研究開発成果が現場へつながって行くためには、それに合わせた現場対応部局等の技術の出口側機関での、効果的な運用に関する調査研究や技術評価など、受け入れる側の活動との組織的な連携が必要であるが、現在、そうした体制は必ずしも十分ではないなどの問題点も見られる。また、実用化には民間企業が参入し、産学官が連携した体制の構築が重要であるが、テロ対策等の市場が限られている分野においては民間企業の参入をさらに広く促す仕組み作りも重要である。

 このため、このような国家・行政ニーズに対応した最新の技術シーズを実装するための取組においては、以下に示すような、出口側機関と研究開発部局の連携を実施するための政府横断的な枠組みを構築するとともに、これを促進するため、出口側機関、研究開発部局双方の活動を総合的に支援できる新たな研究開発の構築が必要である。

1) 国家・行政ニーズの把握

 国家・行政機関(特に、研究開発成果のユーザーである現場で対応する機関等(以下、出口側機関))の行政ニーズの把握を強化し、科学技術の適用により、目的の効率的な達成が可能なものを特定することで、行政ニーズと技術のギャップの効果的な解消を図るべきである。

2) 出口側機関に対する研究開発部局の支援強化

 国民の安全確保の現場で活動する出口側機関は、その行政ニーズに必要な全ての科学技術に関して精通している訳ではない。科学技術に関する知見と人的ネットワークをもつ文部科学省等の研究開発を担う部局が、ユーザーとなる機関と技術シーズをもつ研究開発機関とをつなぎ、マッチング機能を果たす枠組みを作ることで、最新の研究開発の成果の活用を潤滑に実施できるようにすべきである。

3) ニーズを踏まえた研究開発目標の明確化、調達との連携

 研究開発した成果が確実に社会の安全・安心確保に活用できるよう、研究開発においては、出口側機関のニーズを出来るだけ反映し、研究開発目標の明確化ができる仕組みを導入すべきである。

 明確化された研究開発目標は、将来的な調達時における仕様等との連携を図ることで、より現場につながりやすくなることが期待される。また、テロ対策のように市場が小さい分野においては、公的な調達を視野に入れた研究開発とすることで、民間企業等の参入インセンティブを付与することができる。さらに、必要とされる技術水準が明らかになるなど、効果的な研究開発にも資することとなる。

4) 技術運用のための調査研究等

 機器・装置を単に開発するだけではなく、実際に配備した際の効果的な運用を図るため調査研究や技術評価についても並行的に検討しておくことが重要である。海外での事例や国内での運用体制や方針についても、ユーザー側機関が中心となって調査研究を行うとともに、必要に応じて、基準、認証等の検討を行うなど、研究開発成果の円滑な導入を促進する取組が求められる。

5) 実証試験への協力体制

 プロトタイプ機の実証試験の際には、ユーザーとなる機関や保安事業者による場の提供や、特殊な実験設備の使用が必要となる。研究開発側の自助努力に任せるのではなく、関係機関が連携した体制を予めとることで、円滑な実証試験の実施を促進すべきである。

(2) 国民レベルの安全確保のための科学技術の実装への取組

 国民レベルの安全・安心のための科学技術は、ある程度の市場規模も想定され、民間企業の参入も期待されるものが多いが、研究開発の成果が効果的に社会に活かされていくためには、一般国民・生活者のニーズの吸い上げや、研究開発成果の社会への実装について、さらなる促進が必要である。

 例えば、社会のニーズに対し、研究者と社会が一体となって研究開発を推進する取組としては、科学技術振興機構社会技術研究開発センターや、文部科学省の安全・安心科学技術プロジェクトの地域の安全・安心のための研究開発で実施されている。

 これらの取組の中では、社会のニーズを出発点に、ユーザーである社会と連携した形での研究開発の推進が図られ、実際に社会で活用されるなど、一定の成果が認められる。

 しかしながら、こうした成果を社会に展開し、社会的なイノベーションにつなげるためには、以下の点が重要である。

1) 生活者のニーズを出発点とする取組

 生活者のニーズは、気候、地形、人口密度、インフラなど、各地域ごとの状況により多様である。そうした中から、現場との対話や実地調査を通じ、生活者の安全・安心にとってポイントとなるニーズを抽出し、その課題解決のための研究開発というアプローチが重要である。さらに、その成果の有効性を生活者に示し、生活者が自ら有効性を認識することで、初めて実際にその成果が利用されるものであり、生活者とのコミュニケーションを通じた実装の取組が重要である。

2) 規制等の社会システムの改善と連動した社会的イノベーション創出に向けた取組

 科学技術の成果を社会的なイノベーションへつなげていくためには、単に機器・装置を開発するだけでは不十分である。例えば、遠隔医療機器は技術的には実現可能であるが、医療制度や通信に関する規制等の問題があり、一般的に普及するには至っていない。このような問題を解決し、有用な技術が円滑に国民の安全・安心に貢献するためには、研究開発機関だけでなく、規制や制度を所管する関係省庁と連携し、規制や制度面での隘路を解消し、技術を社会に実装するための社会システムの改善を伴う「社会イノベーション」とも言うべき取組を促進する必要がある。

(3) 安全・安心科学技術の共通基盤の強化

 安全・安心に資する科学技術の推進にあたっては、科学技術の成果を社会へ実装する取組だけでなく、それを支える基盤となる研究開発の推進、人材育成や、技術・情報管理体制など、基盤的な体制の整備も重要である。

1) 分野横断的な取組のための中核となる機関の確立とネットワーク構築

 科学技術を安全・安心な社会の実現に結びつけるには、既存の研究分野(ライフサイエンス、情報通信、ナノテク・材料など)の枠にとらわれず、社会ニーズに対応するための各種技術を統合してシステム化し、社会に適応させる取組が重要である。そのためには、従来の縦割り分野による研究開発ではなく、領域や目的ごとに中核となる機関を中心としたネットワークを構築し、多様な分野の知識や技術の統合、人材の育成等を行うことが有効である。その際、科学技術を安全・安心分野のイノベーションに結びつける目利き・プロデューサー人材が果たす役割が重要である。

2) 技術、情報管理の体制強化

 例えばテロ対策等に関する研究開発においては、テロ情報や装置性能などの機微情報を取り扱う必要が出てくることも想定されるが、我が国の機関(大学を含む)における機微情報の取り扱いの体制の整備は必ずしも十分とはいえない。また、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」の改正により、大学を含む研究開発機関における安全保障貿易管理体制の整備が求められている。研究機関における技術、情報管理に係るルール・体制の明確化は、我が国の安全保障上重要であり、また、国際共同研究など国際協力の推進にも重要である。しかしながら、大学等においては情報管理に対応できる人材や組織が現状は十分とはいえない。まずは国際的な共同研究や安全・安心科学技術に関する研究開発に積極的に取り組んでいる大学等の体制整備を支援し、そこで得られた知見を他の研究機関とも共有し、全国的な体制の整備へ展開していくことが重要である。

3) 科学技術の悪用・誤用防止

 近年、特にライフサイエンス分野において、科学技術の悪用・誤用の防止が問題となっている。遺伝子工学や合成生物学といった科学技術の成果が、悪用・誤用され、研究目的とは別の毒性の高い生物剤の生成や、研究者の意志に反し生物兵器の製造のような、軍事あるいはテロ等の用途に転用される恐れが出てきている。安全・安心な社会の実現と科学技術の健全な発展のためにも、このような悪用や誤用を防止するための取組が必要であり、国際的にも生物兵器禁止条約専門家会合等において、対応の検討が行われている。

 我が国においてもこのような悪用・誤用を防止するための仕組みや体制を整備することが重要であり、まずは、研究者コミュニティにおける検討を立ち上げるなど、国際的な動きも踏まえた対応が必要である。また、並行的に、こうした科学技術の悪用可能性について、個々の研究者に認識が浸透していくことが重要であり、そのための教育プログラムの作成等、教育、啓発への取組も重要である。

4) 国際協力の推進

 安全・安心は、世界中の国々で共通するニーズである。開発途上国との科学技術協力については、自然災害や感染症対策分野等で取組を開始しているところであり、今後も引き続きこのような取組の充実を図るべきである。一方、先進諸国との協力については、例えばテロ対策について先進国である欧米諸国との協力は我が国の安全・安心確保の上で重要であるが、具体的な協力体制の構築が十分とは言えず、今後、科学技術外交における重要な取組として積極的に推進する必要がある。その際、対応すべき課題や研究開発目標を明確化し、効果的な研究開発を行う上で、テロの手段に関する情報や脅威情報など、公開されない機微情報の取扱いが必要となることも考えられるため、今後、我が国と海外諸国の間で、こうした機微情報の交換を含む協力の国際的枠組みを整備する必要がある。

 

(参考)

第5期 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術委員会 委員名簿

平成21年4月1日現在
(50音順)

  青木 節子 慶応義塾大学総合政策学部教授
板生 清 東京大学名誉教授/
東京理科大学大学院総合科学技術経営研究科教授
  大野 浩之 金沢大学総合メディア基盤センター教授
岸 徹 元科学警察研究所副所長
  四ノ宮 成祥 防衛医科大学校分子生体制御学講座教授
  土井 美和子 株式会社東芝研究開発センター首席技監
  奈良 由美子 放送大学教養学部准教授
  橋本 敏彦 株式会社日経BP内部統制室
  樋渡 由美 上智大学外国語学部教授
  札野 順 金沢工業大学科学技術応用倫理研究所所長
  堀井 秀之 東京大学大学院工学系研究科教授
  村山 裕三 同志社大学大学院ビジネス研究科教授

 ※ ◎は主査、○は主査代理
   任期は平成21年3月10日から平成23年1月31日まで

 

安全・安心科学技術委員会における審議の過程

○  第17回(平成21年3月19日)
(1) 安全・安心科学技術の取組状況等について
(2) 安全・安心科学技術分野の今後の取組について(ディスカッション)
(3) その他

○  第18回(平成21年4月30日)
(1) 安全・安心科学技術の課題の整理について 
(2) 安全・安心科学技術の今後の取組について
(3) その他

○  第19回(平成21年5月29日)
(1) 安全・安心科学技術の課題の検討について
    ・悪用可能なバイオ科学技術に関する取組の必要性
    ・安全保障貿易管理と対応について
(2) 安全・安心に資する科学技術の推進について
(3) その他

○  第20回(平成21年6月9日)
(1) 安全・安心科学技術の課題の検討について
    ・被災者ゼロを目指した社会技術研究
(2) 安全・安心に資する科学技術の推進について(中間まとめ)
(3) その他

お問合せ先

科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(推進調整担当) 安全・安心科学技術企画室

吉田 和久、村川 克二、原山 清香
電話番号:03-6734-4051, 4049
ファクシミリ番号:03-6734-4176
メールアドレス:an-an-st@mext.go.jp

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(科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(推進調整担当) 安全・安心科学技術企画室)

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