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資料2
中央教育審議会大学分科会大学院部会
理工農系WG(第4回)平成16年12月14日


大学院部会 理工農系WGに係る審議について
《これまでの議論と意見募集より抄録》


1. 「審議経過の概要」で示した基本的方向性と分野別の現状
大学院大学の教育を学士・修士の6年一貫とし、さらに3年間の博士教育があるとする考え方と、学士4年間の上に修士・博士の5年一貫教育があるとする考え方によって、大学院教育の在り方、教育の質の向上の在り方、および研究者養成の在り方が大きく違ってくる。
高度専門職をめざす大学において、学士・修士一貫教育体制は重要な意味を持つ。
高等教育全般にわたるユニバーサル化・大衆化を踏まえ、工学系のかなりの部分については【6+3】の構造化を促進すること、また、実質的意味を持たない博士後期課程を設置している高等教育機関について修士課程修了段階で明確な段差を持たせるよう政策誘導することが望ましい。
国際的視点で世界に通用する研究者育成を目指す大学においては、世界各国から優れた素養のある若手人材を集める事がより容易にでき、また学際分野の修得をも考慮した教育体制として修士・博士の5年一貫教育が議論されるべきであるが、学士・修士6年一貫プログラムは、学生の流動性を促進する観点、及び大学院の一層の国際化の観点と相容れない。

2.
課程制大学院の趣旨に沿った教育課程や研究指導の確立
(大学院のスクール化)
 教員の教育・研究指導能力の向上のための方策
<教員の教育・研究指導の在り方について>
研究論文は評価されるが、教員の教育を評価するシステムが殆どない。
「大学院生倍増の結果、質が低下した」などと言われる件は、大学院生を「兵隊」として使う風潮と密接に関わる。
日本の大学の工学・農学分野では、研究の場で徒弟的な指導が伝統的に行われてきたために、研究者養成・職業人養成の区分がはっきりしていない。
大学の教員自身が国際的な競争力を身に付け、まずは範を示す意味で英語による論文作成に取り組むべき。
教育・研究指導方法の最適解は、教員と学生の組み合わせによって変わる。教員にとってまず重要なのは、サイエンスに対する学生の好奇心を理解し、当該学生に対しどんな指導方法が最適であるかを判断することである。

<人材養成機能に即した教育内容・方法の確立(単位の実質化等)について>
産業界から見ると、人材育成体系がグローバルスタンダードと違いすぎることが、国際競争する上で将来的な不安要素。
大学院の単位計算方法を学部とは異ならせ、実験、実習、フィールドワーク、ホームワークによるレポート作成など、分野に即した取扱いをすべき。
学部学生の負担を減らし、実のある教育をすることが修士課程の充実につながる。
年間25,000人が修士課程を修了する時代に、全大学院に共通して通用する教育メソッドは存在し得ない。
1つの講義を講義と演習から構成し、学生に展開力を身に付けさせる。また、学生を研究に参加させることを通じ、研究手法を身に付けさせる。
これまでの大学は、学生にとって必要なものではなく、教員が教えることのできる事項でカリキュラムを編成してきた。教員の意識改革を促し、個々の研究室で指導する事項と、課程として備えるべきカリキュラムとを分けて考えるべき。
大学院では特定分野について様々な文献を読み、実験し、その結果を自分でまとめるというプロセスを訓練することが重要。この経験は、就職しても有効である。
職業人養成の修士課程においては、国際水準の組織的なカリキュラムを作成し、一定の水準を保証することが必要。研究者養成の修士課程では、修士を最終学位とする教育と博士の準備教育を区分するべき。
従来の徒弟制度的な教育は、優秀な先生に少人数の優秀な学生がつくという条件の下では上手く機能するが、ポスト量的拡大期の大学院にこの方法は通用しない。だからこそ、せめて修士課程についてはスクール化が必要。
各大学が大学院教育に力点を置くことにより、学部教育が手薄になってはならない。農学のように幅の広い学問分野から構成される学部にあっては、学部レベルの幅広さが担保されるよう、大学間連携などの工夫が必要。

<学生の学習成果の評価について>
各専攻において、教育目標や学生に修得させるべき知識・技術の体系について関係教員で共通理解を得るために議論し、公表することを通じ、教育内容の明確化を図ることが前提。
学修成果における客観的かつ標準的な指標(成績評価基準の設定,学術活動の評価,実地研修実績の評価,基本技能(情報処理,発表技能)の評価及び修了者の就職等状況)の導入が必要
学位論文の作成過程とその内容について評価すれば、学習成果は一目瞭然。
修士論文・学位論文から判断される教育効果、学生自身の達成感、学生の進路から判断される教育効果、学生の就職先等からのヒアリング結果を参照すべき。

<大学教員の採用について>
博士課程での水準向上のため、国際的に開かれた組織にすることが必要。
質の確保という観点から、設置審査に当たっては、教員審査を徹底すべき。
大学教員になるための教育実習の場として、TA制度の充実を図る。また、PD経験後につく助手を教育能力をテストする段階と捉える。

 今後の研究者等として必要な高度な素養の涵養の在り方
<各大学院の人材養成機能に即した高度な素養の内容について>
学生の受け入れに当たっては、質の低下を避けるため、「学校教育法第52条の定める大学の卒業資格相当の学力を持つ」という要件は厳守すべきである。
理工系全般に、数学や物理学などの基本的素養、論理的思考力、分析力、総合力が必要。具体的には、課題探求能力、論理的把握能力、行動力、コミュニケーション能力、基礎科学的知識、高度な情報通信技術と情報リテラシー、多様な文化の理解とそのために必要な語学力、技術者倫理、知的財産・工業所有権に関する知識などが挙げられる。
物理系分野の研究では、複雑な現象から新しい原理を確立するために必要な論理的、総合的な思考能力と、変化する局面に柔軟に対応する能力が求められる。
工学分野では、国際的通用性を確保するためのアクレディテーションの導入を念頭に、問題解決能力、語学力、倫理教育といった事項をカリキュラムに盛り込むことが重要である。
応用力学の分野では、「力学的世界観」を構成するための道具としての「数学」と「力学」の知識が必要。
各分野の専門的知識とともに、論文を批判的に読む能力など基本的テクニックを身に付けることが必要。

<各大学院の人材養成機能に即した高度な素養を涵養する方法について>
各専攻において求められる資質や能力を育成するため、適切なコースワークを設けることを含め、専門分野毎にモデル的なカリキュラムの案を作成すべき。
プロジェクト研究だけでは社会性、国際性や広い視野、他分野に関するリテラシーを養うことはできない。
米国風のリベラルアーツ・カレッジの日本版を作ることも一案だが、他分野の教員が関与する問題解決型の「デザイン科目」を修士レベルで設置するのも有効。
専門的知識,手法の展開力が重要。展開力を身につけるためには,講義においてホームワークを基本とした演習を取り入れる必要があるし、創造性喚起のためには,研究への参加,論文の執筆が不可欠である。
「ものづくりの涵養」については実験・実習に力点を置いた実践的な教育、「職業観の涵養」についてはインターンシップの充実、「外国語によるコミュニケーション能力の涵養」については英語での発表、国外での研究発表、国外大学との交流が有効。
広い関心と国際性を涵養するため、博士取得までには少なくとも半年位の海外研究経験を持たせる制度を導入することが重要である。しかし、今最も欠けているのは、学生に海外経験を積ませるための資金である。
総合力の涵養のため、欧米の学位論文のようにイントロ部の充実に配慮しながら論文指導を行う等の工夫も必要。

<修士課程の修了要件について>
修士課程においても研究活動を重要視する必要があるが、成果の評価については、例えば、学会発表や論文執筆などがあれば、いわゆる修士論文を簡略化するなど柔軟に取り扱うことが必要。
修士課程の修了要件としての論文作成は、博士課程に進学する学生にとっては必ずしも必要ではないので、博士課程進学の資格を得た学生はコースワークを修士論文に代えられるものとする。また、修士課程終了後就職する学生について、論文執筆に代えて就職を前提としたコースワークを準備することも一案。
スタンフォードや東大の機械工学ではいわゆるPBL(Problem Based Learning)が導入されており、教員負担は大であるものの高い訓練効果を挙げている。論文を書かせるだけが訓練ではない。
現状ではほとんどの大学院で、修士論文審査をもって博士進学試験に代えているが、博士課程学生の質を保証するためには、学科試験によるスクリーニングがより適切。
修士論文は参考論文を整理し、自分の研究動機、その考察結果をまとめる訓練をするために必須のものであり、講義、実習等のコースワークによって代替できないものである。

 教員・学生の流動性の拡大のための方策
<教員の流動性を高めるための方策について>
教員や研究員として大学や公的研究所が採用する条件として、博士後期課程修了後に自出身大学以外における一定期間のPD経験を義務付ける。
いわゆるインブリーディング率の上限設定による内部昇進の抑制や、全ての大学や公的研究所等における厳格かつ実効的な任期制やテニュア制度の導入が必要。これを大学院評価の項目とすることも有効。
公募原則の徹底、各大学による教育研究の相互乗り入れが重要。
流動性を人の出入りの文脈のみで捉えてはならない。指導者としてのテニュアの重要性は極めて高く、テニュア教員の専門的知識と責任感の下で、流動的な研究者が多様にミックスして存在するという教育組織が理想。
産業界との対流を作るには、多様な経験の評価環境と指標の導入、組織内昇進の排除などの具体的な仕組み、給与水準の確保、社会保障制度の連続性などの制度整備が必要。
PDF(Post Doctoral Fellow)制度の確立が必要。
複数大学の連携による共同大学院教育プログラムにおける教員の位置づけ(所属)について柔軟な取扱いができることを明確化することが必要。小規模大学や研究環境が不十分な大学の教員が、他大学における先端的な教育研究活動にも参画できる仕組みを創設することも必要。

<学生の流動性を高めるための方策について>
経済障壁を低くすることが前提だが、研究者を目指して博士課程に進む学生については、学部から大学院に進む際に学校を変わるくらいが適切。
学部教育と大学院教育を独立させるとともに、他大学生の割合を大学が自主的に設定することが必要。
効果的なe-learningの積極的な導入等による単位互換の推進,異なった大学教員による共同研究指導、補完的な授業科目の設定など,大学や研究室を変わることが学生の不利にならないようにすべき。
入学試験について、他分野、他大学からも応募し易いように入試科目を整備し、AO方式の入試を導入する。また、入学試験方法として推薦枠を拡大する方針も重要。
産業界が博士課程修了者、PD、流動研究員、元大学教員などを積極的に受け入れることが重要。
流動性を促進する施策を行うに当たっては、学生の研究の進捗を阻害するような運用がされないよう工夫することが必要。
多くの人との交流の機会が確保されていれば、いわゆる流動性の低さは必ずしも悪であるとは限らない。

 社会のニーズと大学院教育のマッチングのための方策
<産業界等と大学院教育との関係について>
従来の研究者養成中心の大学院教育ではなく、学位を持つ人間が社会のいろいろな局面で活躍する時代が来ていることを踏まえた教育をなすべき。
社会のニーズに対応していない大学院教育は、生き残り競争を通して淘汰されていくことが基本的な枠組み。その一方、現在の社会ニーズにばかり囚われすぎると、将来的なニーズに応えられる人材が育たないこともありうる。ニーズの見極めはそれぞれの大学の見識による。
教員も含め、教育研究の現場としての海外に長期滞在できるシステムを作る必要がある。
産学連携研究の推進、企業からの客員教授、非常勤講師制度の充実のほか、大学と産業界の定常的議論の場を構築することも重要。
企業への長期インターンシップを組み込んだ教育課程を持つ学校を許容するなど、インターンシップ制の充実が必要。
単に「実務に役立つ知識」を身に付けるのみならず、しっかりした素養を持った卒業生を送り出すことが重要。
産業界が本当に的確な要望を持っているのであれば、もっと積極的に日本の大学に対して資金的な支援を行うべき。大学に対する寄附についての優遇税制を拡大して、社会から大学への資金の流れを増やすことが必要。
大学院の役割を踏まえ、企業は大学院の特に博士課程に即戦力の養成を期待すべきではない。

<大学の社会に対する積極的なアピール策について>
大学ホームページによる研究成果や特許の出願・取得状況の紹介、産学連携の定期的研究発表会・意見交換会の開催、学会活動の活性化、広報活動の専門化と高度化、産業界の将来を見据えたプロジェクト提案などが重要

3. 研究者養成機能の充実
博士課程における体系的な教育課程の確立
<博士課程における体系的な教育課程の在り方について>
博士課程の前後期を通じ、同一専攻の中に研究者養成プログラムと高度専門職業人養成プログラムを分離することが必要である。
研究室中心の閉鎖的な教育の原因は、教員組織と学生組織が一体となっているところに原因があるのではないか。教員組織と学生組織を分離し、学生に対してはプログラムをきちんと組んで提供すべき。
我が国の博士課程修了者の専門知識の幅は極端に狭く、思考の柔軟性等に欠ける。
大学院生間、または教員と学生間において、異なる分野について情報交換を行える場を持つことが必要。
博士課程では、特定のコースでの教育よりも、研究に必要な知識を自由に獲得し、「問題設定から問題解決」という考え方の基本を身に付けることができるように、専攻や研究科を越えた選択の自由度を確保することが必要。
博士前期課程を中心に、例えば毎回一定の課題を与え、それについての研究や、その研究に必要な実験の設計をさせる訓練が必要である。
関連異分野の学習の機会を設定する副専攻制の導入が必要。
学位論文を作成する専門研究分野の周辺の知識についても講義・演習等で習得させることが肝要。
授業科目については、科目の性格(基礎、理論、応用、フロンティア研究など)や実質的な内容を表現できる名称を設定するとともに、合格水準を明示することも重要。
英語によるプレゼンテーション教育、PDを活用した教育の充実、インターンシップ、海外交換研究制度などを充実させることが必要。特に工学系においては、先端の企業研究所での長期インターンシップを積極的に実施する必要がある。
博士後期課程の学生に対して専門・副専攻の理解度に関する口頭試験を実施し、その合格者のみに博士論文の提出資格を与えることを通じ、日本の学生の基礎力を強化すべき。
博士課程を前期・後期の5年間で捉えれば、前期課程で20単位以上のコースワークを行い、後期課程は研究中心とすべき。ただし、この場合であっても、後期課程に他専攻等から編入してくるケースに対応するため、導入教育を行うことが必要。
   
優秀な学生が博士課程に進学してこない背景のひとつに、論文博士の制度がある。
論文博士を廃止しても構わないくらい立派な博士課程ができることを望む。
多様な形で学位が取得できる仕組みはあって良い。
大学院は「教育機関」として、修了者に学位を授与するという趣旨を徹底すべき。また、国際通用性の点からも、「単位取得満期退学」という扱いについては見直す必要がある。

大学院の研究機能の強化(施設・設備など)
<大学院教育の改善を支える施設・設備の在り方について>
研究の実態を踏まえ、安全に関するインフラ設備を充実させるとともに、研究室の環境(スペース、計算機、空調など)の整備に取り組むことが必要。
特に、私立大学における大学院学生の研究環境を向上させるとともに、施設の老朽化・狭隘化にも適切に対応するため、施設・設備に関する大学院設置基準を厳しくすることも必要。
特に国費で整備された電子図書館や電子化された研究データについて、更なる共有化を進めるとともに、大学院生が自由に利用できるよう一層の公開が必要。
研究を遂行するには最新の知識と手段を駆使することが肝要であるため、大学の内外を含む計算機ネットワーク環境をはじめとする情報インフラの充実が必要。

<世界水準の研究体制を組織するための方策について>
研究体制の整備のため、先進国並みの予算措置を行うとともに、教員の流動性を高めるための措置(任期制、海外を含めた公募制度)や、名誉教授が大学院教育に参画できる環境づくりが必要。
ポストCOEとして、国際水準にある海外の研究型大学院と協働して博士課程教育を進める研究科を経済面・制度面から支援するプロジェクトを立ち上げ、英語論文の執筆指導のできるスタッフ、学生に海外経験を積ませるための資金、優秀な人材を海外から招聘するための給与水準、英語で事務のできる支援組織等を確保すべき。
研究重点教員と教育重点教員の区分を進めるとともに、技術職員や大卒レベルの実験アシスタントの配置をはじめとする事務支援組織・研究支援組織の充実を図ることが必要。
「大学院の研究機能」と「教員の研究活動」は必ずしも同一ではない。21世紀COEプログラムにおいては、大学院教育課程との関連は明示的に取り上げられてはいないが、院生を巻き込んだ教育課程としての研究機能を支援する制度に発展させるべき。
諸外国の基準との整合性の取り方について検討することで、学位の国際的標準化を進めるべきではないか。

学生に対する経済的支援と大学院修了者のキャリアパスの多様化の促進方策
<大学院生に対する経済的支援について>
大学院進学の経済的リスクを減らすため、学部4年生の段階で極めて優秀な学生に修士課程への経済的支援を決定し、優秀な修士課程の学生には後期課程進学前に経済的支援を決定することで、安心して博士課程に進学させることが必要。
奨学金制度は、基本的には貸与であり、その額も修士修了者の年収に及ばないという問題があるが、家庭や周辺環境の状況から進学を断念している現状の解決のためには、給付額決定に関して大学の裁量権を付与し、優秀な学生に対して修士修了者の初任給相当額以上の給付をしたり、希望者全員に貸与し、修了後の所得に応じて返還できるような制度を構築する必要がある。
日本学術振興会の特別研究員制度について、基本的には更なる拡充が必要だが、当面は、対象を博士課程1年まで前倒しする、日本学術振興会の特別研究員の給与月額を半額近くにし、採用人数枠の大幅増を図るなどの措置を通じ、経済的支援効果が幅広く行き渡るようにすることが必要。
博士課程学生の生活費について、委託研究や国家プロジェクト研究の研究費である程度負担できる仕組みを確立すべく、欧米の現状を調査する必要がある。

<大学院修了者のキャリアパスの多様化の促進方策について>
博士の学位取得後、研究機関以外に就職することが困難な状況を打破するため、「企業における博士像」を具体的な形で明確にし、その意義を社会に認知させるための取組をすることが必要である。
大学院修了者の任期制による採用導入と教員流動化を図り、産学の人事交流を促進する支援が必要。そのため、全国的な院生の研究分野の登録と公開、キャリアパスの開拓などを行う共同組織を作るべき。
それぞれの学生の適性を見極め、多様なキャリアパス形成の機会を開拓・提供することは、日頃、大学院生を指導している教員の責務である。
研究指導を行うべき教員が就職に関与することは避けるべきだし、院生の就職にまで個々の大学が組織的に関与するのは問題が多い。

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