8 科学技術イノベーションの戦略的国際展開

 我が国の直面する重要課題は、世界的な共通課題となることが想定される。また、科学技術イノベーションにより常に新たな価値を創出していく上で、国際連携・協調を確実に推進し、我が国において新たに生み出した価値が次の事業活動につながるように、協調の中にも戦略性を持って日本の技術力を世界に示し、世界をリードしていくことが必要である。
 このため、我が国産業競争力の強化など、広く国益に資するかどうかを十分に意識しつつ、欧米諸国・アジア諸国と積極的に国際連携・協調し、国際頭脳循環を強化するとともに、我が国の科学技術を世界に向けて発信できる仕組みを科学技術外交戦略の中に位置付けていくことが求められる。

(1) 我が国の科学技術の推進のために

 科学技術は、国境を越えて共通性・多様性を有し、研究者は最先端の研究活動において競争し、さらには共通の関心を持つ者同士の協力、あるいは、学術文化、産業、国際関係といった多様な関わりなどを通じて発展してきた。このような科学技術の性格を踏まえ、我が国は、研究環境の国際化、諸外国との積極的な交流を推進し、海外の優れた研究者、産業界等との交わりにより、多面的に科学技術を推進していくことが必要である。

産学による教育分野における連携・協調の強化

 新興国及び途上国を対象として大学における人材育成への協力(特に工学、農学、公衆衛生等)の拡充やアジア諸国との若手人材交流の推進を図るとともに、留学生受入れと企業等でのインターンシップを組み合わせた産業人育成など、教育分野で連携を効果的に行う科学技術戦略を推進する。さらに、日本の国際的ブランド企業と大学との連携により、留学生の日本企業への就職や民間企業による就学支援の充実など、日本で学ぶことのメリットを発信する仕組みを構築する。

研究・生活環境の確保・支援制度の充実

 優秀な外国人研究者の受入れを促進するため、先端的な研究開発の強化につながる世界レベルの研究者獲得のための処遇改善や、優秀な留学生を呼び込むための奨学金制度の充実等を図るとともに、子女教育・配偶者就業対策等の充実や日本での企業への就職、起業支援など環境整備等を進める。さらに、事務職員も含む研究支援者の英語力の強化など外国人研究者の支援の充実や英語による研究資金の申請、審査を拡充するなど、海外の優れた人材が日本に定着する仕組みを構築する。

(2) 我が国の科学技術外交の戦略的展開のために

 科学技術外交には、科学技術を外交に活用することで国際社会に貢献する「外交のための科学技術」と外交を科学技術振興に活用することで科学技術協力を促進する「科学技術のための外交」という二つの側面があるが、グローバル化が進む中で、日本が存在感を高め、多面的な科学技術外交を展開していくために、二分法ではなく、両者の相乗効果を生みだすことを目指す必要がある。

日本の顔が見える科学技術外交(日本の抱える課題と国際貢献)

 エネルギー・資源・食料の制約や、少子高齢化・人口減少など我が国が抱える課題について、我が国の大学・研究機関、産業界等において課題の解決に向けた質の高い研究等が行われており、それらの成果を世界に発信するとともに、これらの分野においてリーダーシップを発揮し、国際連携・協調できる体制を整備する。
 また、核融合、加速器、宇宙開発利用などのビッグサイエンスについては、国内外施設の戦略的活用及び運用を図り、諸外国との国際共同研究を活発化する仕組みを構築するなど、国として戦略的に推進する。また、国際共同研究については、科学技術の進展を図るとともに我が国の産業競争力の強化など広く国益に資するかどうかを十分に意識しつつ、日本としての「顔の見える」持続的な共同研究・研究協力を推進するため、先進国及びインド・ASEAN諸国等の新興国との産学官による国際共同研究を充実する方策を検討する。

新たな戦略的パートナーシップの構築

 EUや米国などでは世界規模での協力関係の構築が加速している中で、今後、我が国においても、協調領域においてグローバルな研究環境下におけるパートナーとして各国との関係を戦略的に強化する。特に、中国、韓国、インドなどのアジア諸国は、近年、急速に科学技術力が向上しており、今や日本にとって競争相手となっている一方、これらの国から我が国への留学生、研究者は我が国の研究体制に深く根付いており、競争と協調の中で戦略的に関係強化を図る必要がある。また、アフリカ諸国や東南アジア諸国連合(ASEAN)などの新興国及び途上国との科学技術協力においては、これまでの支援型の協力から、双方向の知の交流を促進する仕組みを構築することにより、相互に有益な関係の構築を図る。さらに、多国間枠組も活用し、各国政府、研究機関、資金配分機関等と協調して、国際的に優先度の高い課題の研究を推進する。

国際会合等の活用と国際組織との連携強化

 G7(G8)科学大臣会合、OECD/CSTP会合、カーネギー会合などの国際会合、二国間会合等を積極的に活用することで我が国の科学技術イノベーション政策の取組を発信するとともに、我が国の科学的知見をもって議題(アジェンダ)設定に積極的に関与していく。
 また、OECD、ユネスコ等の国際機関や国際科学会議(ICSU)、グローバルリサーチカウンシル(GRC)等の学術組織との連携・協力は、我が国の科学技術の水準を維持・向上させていくためにも不可欠であり、より継続的な連携・協調関係を展開するとともに、これらの国際組織との人的交流なども検討する。

科学技術外交戦略を実行する政府体制の強化

 科学技術を外交にも積極的に活用していくためには、国際会合等での議題(アジェンダ)設定、国家安全保障やサイバーセキュリティへの対応などにおいて、トップレベルの会合等でのリーダーシップを発揮するための基盤を強固にする必要がある。このため、総合科学技術・イノベーション会議は、他の司令塔機能との連携強化を図るとともに、世界の動向に関する調査・分析、世界に向けた情報発信を行う産学連携による研究会等の仕組みを構築する。

パブリック・ディプロマシーと広報活動

 グローバル化の進展により、政府以外の多くの組織や個人が様々な形で外交に関与するようになり、政府として、日本の外交政策やその背景にある考え方を自国民のみならず、各国の国民に説明し、理解を得る必要性が増していることから、科学技術分野において外国の国民や世論に直接働きかける外交活動である「パブリック・ディプロマシー」を科学技術外交戦略のひとつとして積極的に活用する。

国際賞、国際学会等への協力・貢献

 日本国際賞、京都賞などの国際賞や国際学会等は科学技術外交戦略上において重要なツールであり、我が国の科学技術、文化、経済力の発信を行うとともに、国際的な協調・協力関係を構築する機会にもなり得るものであることから、国が支援する仕組みを構築する。

(3) 我が国の科学技術の可視化のための基盤整備

 国際的な科学技術の推進、科学技術外交戦略及び国際競争力の強化を着実に実施していくために、国益を意識しつつ、我が国の科学技術における取組を可視化し、国際協力の強化を図るための基盤となる仕組みを構築する。

グローバルな人材ネットワークの構築

 博士人材データベースの活用・抜本的拡充を通じ、元日本留学生、日本での研究経験者等のネットワークを組織化し、再招聘や、継続的な日本人研究者とのコミュニケーション形成等の関係強化を図る。また、在日各国大使館の科学技術アタッシェを通じた情報収集及び対外発信を行うとともに、我が国在外公館の科学技術アタッシェの活動を体系的に支援することで、国内関係機関間の連携強化、海外の政策動向把握、研究交流支援など現地でのネットワーク構築・維持を加速させる。

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研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付

(研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付)