1 はじめに-検討の背景

(1)21世紀初頭の現在、世界を見渡しても、環境、エネルギー、感染症等の疾病、貧困など様々な解決すべき問題がある。我が国では、少子高齢社会の下、人口減少が現実のものとなる中での社会の活力の維持、安全安心な生活、地球規模での課題への対応等が求められている。このような面で、科学技術に求められる役割は、従来にも増して増大している。

(2)さらに、「知の世紀」といわれる今世紀にあって、新たな知の創造・継承・活用によって社会を発展させ、また、ボーダーレス化した世界の中で競争力を維持発展させていくことが、我が国を初め、米国、欧州連合、韓国、BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)などによる「知の大競争時代」の重要な課題となっている。

(3)このような状況にあって、科学技術創造立国を標榜する我が国では、平成8年度から17年度までの2期にわたる科学技術基本計画の下で、政府研究開発投資の増大、科学技術システム改革及び科学技術の戦略的重点化等が進み、一定の成果が出てきているところである。また、本年4月からの第3期の科学技術基本計画に基づき、厳しい財政事情の中、平成22年度までの5か年の計画期間中、総額25兆円の政府研究開発投資を確保することとされており、これを有効に活用し、一層の成果を上げることが求められている。

(4)このような中、我が国でも昨今、科学研究の世界において、データの捏造等の不正行為が相次いで指摘されるようになってきているが、科学研究における不正行為は、真実の探求を積み重ね、新たな知を創造していく営みである科学の本質に反するものであり、人々の科学への信頼を揺るがし、科学の発展を妨げ、冒涜するものであって、許すことのできないものである。

(5)今日の科学研究が限りなく専門化を深め複雑かつ多様な研究方法・手段を駆使して行われる結果、科学的成果・知見が飛躍的に増大していく反面、科学者同士でさえ、互いに研究活動の実態を把握しにくい状況となっていることからも、科学者が公正に研究を進めることが従来以上に重要になってきている。
 また、厳しい財政事情にもかかわらず、未来への先行投資として、国費による研究費支援の増加が図られている中にあっては、貴重な国費を効果的に活用する意味でも、研究活動の公正性の確保がより一層強く求められる。

(6)これらを受け、文部科学省においては、国費による研究費(特に文部科学省が所管する競争的資金)を活用した研究活動において不正行為(特に捏造、改ざん、盗用)が指摘されたときの対応体制等とこのような不正行為を行った者に対しての所要の措置を整備するとともに、同様のことを所管の資金配分機関に要請することとしている。また、大学・研究機関に対しても、体制構築に向けて自主的な取り組みを促すこととしている。

(7)このために、文部科学省の要請に応じて本特別委員会においては、研究活動の本質や研究成果の発表とは何かを改めて問い直しつつ、研究活動における不正行為(以下単に「不正行為」という。)が起こる背景を考えた上で、不正行為の抑止に対する研究者や研究者コミュニティ、大学・研究機関の取り組みを促しつつ、国費による競争的資金を活用して研究を行っている研究者による不正行為への対応(告発等の受付から調査・事実確認、措置まで)について、文部科学省や資金配分機関、大学・研究機関が構築すべきシステムとルールのあり方を検討し、当面の結論を得たのでこれをガイドラインとして提言するものである。

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科学技術・学術政策局政策課

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