東日本大震災からの復旧・復興と産学官連携施策(提言)

平成23年6月21日
産学官連携推進委員会

 平成23年5月31日、科学技術・学術審議会は、「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」を決定した。本委員会としては、同決定を踏まえ、東日本大震災からの復旧・復興に資する産学官連携施策について検討を行い、以下のとおりとりまとめた。

1.基本的考え方

 東日本大震災は我が国の経済社会に甚大な被害をもたらしており、災害からの復旧と被災地域の復興に、産学官の総力を挙げて取り組むことが急務である。特 に、国や自治体、独立行政法人はもとより、社会貢献をその使命のひとつとする大学等においても学長等のリーダーシップの下、大学として一体的な取組が期待 される。
 我が国では、これまでも大学・高等専門学校等の人材育成と研究開発の成果の社会経済への還元に向けた産学官連携活動に積極的に取り組んできたところであるが、これまでの成果と経験やネットワークを東日本大震災からの復旧・復興に最大限に活かしていくことが重要である。
 その際、災害からの復旧のみならず、再構築という新たな展開も含めた視点を持つとともに、被災地域の復興・長期的発展も見据え、将来の我が国のイノベー ション創出システムの強化にも資する視点から復興に向けた対策に継続して取り組むことが重要である。例えば、持続的発展を支えるイノベーション・エコシス テム※の構築や産学官協働ネットワークシステムの構築に向けた先行的な取組も重要となる。
 なお、復旧・復興対策は、被災地域の実情やニーズに立脚したものであることが、重要である。このため、産学官連携活動や技術移転活動への東日本大震災の影響を適確に把握するとともに、既に行われている自発的活動とも連携をとりつつ、復旧・復興対策に取り組むべきである。
 また、国際的な産学官連携活動への影響や活用についても、十分考慮すべきである。

2.取組方策

(1)産学官連携への影響把握

 東日本大震災の産学官連携活動や知的財産・ノウハウへの影響及び今後の課題については、一部個別の大学等において調査が開始されているケースもある。今後、引き続き、産学官連携への影響の把握に努める必要がある。

(2)全国の大学等の研究ポテンシャルを被災地域の復興に役立てるためのコーディネート機能、ネットワークの強化

 被災地域の復興に当たっては、全国の大学等のポテンシャルの活用が必要であり、被災地域のニーズを適確に把握し、適切に全国の大学等につなぐコーディネート機能及びネットワーク機能の強化が重要である。
 例えば、現在、産学官連携コーディネーターが各地で活動を行っているが、様々な立場のコーディネーターの情報力を効果的に活かすための全国的なネットワークをより一層活用していくことが重要である。
 また、地域の大学等や科学技術振興機構等が中心となって被災地域の企業等のニーズを発掘・集約するための拠点を整備するとともに、そこに、被災地域のニー ズと全国の大学等をつなぐコーディネート人材を配置していくことも有効と考えられる。被災地域のニーズは多岐にわたるものであり、コーディネート人材に は、ネットワークを活用しつつ、学際的な課題や分野間連携にも対応できる能力が求められる。
 コーディネート機能やネットワークは被災地域での具体的な活動につながってこそ意味を持つものであり、拠点の整備は(3)に述べるような被災地域における共同研究等を推進する取組と連携した形で実施することが必要である。
 これらの取組は、中長期的には、全国レベルでのシーズとニーズのマッチングを効果的に推進できる産学官連携に関する全国的な協働ネットワークの構築にもつながるものと考えられる。

(3)被災地域の復興の中核となる産学官連携による研究開発の推進

 被災地域の復興にとって、科学技術・イノベーションによる新産業の創出は中長期的な視点から極めて有効であり、将来の被災地域の発展に大きく貢献するも のである。このような観点から、被災地の大学等や研究機関、企業、自治体が連携して、革新的技術に関する研究開発を推進することは重要である。
 このため、被災地の復興のための新技術・新産業創出に関する構想に対し、研究開発の観点から支援を行うことが重要である。その際、被災地域のニーズやこれ までの地域の技術力、産業にも留意し、当該地域の特色を基盤として更に発展させていくような取組が重要である。また、被災地の様々なニーズに的確に対応す るためには、専門分野を超えた学際研究や人文・社会系も含む分野間連携にも積極的に取り組む必要がある。
 大学等の研究開発成果を新技術・新産業 の創出につなげるためには、試作品の製作も含む産学共同研究等を通じた技術移転活動の推進が強く求められる。地域の大学等が地元企業やその研究者、技術者 とともに連携して行う活動を支援していくことは、新技術・新産業創出のみならず、被災企業への支援や地域の人材育成の観点からも有効であり、こうした活動 は大学等の側からも積極的に提案し貢献していくことが重要である。
 これらの研究開発の成果を事業化につなげていくためには、地域の金融機関等との連携も有効である。研究開発及び技術移転活動へのこれらの機関の参画を促進することが重要である。
 これらの取組が、新たな大学発の新先端産業創出拠点の形成につながり、持続的発展を支えるイノベーション・エコシステムの構築に貢献することが期待される。

(4)被災地域の研究者、技術者の確保・育成への貢献

 被災地域の企業等の研究者や技術者は、被災地域の復興にとって必要不可欠な人材である。
 東日本大震災によって所属している企業、機関等が被災し、休業を余儀なくされている場合にも、別に活動の場を設けるなど活動機会の確保に取り組んでいくことが重要である。
 このため、被災地域の大学等を中心に全国の大学等において、これらの研究者、技術者を受け入れ、例えば、(3)の産学共同研究の実施等において、活躍の機 会を確保していくことが重要である。これらの研究者、技術者は、地域の特性や強み等に精通しており、その参加は研究開発等の成果の展開に当たっても極めて 有効と考えられる。また、このような機会の確保は、持続的なイノベーションの創出に寄与する人材の育成の観点からも極めて重要であり、被災地域の復興支援 に資するのみならず、中長期的に大学等と企業等との連携の核となるものと考えられる。
 このような取組を通じて、大学のオープン化と地元産業界との更なる連携の深化が図られることが期待される。

(5)国際的な視点

 社会・経済活動のグローバル化の進展に伴い、海外大学や海外企業との共同研究活動や知的財産活動、国内大学等における海外の研究者の活躍等産学官連携活動の国際化も進展してきている。
 このため、被災地域の復興に向けた産学官連携活動についても国際的な視点に留意する必要がある。例えば、技術・人材の国外流出の防止といった受け身的な視 点のみならず、海外の優秀な研究者や技術力をも活用して、被災地域における研究開発に取り組む、被災地域の研究者、技術者等の育成に海外の大学等を活用す る等の積極的な視点も重要と考えられる。

(6)成果の積極的発信

 被災地域の復興に関しては、復興への取組と被災地域への投資・需要の拡大との好循環が生まれるようにすることが重要である。
 このためには、被災地域の復興状況について、その進展や成果を国内外へ積極的に発信していくことが、投資や需要を喚起する上で極めて重要と考えられる。大学等やコーディネーターのネットワーク力等も活用しつつ、かかる情報の発信に産学官が連携して取り組む必要がある。

 

※【参考文献】「イノベーション促進のための産学官連携基本戦略 ~イノベーション・エコシステムの確立に向けて~」(平成22年9月7日、科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会 産学官連携推進委員会)

 

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