10 実効性ある科学技術イノベーション政策の推進

(1) 総合科学技術・イノベーション会議の司令塔機能の強化

 総合科学技術・イノベーション会議は、科学技術イノベーション政策の司令塔として、企業や大学、公的研究機関など多様な主体や関係府省の取組を全体的に俯瞰し、横串を刺すため、これまで科学技術イノベーション予算戦略会議、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)等に取り組んできた。平成26年には内閣府設置法が改正され、総合科学技術会議は総合科学技術・イノベーション会議に改組されたほか、研究開発の成果の実用化によるイノベーションの創出の促進を図るための環境の総合的な整備に関する企画・立案及び総合調整、科学技術に関する関係行政機関の経費の見積りの方針の調整に関する事務、基本計画の策定及び推進に関する事務等が総合科学技術・イノベーション会議を支える内閣府に追加されたところである。
 科学技術イノベーション政策は、教育政策、産業政策、安全保障政策、知的財産政策、地域政策、規制制度改革などとも密接に関連することから、今後、総合科学技術・イノベーション会議は、科学技術イノベーション政策の国家戦略全体の中での位置付けについて検討を行うとともに、他の司令塔機能(日本経済再生本部、規制改革会議、国家安全保障会議、まち・ひと・しごと創生本部、IT総合戦略本部、知的財産戦略本部、総合海洋政策本部、宇宙開発戦略本部、健康・医療戦略推進本部、サイバーセキュリティ戦略本部等)や、我が国の科学者の代表機関である日本学術会議との連携を強化する。
 特に、未来に向けた産業の創造や社会変革に取り組んでいく上では、速いスピードで進化する科学技術に制度面が必ずしも追いついておらず、これが科学技術イノベーションの成果の社会実装に桎梏となる可能性もある。このため、平成26年の内閣府設置法改正の趣旨を踏まえ、総合科学技術・イノベーション会議は、こうした科学技術イノベーションに関連する様々な制度改革の調整についても司令塔機能を強化していくことが必要であり、そのための体制整備を検討する。
 これらを支える機能として、客観的根拠(エビデンス)に基づく政策の企画立案、実施状況及び成果に関する評価並びに検証結果の政策への反映等を進めることが必要である。例えば、経済・社会のあり得る将来展開などを、エビデンスに基づき、体系的に観察・分析する活動であるホライズン・スキャニング※2のような仕組みの導入や政策効果を評価・分析する指標やツールの開発などを進める。
 また、科学技術に関する経費の見積り方針の調整に関する事務を活用して、研究開発予算を全体俯瞰し、府省連携をリードして、国として重点的に取り組むべき研究開発について司令塔機能を発揮していく。


  • ※2 ホライズン・スキャニング(horizon scanning)は、産官学の多様な関係者の参加による潜在的な脅威や好機などの体系的な予測活動であり、長期的な変化の可能性を探索、それがどのように影響・効果をもたらし得るのかを分析する。スキャニングの対象には、政治・経済・社会などのマクロ環境、技術、エマージングイシュ-などがある。持続的なトレンドだけではなく、現在認識できる範囲の境界を広げて、見えないものを見ること、すなわち、想定の枠外にある変化の兆しを見出すことの重要性が強調され、ワイルドカード(予期せぬ事象)の探索が行われている。

(2) 科学技術基本計画と科学技術イノベーション総合戦略の一体的運用

 平成25年以来、総合科学技術・イノベーション会議は科学技術イノベーション総合戦略を毎年策定し、政策推進の原動力として強力に機能させてきた。一方、基本計画は科学技術基本法に基づき、中期的な視点に立ち、10年程度を見通しつつ5年間の科学技術イノベーション政策の姿を示すものであり、両者を連動させることにより、中長期的な継続性を確保しつつ、相乗効果を引き出すことが可能になる。
 このため、中長期的な政策の方向性を基本計画において示すとともに、その方向性の下、毎年の状況変化を踏まえ、その年に特に重点を置くべき施策を総合戦略によって示すこととする。その際、基本計画では進捗状況を的確に把握できるよう明確な目標を設定し、毎年施策の進捗を全体俯瞰するとともに、総合戦略のフォローアップも行うことで、より効果的な科学技術イノベーション政策の推進を図る。

(3) 未来に向けた科学技術投資

 未来に向けた成長のため重要な役割を果たすことが科学技術イノベーションに期待される中、我が国は欧米や新興国としのぎを削っている。このような中で、我が国における官民合わせた研究開発投資割合は主要先進国でも最も大きい一方、政府の研究開発投資割合は一部の主要国と比べて低い状況にある。このため、我が国の厳しい財政状況や現在検討中である財政健全化計画の状況を勘案し、一層効果的・効率的な資金の活用が行われるための取組を進めつつ、これまでの基本計画と同様に、未来への投資として、第5期基本計画期間中における研究開発投資総額の目標についても検討する。

参考1 総合科学技術・イノベーション会議 基本計画専門調査会 委員名簿

平成27年4月1日

会長 原山 優子 総合科学技術・イノベーション会議議員
久間 和生
内山田 竹志
小谷 元子
中西 宏明
橋本 和仁
平野 俊夫
大西 隆

専門委員

青島 矢一 一橋大学イノベーション研究センター教授
石黒 不二代 ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長兼CEO
上山 隆大 政策研究大学院大学教授・副学長
江川 雅子 前東京大学理事
大塚 万紀子 株式会社ワーク・ライフバランス パートナーコンサルタント
五神 真 東京大学総長
猿渡 辰彦 TOTO株式会社代表取締役副社長執行役
角南 篤 政策研究大学院大学教授・特別学長補佐
巽 和行 名古屋大学物質科学国際研究センター特任教授
冨山 和彦 株式会社経営共創基盤代表取締役CEO
永井 良三 健康・医療戦略推進専門調査会座長
根本 香絵 情報・システム研究機構国立情報学研究所教授
林 隆之  大学評価・学位授与機構研究開発部・准教授
藤沢 久美 シンクタンク・ソフィアバンク代表
三島 良直 東京工業大学学長
宮島 香澄 日本テレビ放送網株式会社報道局解説委員
山本 貴史 株式会社東京大学TLO代表取締役社長
渡辺 裕司 株式会社小松製作所顧問

参考2 第5期基本計画専門調査会 審議経過

  • 第1回:平成26年12月4日(木曜日)16時~18時
    • (1)基本計画専門調査会の運営について
    • (2)これまでの科学技術イノベーション政策を振り返って
    • (3)今後の見通しとあるべき姿について
    • (4)第5期科学技術基本計画検討に向けた論点について
  • 第2回:平成27年1月22日(木曜日)11時~13時
    • (1)科学技術イノベーションシステムの全体俯瞰について
    • (2)国が推進する研究開発について
    • (3)基礎研究力の現状について
  • 第3回:平成27年2月19日(木曜日)16時~18時
    • (1)科学技術イノベーション人材の育成・流動化について
    • (2)基礎研究力の強化について
  • 第4回:平成27年3月19日(木曜日)11時~13時
    • (1)研究資金の改革について
    • (2)未来の産業創造・社会変革に向けた取組について
  • 第5回:平成27年4月9日(木曜日)11時~13時
    • (1)科学技術イノベーションシステムについて
      (産学連携、中小・ベンチャー支援、市場への展開)
    • (2)経済・社会的な課題の達成に向けた対応について
  • 第6回:平成27年4月16日(木曜日)11時~13時
    • (1)科学技術イノベーションシステムについて(地域)
    • (2)科学技術と社会
    • (3)戦略的国際展開
    • (4)中間とりまとめ骨子(素案)
  • 第7回:平成27年4月23日(木曜日)11時~13時
    • (1)科学技術と社会
    • (2)中間とりまとめ(素案)
  • 第8回:平成27年5月14日(木曜日)11時~13時
    • (1)中間とりまとめ(案)
  • 第9回:平成27年5月28日(木曜日)14時~16時
    • (1)中間とりまとめ(案)

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研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付

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