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資料3
中央教育審議会大学分科会
将来構想部会(第10回)H14.5.23

「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(中間報告)」に対する意見

2002年5月20日
公立大学協会

1  基本的な考え方:
  現状では大学の質の保証が極めて不十分である。知的基盤の整備充実が求めてられている現在、そのために大学の質の保証を確保しなければならない。大学は知の創造(学術研究)と継承(高等教育)という大きな役割に加え、知の活用としての地域貢献(生涯学習や産学協力など)の3つの役割を持つと考える。この「知の三角形」を均整の取れたものとすることが、公立大学協会の戦略の1つである。
  総論として「事前規制型」から「事後チェック型」へ移行することは、時代の要請であり、賛成である。ところが、「事後チェック型」を名実ともに実現するためには、第三者が客観的な立場から継続的にチェックする体制が不可欠であるが、如何にしてこの実効性のあるシステムを構築するか、依然として未解決の問題である。とくに上記の3つの役割を持つ大学に関して、「事前規制」(設置認可)と「事後チェック」の中間に多様なチェックの形態があることは言うまでもない。とくに国公私を通じた大学全体を対象とするとき、慎重な手段と段階的な措置とを考慮すべきであろう。
  会社など営利団体については「市場」による「事後チェック」がすでに一般化しているものの、一定の規制が必要であり、かつそれが存続していることは言うを待たない。業界団体による「事前規制」、また法律に基づく行政の「事前規制」も存続し、かつ国際関係においてはWTOなどにおいて絶えず「事前規制」が図られている。
  大学は利益追求のための団体ではない。次代に向けた人材育成と知的持続とを最大の使命とする「公共的な機関」である。もちろん無駄を排して効率化を図る必要性はきわめて高く、現在、すべての大学がそれに取り組んでいる最中である。国公私の大学が果たす今後の役割と展望(グランドデザイン)については、今まさに議論が始まろうとしている段階であり、そのなかには大学の設置(認可)から廃止にいたる一連の大学行政が含まれる。
  現行法においては、国(文部科学省)が所管する大学の設置認可は段階的に規制緩和がなされてきたものの、なお無用な規制も存続していることは事実である。例えば電子情報が多様になった現在でも、保有図書数の下限を決めていたり、地域特性を無視して一律に校地面積を定めたりしているが、こうした量的基準はさらに緩和が必要であり、指摘は適切である。
  大学の認可にあたり量的基準と質的基準とがある。量的基準とは異なり、大学の質の保証とは何か。
   (1) 学生教育に不可欠な質の高い教員の確保、
  (2) その教育が教員の絶えざる研究に依拠していること、
  (3) 納税者の理解を得られること(これは公立大学協会が「地域貢献」として強く主張している論点)
を中心としてなされるものである。これ以外の量的規制はいっそう緩和されるべきである。
  大学の質の保証は絶えざる「事後チェック」により持続性を持たなければならない。単に「事前規制」である設置認可の段階に止まってはならない。だが、現段階においては実効性を持つ「事後チェック」のシステムはまだできていない。「事前規制」と「事後チェック」の中間には多様な手段が存在している。その重要な手段の1つとして、例えば、適切な情報公開がある。定員を過大に超過していれば、受益者である学生が被害をこうむるため、こうした情報を受験生や在校生が知るように、情報公開に努めるなければならない。
  適切な大学情報の公開は、これまで個々の大学の努力義務とされてきた。受験生や国民・市民は、個々の大学の情報はもちろん、670余校の日本の大学を全体として見渡すことのできる情報を求めている。この情報をもとに国民は日本社会・国際社会において大学が果たしている重要性を判断することが可能となる。この貴重な大学データを把握しているのが文部科学省である。「事前規制」(設置認可)と「事後チェック」を見直すにあたり、まずは適切な情報公開を進めるべきである。量から質への転換期にあたっては、とくに情報が鍵になる。
  適切な情報公開に次いで、事後チェックの効果的なシステムを構築する。この2つの要件が満たされつつある段階で、初めて事前規制の緩和は実効性を持つであろう。必要な措置を講じることなく、まず事前規制を緩和するというのは本末転倒であり、政策としてモラルハザードを生じさせる危険性が高い。換言すれば、事前規制の緩和は量的基準の緩和以上に質的基準の緩和に踏み込む場合には、まずは事後チェックシステムの構築に一定の展望が得られてからにすべきである。設置認可の質的基準を緩和し、市場原理に任せて大学も「倒産」するのが当然であるという選択は、大学が持つ「公的部門」という性格を考えると賛成できない。認可緩和により「怪しい」大学を作れば、被害を受けるのは学生であると同時に、我が国の知的水準であるからである。

2  設置認可の在り方の見直し:
   (1) 授与する学位の種類・分野の変更の有無で、「届出」にする場合と「認可」にする場合に分けることに賛成である。
  (2) 首都圏、近畿圏等における工業(場)等制限区域機内の大学、学部等の設置審査における抑制方針が撤廃された場合、大都市圏に(私立)大学が集中する可能性が高い。その場合、公立大学が地方で担う役割が益々増大するという認識をもっている。

3  第三者評価制度の導入:
  コストの安い、しかも十分な実効性が期待できる評価システムの構築が望まれる。現行の第三者評価から新たな第三者評価制度の導入が提案されているが、その具体的内容はまだ未熟であると言わざるを得ない。下手をすると理想とする新しい評価が新たな「規制」に転化してしまう危険性がある。とくに認証評価機関が多元的な評価を排除して独占的・排他的に機能することがあってはならない。
  大学評価に関する情報は適切に公開すべきである。これは、受験生にとっても大学を選択する指針とすることができる。現状では「募集定員」は公表されているが、「合格者数」「入学者数」のような基本データさえ公開されていない。

4  法令違反状態の大学に対する是正措置:
  第三者が客観的な立場から継続的にチェックし、法令違反状態にある組織に対して改善勧告、改善命令などを発動できる仕組みを導入することが必要である。

5  留意点:
  ここで「種々の方策をセットで実施することにより」大学の質の確保が可能となるという適切な指摘をしていることに賛成である。但し、具体論としては、まだ検討段階にある内容が多く残されているため、一斉にセットで実施することは事実上困難であり、実施も段階的にならざるを得ないであろう。その際、段階的な実施の順序は、上記のとおり、
   (1) 適切な情報公開、
  (2) 新しい評価システムの構築、
  (3) 大学の質に関する事前規制(設置認可)の緩和
とするのが至当である。それ以前の段階においては、事前規制の緩和は量的基準に限定し、「公共的機関」としての大学の質の低下・劣化を防止すべきであると考える。



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