3 科学技術イノベーションを巡る大変革時代の到来と目指すべき姿

(1)世界の潮流と目指すべき姿

 科学技術の飛躍的な進展、中でも情報通信技術(ICT)の進化により、グローバルな環境において、情報、人、組織、物流、金融など、あらゆるものが瞬時に結びつき、相互に影響を与え合う時代に突入している。それに伴い、イノベーションの創造プロセスは大きく変貌し、既存の産業構造や技術分野の壁に阻まれることなく付加価値が生み出され、経済・社会の構造が日々進化する大変革時代を迎えている。民間企業においても、差別化された新規性の高い商品を次々と開発し、国際市場で競争していくために、従来よりも高度な人材が必要とされるようになってきており、人事制度等にも構造的な変化が起きつつある。
 また、社会の成熟とともに、従来型の技術革新に留まることなく、ユーザーの要望や共感に応える新しい価値・サービスを創出することが求められていく。そして、この変化を先取りするには、広く社会のステークホルダーの視点も取り込み、企業、大学、国立研究開発法人等のイノベーションシステムの主体が共鳴し共創しながら、科学技術イノベーションに挑んでいくことが欠かせない。
 それと同時に、インターネットを媒体として様々な情報とモノがつながるIoT(Internet of Things)、さらには「すべて」がつながるIoE(Internet of Everything)の台頭により、サービスの提供は個別化が進み、莫大なつながりから全く異なる要素間のリンクや融合化が進むことで新たな形でイノベーションが生み出されていく時代を迎えつつある。
 他方で、このように世界的な規模で急速に広がるネットワーク化は、これまでの社会のルール・価値観を覆すものでもあり、派生するセキュリティー問題への対応、個人情報の保護等の新たなルール、行動規範作りが必須となる。また、IoT、ロボティクス、AI(Artificial Intelligence)、再生医療、脳科学といった人間の行動様式に大きなインパクトを与える新たな科学技術の進展に伴い、科学技術イノベーションと社会との関係を再考することが求められる。
 科学の世界でも、知のフロンティアが急速に拡大するとともに、世界的な潮流となっているオープンサイエンスの推進は、知の創造プロセスに新たな道を開く。分野や国境を越えて、研究成果の共有・相互利用を促進することにより、従来の枠を超えた価値が生み出され、サイエンスの新たな飛躍の時代の幕開けが期待される。このような国際的潮流におけるサイエンスの在り方を先導していくための基盤の整備が必須となる。
 これらを背景に、各国は「第4次産業革命」と称される時代を先導すべく様々なイニシアティブを展開している。例えば、ドイツは製造業の強みを活かし、IoTの生産過程への活用、インターフェースの標準化を推進して世界の製造拠点をネットワークでつなぎ統合的なシステムとして位置付け運用しようとするIndustrie4.0を進めている。また、「インターネット経済」で先端を走る米国は、雇用拡大に大きく貢献する製造業の再興に向けて、サービスイノベーションをベースにものづくりを統合化した先進製造技術開発(Advanced Manufacturing)を推進するなど、様々な国で官民を挙げて科学技術イノベーション政策が競って繰り広げられている。このような中で、我が国においても、こうした「第4次産業革命」への取組の強化が求められる。
 他方、我が国では、エネルギー・資源・食料の制約や、少子高齢化・人口減少などの課題、地域経済社会の疲弊といった構造的な問題を抱えている。また、大規模地震、サイバー攻撃を含む国民生活や社会経済活動に大きな支障が生じ得る事態や、厳しさを増す安全保障環境など、国及び国民の安全・安心を脅かすリスクへの対応が求められている。
 また、グローバル化の進展や技術革新の急速な進展は国家間の相互依存を深める一方で、グローバルな安全保障環境に複雑な影響を与えている。このような中で我が国は、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の立場から国際社会の平和と安定のために積極的に関与するとともに、地球温暖化問題やパンデミックといった地球規模の課題へも国際社会と協調しつつ対応していくことが求められている。これらの課題解決には、日本の質の高い科学技術に期待されるところも多く、単に課題解決という視点のみならず、世界への貢献という視点も含め、科学技術イノベーションを戦略的に国際展開対応していくことが求められる。
 そして、このような先行きの見通しが立ちにくい大変革時代において、我が国が世界を先導していくためには、人材、知の基盤といった科学技術を支える確固たる基盤的な力の徹底的な強化が必須である。こうした、イノベーションの基盤とも言える人材や新たな「知」を創出する営みを、科学技術イノベーションシステムに効果的に取り込むことによって、好循環を生み出していくことが不可欠である。

(2) 目指すべき国に向けて

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を含む今後の見通しを考えたとき、我が国は、新たな時代に対応できる「知」の資産を創出し続け、それを基に生産性の向上、地域及び国の産業競争力の引上げ、持続的な成長と地域社会の自律的な発展を実現していくとともに、安全・安心、豊かで質の高い生活を実感でき、さらには地球規模の課題解決にも貢献していく国を目指すべきである。
 第5期基本計画では、第1期から第4期の20年の蓄積も活かしながら、厳しい財政状況も踏まえて科学技術イノベーション政策の質を高める努力を行いつつ、研究開発から社会実装までを、学術界、産業界を始めとする社会のあらゆるステークホルダーとともに一体的に推進し、産業や社会に変革をもたらす絶え間ないイノベーションの創出を通じて、我が国の将来にわたる持続的発展を目指す。

(3)第5期科学技術基本計画の3本柱と好循環の誘導

 このような大変革時代に突入する中、組織の「壁」、産学間の「壁」、府省間の「壁」といった様々な「壁」を越えて我が国が持つポテンシャルをフルに活かし、大変革時代を先取りし、経済・社会的な課題の解決に向けて先手を打つとともに、多様性を持ちつつ不確実な変化に迅速に対応し、これらの挑戦を可能にする我が国のポテンシャルを徹底的に強化する。
 このため、1.未来の産業創造・社会変革に向けた取組、2.経済・社会的な課題への対応、3.基盤的な力の育成・強化、を第5期基本計画の3本柱とするとともに、これらの相乗効果を最大限引き出すことを目指し、人材、知、資金の好循環を誘導するイノベーションシステムを構築する。あわせて、実効性ある科学技術イノベーション政策を強力に推進するための体制強化を図る。
 このような確固たる基盤的な力と好循環を促すシステムを基にした科学技術イノベーション政策を、全体俯瞰の視点から一体的に進め、世界的な大変革時代をリードする。

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研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付

(研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付)