2 科学技術基本計画の20年を振り返って

 基本計画は、平成8年に第1期基本計画が策定されてから、20年を迎えようとしている。第1期基本計画では政府研究開発投資の拡充や、ポストドクター等1万人計画を含む研究開発システム構築等に取り組み、第2期では科学技術の戦略的重点化を推し進め、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料への優先的資源配分を進めるとともに、競争的資金の倍増を目指した。第3期では、戦略重点科学技術を選定し、各分野の中での研究開発の重点化を進めた。第4期では、それまでの分野別重点化から、国として取り組むべき社会的な課題を設定し、これに資する研究開発から成果の利活用に至るまで一体的、総合的に取り組む課題達成型アプローチへと方針を大きく転換した。
 これまでの取組の結果、代表的な国際著名誌における我が国の論文数シェア及びTop10%補正論文数(引用数が多く質が高いと考えられる論文)シェアはいずれも増加傾向にあり、今世紀に入り我が国からノーベル賞受賞者が数多く輩出され、自然科学系では世界第2位の実績となっている。また、平成19年度から始まった世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)のような、外国人研究者の比率が30%を超え、優秀な研究者が集う先進的な拠点の形成も進み、世界的に評価される成果も出つつある。さらに、大型研究施設に関しても、第4期期間中に、大強度陽子加速器施設「J-PARC」、X線自由電子レーザー施設「SACLA」、スーパーコンピュータ「京」といった世界最先端の大型研究インフラが着実に整備され、産学官による活用拡大が進んでいる。
 人材については、過去20年間に大学院在学者数が約15万人から25万人程度に増加し、研究者の総数も平成7年の68万人から平成25年の84万人に増加している。第1期で掲げられたポストドクター等1万人支援計画は1期期間中に達成され、それ以降ポストドクター等の数が1.5万人程度で推移している。
 組織・制度改革の面でも、この間、国立研究機関や国立大学等の法人化が行われたほか、この4月には、国立研究開発法人制度が創設された。
 産学連携については、産学官連携・交流促進のための各種規制緩和や制度改革、大学等の研究成果の実用化支援やコーディネーターの配置等の支援が実施され、大学・研究開発法人と民間企業との共同研究件数は大幅に増加し、大学・国立研究開発法人の特許保有件数や特許実施等収入が着実に増加してきている。
 また、国際的な視点では、我が国においては、第1期から第4期の基本計画において国際連携・協調による国際共同研究の推進や新興国・途上国等との科学技術協力などに取り組んできており、一定の成果を上げてきた。
 しかしながら、我が国の基礎研究の全体の状況を見ると、日本の総論文数は、平成7年よりは増加しているものの、平成12年頃から横ばい傾向にあり、国際的な地位が相対的に落ちてきている。また、Top10%補正論文数やTop1%補正論文数が、海外の主要国では増加しているのに対し、我が国では横ばい傾向にあるほか、分野別のTop10%補正論文数やTop1%補正論文数も10年前と比べて我が国のランキングがほとんどの分野で低下しているなど、我が国の基礎研究力の低下が顕著になってきている。この背景として、大学等の基盤的経費の減少、研究評価の改善が十分でない状況等を理由に、基礎研究の多様性が他国と比べると相対的に低下しているほか、研究者が短期的なリスクの低い研究を行う傾向が高まるなどの課題が指摘されており、我が国の今後の国際競争力の強化という視点から大きな問題である。さらに、公的資金による支援で進められた改革促進に関する支援期間終了後の定着や他機関への展開という課題、大学や公的研究機関が保有する研究施設・設備を積極的に内外に開放する取組が必ずしも十分ではないという課題も指摘されている。
 人材については、ポストドクターの平均年齢の上昇傾向や不透明なキャリアパスなどが課題となっているほか、大学の研究者の研究時間は、ここ10年の間に大幅に減少しており、研究者の数と研究時間から推計される大学の総研究時間は減少している。また、国立大学においては、基盤的経費が減少する中で、教員の定年延長等の取組の影響もあり、若手が挑戦できる大学等における安定的なポストが大幅に減少し、将来のキャリアパスが見通せない若手研究者が増加しているほか、博士課程学生の経済的環境、博士課程修了後の処遇の問題などから、高い能力を持つ学生が博士課程(後期)を目指さなくなっているなどの深刻な課題もある。
 また、国立大学等に係る研究資金制度や国立研究開発法人制度に関して更なる改善が必要との指摘もある。
 産学連携についても、共同研究の件数は大きく伸びているものの、1件1,000万円を超えるような本格的な共同研究はまだごく一部にとどまっており、企業と大学の連携によりもたらされる可能性のある潜在的イノベーションの余地は依然として大きく、大学等で生み出される知をイノベーションに結びつけるためのシステムが必ずしも十分に構築されていないと言える。
 国際的な視点では、様々な二国間、多国間の国際連携・協調の場面においては、今後より一層、我が国がイニシアティブを発揮し、主体的に情報発信を行っていくことが強く求められている。
 研究開発投資については、第1期基本計画で期間中に必要な政府研究開発投資総額の規模として17 兆円が掲げられ、達成された。しかし、第2期基本計画では必要な規模 24 兆円に対して実績は約21.1兆円、第3期基本計画では25兆円に対して実績は約21.7兆円と、達成には至らなかった。第4期基本計画においても、必要な規模25兆円の達成は難しい状況である。
 このように、これまでの20年に及ぶ基本計画の取組により、研究者や特許等の量的規模、研究基盤の国際競争力、基盤的な技術力などが、世界における我が国の強みになっている。しかし、世界の中の我が国科学技術の立ち位置は、全体として劣後してきており、ここ10年程度研究開発資金の伸びが停滞傾向にある中で、若手を始めとした研究現場の疲弊、基礎研究力の低迷などに大いなる危機感とスピード感を持って思い切った改革に取り組まなければならない。若手人材を巡る諸問題への対応、基礎研究力の強化、国際共同研究の更なる推進、大学と研究資金の一体改革や国立研究開発法人の機能強化の必要性などが指摘されているほか、人材流動化の妨げとなる壁の打破、優れた技術シーズを事業化に結びつける橋渡しなど、我が国の科学技術イノベーションのシステム全体の強化を図る包括的な取組が欠かせない。

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研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付

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