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「学士課程教育の再構築に向けて」(審議経過報告)(抄)(平成19年9月18日 中央教育審議会大学分科会制度・教育部会学士課程教育の在り方に関する小委員会)

第2章 改革の基本方向 −競争と協同、多様性と標準性の調和を−

(2)国による支援・取組−大学の自主性・自律性を尊重した多角的支援の飛躍的充実を−

  •  将来像答申は、国の中心的な役割として、「高等教育の在るべき姿や方向性等の提示」、「制度的枠組みの設定・修正」、「質の保証システムの整備」、「高等教育機関・社会・学習者に対する各種の情報提供」、「財政支援」の5つを挙げている。これらは、いずれも重要であり、国は、政策目的に応じて適切な手段を選び、多角的に各大学を支援していくこととなる。その際、教育基本法の謳うとおり、大学の自主性・自律性を尊重していくことが求められる。
      特に、先進諸外国と比較して、対GDP比等で見ると、我が国の大学に対する財政支援は手薄であると言わざるを得ない。ユニバーサル段階等を迎える中、積極的な投資無くしては、教育の質を維持することさえ困難となる。大学の自主性・自律性を尊重する観点からも、基盤的経費を確実に措置した上で、競争的資金を拡充し、財政支援全体の強化を図っていくことを強く望みたい。一方、大学は、教育基本法等の改正を契機として、社会に対する説明責任を十分果たしていくことが求められるのであり、国としてそうした枠組みづくりを併せて進めていくことが望まれる。

第3章 改革の具体的な方策

第2節 教育内容・方法等

(2)教育方法

(「大学全入」時代の学生への対応)
  •  「学習成果」を重視する大学教育の改革については、「何を教えるか」よりも「何ができるようにするか」に力点が置かれる。このことは、教育内容に勝るとも劣らず、教育方法の改善が重要であることを示唆する。入学する学生の変容については、第3節で触れることになるが、学習意欲や目的意識の希薄な学生に対し、どのようなインパクトを与え、主体的に学ぼうとする姿勢や態度を持たせるかは、極めて重要な課題である。具体的には、学生の主体的な参画を促す授業方法となっているか、授業以外の様々な学習支援体制が整備されているか、学内に止まらず、積極的に体験活動を取り入れているか等について、改めて点検・見直しが必要となる。
  •  また、少人数指導の推進も重要な課題であり、教員と学生数の比率(ST比)が様々な大学ランキングの指標とされていることからも伺えるように、教育の質を規定する一つの重要な要素である。ただし、こうした少人数指導の有無のみで教育方法の望ましい在り方を考えることは適当ではない。国際競争力を有するアメリカの大学については、大規模な講義であっても、ティーチング・アシスタント(TA)などの多数のスタッフが教員の教授活動を組織的に支援するとともに、施設・設備の面で情報通信技術(ICT)等が積極的に活用されているなど、双方向性を確保するための様々な工夫が凝らされている。
     こうした教育方法の改善のため、アメリカの大学は積極的に投資しており、OECDの国際比較統計によれば、学生一人当たり教育費は顕著に増大してきている(5年間で約1.2倍)。一方の我が国については、学生一人当たり教育費は微減傾向にあり、金額にしてアメリカの半分程度という状態に甘んじている。国際比較の難しさを勘案したとしても、こうした格差は歴然としている。大学の国際競争力の強化を政策目標に掲げるのであれば、教育方法の改善に向け、施設・設備の面を含めた十分な環境整備が欠かせない。

おわりに −改革の加速に向けた社会全体の支援を−

  •  財政措置に関し、本文においては、各種の機関補助を念頭に置いて記述を行っている。
     大学改革を推進していく上で、各機関の自主性・自律性を尊重しつつ継続的・安定的な支援をすること、各大学の努力の成果である優れた取組を重点的に支援すること、管理運営の在り方の見直しを促進すること等が重要であり、そうした観点から、機関補助は有効な政策手段である。
  •  一方で、主として教育の機会均等の観点から、個人補助も重要な役割を持つ。我が国の高等教育については、OECD諸国と比較して、私費負担の割合が極めて高い水準にある。デフレ基調の中にあっても授業料が一貫して上昇してきたこと等を背景に、教育費に関する保護者の負担感は強まっている。「大学全入」時代と言われ、進学率は50パーセントを既に超えているが、その一方、大学教育を受ける能力・適性を十分に備えた者が、経済的な理由によって、進学や学業の継続を断念せざるを得ない事例が存することを看過すべきでない。
     このため、こうした事態を生じさせないようにする観点から無利子及び有利子奨学金の充実に努めることが必要である。さらに、経済的に恵まれない優秀な学生に対し、合理的・客観的な基準により授業料減免等の措置が広く講じられるような手立てを望みたい。
  •  我が国の大学は、多くの場合、授業料に依存し、外部からの寄附の比重が少ない。大学自らが、教育基本法の理念の下、社会の発展に寄与する存在として、一層の説明責任を果たしていく必要があるが、同時に、我が国社会全体として「寄附の文化」を育てていくことが重要な課題である。そのための誘導策として、大学に対する企業や個人からの寄附を優遇する税制上の措置などを積極的に講じていくことを期待したい。