日本学術会議は、科学者の代表機関としての立場から、研究者倫理全体を見据え、科学者の自律のための倫理規範の確立を目指し、平成18年秋を目標に全科学者が共有すべき行動規範の策定に取り組んでいる。また、教育・研究機関、学協会、研究資金提供機関に対し、倫理綱領や研究活動を支える行動規範等の策定、倫理教育の実施、捏造、改ざん、盗用などの不正行為全般に厳正に対処する制度の導入などについて自主的に取り組むよう要請することとしている。
日本学術会議が平成16年に行った学会に対する調査によると、倫理綱領を制定済みの学会は有効回答838のうちわずか97学会であり、制定も検討もしていない学会は617学会であった。また、不正行為の疑惑が発生した場合に対処する組織や手続を決めている学会は148学会、決めていない学会が689学会となっており(以上、平成17年7月日本学術会議学術と社会常置委員会報告「科学におけるミスコンダクトの現状と対策」より)、これらからは、研究者の不正行為の防止策や疑惑があった場合の対応策について取り組みが進んでいないことがうかがわれる。
また、大学・研究機関においては、不正行為の疑惑に対応する規程を定めている例も見られるが、ごく一部に限られている。
このような取り組みは、研究者や大学・研究機関、研究者コミュニティの自律性や自浄力を保障し、高めるために有効・適切なものであり、大学・研究機関や学協会において、研究者の行動規範や、不正行為の疑惑が指摘されたときの調査手続や方法などに関する規程等を整備することが求められる。
ア)研究活動に関して守るべき作法の徹底
大学・研究機関、学協会においては、実験・観察ノート等の記録媒体の作成(方法等を含む。)・保管や実験試料・試薬の保存等、研究活動に関して守るべき作法について、研究者や学生への徹底を図ることやそれらの保存期間を定めることが求められる。これは不正行為の防止のためであるとともに、研究者の自己破壊を防止するためでもあり、自らの研究に不正行為がないことを説明し、不正の疑惑から自らを守るためでもある。
イ)研究者倫理の向上
不正行為が指摘されたときの対応のルールづくりと同時に、不正行為が起こらないようにするため、大学・研究機関や学協会においては、研究倫理に関する教育や啓発等、研究者倫理の向上のための取り組みが求められる。例えば、大学院において、研究活動の本質や研究倫理についての教育プログラムを導入することが考えられる。
このような自律性を高める取り組みについては、特に学生や若手研究者を指導する立場の研究者が自ら積極的に取り組むべきことは当然であるが、まさにそのためにも、このような指導的立場の研究者に対して、研究倫理等の教育を徹底し、内面化することが不可欠であり、大学・研究機関が組織として取り組むことが求められる。
文部科学省においては、国費を研究費として投入している立場から、適正な研究費の活用に意を用いる必要がある。不正行為はそれ自体として国費投入の趣旨を損なうばかりか、他の研究にも悪影響を及ぼすものである。このことから、文部科学省においては、研究費の配分の観点を中心に不正行為防止も含め、不正行為への厳正な対応に取り組んでいくことが必要である。
本報告書第1部で示す考え方は、文部科学省所管の機関のみならず、研究活動を行う他府省庁・地方公共団体所管の機関や企業及びその所属する研究者についても、原則的に同様のことが該当するはずである。これらの機関においても、ガイドラインを参考に適切な取り組みが行われることを期待する。
科学技術・学術政策局政策課