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「我が国の高等教育の将来像」(答申)(抄)(平成17年1月28日 中央教育審議会)

第1章 新時代の高等教育と社会

3 高等教育と社会との双方向の関係:高等教育の危機は社会の危機

  •  このような観点から,高等教育がその社会的使命を十分に果たすことを前提としつつ,公財政支出の在り方及び民間資金を活用した支援の在り方について,幅広く社会の合意形成を図るとともに,産業界等による学生の採用時期・方法の工夫や適切な評価に基づく処遇など,高等教育の発展を支える各方面の取組を促すことが必要である。

第4章 高等教育の発展を目指した社会の役割

  •  本章では,中長期的(平成17年(2005年)以降,平成27年(2015年)〜平成32年(2020年)頃まで)に想定される我が国の高等教育の将来像のうち,主として高等教育の発展を目指した社会の役割に関する事項を示すこととする。

1 高等教育の発展を目指した支援の在り方

 国は,教育・研究条件の維持・向上や学生支援の充実等により学習者の学習機会の保障に努めるべきである。また,学生個人のみならず現在及び将来の社会も高等教育の受益者である。このため,高等教育への公財政支出の拡充とともに民間企業や個人等からの資金の積極的導入に努めることが必要である。
 今後,我が国においては,高等教育に対する公的支出を欧米諸国並みに近づけていくよう最大限の努力が払われる必要がある。その際,厳しい財政状況や高等教育への社会の負託をも踏まえつつ,すべての関係者が,国民(=納税者)の理解を得られるよう説明責任を十分果たしていく必要がある。
 高等教育への財政的支援は,国内的のみならず国際的な競争的環境の中にあって,高等教育機関が持つ多様な機能に応じた形に移行し,機関補助と個人補助の適切なバランス,基盤的経費助成と競争的資源配分を有効に組み合わせることにより,多元的できめ細やかなファンディング・システムが構築されることが必要である。これにより,国公私それぞれの特色ある発展と緩やかな役割分担,質の高い教育・研究に向けた適正な競争が目指されるべきである。
 具体的には,1国立大学については,教育・研究の特性に配慮しつつ,それぞれの経営努力を踏まえて,政策的課題(地域再生への貢献,新たな需要を踏まえた人材養成,大規模基礎研究等)への各大学の個性・特色に応じた取組を支援すること,2私立大学については,基盤的経費の助成を進める。その際,国公私にわたる適正な競争を促すという観点を踏まえ,各大学の個性・特色に応じた多様な教育・研究・社会貢献の諸活動を支援すること,3公立大学については,地域における知の拠点としての機能を発揮できるよう支援すること,4国公私を通じた競争的・重点的支援の拡充により,積極的に改革に取り組む大学等をきめ細やかに支援すること,5民間企業を含めた研究開発のための公的資源配分を大学等にも開放すること,6競争的資源配分の間接経費の充実により,機動的・戦略的な機関運営を支援すること,7奨学金等の学生支援を充実すること等が重要である。

(1)高等教育への支援の拡充

  •  高等教育機関は,教育・文化,科学技術・学術,医療,産業・経済等社会の発展の基盤として中核的な機能を有する極めて重要な存在である。
  •  我が国の高等教育は,国公私立の三つの設置形態による機関がそれぞれの特色を発揮することにより発展してきているところであるが,中でも私立学校の比重は高く,例えば,大学・短期大学・高等専門学校の合計では学校数・学生数ともに約4分の3を占めるなど,私立学校は我が国の高等教育の普及と発展に大きな役割を果たしてきた。また,高等教育の費用負担は,その直接的受益性に着目して,これまで家計に多くを依存してきている。現在では,国公私立を問わず学生納付金が国際的に見てもかなり高額化しており,これ以上の家計負担となれば,個人の受益の程度との見合いで高等教育を受ける機会を断念する場合が生じ,実質的に学習機会が保障されないおそれがある。国は,個人の経済状態を問わず高等教育を受ける機会を実質的に保障して「ユニバーサル・アクセス」を実現する見地から,教育・研究条件の維持・向上や幅広い教育・研究活動を安定的に行う環境の整備とともに,意欲と能力のある個人に対する奨学金をはじめとする学生支援の充実等の各般の措置を総合的に推進することにより,学習者の学習機会の保障に努めるべきである。
  •  また,高等教育に関しては,学生個人とともに,高等教育を受けた人材によって支えられる現在及び将来の社会もまた受益者である。このことは,高等教育がエリート段階(進学率15パーセント未満),マス段階(同15パーセント以上50パーセント未満)又はユニバーサル段階(同50パーセント以上)のいずれにある場合でも基本的に変わるものではないと考えられる。
  •  ユニバーサル段階では,高等教育の普及によって個人が高等教育を受けたことによる収益は低下すると一般的には考えられるが,知的なネットワークの広さと質が極めて重要な意義を持つ知識基盤社会においては,質の高い労働力や研究成果の供給による利益のほかに,層の厚い高等教育の存立そのものが経済社会全体の発展の基盤として不可欠の存在となるものと考えられる。
  •  このため,高等教育に要する費用は,学生個人のほかに,社会全体や産業界等も負担すべきものであり,高等教育への公財政支出の拡充とともに民間企業や個人等からの資金の積極的導入に努めることが必要である。
  •  高等教育の重要性にかんがみ,各国で高等教育への投資を充実しつつある。例えば,英国では,授業料を増額する一方で,高等教育に対する財政支出の対GDP比を0.7パーセントから0.8パーセントへと増加させつつある。
  •  我が国においては,私立学校が高等教育の普及と発展に大きな役割を果たしてきたという沿革もあり,伝統的に私費負担の割合が高く,高等教育に対する公財政支出の対GDP比は0.5パーセントと,諸外国に比べて極めて低い状況にある。もとより,GDPに対する公財政支出の割合や教育制度の相違など国により様々な条件が異なるため単純な比較は困難であるが,今後,高等教育に対する公的支出を欧米諸国並みに近づけていくよう最大限の努力が払われる必要がある。その際,厳しい財政状況や高等教育への社会の負託をも踏まえつつ,すべての関係者が,高等教育の社会的価値や重要性について国民(=納税者)の理解を得られるよう説明責任を十分果たしていく必要がある。

(2)高等教育機関の多様な機能に応じたきめ細やかなファンディング・システム

  •  高等教育への国からの財政的支援は,伝統的に,(a)国立学校特別会計や私学助成による機関運営経費の措置と助成,(b)科学研究費補助金や各種の委託研究費等の研究活動助成,及び(c)育英奨学等の学生支援経費が中心であったが,それぞれの趣旨・目的は異なるものと考えられ,これら全体で高等教育へのファンディング・システムを構成するとは必ずしも明確に意識されなかった。近年は,(a)(b)の中間的な形態として(d)「21世紀COEプログラム」「特色ある大学教育支援プログラム」等の国公私を通じた競争的・重点的支援,競争的な研究資金の間接経費や国立大学法人に対する特別教育研究経費の措置,(b)(c)の中間的な形態として(e)ティーチング・アシスタント(TA)やリサーチ・アシスタント(RA)への支援,日本学術振興会特別研究員事業等が行われるようになり,支援の形態の多様化が進められてきた。
  •  今後の財政的支援は,国内的のみならず国際的な競争的環境の中にあって,高等教育機関が持つ多様な機能に応じた形に移行し,各機関がどのような機能に比重を置いて個性・特色を明確化するにしても,適切な評価に基づいてそれぞれにふさわしい適切な支援がなされるよう,機関補助と個人補助の適切なバランス,基盤的経費助成と競争的資源配分を有効に組み合わせることにより,多元的できめ細やかなファンディング・システムが構築されることが必要である。特に,国際的環境を視野に入れた支援を行うことがますます重要になっている。これらにより,国公私それぞれの特色ある発展と緩やかな役割分担,質の高い教育・研究に向けた適正な競争が目指されるべきである。
  •  具体的には,1国立大学については,教育・研究の特性に配慮しつつ,それぞれの経営努力を踏まえて,政策的課題(地域再生への貢献,新たな需要を踏まえた人材養成,大規模基礎研究等)への各大学の個性・特色に応じた取組を支援すること,2私立大学については,その多様な発展を一層促進するため,基盤的経費の助成を進める。その際,国公私にわたる適正な競争を促すという観点を踏まえ,各大学の個性・特色に応じた多様な教育・研究・社会貢献のための諸活動を支援すること,3公立大学については,地域における知の拠点としての機能を発揮できるよう支援すること,4国公私を通じた競争的・重点的支援の拡充により,積極的に改革に取り組んで成果を挙げている大学等をきめ細やかに支援すること,5民間企業を含めた研究開発のための公的資源配分を大学等にも開放し,活力にあふれた研究環境を整備すること,6競争的資源配分の間接経費を充実することにより,機動的・戦略的な機関運営を支援すること,7高等教育を受ける意欲と能力を持つ者を経済的側面から援助するため,奨学金等の学生支援を充実すること等が重要である。
  •  高等教育機関の財源として,学生納付金や国・地方公共団体からの支援だけではなく,民間企業や個人等からの寄附金・委託費や附属病院収入・事業収入等の自主財源も確保し,財源を多様化することが望まれる。国はそのような努力を積極的に支援すべきである。
  •  このような民間企業や個人等からの支援の充実は,社会の大学に対する評価をフィードバックし,大学の社会貢献を一層促す上でも効果的と考えられる。