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資料5

法科大学院における教育水準の確保について(案)
−これまでの議論の整理−

1.「法科大学院」制度創設の理念の実現

(1) 法科大学院における教育の目指すべき姿

 
<今後の方向性>
 法科大学院制度創設の目的・理念、特に、法科大学院において養成すべき法曹像を法科大学院関係者が常に意識し、これを堅持しつつ教育に当たることが重要である。
 特に、いわゆる予備校的な知識偏重や司法試験対策のための教育にならないよう十分留意すべきである。

(2) 制度創設の目的・理念の実現に向けて

 
<今後の方向性>
 平成18年5月に法科大学院修了者を対象とした第1回目の新司法試験が実施されるが、法科大学院制度は、新たな法曹養成制度として動き出したばかりであり、法科大学院自体も、また、教員・学生の在り方も過渡期にあることから、現時点での課題や不十分な面のみに着目し右往左往することは適切でない。
 法科大学院制度の健全な発展のためには、中長期的な視点を持って法科大学院を見守り育てていくという姿勢が必要である。
 法科大学院関係者は、法科大学院制度を創設した目的・理念を堅持し、関係者間の協力により確実にこれを実現するよう、引き続き努力を重ねていくことが重要である。

2.教育内容・方法等

(1) 法科大学院としてのあるべき教育内容・方法等(「理論と実務の架橋」の実現)

 
<現状>
 現在、法科大学院では、制度創設の目的・理念の実現に向けて、教育内容・方法等の充実のための様々な取組が行われている。

<今後の方向性>
 法科大学院において養成しようとする法曹像を明確化し、そのために「理論と実務の架橋」を意識した教育内容・方法等の充実を図るべきである。
 教育内容については、授業時間が限られている中で、自学自習との適切なバランスを考慮しつつ、重複や漏れが生じないよう教員間で工夫することも必要である。
 教育指導に当たる教員間で、同一科目内だけでなく、関係科目間(例えば民法と商法等)においても教育内容・進度等に関する情報の交換や意思疎通を図るなど連携を密にすることが重要である。(このような取組みにより、個々の学生の到達度や弱点等をより的確に把握しつつ指導に当たることが可能となる。)
 法科大学院の目的・理念をより具現化していくためには、法律基本科目だけでなく、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目の教育の充実を図ることが重要である。

(2) 各科目の在り方について

 
<現状>
 各法科大学院においては、それぞれの特色を生かしながら、「理論と実務の架橋」を強く意識しつつ、法科大学院制度の目的・理念を実現できるよう、法律基本科目、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目それぞれについて、適切な科目設定と全体としての体系的な教育課程の編成並びに教育内容・方法等の充実に取り組んでいる。

<今後の方向性>
 法律基本科目については、実務につながる基礎的な知識・原理をしっかりと身に付けさせることが重要である。
 法律実務基礎科目については、例えば「法曹倫理」のように、司法試験科目ではないが、法曹として確実に身に付けておくべき資質(責任感や倫理観等)を涵養するための科目の充実を図ることが期待される。
 実務を遂行する上での理論の重要性を理解させるため、入学後の早い時期から実務教育を実施することの効果についても検討すべきである。
 実務教育は理論の裏付けがあることが不可欠であり、この観点に立った理論教育の工夫にも努めるべきである。
 個別事例を通じて、事案分析力、論理的思考力、コミュニケーション能力等を涵養することが重要である。

3.教員組織

(1) 法科大学院の目指すべき教育についての教員間の認識の共有

 
<今後の方向性>
 法科大学院が目指すべき教育、学生の指導方法等について、実務家教員、非実務家教員を問わず、教員間で共通の理解と認識を持って指導に当たることが極めて重要であり、このため日頃から教員間で十分連携を図ることが必要である。

(2) 実務家教員、非実務家教員それぞれの指導力の一層の向上

 
<今後の方向性>
 法科大学院における教育水準の維持・向上を図っていくためには、実務家教員、非実務家教員の指導力の不断の向上が求められる。
 法曹養成に対する明確な視点を持ち、かつ、各分野についての学問的評価があり、実務に関する見識も備えた教員をどのように確保するかが大きな課題である。

4.FD(ファカルティ・ディベロップメント)の充実

 
<現状>
 現在、法科大学院では、教員相互の授業参観や教材・レジュメ等の共同作成・交換、教育能力を高めるための研究会の開催などを通して、授業の内容及び方法の改善・充実を図っている。法科大学院によっては、学生による授業評価(アンケート等)の結果を活用しているところもある。

<今後の方向性>
 ファカルティ・ディベロップメント(授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究)については、その趣旨や目的を明確化し、教員間で統一的に認識を共有していくことが必要である。
 教育内容・方法の改善・充実を図る上では、学生による授業評価(アンケート等)を適切に活用していくことも考えられる。

5.日常の学習指導と学生支援

(1) 日常的な学生への指導

 
<現状>
 学生の主体的な学習への努力・取組を支援するため、教員が授業終了後の時間やオフィスアワー等を活用して学生の質問・相談に応じる等の取組が行われている。
 教育内容・方法や成績評価、教育環境等に関する学生からの相談や意見に対応するための体制を整えている例もある。

<今後の方向性>
 法科大学院制度の趣旨にかんがみ、各学生に対し、日常的に自ら考え、主体的に学習に取り組むよう促す指導が不可欠である。
 各法科大学院の工夫により、教員が学生の学習指導にきめ細かく対応できる体制や時間を確保しておくことは、学習効果を高める上で非常に有効である。
 法律実務基礎科目については、学生に対し、これらの科目の意義や重要性を常に意識付け、学習への意欲を促すよう留意すべきである。(学生の意識や学習意欲を司法試験対策のみに偏らせないことが、法科大学院制度の本来の趣旨に照らして極めて重要である。)
 各授業科目の教育目標や成績評価の方針、学生からの意見や要望への対応状況やその理由など、学生に対する情報提供をさらに充実させていくべきである。

(2)  多様なバックグラウンドを有する者の受入れと指導

 
<現状>
 平成17年度の法科大学院入学者5,544人のうち、約38パーセント(2,091人)が社会人である。また、法学系以外の学部出身者は入学者全体の約30パーセント(1,660人)である。これらの比率は平成16年度(社会人約48パーセント、法学系以外の学部出身者約34パーセント)と比較して減少している。
 法学系学部出身者であっても、法学既修者としての認定を希望しない者もおり、いわゆる「法学未修者コース」には法学系学部出身者と法学系以外の学部出身者が混在している。このため既に入学時点で学生の法律知識にかなりの差があるが、このような状況の中で、効果的な教育方法等を模索している。
 入学2年目の法学未修者と入学1年目の法学既修者が同一の授業科目を受講する2年次の教育については、この段階では両者の法律知識の定着状況に差があることを踏まえ両者を別のクラスとする法科大学院がある一方で、あえて両者を区別せず同一のクラスとし、両者が相互に良い刺激を与え合うことにより成果を上げているという法科大学院もある。

<今後の方向性>
 法科大学院においては、「多様なバックグラウンドを有する者を多数法曹に受け入れる」という制度の本来のねらいを実現できるよう、例えば、入学者選抜の段階で面接等の結果を活用するなどの工夫をし、法曹となるべき資質・意欲をできる限り見極めるよう留意すべきである。
 「法学未修者コース」における1年次の成績評価は、法律知識の定着状況のみによって機械的に行うことのないよう留意すべきである。また、これまで全く法学を履修していない者については、特にきめ細やかな履修指導を行うことが重要である。

6.厳格な成績評価と修了認定

 
<現状>
 各法科大学院では、各授業科目の成績評価に当たり、定期試験のみならず授業への出席状況や授業態度、課題の提出状況その他日常の学生の授業への取組と成果を評価するなど、多元的な成績評価が行われている。
 各授業科目の成績評価に加え、あらかじめ学生に各年次(法科大学院によっては半期)終了時に望まれる到達度(一定の単位数の修得やGPA(Grade Point Average)の獲得、進級試験への合格など)を明示し、その水準に達していない場合にはその段階以降の授業科目の履修を認めないこととしている法科大学院が多数である。
 各授業科目の単位を修得できなかった不合格者に対する「再試験」については、一定期間をおいて試験のみを実施する場合や、再試験の受験要件として数時間の補講を受講することを義務付ける場合など、その形態は様々である。また、再試験を実施していない法科大学院もある。
 修了認定については、修業年限と修得単位数による基準を設定している法科大学院が多数であるが、これらに加えて修了試験を実施することを予定している法科大学院もある。
<今後の方向性>
 成績評価・修了認定は、あらかじめ明確な基準を設定し、これを学生に明示するとともに、基準に則り適正に評価することが前提であるが、さらに、例えば成績分布図を作成するなどの方法により、基準や評価方法の再検証を行うことが望まれる。
 成績評価基準は、目標とする到達度、授業科目の性質や配当年次、同一科目内の公平性等を十分検討した上で設定することが重要である。
 成績評価に当たっては、平常点(授業への出席状況、授業態度、課題の提出状況など)による評価、定期試験、進級制、GPA等、それぞれの評価方法の長所を活かしつつ、効果的に活用すべきである。
 法科大学院制度が「厳格な成績評価と修了認定」を前提とするものであることについて、法科大学院関係者間で共通理解を持つことが重要である。このため、例えば成績評価と修了認定について、法科大学院関係者が最低限の基準を設定するなどの取組が期待される。

7.引き続き検討すべき課題

 
 法科大学院全体の教育の状況及び個別の法科大学院の教育の状況について
 基礎法学・隣接科目及び展開・先端科目の実施状況について
 「リーガルクリニック」や「エクスターンシップ」等の法律実務基礎科目や展開・先端科目の履修促進のための方策等について
 実務家教員と非実務家教員の指導力の向上と法科大学院教育についての共通理解の促進について
 多様なバックグラウンドを有する者が入学する法科大学院における効果的な教育方法等について
 厳格な成績評価・修了認定のための方策等について
 学生による授業評価(アンケート等)の結果の適切な活用やFD(ファカルティ・ディベロップメント)の充実など、教員の指導力の向上のための方策等について
 法科大学院教育の充実のための認証評価機関との連携について


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